新たな調査依頼
暫くの間俺達二人は王都を観光しながらも依頼をこなし、段々王都にも慣れてきたなと思いながらいつも通り朝早くにギルドへ行くと、受付嬢さんからギルドが俺達へ指名依頼をしたいとのことで俺達は受付嬢さんの案内でギルド長の部屋へ来ていた。
「突然の依頼でごめんなさいね」
「いや、大丈夫ですが俺達に指名依頼をしたいとはどういうことでしょうか」
「少し前のディグリングリザードの件を覚えてるかしら?」
「えぇ勿論」
「あの後私達ギルドであんなに大きなディグリングリザードが何処から来たのかを調査するために、ディグリングリザードが掘った穴を辿ってみたのよ。そしたら、ちょっとギルドじゃ手を出せない場所に辿り着いちゃったのよ」
あ~ディグリングリザードの件なのか。確かにあの穴だったら人が数人入っても大丈夫なくらい大きかったけど、いつ崩れても可笑しくない穴に入るなんて凄いな。
「ギルドが手を出せない場所となると・・・・紫霧の森ですか」
「正解よ」
「はぁ・・・・」
紫霧の森って確かメジュル鉱山の前にあるあの森のことだよな。それって確か錬金の魔女の領域だったはずじゃ・・・・
「そんな厄介な依頼なら二級である悠久の誓いに頼んでみた方が良いんじゃないですか?」
「彼女達には依頼出来ない事ぐらい分かっているでしょう?それに、彼女達は今護衛依頼で王都に居ないのよ」
「他の三級は・・・・」
「無理です。この国に居る人達た錬金の魔女様の恐ろしさを知っているから誰一人として受けようとしてくれません。他国から来た人でも魔女と関わるのは御免だと断られてしまいました。仕方ない事だけどね」
「それで俺にですか」
「えぇクロガネ君は魔女に対してそんなに恐怖を持ってないみたいだし、ブレスト君は魔女に対して全くと言って良いほど畏怖の念を抱いていないでしょ?」
俺は魔女の怖さを見た訳でも話に聞いたことも無いから恐くないし、どちらかと言うと王都を救った話を聞いて尊敬してるくらいだ。ブレストも魔女の話をするときは何処か気楽な感じがしてたな。
「そうですけど・・・・はぁ、報酬期待してますからね」
「えぇ勿論、こんな依頼ですもの報酬は弾むわ」
「クロガネも依頼を受けるか?嫌なら俺一人で行くから大丈夫だぞ」
「俺も行く!魔女に会ってみたいし!」
「あらあら」
「そうか、じゃあ一緒に行くか」
「請けてくれてありがとうございます。貴方達の冒険に祝福があらんことを」
俺達はギルドを出て急遽錬金の魔女が住む領域へと行くことになってしまった。どんな時でも対応できるように冒険に必要な道具は全て持ち歩いてるけど、何か特別に必要な物とかあるのかな?
「何か準備した方が良い事とかある?」
「いや、いつも通りで大丈夫だ。ただ魔物達の強さは他とは比較にならないだろうから気を付けろよ」
「は~い。あ、そうだ。さっき気になったことがあるんだけど聞いても良い?」
「お、良いぞ。何でも聞いてくれ」
「何でギルドが魔女の領域に手を出せないんだ?確か冒険者ギルドって、国家に縛られな自由組織だろ?だから、国を跨いで活動が出来るし多くの場所にギルドがあるんだろ?」
ギルドは何にも縛られない組織だから、殆どの場所で活動が出来るはずだ。それが例え魔女の領域だとしても。
「それはな、ギルドは確かに自由組織だがあくまで国家の許可を貰って、拠点と活動の場を提供されてるから国によって指定されている立ち入り禁止区域には入れないんだ」
「それって国に縛られてるってことか?」
「まぁ一部縛られてはいるな。冒険者ギルドは国家間の戦争や国の政略などには決して加担せず国も強制できないけど、活動範囲に関しては少し規制されてしまうんだ」
へ~冒険者ギルドって完全な自由って訳じゃないのか。まぁ確かに国の聖域とか禁忌の地に冒険者達が自由に出入りされたら困るもんな。
「じゃあ、魔女の領域は禁忌にされてるの?」
「実はそういう訳じゃ無いんだよな~」
「???」
「ここら辺は少し複雑なんだ。冒険者ギルドという組織はあくまで国と協力関係で成り立っているから、もし冒険者ギルドが魔女を怒らせてしまった場合そのギルドがある国にも被害が行くかもしれないだろ?」
「そうだね、連帯責任ってことで」
「ギルドは国に対して大きな損害を与えるような行為は出来ないんだ。だが冒険者ギルドという組織としては動けないけど、ギルドはあくまで冒険者のサポート組織だから冒険者が何かしでかした場合処分は行うけど責任は問われないんだ。だから、冒険者が魔女の領域に入る分には何の問題も無いんだ」
「うわ~めんどくさ」
つまりは、冒険者個人で仕出かしたことだからギルドも国も関係ありませんよって言い張れるってことか。てことは、俺達良いように使われてないか?
