不思議な草原
広場へと戻った頃には日が落ち町に居る植人達は寝静まっていた。広場で生活をしている冒険者達は夕方と言える時間だからまだ起きてはいるけど、俺達も明日に備えて早めに寝ないとな。
「夕飯はどうするか~昼を食べたのが遅いからな~」
「果物とかで良いんじゃね?あの後特に動いて無いから腹減って無いし」
「ん~そうするか」
遅めの昼飯を摂った俺達は腹が減って無いので果物で夕飯をすました今日使った防具や道具そして武器の点検をする。そして明日の準備が終わった俺達はそのまますぐに寝る事にした。二人共寝つきは良いし何時でも何処でも眠れるので、周囲で話し声がしたとしても直ぐに眠れたのだけど・・・・
「変な時間に起きちまった・・・」
必要な睡眠時間が短い俺は夕方から眠るのは流石に早過ぎたみたいで、空には星が輝き月が見える微妙な時間に起きてしまった。クソ疲れていれば寝る時間は増えるんだけど、今日は小手調べでそこまで動き回って戦っても無いからな~
「う~ん、この感じは二度寝出来ないやつだな」
目覚めた時に少しでも眠気が残っていれば二度寝が出来るんだが・・・・とんでもなくスッキリ目覚めちまったんだよな。回復具合から考えて住民が動き出す時間まで起きていても問題無いけど、それまで何して時間潰そうかな。本とか錬金魔法の練習でもしようかな?
う~ん、そうだ!少し体力を使えば眠れるかも。
体力を使うついでにまた夜の町の風景を見に行こうと何も言わずにテントを出ようとしたが前にこれをやって怒られたことを思い出した。このまま行ったら心配させちまうもんな・・・・ブレストに言っておかないと。すやすやと眠るブレストには悪いけど体を揺らし起きて貰う。
「んぅ?どうしたクロガネ怖い夢でも見たか?」
「・・・・違う。目が覚めちまったから少し町を散歩してくる」
「ん~そうか。明日に影響が出ないくらいで済ませて、いくら安全だとしても気を付けるんだぞ」
「は~い」
眠そうにしながらも事情を聞いたブレストは寝たまま許可してくれた。俺の返事を聞いたブレストはすぐに眠りへと落ちたのでまた起こさないようにゆっくり音を立てないようテントの外に出る。
「ふ~少し寒いけどこれくらいな平気だな」
今の俺の格好は普段使っている防具では無くゆっくりとする時に使っているゆったりとした服といつも着ているスパイダーの糸を使った肌着だ。肌着の部分は温かいけど顔に当たる風や手先それに首は少し寒い風にさらされてしまっているが、これから動くんだし体も温まるだろう。
「さて今日は何処に行こうかな~前と反対側に行ってみるか」
俺は準備運動を済ませると闇に包まれた町へと駆け出した。この町は森のように複雑だが本当の森に比べてしまえば、足場は多く危険も無いから走りやすいもんだ。少しの散歩と言いながらも楽しみながら家から家へと飛び移って進んで行くと視界の先に妙に明るい広場が見えた。
「ん?あそこだけ異様に明るいな。ライトチェリーの光じゃ無いみたいだし行ってみよっと」
俺はその光が見える場所を目指して町を走る。途中で大木の姿をした植人三人が道を塞ぐように並んで寝ていて大回りしたけどようやくその場所まで行くことが出来た。
「草原だ・・・・」
森の中に湖や川それに植物の密集地があるのは普通だけど、森の中に突然草原が現れるのは少し不自然だよな~まぁここは純粋な森では無いから可笑しくは無いんだけどな。急に木の家も高い植物も無くなったことに驚きながらその妙な草原に近付くと、光を放っている正体が分かった。
「へ~花が光ってたのか」
遠くから見えた光の正体は此処に生えている多様な花達だったのだ。一つ一つの花が発する光は淡く風で煽られたら消えてしまいそうな程仄かな光だけど、草原一面に咲き誇るほどの量の花達の光が合わさってあの異様な明るさを作り出していたのか。
「凄く綺麗だけどこの花の名前は知らないな~」
宝石のような見た目をしていたりスライムの様に半透明の花弁をしていたりと、不思議で特徴的な花達だけどどれも図鑑で見たことが無い植物だ。植物の姿をとっている植人でも無いみたいだし・・・・もしかしてフォレシア固有の植物なのかな?
