視界の暴力
流石は植物と森の国フォレシアなだけあって珍しく高価な植物からそこらによくある植物まで幅が広いものが自生している。俺達は金になる植物を採取しながら、錬金魔法に使えそうなものを見つけながら森を進んで行く。
「流石植物の国なだけあって、知らない植物が沢山だな」
「だな~高値で売れる奴も沢山あるしスターリアで冒険者をやるなら金には困らなそうだ」
「確かにそうだろうが、その稼ぐための前提条件が厳しいだろ」
「・・・・確かに」
スターリアから冒険者を始めるには周囲の魔物が強すぎるから最低でも三級程度の実力を初めから持っていないと死んでしまうだろうし、まず森に入る為には森に漂う幻惑をすべて無効化出来るようにならないといけない。そんな条件を簡単に満たせる訳が無い。それにそんな条件を満たせるやつなら他の場所でもっと簡単に稼げるはずだ。しかもスターリアって俺は好きだけど町としては、活気に満ちているというよりは和やかな雰囲気に満ちていて稼ぎたくやる気に満ちている冒険者にとっては物足りなさそうだな。
「まぁでもある程度の実力があって冒険者を引退しようと考えてる奴には良い場所かもしれないな」
「確かに、ゆっくり過ごすなら最適な場所だな」
この町なら物価が安いし適度に依頼をこなしていれば金に困る事は無い。現役を引退して田舎に引っ込んでしまう冒険者もよく居るし、この町なら喧騒から離れて良き余生を送れそうだ。
「逆に冒険者になるのに向いている町ってあるものなのか?」
「う~ん、そうだな~冒険者を育てる為の好条件は俺的には幅広い魔物が居る環境と六級でも戦えるような動物がいる事、それと採取の経験を積める森や平原があることに多種多様な冒険者が居て活気が有る場所だな。だから、プリトとかは良い場所だと思うぜ」
「あ~確かに。あの森は沢山魔物と動物が居るし採取も出来るもんな」
「それにダンジョン攻略の経験も積めるなんて中々無いぜ。逆に平和で安全過ぎる場所ってのは問題だな」
「だな~あれは勘が鈍る」
脅威や危険が無い環境ってのは素晴らしいと思うけど結局冒険者は殺し合いの世界だ。平和な環境に慣れ過ぎてしまうと野生の勘を研ぎ澄ませることが出来ず、死や脅威に対する勘や戦いの読み合いが鈍っちまう。それに自分より格下の相手とずっと戦っていたらそれ以上の成長は起きないものだ。
「ある程度の危険を感じてそれを対処する力を持たないとこの仕事は続けられないからな。こんな感じでなっ」
そう言って茂みから飛び出てきたボーパルバニーの首を跳ね飛ばす。
「ウサギ肉GET」
「そいつ可愛いのに凶暴だよな」
白くフワフワの毛皮に包まれ長く細い耳に赤いつぶらな瞳にチョコンとした可愛い口、それだけを見れば可愛いけどその手に持った赤い血で染められたナイフとのギャップが凄い。ボーパルバニー別名首狩りウサギ、自分で食う訳でも無く自身の腕前を上げる為にだけに獲物の首を斬り落とす残忍な魔物だ。
「俺も最初はこの見た目に騙されたもんだ」
「初めてそいつと出会った時思わず真顔になったもん」
ボーパルバニーはプリトの近くの森にも生息していて初めて見た時はゴブリンに襲われているのかと思って助けようとしたら、あっと言う間にゴブリンの頭を斬り下ろしてその綺麗な毛皮に返り血を浴びながら笑い俺を襲ってきた時は思わず真顔になって殺しちまった。あれはもう狂気の沙汰と思えるほどだったな~
「見た目に捕らわれると痛い目に遭うを体現した魔物だよなこいつは」
その凶暴性が無ければ貴族とかの愛玩動物になってそうな程可愛いんだけどな~勿体ない。
「冒険者は常識に囚われないのも大事だったりするよな」
「だな」
俺達は冒険者についての雑談をしながらも森の奥へと進んで行く。結構な距離走ったと思うけど未だに火の魔力が強い大地は見つからない。う~ん、こっち側には無いのかな?
