その先へ
インセクトマンを倒した俺達は他の魔物の襲撃が無いことを確認した後、インセクトマンの死体を取り囲みながら頭を悩ませていた。
「これがインセクトマン・・・・」
「形からしてマンティスのインセクトマンですが・・・・」
「クロガネ、死体を見てどう思った」
「外骨格の色や毛の位置、触覚何をとっても前に倒した奴と同じだ」
「前に倒したやつまだ持ってるだろ?比べてみるか」
俺はマジックバックから前に戦ったインセクトマンを取り出し、今日戦ったインセクトマンの横に同じ格好で並べてみると全会一致で
「同じだな」
「同じですね」
「同一個体と言って良い程だな」
だよな~何処をどう見ても全く同じだ。同じ種族だとしても、個体によって毛の短さや傷、光に当たった際の光沢の仕方などが僅かに違うのが普通なんだけど・・・・一体どうなっているんだ?
「同個体のインセクトマンが出現したという事は・・・・分身などのスキル持ちということだろうか?クロガネ殿戦っていて違和感や分身などのスキルを使用したことはあるだろうか」
テセウ様の言う通り同一の存在が現れた理由の一つとしてスキルがあげられる。人々と同じように一部の魔物にはスキルが備わっていて、その種類は多種多様だ。例えば、前に戦ったオートマタは自己修復というスキルを持っていて、時間は掛かるがコアが無事であるのであれば体を修復できるというものだ。そのようにこのインセクトマンが分身や自己複製などの自分を増やすスキルを持っている可能性も無くは無いんだが・・・・
「前の戦闘中は分身などのスキルを使った様子は無かったです。今回は安全を考えて一瞬で片を付けてしまったので・・・・すみません」
「いや、俺達の身を案じての行動だと分かっている」
「ですが、インセクトマンがそんなスキルを持っているなんて聞いたことありません。我々人と違い、魔物達は種族特有のスキルしか持たないはずです」
そう、ロシェさんの言う通り魔物は自分の種族に関するスキルしか持てないのだ。俺達は人間はどんなスキルでもその人の素質次第で習得できるが、インセクトマンには無理だ。だから、もしそれ以外のスキルを獲得したとしたらそれは変異種ということになる。だけど、こいつが変異種・・・・?
「変異種という可能性は?」
「はっきり言ってしまうと、弱すぎるのでそれは無いと思います」
インセクトマンと戦ったことは二回しか無いけど、インセクトマンは元々三級の冒険者達が戦う相手であるため、もしも変異種となっていたら二級の下位程度にはなるはずだ。
「俺もクロガネに同意見だな。変異種というには弱すぎるし身体にもそれと言った特徴が無い」
「では、一体どういう事なのだろうか」
「少し心当たりがあります。ですが確証は得られてないのでまずは調査する必要があると思います。クロガネ、インセクトマンが現れた場所分かるか?」
「結構遠いよ、俺達の速さだとあと二日は掛かると思う」
「そんな先まで探知出来るのか・・・・」
「いや、普通は無理です」
流石に探知や感知が得意だからってそんな遥か先まで感じることは俺じゃ無理。
「それではなぜ?」
「インセクトマンが物凄い殺気を放っているのと、あいつが気配を消すのに闇魔法を使っているからです。流石にあんな気配を放っていれば気付きます」
「殺気か・・・・」
「大丈夫ですよテセウ様、俺でもクロガネ程の探知は無理ですし殺気も感じられませんでしたから。それにクロガネは隠されたもの暴くのが得意なんです」
「え~」
確かに隠してはいるけどまるで、歴戦の暗殺者みたいに研ぎ澄まされ常にナイフを首に当てられているような気迫、そしてお前を殺したいという確かな意思を感じられたんだけどな~それに闇魔法は俺と相性が良いから全身を闇魔法で覆ったりしたら、まる分かりなんだぜ。
「取りあえず、目的地は決まりましたね。出発しましょう」
「真実が分かるなら、早く進むべきだな」
「えぇですが進むたびに魔物は強くなっていきますので焦らず慎重にですね」
「テセウ様の身の安全は私が守らせて頂きます」
ブレストはこの異常に心当たりがあるらしいけど、詳しくは教えてくれなかった。無駄な情報を与えて俺達が混乱しないようにってことだろうけど一体何が原因なんだろう。色々な事を考えながらも、襲い掛かってくる魔物を処理していく。
はぁ、ブラックスパイダーが鬱陶しいな!
