クロスボウの練習
邪魔者を追い返した後俺達は道をある程度の速さで走っている。道は軽くならしてあるので走りやすいし、遭遇する動物も敵対的な者は殆ど居ない。右は平原だから見通しは良いけど、左は森だから少し警戒しながら走らないとな。
「ん~思ったより魔物が少ないな」
「一応人が多く通る道だからな、魔物達がある程度排除されているんだろ」
「楽なのは良いけど、もう少し刺激というか・・・・」
「じゃあ、縛りでもするか。クロガネ、これから先の戦闘はクロスボウのみな」
「え、何で?」
「さっきフォレストスネークを倒した時に明らかに過剰な威力だっただろ。油断せず確実に倒すのは良い事だが、過剰すぎるのも考え物だし魔力の消費も馬鹿にならないだろ」
「魔力は沢山あるし・・・・」
「それでもだ。ほら次が来たぞ」
う~確かに最近クロスボウの矢の制御を少し疎かになってるとは思う。貫通できれば良いから体表が硬くないような相手にも、威力が高い矢を放ってしまっている。ブレストが指さした先から、ブラウンベアが現れたので俺は言われた通り威力を落として額を矢で貫いた。
「まだ強すぎだな」
「う~ん」
「相手に合わせて威力を調節できるようになれば、自然と相手の硬さや強さについても分かるようになるから練習あるのみだぜ。それに、威力を子細に操れるようになれば相手を殺さずに無効化することだって出来るようになるんだ」
「うん、頑張る」
このクロスボウは、威力や効果を自重自在に変更できる代わりに細かな魔力の操作と魔法の制御が必要になる。ナイフや体を使う時は体の一部を使っている感覚だから細かな調整が出来るが、このクロスボウは少し複雑なのだ。使いたい魔力を籠めて魔法の効果を決めて、矢の大きさや速さ威力そして軌道それを全て一瞬で決めないとならないので、ちょっと難しい・・・・だけど、使いこなしたいから練習を頑張らないとね。
「相手の硬さや魔力や物理への耐性は、大体がそいつが纏っている外皮と魔力によって決められるんだ。だから、相手をよく観察して相手が毛皮なのか鱗なのか毛皮の下は筋肉質なのか、骨が守っていない場所は何処なのか。そして相手の魔力はどれくらいなのかを観察して見分けるんだ。この見分ける力は、実戦を積んで身につけるしかないから経験を積んでいくぞ」
「おっす」
確実に止めを刺すなら頭や心臓を狙うのが一番だが、そういった場所は骨などで守られている。だから、しっかり骨のことも計算に入れて威力を調節して丁度良く貫通できるように・・・・こうっ
「あ」
「貫通しなかったな」
「うぐ・・・・」
森の奥でこっちを静かに狙っていたコボルトの頭を撃ったが、頭を貫通しきる事が出来ず額に溝を作ってしまった。
「普通の矢なら刺されば十分なんだが、クロガネのは自由に威力が変えられるんだから貫通出来て合格ってとこだな。でも一発で確実に急所を当てられるようになったのは成長したな」
「うん!」
最初の頃と比べれば命中率はかなり上がったと思う。最初にこのクロスボウを撃った時なんて、威力の調整が難しくて間違って大量に魔力を籠めて撃ってしまって危うく森林大破壊しそうになったのをブレストが盾で防いでくれて事なきを得たんだよな・・・・あれは本当に危なかった。その後ある程度の調整が出来るようになってから、ブレストが魔法剣で作った的を用意してくれて撃ってみたけどこれが難しい。投げナイフとかは使ったことがあるけど、弓とかのしっかりとした遠距離武器を使った事が無いから狙いを定めるのが甘い。三日掛けてようやくまともに当てられるようになったんだよな。
「俺も遠距離武器とか使ってみたいな~」
「魔法剣を作る魔法で弓とか作れないの?」
「作れるぞ」
「じゃあ、使えば良いじゃん」
「クロガネ、想像してみろ。俺が弓を構えて引いて魔物を倒すとする」
「うん」
「普段の俺の戦い方を知ってる奴がその場面を見たとしたらどう思う?」
「・・・・普通に魔法剣を飛ばした方が早くない?」
「そうなっちまうんだよな~」
確かに、想像してみたけどわざわざ弓を引いて撃つなら魔法剣を飛ばした方が何倍も速いし、ブレストなら遠く離れた場所に突然魔法剣を出現させることが出来るんだからわざわざ飛ばす意味ってあるのか?矢の形なら剣より速いだろうけど、それなら槍の形で飛ばした方が良いし・・・・うん、弓必要ないな。
「俺が遠距離武器を使うよりも魔法を使った方が合理的だろ?だから、今まで弓とか使った事が無いし使わないんだよ」
「なるほどな~」
使えない訳じゃ無いけど、それよりも良い方法を持ってるから使わないのか
