怒られるテセウ様
「どういうことか詳しく説明して貰おうか?いくら冒険者とは言えスタンピードを収めるなんて危険な行為を率先してやらないだろ。それに、二人に出した依頼は森の調査とテセウの護衛のはずだ。ことによっては、俺の刃がお前達に向くぞ」
鋭く明確な意思が乗った殺気が俺達に向けられる。流石は英雄と言われ長い間戦ってきただけあって洗練された殺気と威圧感だ。こんなの向けられたら普通は息すら出来ないだろ。
「それには事情がありまして」
「話せ」
「父上、実は俺の所為なのです」
「は?どういうことだ」
殺気を向けられていないテセウ様はブレストを庇うように立ち上がり、何故スタンピードを収めることになったのかを説明していく。
「ダンジョンを発見した際、ブレスト殿からスタンピードに対処するのは依頼の範疇を越えており危険であるため無理だと説明されました。俺はスタンピードでインセクトマンなどの高位の魔物が森へと放たれ被害が出るの恐れ、対処して貰おうと頼みましたが断られ一人でダンジョンに入ろうとしたため護衛としてお二人はダンジョンへ入りスタンピードを収める事態となってしまったのです」
「・・・・つまり、収める原因となったはテセウ、お前だというのか」
「はい」
「テセウ、勇気と無謀は違う。お前の誤った判断によって護衛である二人とロシェを危険に晒し、有益な情報が町へ届かないという事態を起こしかねなかったと理解しているのか?」
「はい」
「お前はその行為の愚かさを分かっているのか」
「はい、理解しています」
「最悪の事態だって有り得たのだぞ」
「はい」
いつものような親しみやすい雰囲気を打って変わり、全身を斬り裂くかのような鋭い威圧を放ちながら淡々と問い詰めるシュナイザー様。そんな威圧を受けながらも迷うことなく話すテセウ様。
「テセウ・・・・お前は」
「シュナイザー様、お言葉を遮り申し訳ございませんが少し釈明を」
何かを言おうとしたシュナイザー様の声を遮り、明るい様子でテセウ様の前に行くブレスト。
「なんだ。今は我がシュナイザー家に関する話をしているのだが?」
「テセウ様の説明が不足しているので、補足をと思いまして」
「・・・・聞こう」
「今回の森での調査はテセウ様の護衛ではありますが、シュナイザー様の目的としてはこの調査を通りテセウ様を成長させることかと思います。なので、今回の調査では多くの事をテセウ様に投げかけ体験し判断させるという事をさせていました。ダンジョンの件も、テセウ様に判断させはしましたが護衛として俺達を中に入らせるのは愚策だということをしっかりと指摘し恐縮ですがこのような状態でどのような事をすれば良いのかをアドバイスをさせて頂きました」
「ふむ」
「そのアドバイスを受け、テセウ様は自分の策を見直し適切な対処を学びましたがその判断がどういう結果を受けるかをお教えするために私がダンジョンに入ることを決断しました」
「つまり、却下したものをわざと行ったと?」
「その通りです。判断の結果がどういう事になるのかを知らなければ学ぶことも出来と考えたからです。スタンピードによる被害と危険性を考え最悪の事態になる可能性があると分かっているのにも関わらず最終的な判断をしたのは私です。責任は私に在ります」
「ブレスト殿それはっ」
「護衛という名目でありながら危険に晒した。責任はすべて私が取りますので、ギルドへもそう報告して貰って構いません」
「ふむ・・・・」
テセウ様はしっかりと学んでいたし、さっきの言い方だと考え無しで入ったみたいに聞こえる。それに、テセウ様の判断で入ったんじゃなくて俺達が入ると決めたんだしな。
「ブレスト殿、確かに俺はテセウに成長する機会には丁度良いと思い依頼したが、貴殿の行為は依頼範囲を超えていると言って良い。だが、貴殿が従った判断をしたのはテセウだ。どちらにも非があるが・・・・持ち帰った情報の重大さを考え不問としよう」
「寛大なるお心に感謝します」
「父上!」
「だが、テセウ。お前は教育のやり直しだ」
「はい!」
ふぅ何とか纏まったみたいだな。そんなに叱られなくて助かったぜ。威圧を消しいつものシュナイザー様に戻ると
「それで、スタンピードは確実に収まったのか?」
「はい、ダンジョンコアの露出が無く魔物の出現も停止したのを確認しています」
「そうか・・・・後日現場へと案内してもらおう」
「畏まりました」
「ダンジョンで湧いた魔物の素材はどうなっている?」
「インセクトマン、インセクトウォリアー、首狩りトンボ、ブラックスパイダー、マーダーマンティス、キックホッパー、ポイズンセンチピードを確保しています。事前に伺った通りインセクトマンなどの素材を買い取って頂きたいのですが・・・・如何せん量がございます」
「いくつだ?」