さっきからマーダーベアにマーダーマンティス、そして偶にイビルスパイダーにパラライズセンチピードと面倒で凶暴な奴らばかりで苦戦はしないけど少し疲れてくるな。うわ、クラウドスパイダーの巣か・・・・わざわざ巣の中に入ってく必要は無いから迂回してっと。木がまるで雲に包まれたように白くなっているのはクラウドスパイダーの巣がある証拠だ。一度でも糸に引っかかったら大量の小さなクラウドスパイダーが襲ってきて毒を大量に注入され動けなくなった所を糸で全身を包まれて、巣の中に引きずり込むんだよな。しかも、一番嫌なのは致死量の毒では無くて動けなくなる程度の毒だってことだ。つまり、生きたまま餌にされて・・・・
「クラウドスパイダーか・・・・」
「絶対に嫌だからな」
「ブレスト殿、二人の実力を疑う訳では無いがクロガネ殿の戦法ではクラウドスパイダーを全て倒しきるのは難しいのではないだろうか?」
「うんうん!」
ぼそりとブレストが呟いたから嫌な予感がして断ると、テセウ様も言ってくれた。あいつら相手するなら高火力の火魔法か木全てを消し去る威力の魔法が必要になるから、俺には無理だぞ!
「いや、流石の俺でもそんな事させませんよ。ただ厄介だなと思っただけです」
「良かった~」
偶にとんでもない事をさせようとするから疑っちゃったよ。
「でもこいつらは危険だから出来るだけ倒しておいた方が良いんだよな~仕方が無い俺がやるか。クロガネ、風と雷で防御しておいてくれ」
「はーい」
確かにそいつらは残酷で冷酷な獲物の扱い方をするから出来るだけ処理した方が良いとは言われてるよな。俺はブレストと交代でテセウ様の後ろに着いた。
「ブレスト殿はあれを全て倒せる魔法を持っているのか?今までの戦い方的に剣士のはずでは?」
「あ~本当の戦い方は魔法をメインに使うんです。ちょっと特殊なのでまぁ見てれば分かりますよ」
そういえば森に入ってからはずっと剣でしか戦って無かったな。ロシェさんとテセウ様は少し不安げに見守っていると、ブレストは炎を纏ったハルバードを作り出した。それを見た俺はテセウ様とロシェ様を取り囲むように風と雷の丸い障壁を作り出しすと、勢い良くブレストは巣に向かって飛び込んで行った。
「何を!」
「心配しなくても大丈夫ですよ」
その様子を見て恐ろしさを知っているロシェさんが悲鳴を上げそうになったが、全くもって心配なんてしなくて大丈夫なんだ。飛び込んでいたブレストは、勢い良く地面に向けてハルバードを振り下ろし巣を斬り裂くと、それを合図に無数のクラウドスパイダーがぞわぞわと集まり襲い掛かる。体長が十センチ程度の奴らが大量かつ同時に襲い掛かるから、一体ずつ処理するのは無理だ。しかも少しのミスで攻撃から逃れたクラウドスパイダーが忍び寄り毒を注入するから、一体たりとも近づかせる訳にはいかないから厄介だけどブレストなら大丈夫だろ
「うわ、キモッ」
小さな虫があんなに沢山集まると気持ち悪いな~飛び掛かってくるクラウドスパイダーをブレストはハルバードを自分を中心に縦横無尽に回転するように薙ぎ払い、その刃は風を斬り目で追うのは難しいほど速く、刃の軌跡をなぞるように炎が噴き上がる。やがて炎は舞うように炎の竜巻となり飛び掛かるクラウドスパイダーを次々と燃やし跡形も無く炭へと化していく。
「お~初めて見たな~」
「あの魔法は一体・・・・」
「何という腕前だ・・・・」
次々と襲い掛かる無数のクラウドスパイダーを一匹たりとも逃さず、的確に斬り裂き燃やしていく姿にテセウ様は目を奪われロシェさんは唖然としている。やがて、襲い掛かるクラウドスパイダーが段々と減っていき巣と共に跡形も無く消え去ってしまった。
「よし、終わりだな」
「おつかれ~」
「んじゃ先に進むか」
「りょう・・・・かいです・・・・」
ブレストが見せた魔法の衝撃が抜けないのか、暫くの間少し唖然としていたが森を進むために気を引き締め直し夜になった頃には、ブレストは少し変だという事で納得してくれた。今日は俺が先に夜番なんだけど・・・・
「段々と魔物の強さが増しているのに一人で夜番というのは危険で疲れが癒えないのではないだろうか。勿論二人の実力を疑う訳では無く俺一人では夜番が務まらないことは理解している。そこで提案なのだが二人一組で夜番してはどうだろうか」
「そうですね・・・・でも、これから先は昼間の戦闘も激しくなりますしお二人の体力を出来るだけ休ませたいのですが・・・・」
「駄目か。我儘を言うつもりは無いのだ」
少し落ち込んだ様子を見せながらテセウ様はちらりと俺を見る。その姿を目撃したブレストは少しニヤつきながら笑顔で
「ですがテセウ様の言う事も一理ありますね。それじゃあ、テセウ様とクロガネ、俺とロシェさんのペアでいきましょう。クロガネ、しっかりと夜番について教えるんだぞ」
それを言うとロシェさんも何かハッとした様子を見せながら暖かな笑顔を見せながら
「そうですね。夜番は危険ですし、お二人の方が良いと思います」
「はーい」
「感謝する!」
「それじゃあ、早速俺達は寝るとしますのでお願いしますね」
「えぇお先に失礼します」
そう言ってさっさと二人は寝てしまった。最後までニヤついてたけど、何なんだ?
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