辺境の町ウォルマ
次の町でも特に面白い事も無かったので俺達は、辺境の町へと向かう乗合馬車に乗ってこの国最後の街ウォルマへと向かっていた。乗合馬車には革の防具に身を包んだおっさんやブレストより少し若そうな決意に満ちた目をしている少年など、色々な人が乗っている。馬車を守る護衛の人達も王都の時に使った馬車の護衛の人達より一回り強そうだな。
「どれくらいで着くんだっけ?」
「二日後だな」
「そっか~」
「まだここら辺は平原だから良いが、もう少ししたら森に入って視界が悪くなるからいつ襲撃を受けても対応できるようにしておけよ」
「それは大丈夫!」
いつでも戦えるように準備しているから大丈夫だよ!
「はっはっは、そんな心配しなくても俺達が居るから大丈夫だぜ」
「あぁ、俺達が守ってやるさ」
「もし何かが襲ってきても俺の剣で全て斬り伏せてやるさ」
「あんちゃん達は強くなさそうだからな、馬車で大人しくておけよ」
「俺達みたいに大きくないしな」
「はっはっはっ」
いや俺達多分だけど、馬車に乗っている人や護衛の人達より強いぞ。まぁそんな事を言うのは野暮だし、俺達が強いって言っても信じてくれなさそうだから黙っておこっと。それに、戦わずに済むならそれで良いしね。
「頼もしいですね!でも、護衛の人達も居ますからそうそう戦うような場面にはならなそうですけどね」
「まぁな。今護衛してくれてる人達はウォルマの衛兵だからな。そんじょそこら衛兵とは格が違うだろう」
「次の採用試験には絶対合格して衛兵になってやる!」
「お、兄ちゃんは衛兵志望か」
「あぁ、これでも町一番の腕っぷしなんだからな」
「そりゃ良いな。俺達は依頼目当てだけだが、たっぷり稼がせてもらうぜ」
衛兵の職って結構人気なんだよな。町に雇われている訳だから給金は中々だし、朝番夜番はあるけれど待遇は良い。腕っぷしと体力があれば就ける職業だし、毎日依頼を求め町から離れる冒険者と比べれば常に町の中を守り町の外から来る外敵を向かい討つ衛兵の方がマシだな。俺は自由に町を移動できる冒険者の方が好きだけど、体力に自信がある若者には人気な職業だ。
「ウォルマは依頼に困らないというからな」
「しかも、出てくる動物や魔物は金になるものばかり!」
「はぁ~待ち遠しいぜ」
ウォルマの話題で盛り上がっている乗客はさておき、他の人達に聞こえないよう小さな声で
「そんなにウォルマって人気なのか?」
「ウォルマは森に囲まれた国境沿いに場所を置く町なんだが、その森というのが大地に魔力が多く自然豊かだから多くの動物や魔物が居るんだ。どれだけ狩っても次々と現れるから冒険者にとっては絶好の仕事場なんだぜ」
「なるほど。でもそれだと衛兵は大変なんじゃないか?なんでそんな大変な所に衛兵になりに行こうと思うんだ?」
「厳しい代わりに給金が他の場所と比べ物にならないくらい高いんだよ。勿論それ相応の実力が求められるけど、ウォルマの衛兵は練度が高いと有名だし、しっかりと訓練すればそこまで危険は無いんだ。それに、シュナイザー辺境伯が居るから防衛に関しては問題無いし民からの人気も高いんだよ」
「シュナイザー辺境伯?貴族が有名なのか?」
え~貴族がそんな有名なんて碌なことが無いと思うんだが・・・・貴族と関わると面倒だしウォルマは早めに抜けた方が良さそうだな。
「この国の中でも突出して強い人間として有名なんだよ。二級以上の実力はあるんじゃないか?」
「貴族の奴がそんなに強いのか!?」
貴族って街の中に籠ってお茶会とか難しい会議とかをしてるんじゃないのか!?貴族が戦うなんて全然聞いたこと無いんだけど!
「普通の貴族は戦わないぞ。ただ辺境伯は国境の守りを任されているから実力が必要になるんだよ。しかもあそこの森は強力な魔物も出現するからより力を求められるな」
「戦う貴族か~少し見てみたいけど、貴族と関わると碌なことが無いしいちゃもん付けられそうだしな~」
「はは、辺境伯は人柄が良く快活な人だと聞いてるから大丈夫だろ」
「じゃあ、一度見てみたいな!」
面倒なことにならないなら戦う貴族ってのが気になるし、一度見てみよう!練度が高いって言われる衛兵たちの強さも見てみたいし、次の街は楽しい街になりそうだな!
