ワイズスパイダー
離れた場所に潜んでいる魔物を追いかけるために、木に飛び移り次の木へと飛んだ瞬間空中に見えずらい糸が張ってあるのに気づいた。俺に危害を与える程の強度も魔力も感じなので無視してそのまま糸を体で切ると目の前から木の棘が飛んできた。
「罠か」
離れた場所に居る魔物が棘を飛ばした様子は無いし、棘から魔力も感じなかったから糸によって作動する罠だな。木の棘をナイフで弾き次の木の上にも糸が見えたので、地面に着地するといきなり地面が崩れ下には木の杭が。
「性格悪いな!」
風の足場を作り落とし穴を回避する。そして這い上がった先にはまた糸があり、丸太が俺に向かって転がってくる。魔力がある攻撃じゃないから威力は大したこと無いけどうざいな!丸太を飛び越え、先を見るといくつもの糸が見えその先には必ず罠が仕掛けられている。全部魔法で吹き飛ばすが楽なんだけど、それは流石に不味いよな。仕掛けは単純なんだから糸に引っかからなければ良い。
「こんなのをするってことはトラップスパイダーかワイズスパイダーのどっちかだな。スパイダー共を指揮しているってことを考えればワイズスパイダーしかないだろうな」
風の魔法と身体強化を掛け、葉や木の陰に隠れている糸をしっかりと見極め決して糸に触れないように慎重に足場を選びならが木から木へと移り近づいていく。俺が接近しているのに気づいているのに動かないってことは、確実に待ち構えてるな。
う~ん・・・・待ち構えてるってことは罠も沢山仕掛けられてるだろうな。分が悪い戦いはしたくないしあれを使うか。
俺は一瞬木の後ろに隠れ、敵からの視線を外し闇魔法で分身を作り出し分身はそのまま進め、俺は姿を隠し地面から進む。姿が見える距離まで来たけど、デカいな~余裕で大人一人分はあるな。自分が張った巣の真ん中に陣取り、向かってくる俺の幻影をカチカチと牙を鳴らしながら待ち構えるワイズスパイダー。分身を本物かのように罠を避けさせながら進み飛び込ませると、一瞬で分身が真っ二つに切られてしまった。
「キィキィ」
やっぱり目に見えない程細い糸を限界まで張ってたみたいだな。もし本物だったら体がバラバラになってたぜ。偽物だって気付いたみたいだけど、もう遅いぞ
分身は消えると同時に強力な雷へと変わり、意志を持ったように巣に陣取っているワイズスパイダーへと襲い掛かった。勿論それをただ見ているだけな訳なく、粘着性のある糸を尻から吐き雷を止めてしまった。
それで倒せるとは思ってないし、こっちが本命!
雷に気を取られている間に、罠を避け巣の真下に忍び込んだ俺はナイフに風の魔力を籠め飛び上がり巣に張り付いているワイズスパイダーの胴体と尻を切断した。
あとは雷で止めをさせば・・・・ヤバッ
止めを刺そうとクロスボウに魔力を籠めると、まだ動いているワイズスパイダーが巣に付いている糸を足で引っ張ると、大木すら容易く切断する糸が全方向から俺に向かって迫りくる。
これ数が多すぎるからナイフで斬っても無駄だな。しかもこの糸硬すぎるから魔法で斬り裂く威力を出すには時間が足りない。なら、避けるしかない。
おれは向かってくる糸に立ち向かい、雷と風の魔法を纏い無数の糸と糸の間を潜り抜け新たにワイズスパイダーが発動した魔法による木の棘を避けきるとクロスボウに籠めた矢を放ちワイズスパイダーを丸焦げにした。
「ふ~危なかった。念の為もう一度雷当てておこっと」
インセクト系はしぶといから確認は大事だよな
「うん、死んでるな。この糸って本体が死んでも消えないのか・・・・魔法で作ってる訳じゃ無いんだな」
大木すら切ってしまう僅かな魔力を宿した糸なら何かに使えるだろうと、すべて回収した俺はワイズスパイダーの尻を担ぎ上げブレストの元へ戻った。戻った頃には既に他のスパイダーは倒されていて、みんな俺の帰りを待ってくれていた。
「うぉ、何だそれ」
「坊主戻って来たか・・・・うわ何だその背中に背負ってるの」
「キモッ」
乗客のみんなは心配してくれていたみたいで俺の姿を見てホッとした様子を見せたけど、俺が背負ってるワイズスパイダーの尻を見てみんな嫌そうに顔を顰めている。ブレストは俺が背負ってきた物を見ても笑いながら
「おう、戻って来たか中々大物だったみたいだな」
「うん、中々だった」
「その大きさと模様からするにワイズスパイダーか」
「よく倒せたな・・・・俺達でも隊を組んで対処しなければならないレベルだぞ」
「尻だけか?足も素材になるぞ」
「え、そうなの!?」
図鑑で見た時には尻に入っている糸が高級品だって書いてあったから持って帰ってきたのに足も素材になるのかよ・・・・
「他は雷で炭にしちゃったよ・・・・あ~勿体ない!!全部持って帰ってくれば良かった」
「いや、全部持って帰って来ても邪魔過ぎるだろ。馬車に入らないぞ」
「持って歩くから大丈夫!」
「まぁそれならありか」
馬車ぐらいの速さならワイズスパイダーを抱えても十分追いつける速さだし、他の魔物に襲われても隅に置いておけば十分対処出来るしな!