「それにしても綺麗だな~」
月と星々の光が草原を神秘的な光で照らし、その光を受けながら自らの色に発光する景色はとても幻想的で物語で聞く妖精の花畑のようだ。風で揺らぐその姿は人々を誘い出すように魅力的で俺は草原の中にある小さな道を花を踏まないよう気を付けながら歩き始めた。
「こんばんは」
草原を少し進んでいると突然後ろから声を掛けられた。気配の探知を怠った訳では無い。背後を取られ普通ならすぐに反応すべきだがこの声と気配は知っている。
「こんばんは、スターリア様。こっちにも姿を現せるんですね」
「町の中ならどこでも姿を作ることは出来ますよ。それでこんな夜中にどうしたんですか?」
「目が覚めてしまったので町を散歩してたんです。そしたら明るい場所を見つけて来てみたら綺麗な場所だったんで眺めてたんです」
スターリア様はこの町の全てを把握しているからわざわざ俺に聞かなくても分かるはずだけど、聞かれたからには答えておかないとな。
「なるほど」
「スターリア様はなんでこの場所に?もしかして来ちゃ駄目な場所でしたか?」
「いえ、来てはいけない場所では無いのですがここに住んでいる隣人達が騒いでいたので様子を見に来たんです」
「それは・・・・俺が驚かせちゃいましたか?」
「いえ、驚いたというか興奮というか・・・・まぁ悪い事では無いので気にしないでください」
この草原の住人か~ただ花を育てている草原かと思ったけどここも誰かの住処だったのか。騒いでるって事は俺の探知では全く気配を感じられないけど、あっちからは俺が見えているってことだよな。スターリア様は大丈夫だと言ってたけど、もしかしたら俺がやってる行為は無断で家に上がるような失礼なことかもしれない。
「いやいや、住んでる場所に俺みたいなのが来たら嫌がるのは当然です。ゆっくり休んでいる時に来ちゃってすみません。もう来ないようにしますね」
俺は直ぐに謝り草原から出ようとすると花や茂みが不自然に動き突風が吹き思わず目を瞑ってしまう。暫くして風が治まり目を開けると俺の所に舞うように落ちてくる半透明な一枚の葉っぱ。手を伸ばすと自然に俺の手の上に乗った。
「これは?」
「住民達からのお詫びみたいです」
「え、何でお詫び?俺が謝らないとなのに」
「えっとですね。ここの住民達はクロガネ君が来てくれたことに喜んでいたんですよ。だけど、恥ずかしがり屋なので姿を見せず陰で見ていたんですけど、その騒ぎを聞き取って私が来てしまって楽しそうにしていたのを邪魔しちゃってごめんなさいというお詫びですね」
「喜んでたんですか?」
「はい、そうですよ。だから嫌じゃ無かったらまた来て欲しいそうです」
「そう言う事なら・・・・はい、また来ます。俺もお礼がしたいんですけど、何をあげたら良いですかね?」
「それでしたら少し魔力を草原に送ってあげてください」
「俺のですか?」
俺の魔力は闇の魔力で俺が制御していれば安全だし受け渡すことも出来るけど、危険が無い訳じゃ無いのにそんなので良いのか?
「はい、是非」
「それなら・・・・」
スターリアさんは笑いながら肯定したので俺は言われた通り風に乗せながら感謝の念を籠め魔力を草原へと送った。姿も気配も掴めないけど少し花が輝いた気がした。
「ありがとうございます。また是非遊びに来てあげてください」
「はい、そうします」
少しの散歩になるはずが思った以上に時間が掛かってしまいまた来ることを約束し名残惜しいが草原を後にした。俺の魔力が欲しいなんて変わってるよな~一体どんな人達なんだろう。姿の見えない住民達に対して想像を広げていると広場まで帰って来れた。
さて、良い散歩になったしさっさと寝ようかな。
「こんばんは、またお散歩ですか?」
今日は良く声を掛けられる夜だな。
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#悪ガキと転生冒険者