「そろそろ森に入りますよ。気を付けて下さい」
「おう」
「分かったぜ」
暫くの間俺達は何事も無く進んでいると、ようやく森に入るらしい。馬車の中に居ながらも外の気配を捉えるのは出来るから、外の護衛に任せながらも警戒しておく。近くに居るのは、小動物に鳥に・・・・なんだこいつ。小さな体だが気配の消し方が上手く魔力を持った魔物がこっちを見ている。
「ブレスト」
「あぁなんか見てる魔物が居るな」
「敵意は無いみたいだけど、気配を消すの上手いな」
「森に入った瞬間感じるなんて、本当に魔物が多いんだな」
「護衛は居るが油断すんなよ。インセクト系統もこの森に居るんだからな」
「うげ」
インセクトは総じて生き物の気配が薄いんだよな・・・・普通の生き物と違って口で呼吸しないから息を感じられないし、体温も低いんだよ。そのせいで森の気配に紛れて、分かりにくいんだ。それなのに、インセクト系統は恐れられる程強くて腕を斬っても足を斬っても痛みを感じない。クソしぶといのに体は堅いし、鋏や鎌は鋭いしで嫌いなんだよな。食べる肉も無いしよ。
「対処法ちゃんと覚えてるよな?」
「頭を切り落としても油断しないこと。しっかりと動かなくなるまで確認すること」
「その通り。あいつらはしぶといから素材の事を気にしないなら燃やしちまうのも手なんだが」
「森で火は不味いだろ」
「だからクロガネなら雷を使うと良いぞ」
インセクト系統は頭を切り落としたぐらいじゃすぐに体は止まらない。だから、確実に殺すなら燃やしちまうか雷で黒焦げにするのが一番なんだけど、インセクト系統の素材って結構高く売れるんだよな~・・・・流石に命か素材かと言われれば命を取るけど、勿体無いよな。
「そこらの奴は護衛達が何とかしてくれるだろうから、クロガネはインセクト系統に気を張っておけ」
「分かった」
意識を集中させ、インセクト系統の気配を感じ取ることに専念する。小さな動物や魔物は無視して、気配が薄く呼吸をしてない奴らは・・・・木の上に居る奴はこっちに来る様子無いな。風を切る音・・・・これはマンティスだな。戦ってる場所は遠いし人間相手でもない。こっちに向かってくるのは・・・・ウルフだな
「フォレストウルフだ!」
「右前方、数は三体」
「馬車を止めろ」
「乗客の皆さんは外に出ないでください!」
お、すぐに気づいたな。流石優秀って言われるだけあるな。乗客達は襲われたことに動揺するどころか、自分達も戦いたいと目をギラつかせているけど護衛たちの言う事には素直に従っている。俺はブレストに近寄り耳元で
「確かに外の護衛達優秀だな。誰一人取り乱してないし、敵の発見から陣形を整えるのも早いし全員がしっかりとした実力を持ってるから安定してるな。もう、三体も倒してるし」
「この感じだと俺達の出番は無さそうだな」
何かあれば俺達も直ぐに戦闘に参加できるようにしていたけど、これなら道中よっぽどの事が無い限りは大丈夫だろ。
「ふふん、坊主怖がらなくても俺達が居るから大丈夫だぜ」
「もしこっちに来ても俺達がちょちょいのちょいだからな」
「え、あ、うん」
ブレストの傍に近寄ったから怖がってると思われたみたいだな・・・・俺に優しくするなんて良い人なんだろうけど、なんか勘違いさせるのは少し申し訳ないような面白いような・・・・
前まで居た町の人なんて、俺が話しかけたら舌打ちをしてどっか行けって言われたし、食べ物を売ってるオッチャンには殴られそうになったんだけどああいう反応が普通で馬車で会う人は良い人が多いな。ちなみに話し掛けて殴ろうとしてきた奴は全員転ばせておいたけどな。
「ウルフの討伐終了。後始末をしたらすぐに出発する」
お、そんな事を考えてるうちにウルフの討伐は終わったみたいだな。いくら先を急いでたとしても、死体はしっかりと焼いておかないと血に引き寄せられて他の動物や魔獣を呼び寄せてしまうから後処理は欠かせないんだよな。
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