森は危険
準備をして着替えてきたロシェさんはまるで騎士のような鎧を全身に纏い、ヒーターシールドとショートソードを武器としていた。一方テセウ様は背丈ほどもあるバトルアクスを背中に担ぎ、防具は革防具という姿だ。あの防具からは魔力を感じるから防御力は十分だと思うけど、森の中で長物か~サピロさんは十分な訓練を積んでいるって言ってたし大丈夫でしょ。俺達は領主館を出て町の門へと向かいながら、
「さて、今から森に向かう訳だがまずは隊列を決めておこう」
「それに関してはブレスト様にお任せいたします」
「同じく」
「では、クロガネが先頭で索敵兼戦闘要員な」
「はーい」
「その後ろにロシェさんがクロガネが戦っている敵がこちらに来ないように警戒をしながらテセウ様の護衛。ロシェさんの後ろにテセウ様、そして最後尾は俺という並びで行こう」
「畏まりました。クロガネ様の援護をしながらテセウ様の防御でよろしいでしょうか」
「いや、クロガネの援護はしないで防御に専念してくれ。森に出る魔物程度であればクロガネは苦戦はしないからな」
前に言われた通り戦闘は俺が主体となるみたいだね。隊の最後尾ってのは、隊全体を俯瞰して見ながら素早く状況を把握し、適切な指示を出さないといけないからブレストが適任だと思う。それに隊の一番後ろって先頭の次に危険だからね。
「そうですか・・・・畏まりました」
「俺も戦えます!」
「何があるか分からないから安全第一なんです。勿論俺達の方に魔物が来た時は戦って貰うが基本はクロガネに任せるってスタンスで行きます」
「はい・・・・」
「よし、それじゃあ行くぞ」
俺達は町の人に驚かれ、門番の人にもテセウ様が居ることに驚かれ事情を聞かれたがシュナイザー様の依頼だと話すと心配はされたが問題なく送り出してくれた。テセウ様って衛兵は町民のみんなから顔を覚えられているんだな~
「森の調査ってことだったが、取りあえず昨日クロガネがインセクトマンに遭遇した場所に行こうか」
「はーい、こっちだよ」
「インセクトマンが昨日出たんですか?」
「確か父上が対処に向かったはずだが・・・・」
「クロガネが先に気付いて、倒しちまったんだよ」
いや~丁度運動に良さそうな奴が居たからついね。
「夜中だったはずだが・・・・クロガネ殿は外に居たのか?」
「いや~そういう訳じゃ」
「衛兵達が夜の出入りは厳しく監視しているはずですが」
「気配を消すのが得意なので」
気配を消して衛兵に無許可で町の中に入った事がバレたら普通は大問題なんだよな。今回は緊急事態だったのとシュナイザー様が許してくれたから、問題にはならなかったけど今度からはもっと上手くやらないとな。
「そこら辺はシュナイザー様と話がついてるからな。それよりもう森の中には居るんだ警戒を緩めるなよ」
真剣な顔で追及された俺に助け舟を出してくれたブレスト。ふ~危なかったぜ。じゃあさっさとインセクトマンが居る場所に行くか。俺は木の上に飛び上がり、進もうとすると
「クロガネ、今回はゆっくり歩いて行くぞ」
「え」
「森の調査なんだから通り道も調べないと駄目だろ。それと、一応言っておくがその移動の仕方は一部の奴しかやらん」
「あ、そっか」
いや~こっちの方が速いしブレストは何の苦も無く付いてこれるからつい・・・・ロシェさんは完全にこんな事をするような格好じゃないもんな。そう言われて俺は地面の戻ると出発した。この森は背が高い植物達で溢れているから地面を歩いていると、目視できる範囲が限られてしまう。俺より少し大きいテセウ様も俺と同じ状況だろう。先頭に居る俺は触っちゃいけない植物や木の根による段差などを、教えながら進んでいると前方にこっちに向かってくる魔物の気配がした。
「前方からブラウンベアが来る」
「了解」
「畏まりました」
ロシェさんは瞬時にテセウ様の前に立ち腰を落とし戦闘準備をしテセウ様も対処出来るように構える。俺はいつも通り素早く終わらせようと気配を探って待ち構えているが、ブラウンベアの気配が変だ。
「ん?なんか可笑しい」
「どうしたんだ?」
「敵意じゃない・・・・何かから逃げているみたい」
「襲われて逃げてきたのか?」
「うん、でも冒険者の気配はしない。だけど、この先に大きな気配がする」
「そうか、取りあえずブラウンベアを対処しよう」
草を掻き分けながら逃げてきたブラウンベアは俺達を見た瞬間恐怖の浮かべながら半狂乱で襲ってきたが、俺は軽く避け一撃で首を両断した。