「ウォリアーが7体、インセクトマンが35体です。他は数が多すぎるので数えていません」
「その二つだけでそんなに数があるのか・・・・」
「想像以上の数ですね。想定していた量より多いですが貴重な素材ですのですべて買い取らせて頂きましょう」
「あ、ギルドに一、二体流したいんだが」
「勿論構いません」
サピロさんは数を聞いて少し驚いた様子を見せたが、前に話した通りすべて買い取ってくれるみたいだ。インセクトマンやインセクトウォリアーの外骨格は優秀な防具へと加工が出来るし、内臓は様々な薬へと、鎌やウォーハンマーはそのまま武器に使える。だから、インセクトマンは全身余すことなく使えその一つ一つが高値で取引されているのだ。
錬金魔法の素材に使えそうだし、俺も少しだけウォリアーの素材は残しておきたいな。
「はぁ、色々と後処理をしないとな~・・・・砦に戻る前に終わらせねーと」
「報告書は後程提出させて頂きます」
「あぁ、テセウも報告を出すように。複数の意見を見たい」
「分かりました」
「クロガネ殿の速さならば、ダンジョンまでどれくらいかかる?」
「ん~三日か二日で行けると思います」
「なら、ブレスト殿、俺、クロガネ殿で明後日現場を見に行く。速さ重視で行くから準備しておいてくれ」
「シュナイザー様、それでは町の戦力が・・・・」
「仕方が無いだろ、パパッと行けるのは俺ぐらいなんだからよ」
襲い掛かる魔物達を無視して夜も走れば、半分以下の日程で往復可能だと思う。だけど、いくら脅威が去ったからと言って最高戦力であるシュナイザー様が行くのは不味いんじゃないか?サピロさんが苦言を申してるけど、高速で森を移動なんてそんなことが出来る奴はそうそう居るもんじゃないからな~
「ですが・・・・」
「あなた、私もこの時期に戦力を町から出すのは良くないと思います」
「ん~だがな~こんな重要なこと俺が行って確かめなきゃ駄目だろ。う~ん、どうしたものかな・・・・あ」
リリー夫人もシュナイザー様が町から離れるのは反対みたいだ。二人に言われ眉間に皺を寄せ悩んでいると、ふとブレストを見る。
「良い奴居るじゃん」
「あれ、嫌な予感が」
「ブレスト殿追加で依頼を出したい。内容はこの町の防衛と有事の際砦に行き魔物の討伐だ」
「そんな重要な役目俺には無理ですよ」
「報酬はたっぷり出すぞ!」
「私には荷が重いかと」
「実力は申し分ないんだし帰ってくるまでの間だけだ!」
「・・・・」
「ブレスト、受けてあげれば?」
二人を案内するのは俺一人でも出来るし、ブレストが居れば大体のことは大丈夫だろ。そう思って言うと、ブレストは嫌そうな顔をしながら
「俺と一緒じゃなくても良いのか」
「んな面倒なこと言うんじゃねーよ。どうせ堅苦しいのと責任が重くて嫌なんだろうけど、出来る奴がブレストしか居ないんだし仕方が無いだろ」
「・・・・分かりました」
「助かる!これで防衛力の問題は解決したな」
ブレストって面倒事を嫌うし大人数の中に入るのも嫌いなんだよな。だから、大規模討伐とか複数パーティー必須の依頼は受けないし、受けるとしても1パーティーが最大だ。
「報告は以上か?」
「はい」
「それじゃあ、色々調査の疲れが溜まっているだろうし早く体を休ませると良い。なんなら客間を貸してやろうか?」
「宿を取っていますので大丈夫です」
「そうか。分かっていると思うが今日の事は他言無用だ」
「ギルド長には?」
「ギルド長には俺から話しを付けておく。報告書が出来しだい俺の元へもってきてくれ。それじゃあ解散!」
ダンジョンの事となればギルドに報告しないといけないんだけど、それはシュナイザー様がやってくれるのか。それじゃあ、あとは帰って休むだけだな。そう思い立ち上がるとテセウ様が
「父上、少しお話良いでしょうか」
「ん、なんだ?」
「先程の話とも関連するのですが、この調査を通し自分の無力さと知識の無さを実感致しました。言い付けどうり学びなおしていこうと思っていますが、その為にクロガネ殿を指南役として雇う依頼をギルドに出したいのです。勿論報酬に関しては私が出します!」
「ふ~ん・・・・良いぞ」
「本当ですか!」
え、シュナイザー様も二つ返事なの!?もう少し悩んだりした方が良いと思うけど!
「だが、報酬は俺から出そう。その代わりに俺の依頼も少しこなしてもらうがな」
「俺はシュナイザー様の依頼をこなせるほど優秀ではありませんよ」
「何言ってんだか」
「それでは早速明日ギルドへ依頼を出してきます!」
「いや、その手続きは俺がしておこう」
テセウ様の指南役だけどをやれば良いと思ってたけど、なんか面倒なことになりそうな予感がする・・・・まぁテセウ様が喜んでるしいっか。
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