「俺達利用されてる?」
「まぁ今回の件みたいなのは特殊だから仕方が無いが、こんな風に使われる事なんて滅多に無いから気にすんな。ギルドとしてもこういう依頼は信用問題になるから出したく無いだろうし、その代わり報酬は弾んでくれるぞ」
「なんだかな~じゃあ悠久の誓いに依頼を出せないってのはなんでだ?」
冒険者達が何をしても責任を問われないなら二級冒険者であるイリスさん達が行った方が適任だと思うんだけど。
「それはな~冒険者が国の所属になる事もあるって言ったのを覚えてるか?」
「冒険者の身分だけど、国から直接依頼を受けたり出来るようになるんだよな」
「その通り、国の所属になると国を出れなかったりと制限を受けるんだが地位と多額の報酬を手に入れられるんだ」
何か優れた功績を残した冒険者は偶に国からスカウトが来るらしい。待遇は良いらしいけど自由を捨てるなんて考えられないな~
「その話をするってことは悠久の誓いは国に所属してるのか」
「その通り」
「じゃあ確かに無理だな」
国に所属している冒険者なら国の救世主であり、恐怖の対象である錬金の魔女に近付けないし、もし問題が起きた場合は国の問題になる可能性があるもんな。
「だから俺達に依頼が来た訳さ」
「なんか複雑な気持ちだぜ」
「まぁ細かいことは気にせずさっさと終わらせて報酬をがっぽり貰おうぜ」
「そうだな~」
確かに俺達が色々な事を考えたとしても今この状況が変わる訳じゃないし、別に不利益を被ってる訳じゃないから気にせずさっさと調査を終わらせよう。通りで朝飯を買って食べながら、紫霧の森へと向かうための門へと行くと門番をしていた衛兵は渋い顔をされたが問題なく通ることは出来た。
「魔女の領域に入るのは本当にみんな嫌なんだな。話を聞いてる限りは善い人そうだと思うんだけどな~」
「魔女は善い悪いで判断できるような存在じゃないのさ。独自の視点で生きてるから、人によっては恐怖の対象になったり信仰の対象になったりする」
「へ~何か周りの人達が面倒そうだな」
「まぁ魔女よりその取り巻きが面倒なことは確かにあると思うぜ。そんなこと魔女本人は気にしてないだろうけどな」
雑談をしながら紫霧の森の目の前に来たのは良いけど・・・・この森見てるだけで疲れる。木や草達が二重に見えたり、何も無かった場所にいきなり大きな花が現れたりとまるで幻覚でも見てる気分だ。
「目が疲れる~・・・」
「霧が深いな。少し面倒だ」
「霧より景色が気持ち悪いだろ」
「?普通の木だろ?」
「なんか顔が付いた木が沢山あるし、うねうねした花とかもあるじゃん」
「ん・・・・?」
うわ、変な木と目が合ったし絶対今笑ったよな。明らかな変な植物があるのに、偶に普通の木に姿を変えたりと見てるだけで視界が揺らいで見えるぜ。ブレストはんで平気なんだ?
「クロガネ、道は見えるか?」
「いや見えない」
「そうか・・・・取りあえず先に進もう」
取りあえず森の中へと入った俺達。変な植物達はニヤニヤと笑いながら俺達を見ているけど、襲い掛かってくるつもりは無いようだ。木に止まっている宝石のような鳥達も監視するような目で見ているが、害は無さそう。
「はぁ魔力が濃いな」
「気配と魔力が濃すぎて探るのも一苦労だぜ」
「魔物が襲ってこないだけマシだな」
何が出るか分からないので、慎重に気配を探りながら進んでいるがただ魔力が濃いだけで危険は無さそうだ。魔女が遣わせた魔物と戦うかもしれないと思ってたけど、拍子抜けだな。
「この霧だと、調査するのも大変だな~見た感じ魔物は見つからないしメジュル鉱山まで行かないと駄目かもな」
「さっさとこの森抜けようぜ」
まだ入ってから少ししか経っていないというにこの森が嫌になってしまった。さっさと進もうと一歩踏み出したその瞬間
「ほう、懐かしい気配ね」
「「!?」」
後ろから深い女性の声がして振り返ると、俺達は深い霧に飲まれてしまった。
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