脅威は魔物だけじゃない
声を掛けられ振り返ると広場の木影に腰を下ろし空を見上げている犬獣人の僧侶が居た。二回も声を掛けられるなんて何かあるとしか思えないけど、一応返事は返しておくか。
「こんばんは、今日も見張りですか?」
「そうですよ」
小指と目が動いた嘘だな。俺がテントを出て行く時はこの人は寝ていたし、今もあの大きな虎獣人がテントの中で周囲を警戒している。二人で夜番をするのは可笑しく無いけど、ずっと一人だったのにいきなり二人になる訳が無い。何で嘘を付くんだ?
「お疲れ様です」
「いえいえ、君はまた夜の散歩ですか?」
「そんな所です」
この人から悪意は感じられない。だけど、嘘を付いたのは紛れも無い事実だし少し話して真意を探った方が良さそうだ。
「そちらは護衛依頼で居るんですよね。どれくらい町に居るんですか?」
「もう10日は居ますね」
「そう言った護衛依頼って受けたことが無いんですけど、それぐらいの日数って普通なんですか?」
同じ冒険者同士なら依頼や魔物の話をしても不自然じゃ無い筈だ。
「そうですね~商談がどれくらいで纏まるかによりますけど10日前後は掛かったりしますね」
「そうなんですね」
「私達が経験した中で一番長かったのは三ヶ月ですね。あるお貴族様の護衛をしたんですが対談がこじれてしまった大変だったんですよ」
「へ~お貴族様相手ですか・・・・俺には縁がない話ですね」
高位の冒険者になれば貴族からの依頼も増えるけど、俺はこの見た目だしどれだけ階級が高くなったとしても貴族の依頼を受ける機会は殆ど無いだろうな。
「そうとも限らないですよ」
「まぁ物好きな人が居れば別ですけどね」
シュナイザー様とかな
「そう言うお二人は何故このフォレシアに来たんですか?こう言っては何ですが、あまり好ましい土地では無い筈です」
「俺達は自由気ままに旅をする事になっているんですけど、今回はアルカナを目的地としているのでその道中で寄った感じですね」
「アルカナにですか・・・・もっと楽な道のりがあると思うのですが」
「フォレシアがなんか面白そうだったので」
俺は旅をするのが初めてだから何でも初めてで新鮮だけど、出来るだけ面白そうな場所に行きたい。だからブレストも行ったことがないフォレシアを選んだんだよな。
「ふふ、凄い理由ですね。普通なら安全度で選ぶものですが」
「安全も重視してますよ。だけど面白さの優先度が高いだけです」
ブレストと一緒に居る限りは殆どの魔物は脅威にならないし安全だ。俺も逃げるだけなら三級複数を相手出来るし、自分達の実力で解決できない場所には行くつもりは無いぞ。
「不思議な関係ですね。と言う事はこのスターリアには長く滞在するつもりは無いんですか?」
「いや、面白そうな町には一ヶ月は滞在するようにしているんで、それぐらいは居ると思いますよ」
フォレシアの最初の町というだけあって知らない事や面白い物が沢山あるし、この特殊な環境に慣れる為にも暫くの間はこの町に滞在するつもりだぜ。
「そうなんですか、私達は依頼主の商談が終わるまでですがそれまで同じ広場を使う者としてよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
そう言って頭を下げてきたので俺も返す。そして俺達は別れテントへと戻るとブレストは横になり目を瞑っていたが起きていた。
「ただいま」
「おかえり」
俺は帰ったことを知らせそのまま隣の寝袋に入るとブレストは目を閉じたまま
「前もあの獣人が話しかけて来てたな」
「おう、なんか声掛けられるんだよな~敵意や悪意は無いみたいだけど」
「探ってみたのか?」
「うん、嘘を付かれたから探ってみたけど俺達の事が気になっているみたい」
さり気なく態度に出さないよう空を見続けながら会話をしていたけど、指や足に出る些細な挙動は誤魔化せない。それにふと向けた視線が俺のことを探るような目だった。
「そうか、俺も悪意とかは感じないが何があるか分からない。念の為に気を付けておけよ」
「うん」