「やっぱり怪我をしてるし逃げてきたみたいだね」
「切り傷か・・・・」
「羽音が聞こえる」
「ビーかイーターフライか?」
「気配が大きいから、多分違うと思う」
「何か大きい飛ぶ魔物に覚えは?」
「私は特に・・・・」
「大きい魔物だと、イーターフライかウォリアービートルが主な種類です」
「どうだ?」
「ん~ずっと飛んでるからビートルでは無さそう」
今テセウ様が上げた魔物は全部インセクト系で厄介な奴らだ。イーターフライは闇魔法を使ってかく乱してくるし、ビートルは純粋な硬さと破壊力を持っていてどれも早く倒さないとテセウ様が危ないな。
「一応調べに行こうか」
「は~い」
「念の為に二人は俺から離れないように。それと戦闘に加わろうとしないでくれよ」
「了解です」
「畏まりました」
俺達が歩を進め大きな気配がある方に近付いていくと、風の流れに乗って濃い血の匂いが鼻に伝わってきた。冒険者の気配は無いし、魔物の血だと思うけど死んでいたら分からないな。濃くなっていく匂いに、テセウ様は少し気分が悪そうだが足取りはしっかりしている。視認出来る距離まで近づき茂みから覗くとそこにはおぞましい数の魔物が首を斬られ倒れていた。そして、その死体の肉を食らっている丸い複眼と二対の羽に細長い胴体。
「首狩りトンボ・・・・」
「不味いな。こんな所に何で居るんだ」
「可笑しい、この森には生息していないはずです」
首狩りトンボは巨大な体を持ち持ち前の速さと立派な羽に風魔法を纏い、全ての生き物を両断する危険な魔物だ。その獰猛さと空を飛べるという圧倒的な有利性で、冒険者達からも恐れられている。
「あれは・・・・父上を呼ばなければ」
「えぇ同感です」
「クロガネ、これを放置してると魔物が寄ってくる。さっさと倒してこい」
「はーい」
俺は立ち上がり茂みから出て行こうとするとテセウ様が俺の手を掴み
「何をしているんだ!あれはそこらの冒険者が何とか出来る奴じゃ無いぞ!少なくとも三級冒険者であり優れた遠距離攻撃持ちを沢山集めなければ対処は無理だ!それにあの攻撃を受け止めれるタンクが居なければ両断されて終わりだ!」
「大丈夫、大丈夫」
心配してくれるのは分かるけど、あれぐらいなら何とかなるから大丈夫っ
俺はテセウ様の手を優しく外すと茂みから飛び出した。当然俺に気付いた首狩りトンボは口をカチカチと鳴らしながら、止まって見えるほど高速に羽を動かし空へと飛び立つ。俺も空中戦が出来るから、飛ばれても意味が無いんだけど今回は地上戦と行こう。俺はマジックバックからある物を取り出し闇魔法を掛けると、クロスボウで俺に近付かないように牽制をしながら木から木へと飛び移る。すると矢の猛攻で避けられるが近付けない首狩りトンボは風の刃を作り出し俺に向かって撃ってきた。
「まぁそういう事してくるよな」
クロスボウの矢を増やし、風の矢を相殺し地上を縦横無尽に駆け回る俺。確かに首狩りトンボは速いけど俺だって速さじゃ負けてないぜ。
「速い・・・・だけどあれじゃあ倒せないだろ」
「一体何を?」
「危ない!」
しびれを切らした首狩りトンボが広範囲に風の刃を降らしてきたが、そんなの俺も同じ数魔法を使えば良いだけ!一切地上に被害なく攻撃をいなし準備が出来た俺は、一瞬木の影に隠れた瞬間分身を作り出し、見やすいようにゆっくりと歩き立ち止まると
「さぁ、いつでも掛かって来な」
「あいつ、何やってるんだ!」
「ブレスト様」
「大丈夫、大丈夫」
こんな隙を見逃すはず無く羽に風魔法を掛け、首狩りトンボの代名詞と言える羽による切断をするために猛スピードで俺に向かって飛んで来る。テセウ様危ないから飛び出そうとしないでくださいよ。まるで風の刃と化した首狩りトンボが俺の分身を両断した瞬間。俺は罠を発動させた。
「ギィイイイ」
罠に掛かった首狩りトンボは全身を粘着質の糸で絡められ、ご自慢の羽が動かせなくなってしまいこうなってしまったらもうこいつに出来る事は魔法だけだけど、そんな事させる訳が無い。
「確保~からの止め」
「ィィィイイイイ」
糸に強力な雷魔法を流し込み、悲鳴を上げながら首狩りトンボは絶命した。
「終わった終わった。ブレスト~燃やすのお願い」
「あいよ」
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