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全く違う俺達

 二人が寝静まったので、俺達は焚き火を囲いながら周囲を警戒しながら錬金魔法を練習していると大きく深呼吸してテセウ様は俺の目を真剣な表情で見ながら


「クロガネ殿」

「はい」

「今日は感情的になってしまい本当に申し訳ない。冷静に考えれば、バグズクイーンであると断定できる証拠がないのにも関わらず決めつけるなど愚かな判断だった」

「いやいや、民の事を心配するは当然ですから」

「心配はすれど冷静で確実な判断をするのが領主だ。俺は一つの恐ろしい可能性に囚われてしまい判断を誤る所だったがクロガネ殿に言われて気付くことが出来た。本当に感謝する」

「バグズクイーンの可能性が出れば誰でもあんな反応しますよ。俺が冷静で居られたのは冒険者として魔物の知識がテセウ様より有っただけです。俺と同じ知識を持っていたらきっとテセウ様も冷静に判断できたと思いますよ」


 バグズクイーンが現れたなんて聞いたら、恐怖に囚われるか一目散に逃げるのが普通だけどすぐに報告に戻ろうと言っただけ落ち着いていたと思うけどな。魔物と常に戦っている町に住んでいるからこそ魔物の恐ろしさは嫌という程分かっているはずだから、ああいう判断になったのはよく分かるぞ。


「はぁ・・・・クロガネ殿は大人なのだな。それに比べて俺は・・・・」

「テセウ様も十分大人だと思いますけどね」

「お世辞は大丈夫だ。自分の不甲斐無さは自分が一番分かっているからな。全く・・・・こう言ってはなんだがやはりクロガネ殿が羨ましく思ってしまうな」

「え~俺が羨ましがられる要素有りますか?」

「強力な魔物達と渡り合う武力に豊富な知識、知識から最適な作戦を組み立てる柔軟力全てが俺より上だろう。称賛されるべき努力をしてきたのだろうな」

「そうでも無いですよ。冒険者になったのは、半年ほど前からですし」

「そうなのか!?」


 しかも旅に出たのは三か月前だから、称賛されるほどの経験は積んでいないんだよな。魔物に対しての知識を俺に教えてくれたのは、ブレストだから称賛されるべきなのはブレストなのだ。


「それまでは一体何を?」

「孤児なので通りでスリをしていました」

「なんと・・・・」

「貴族のテセウ様からは想像できないかもしれないですけど、俺みたいな人はかなり多いんですよ。俺は偶々ブレストに会えたから今では冒険者として活動してますけど、会えなかったらずっとスラムに住んでいたと思います」


 スラムのガキというだけで、どんな能力を持ってたとしても卑しい存在だと言われ就ける職業なんて酷い職場だけだ。だから、どんなに頑張ってもどんなに成長してもスラムから抜け出すことなんて普通は出来ない。だから、スラムで生まれた奴はスラムか獄中で死ぬのが普通だ。俺もそうなると思ったんだけど、ブレストに会えたからこうやって旅が出来ているんだ。


「スラムがどういうものなのかは知っているが・・・・」

「そういえばウォルマにはスラムがありませんね」

「あぁ、孤児になった者は全て孤児院で面倒をみる事になっている。夫を亡くし未亡人となった者はしっかりと生活が出来るように町で面倒を見ている」

「良い制度ですね」

「クロガネ殿が育った場所にはそういう制度が無かったのか?」

「そういう制度はあるらしいですけど、それで助かるのはほんの一部ですよ。俺の街はプリトって言うんですけど」

「ダンジョンが在る街だな」

「そうです。かなり大きな街なので人は沢山居るし、色々な人が集まってきますから全てを救うことなんて出来ないんですよ」


 ウォルマの制度は町の住民が少なく住民達の関係が深いからこそできる事だ。一日に何人もの人が死に、孤児が生まれるプリトの街じゃそんなことは出来ない。それに・・・・


「それに俺は捨て子ですから、そういう救いは受けられなかったんですよ」


 俺の生みの親達は今生きているかは分からないが、俺を捨てた時には生きていたし生活もしていた。だから孤児を救済する制度の対象にはならないのだ


「・・・・それは申し訳ない事を聞いた」

「いえいえ、もうどうでも良い事なので気にしてませんから大丈夫ですよ」


 だから、そんな申し訳なさそうな顔しなくて大丈夫だぜ。


「子供を捨てるなど・・・・何故そんな事を」

「ふふ」

「ん?何故笑う?」


 いや、そういう言葉が出るってことは汚い事を知らない貴族様らしいなと思っちまった。


「いや、そんなこと言われるのは初めてなんで。子供を捨てるなんて理由は山ほどありますよ。面倒を見れない、望まない子だった、夫か妻に逃げられ要らなくなった、新しい恋をするためには子供が邪魔だとか挙げれば切りがないものです。人は自由で身勝手だから、要らないものは捨てる。それが日常だから周りに居る人達も気にしない」


 そういう事が日常だから特別に孤児たちを気に掛けようなんて思わないんだ。


「大きな街というのはそんな場所なのか・・・・」

「それに俺には明確な理由がありましたから」

「何故だ?」

「俺の髪と瞳です。テセウ様もこの色がどういう意味を持つのかはご存じでしょう?」

「・・・・黒は世間一般では不吉や不幸を招く色であり魂を冒涜する闇魔法の象徴である色と言われているのは知っている。だが、父上からは髪や瞳の色など見た目を区別するだけのもので本当に重要なのはその者の生き様に志と行動、そして魂だと言っていた。いくら純粋な黒色だとしても俺はクロガネ殿が善い存在だと思う」