冒険者になる人は冒険や旅、魔物と戦う事を夢見た人から表立った仕事に就けないやつ、犯罪の隠れ蓑に利用する奴など様々だ。良い人に見える高位の冒険者だってその裏じゃ何をやっているか分からないし、その本性は本人以外分からないものだ。だから、いくら同職だからと言って信用するの良くない。悪意は感じないが念の為に警戒することを話し合った俺達は、そのまま眠りへ落ちて行った。
次の日の朝、昨日と同じように目覚め錬金魔法の練習をしている間にブレストは朝食の準備を進めていく。どうやら今日のメニューは収納に入っていた肉串とサラダみたいだな。生の野菜なんて食えたもんじゃないとか言う奴らは結構いるけどブレストが用意してくるものは、瑞々しくて美味しいんだよな。
「ほら、朝飯出来たぞ~」
「おう」
貰った串を食べながら片手で錬金魔法を使っていると、ブレストは目を細めながら
「クロガネ、行儀が悪いぞ」
「ちょっと持ってあと少しで出来るから」
「駄目だ。食べるか魔法を使うかどちらかにしなさい」
「は~い」
もう少しで構築出来たのに~俺は魔法を止めしっかりと座り飯を食べることにした。
「飯を食べる時は何か他の事をしないのがマナーだ。飯は俺達に必要な物で日常的な行動だが、それに対する感謝を忘れちゃ駄目だ。分かったな?」
「うん、ごめんなさい」
「それで良し、飯を食いながら何かをするのは良くないが楽しく話すのは良い事だ。何を作ろうとしてたんだ?」
「魔道具の部品」
「部品?そのものじゃなくてか?」
「高度な魔道具を作るには一つ一つ部品を作って組み立てるんだよ。例えばここは回転する構造、ここは魔力を放出する場所みたいな感じで」
「なるほど、機械みたいなもんか」
「機械?」
「いや、こっちの話だ」
棒手裏剣みたいな単純なものなら一度の錬成で出来るけど、結界や触った時だけ魔法を放出するみたいな魔道具は複数の部品を合わせて作っているのだ。俺は今その段階の魔道具を作る練習をしているんだけどこれが難しいんだよな~複数の部品と複数の魔法を使って一つの魔法を発動させるからズレがあっちゃ駄目だし互いに変な干渉をしないよう気を付けないといけないのだ。
「錬金魔法の練習は順調なのか?」
「この段階で躓いてるかな~」
「役に立てるか分からないけど、何かあったら聞いてくれ」
「そうする~」
ブレストの知識は俺の想像を超えるからいつも頼りにしてるぜ。俺達は朝食を摂りながら雑談と今日の予定を話していると、他のテントの冒険者達も起き出した。そして感じる一つの視線。
「ブレスト」
「あぁだな」
その視線にブレストも気付いたようだが悟られないよう何でもない様相を振舞っている。何をそんなに俺達の事が気になっているんだ?視線を感じながらも俺達は朝食を摂り終わりギルドへと向かった。
「やっぱり見てるよな~」
「でも視線が一つだけなのが気になるな。俺達を狙うのであればパーティー全員で掛かるもんなんだがよりによって僧侶か」
「あの豹の獣人さんの方がそう言う監視系向いているだろうに何でだろうな」
「個人的に何かあるのかもな」
「俺は覚えが無いな~獣人は体格と身体能力それに嗅覚が良くてスリをしたらすぐバレちまうし報復が怖い」
スリをやってた時に獣人は狙ってないから俺は覚えがない。ガキを誘拐する奴らの中にもあんな人は見たことが無いし、あんなに見られる理由が無い。
「俺は旅をしていたから多くの人と会った事があるけどあの人とは初対面だしな~知り合いから俺のことを聞いたって可能性もあるけど」
「それか俺の見た目かな」
「いや、獣人達は黒に対しての差別意識は人種は強いが獣人はそこまでだったはずだ。それに嫌悪感を感じなかっただろ?」
「う~ん、そうなんだよな~マジで分からないな」
あんなに見られる理由が見当もつかない。直接何かしてくれば対処出来るんだが視線だけじゃどうにもならないな~
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#悪ガキと転生冒険者