「いや、そういう問題じゃ無いだろ」
「あんな子供がワイズスパイダーを倒せるのかよ・・・・」
「俺達何も出来なかったな」
「俺、この土地でやってけるのかな・・・・」
ワイズスパイダーは大きく狡猾だけど、糸と罠にさえ気を付ければそんなに強い魔物じゃ無いぞ。まぁ、森の中という視界が悪く障害物が多い場所では危険性が跳ね上がるけどな。それに、ワイズスパイダーは他のスパイダー系を使役もするから、ちょっと面倒なんだよな。
「坊主、さっきは助かったぜ」
「気にしないで」
「坊主達は冒険者だったんだな」
「おう!」
「三級冒険者ブレストだ」
「五級冒険者クロガネ」
「三級か・・・・坊主は俺より下なのかよ・・・・はぁ自身無くすぜ」
「いやいや、冒険者ってのは実力より経験の方が大事な時だってあるだろ」
冒険者の階級は単純な武力だけじゃなくこなした依頼の数や依頼の成功率、魔物や植物に関する知識に様々な場面に対する判断、対処能力によって判定される。俺はブレストに教えて貰うまで何も知らないガキだったから、長年冒険者をしている人達に比べれば知識も経験も足りなすぎるんだよな。
「良い事言うじゃねーか」
「坊主も帰って来たことだし出発するぞ」
「その尻は・・・・馬車の上にでも乗せるか」
「俺持って歩くよ」
「良いって、今回の襲撃を乗り切れたのは二人のおかげだからこれぐらいさせてくれ」
そういうことならお言葉に甘えて乗せてもらおっと。そのまま馬車に乗ろうとすると御者の人に呼ばれ、お願いされ隣に座ることになった。ワイズスパイダーの尻を乗せた馬車は周囲を確認してウォルマへとまた進み始めた。
「無理を言ってこっちに乗って貰ってすまんな坊主。客をこういうことに協力してもらうのは護衛としてどうかと思うんだが、安全性を高めるために頼む!」
「いや、大丈夫だよ。それに監視の目を増やすのは良い事だもん」
こんなに危ない森ならどんな手段を使っても安全性を高めるべきだと思う。その為なら協力を惜しまないよ。
「聞きたいんだが、どうやってあの罠に気付いたんだ?」
「ん~インセクト系が多いって言われてたから、集中して気配を追ってたんだ」
「あいつらは気配が薄いからな。俺も気配を捉えるのは得意だけど、全然分からなかったけどな」
「うん、俺も罠に掛かるまで全然分かんなかった。だけど、馬車が罠に掛かった瞬間一瞬周囲で葉っぱが動く音と木の上で動く気配がしたのと、遠くで俺達に向けた殺気を僅かに感じたから何とか気付けたんだ」
「なるほどな・・・・確かに一瞬変な気配を感じたな」
「あいつら罠に掛かるまで、全くと言って良いほど動かなかったしそれが無かったら俺も気付けたか分からなかったぜ」
「スパイダー系統の厄介な特徴だよな。獲物が罠に掛かるまでじっと暗殺者のように待ち伏せ相手に気付かせず殺す。長年この森で働いてる俺達でも、頭を悩ませる連中だぜ」
「あんなのが沢山居るの?」
「いや、偶にしか出ないぞ」
あんなのが日常的に出てきたら、被害者の数がとんでもない量になるしどんな魔境だよって思ってたけどそんなに数は居ないみたい。そりゃ沢山いたら街なんか壊滅してるよな。
「少し安心した」
「あ、マンティスは良く出るぞ」
「それはそれで嫌だな!!!」
マンティスも気配が薄いし風の魔法を使って繰り出す鎌の攻撃は、とんでもない切断力を持つんだよ。一瞬の判断が命取りになるから危険だし、これだからインセクト系は・・・・
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