「え~そうですか?」


 俺は善い奴と思われるような事して無いけどな。


「あぁ善い人だと思う。インセクトマンが町を襲おうとした時、衛兵では被害が出ると真っ先に倒し、足手纏いである俺達を連れ嫌な顔をすることなく守り続け、俺達が危険な状態になれば常に手を出せるように構え、愚かな判断をしてしまった俺を受け止め正す。そんな事をする人が善い人だと言わずに何と言うんだ?」

「いや、それは依頼を受けてますから!」

「だとしてもだ」


 あぁぁぁそんな真面目な顔で淡々と褒めないでくれ!!流石の俺でも照れるだろ!!!


「う~あ~えっとありがとうございます」

「だから、見た目だけで判断するなど許し難い事だ」

「あぁもう良いですから!そうだ、俺の話は良いのでテセウ様は今までどんな事をしてきたんですか?貴族様とこうやって話すのは初めてなので気になります!」


 そんな俺の為に怒らなくても良いから!もう恥ずかしいから離しを変えましょう!


「俺か?俺はそんな面白い人生を歩んできた訳でも普通の貴族とは違うため面白い話は無いと思うが・・・・」

「それでも聞いてみたいです!」

「そうか・・・・なら話そう」


 テセウ様がどんな人生だったのか気になるな


「俺は領主の長男としてこの町に生まれ、将来はこの町の領主になることが決まっているから幼い頃から色々な事を学んできた。経済学、貴族としてのマナー、算術に歴史学、魔法学と代々シュナイザー家に仕えてくれている教師に教えられ、ウォルマを守るために戦術も学びながら鍛えてきたのだ」

「へ~だから色々な事を知ってるんですね。武力もその歳であれば、普通より上ですし」

「父上はこの町では英雄と言われるほどの実力を持ち、母上は植物に関する研究に関する才女と言われる二人から生まれた俺は多くの子と学び武力を身につける必要が有っただけさ。色々な事を学び、成長してきたつもりだったのだがな・・・・クロガネ殿と会って全てが負けた気がするな」

「それを言うなら俺の方じゃないですか?俺はブレストに会うまでちゃんとした教育なんて受けてませんし、文字だって読めなかったんですから。経済学とか歴史学なんて分かりませんし、勝ってるのは武力と魔物に関する事だけですよ」


 そんな難しそうな勉強なんて俺には出来ないな。俺が知ってるのは、人を騙す方法と悪い奴らが何をしているのか、人はどんなところに物を捨てるのかや意地でも生き延びる方法くらいだ。生まれが違うだけでこんなにも違うのか・・・・


「少しでも勝てている部分があってホッとしたよ」

「テセウ様は次期領主になられるんですよね?ずっと町に居るんですか?」

「いや、12になったら王都にある学院に入学することが決まっている。そこでより高等な知識を身に着け領主になる教育を受け、町に戻って来た後に少しずつ父上の仕事を手伝いながらやがて領主となる予定だ」

「なるほど~学院なんて行くんですね」

「あぁ、俺としては父上に並べるように斧術を極めたいのだが学院に行くのは貴族の義務だからな」

「ブレストは知識は無駄にならないって言ってましたから、良いと思いますよ。体を鍛えるのは何処でも出来ますから」

「なるほど、ブレスト殿が言うならそうなんだろうな」

「学院か~想像つかないな~」


 学院って貴族が沢山集まって沢山勉強する場所だって聞いたけど、全然想像がつかない。しかも難しくて面倒な色々な学問を学ぶんだろ?疲れそ~それに貴族と言っても一括りじゃないから、身分差とか領地の関係性とかコネ作りとかドロドロしてるってブレストが前に言ってたぞ。そんな所俺には無理だな。


「クロガネ殿なら学院に入学できると思うが」

「え~そんなに頭良くないですし俺には無理ですよ」

「そうか?今から勉強をすれば十分合格出来ると思うんだが・・・・」

「それに俺は旅を続けますから無理です!」

「そうか・・・・共に行けたらとても楽しい学院生活になると思ったんだがな」

「俺と一緒に行っても面白い事無いですよ?」

「そうは思わないな。俺には無い沢山の経験と知識を持っているし、訓練の相手には文句の無い相手だろ?それに一緒に冒険者として訓練するのも楽しそうだ」

「あはは、確かに訓練の相手なら務められるかもですね」


 学院で勉強をしながら訓練か~面白そうだけど、今が楽しいから無しだな


「だろう?だが、クロガネ殿は旅を続けることは分かっている。だから今のうちに沢山の事を学びたい。昨日の魔物の話の続きを話してくれないだろうか?」

「良いですよ」


 こんなに向上心があって民の事を考えられる人ならきっと凄い人になると思うんだ。それに、テセウ様ってどんなことがあっても素直で真っ直ぐで、人の為に怒れる良い人だな。短い時間しか一緒に居ないけど気に入ったぜ。だから、俺はそのちょっとした手伝いが出来ればと魔物と冒険の話を交代の時間が来るまで話し続けた。

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