「結構進んだと思うんだが見つからないな~」
「クロガネ、上に投げてやるから空から見てこい」
「俺に死ねと?」
「冗談だ」
木々に視界を遮られ遠くを見通せないなら、高所から周囲を見渡せば目的の場所を見つけられそうだけど空には翼や羽を持った魔物がわんさか居る。いくら風の足場があるとしても、俺は自由に飛べる訳じゃ無いから空中戦は分が悪い。
「仕方が無い。俺が代わりに見てくるよ」
「え、ブレストって飛べたのか。いや飛べても可笑しく無いけどさ」
ブレストなら飛べて不思議じゃ無い。俺はどんな魔法を使うのか楽しみで期待して見ているとブレストは魔法剣を作って空へと打ち上げた。そしてブレストは目を瞑ると
「ん~・・・・あっちか」
「???なにやってんだ?」
「ん?魔法剣と視覚を共有してるんだ」
「は?剣に目なんて無いだろ」
「おう、普通はな。だけど俺のは魔法で作られたものだから剣に視覚を作り出して周囲の状況を確認できるんだ」
「へ~便利だな。何でそれを先に使わなかったんだよ」
「単純に好きじゃないんだよ。視界が増えるから目を閉じないと使えないし、目を開いたまま使うとクソ気持ち悪くなるんだよ」
そう言ってブレストは魔法剣を消すと目を開いた。
「気持ち悪くなるってどういう事?」
「ん~説明が難しいんだが簡潔に言うと目はこっちを向いているのにもう一つの目の所為で違う景色が見えて処理が追い付かないみたいな感じで酔うんだよ」
「ん~~?」
「体験してみるのが早いか」
そう言ってブレストは魔法剣を作り出すと俺に持たせる。
「うわっ視界が増えた!」
「自由に剣を動かせるようにしてあるから好きに動かしてみな」
いつも見ている景色にもう一つ景色が追加されてるような感覚で視野が広がって便利だと思ったけど、魔法剣を動かした瞬間その考えは全て塗り替えられた。
「気持ち悪っ!!!!!!!!」
「だろ?」
独立した視界が頭の中を駆けまわりまるで自分が浮いてるかのような錯覚に陥ってしまうが体はしっかりと地面に足を付け前を見ている。もう一つに視界は俺の周囲を全て映し出しその映像を俺の頭に叩きつけ、俺の感覚をごちゃごちゃにし腕一つ動かそうとするだけで見えている光景と実際に動かしている手の感覚との違いが酷い。自分を俯瞰の視点で見ながら、普通の目で見るのってこんなに気持ち悪いのかよ・・・・
「これ消して・・・・」
「おう」
口元を抑えながら言うとブレストは素直に消してくれたが気持ち悪さが消えず思わず座り込んでしまう。
「確かにこれは気持ち悪い・・・・」
「空間認識とは違った感じだよな~俺も魔法剣を自由に動かすために魔力で周囲を把握してるけど、これは何て言うんだろう感覚じゃなくて視界の暴力で殴ってくるのが悪い感じがする」
「俺も矢を動かすときに周囲を把握してるけど、実際に見えている訳じゃ無くて感覚で把握してるからな~これは無理だわ」
「これを使いこなすのは特別な才能と特別な処理能力が必要になるんだろうな。俺には無理だけど」
うん、俺も同意見。増えて独立している視界に移る自分の動きと相手の距離などを正確かつ適切に処理できる能力を持った人間にしか扱えない代物だなそれ。気持ち悪さを払拭するために俺はミントを取り出し噛みしめるとスーっとした感覚が体に広がり気持ち悪さが和らいでいく。
「それ二度と俺に使わせないで」
「随分嫌われたな~まぁ俺も嫌だけど」
あんな感覚は二度と味わいたくない。気持ち悪さがだいぶ落ち着いてきたので俺は立ち上がるとブレストが見つけてくれた場所へと向かった。
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#悪ガキと転生冒険者