「でも、ロマンはあるんだよな~超遠距離から一撃で敵を仕留めるって格好良いだろ」
「確かに」
「今度時間が有ったら新しく魔法を作ってみるか。そうだな~弓も良いけど超電磁砲とか形も格好良いよな。いや、王道のスナイパーライフルってのは流石にやりすぎか?超ドデカい大砲をぶちかますってのもロマンあるな・・・・」
あ、ブレストがまたよく分からない言葉喋ってる。偶にこういう時が有るんだよな~まぁいつものことだから放っておいて、そんな気軽に魔法を作れるなんて凄いな。魔法を新しく作り出すには途轍もない時間と知識が必要だって聞いたことあるけど、ブレストくらい強い人なら簡単に作れるのかな?それとも、特別な魔法を持っているから?あれ、そういえば俺が普段使ってる魔法も俺が作ってるようなものだしこれが普通なのかな。アルカナに着いたら聞いてみよっと。
「ん?前に人影が見える」
「お、本当だ。見た目からして冒険者ぽいな」
「どうする?」
「向かってる方向は同じだから、さっきの町で馬車が無いと聞いた冒険者が移動してるだけだろ。こういうのは良くあるし、気にしなくて良いだろ」
「了解」
遥か先に冒険者の姿が見えた俺達は気にすることなく走っていると、遥か先に居る冒険者達の様子が少し変だ。
「襲われてる!」
「あぁこの気配は魔物だな。しかもこの気配は」
「アーマーブルか・・・・」
「念のために援護できる距離まで近づくぞ」
「おう」
冒険者同士には別に助ける義務は無いが、目の前で殺されたんじゃ夢見が悪いしアーマーブル程度なら俺達が危険になる事も無いだろ。もしもを考えて俺達は走る足を速め近づいていくと、平原の奥から土煙と大量の気配が近付いてきている。
「これ・・・・」
「あぁ、アーマーブルの群れだ」
「群れを刺激したのか?」
「そんな感じは無かったが、アーマーブルの大移動に運悪く遭遇したみたいだな」
「不味いだろそれ。あの人達じゃ対処できないだろ!!」
アーマーブルは平原に住む動物であり、もっと外れた場所で生活しているが餌となる植物が無くなると次の場所へと群れで移動する。そして厄介なことに動く物を攻撃する習性を持つ彼らは群れの一体でも何か反応すれば、同調するように群れ全体も反応してしまうのだ。数十頭にもなる彼らが通った道に生き物は残らない。平原の蹂躙者、それがアーマーブルだ。もしかしたら、前に居る冒険者達は対処出来るかもしれないが、それは望み薄だな。
「ブレストこっちに注意を向かせられないか!?」
「無理だな。もう近い方に反応しちまってる」
「クソ!」
俺達は力強く地面を蹴り出し全力の速さで冒険者達に近付き、大声で叫ぶ
「対処が無理なら森へ逃げろ!!!!」
「木に登るんだ!!!!」
自分達に向かってくる大量の群れに青ざめ恐怖で顔を歪ませていた冒険者達に俺達の声が届いたようで弾かれたように、一斉に森へと逃げだした。逃げたという事は、対処できない。つまりは俺達が介入しても大丈夫だ。あの群れに相手には少ししか防壁になってくれないだろうけど、少しは侵入を木が防いでくれるはず。
「クロガネ!」
「おう!」
走りながら俺はクロスボウを前に構え、アーマーブルを貫通できるように威力と速度を高めた矢を連射していく。連射しているから、頭をしっかりと狙えてないが、こんなに多けりゃ撃てば当たる!
「来るぞ!正面は俺が受け持つからクロガネは空から撃ち下せ!
「了解!」
ブレストは冒険者達が逃げ込んだ場所を守るかのように、群れの正面に立ちふさがると手を前に出し広範囲の盾を展開した。相当な硬さを誇る盾にアーマーブルは次々と爆速で突っ込み轟音を立てているが両者ともダメージが無い。
「石頭かよこいつら!」
俺は風の足場を空中に作り出し、地面が見えない程の黒い群れを上からクロスボウで頭を撃ちぬいていく。アーマーボアには、突進以外に攻撃手段が無いからあいつらからは俺に攻撃できず一方的倒せる。クロスボウを連射し次々と倒していくと、群れの中に居るなんて事の無い普通の一体と目が合った気がした。そして、俺の直感が危ないと叫んでいる。
「っ!!」
ドゴンッ
目が合ったアーマーボアの角から突如天を貫く雷霆が放たれた。危険を感じた俺は間一髪避けれたが、風の足場から足を滑らせ落下する。
「クロガネ!」
「大丈夫!!」
俺はすぐに新しい足場を作り出し元の高さまで駆け上がると、まだあのアーマーボアが俺を見ている。
「あれが、変異体か・・・・」
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