試験は合格!依頼は明日からだ
「はっはっはっギルド長さん、俺への意趣返しは出来ましたか?」
フレンスさんから文句を言われ、苦笑いをしていると満面の笑みで勝ち誇っているブレストが近付いてきて俺の頭を撫でながら揶揄うように言った。それを聞いたフレンスさんは目を吊り上げながら
「もう!貴方と言いその子と言い本当に可愛く無いわね!!!」
「そりゃどうも」
「ブレスト、意趣返しってどういう事だ?」
「このギルド長様は、さっき俺が遊ぶ暇もなく一瞬でテストをクリアしちまった事を根に持ってクロガネを使って俺を悔しがらせようとしたんだよ」
「え~・・・・」
いくつか分からないけど、エルフだから俺達より年上だろ?そんな人がそんな子供みたいなことを・・・・
「しょうがないじゃない!この暇なギルドで折角三級と言う手合わせをして遊べるような人が来たって言うのに、当の本人は私が誘っているのに完全無視で攻撃してくるんだもの。ムカつきもするわよ!」
「なら、ブレストの魔法剣を避ければよかったのでは?反応出来てましたよね?」
「遊ぶ気が無い子と遊んでも面白く無いでしょ?もし、あの場で避けてたとしてもこの人本気を出して一瞬で片を付けに来るわよ」
「良くお分かりのようで」
あ~だから諦めて攻撃に当たったのか。ブレストは面倒な事は力技でさっさと済ませようとするからな~
「なら、大事にしていると噂の子で遊んで揶揄ってやろうかと思ったら・・・・途中までは良かったのに眩惑は効かないし、毒も無効化してくるし、馬鹿みたいな爆発をしてくるし、やけに速くて確実に勝とうとしてくるんだもの」
「そりゃテストですから・・・・」
「予想以上に手強かったって話さ」
「あ、褒められてるのか。ありがとうございます」
「最後なんて、私のとっておきだったのに微塵も効いていないなんて・・・・もう二人して面白みの無い子ね!」
「人を眩惑に落として面白がらないでください」
この人綺麗な顔してとんでもない趣味をお持ちのようだな・・・・俺は騙したり搦手を使う戦法を取っているから人を騙したりする楽しさは知っているけど、人を堕落させる楽しさは分からないな。人の好みはそれぞれだけど、俺達で遊ばないでくださーい。
「はぁ、折角暇を潰せると思ったのに残念だわ。はい、二人共合格にしておくから、ナナン後の手続きはお願いね」
「分かりました」
「シンリは後片付けを」
「分かりました」
大きく溜息をつきこれ以上俺達を揶揄うことは出来ないと分かったフレンスさんは、肩を落としながら後を二人に任せギルドの奥へと消えて行ってしまった。
「なんだかな~」
「すみません、実力は確かなんですけど・・・・少々趣味が変わっていらっしゃるので」
「まぁ手加減はしてくれたみたいだし、配慮は出来る人なんだろうけどさ」
俺達を揶揄おうとして失敗したちょっと変な人ってイメージが強いけど、その実力は確かなものだ。空気と言うのは生き物が生きる上で必須のものであり、どんな生き物も呼吸をしなければ生きられない。そんな重要な空気に相手を惑わし状態異常にさせる香りを乗せられるのは何をどう考えても強力だ。そして、相手に合わせた毒を使い、複数の香りを調香することによってより強力な効果をもたらす手数の多さ。煙を纏えば近付くことも敵わず、触れれば毒に侵され爛れるなんて理不尽極まりないだろう。そして極めつけはあの塵だ。あそこまで小さな塵は風に乗りどんな隙間、例えば防具や服の隙間から中に入り込んで爆発させることも可能だろう。範囲も射程も長く周囲に充満させ殺す気で掛かられていたら、すぐにやられていただろう。自爆の危険性も高いのにあんなに上手く扱うなんて流石はギルド長だな。
「はい、基本は良い人なんですよ。それでは後の手続きをしますので、カウンターへとご案内しますね」
ナナンさんの案内で訓練場を後にした俺達は最初の受付へと戻ってくると、帳簿に何かを書き冒険者カードの裏面にも書きこみ確認した後俺達に冒険者カードが返却された。
「はい、これにてテストは終了です。どちらもクリアされましたので、等級の範囲内であれば森での討伐依頼を受注することが出来ます。依頼自体は先日申し上げた通り私から紹介する形となっていますので、いつでもお申し付けください。それでは、早速依頼を紹介いたしましょうか?」
「いや、本格的に依頼をするのは明日からにする」
「畏まりました。また明日来られるのお待ちしております」
ナナンさんに見送られて俺達はギルドを後にするのだった。時間が過ぎるのは早くもう太陽は真上から少し落ち昼過ぎとなっている。この時間帯は住民達が日光浴に行ってしまう時間だよな。と言う事はお店もあまり開いて無いだろうしどうしよっか。
「ブレスト、これからどうする?」
「う~ん、時間としては飯の時間だよな。出来合いのものがあるからそれ食いながら、ライフさんの所に行ってみるか」
「解毒薬を買いにか?」
「それもあるけど、解毒薬を作ってるってことは周囲の魔物に詳しいってことだ。それも聞きに行こうぜ」
「なるほど~」
町に居る薬師はその地域特有の魔物や動物そして植物に対する解毒薬を作っていることが多い。そして町で治療をするのは薬師であることが多いので実は魔物に関して知識が深いことがあるのだ。だけど、今は昼時だからライフさんとペシェさんいるのかな~まぁ居なければ居ないでまた明日朝の内に行けば良い話だしな。住民達とすれ違うことなく、進んで行きライフさんのお店に到着すると二つの気配を感じるから二人は中に居るみたいだ。
「すみませーん」
「あ、ブレストさんにクロガネ君いらっしゃいませ。もしかして、やっぱりここに泊まることにしたんですか?」
「いや、今日は薬屋の客としてきたんだ」
「そうですか~残念です。師匠を呼んで来ますのでちょっと待っててくださいね」
そう言ってペシェさんは部屋の奥へと消えて行き暫くしてライフさんと一緒に戻って来た。
「おやおや、今日は客として来たんだって?それで何が欲しいんだい?」
「明日から森で討伐依頼をこなす予定なんだが、何か持っておいた方が良い薬はあるか?」
「そうだね~傷薬や塗り薬はもう持っているだろうから特殊な奴らに対する特効薬を持っておいた方が良いだろうね。それなら、ヘルヴェノムの解毒薬にコカトリスの石化解除薬にインフェルノマッシュの鎮静薬とかだね」
ヘルヴェノムは粘性の毒を分泌し全身を覆っているスライム型の魔物で、触っただけで体の中に毒が入り込み殺した者をまた別の毒で溶かすという生態を持った魔物だ。あいつらを相手するなら毒を通さない、スライムの手袋が必要になるな。
「ヘルヴェノムが居るのか・・・・」
「あいつらは厄介者だけど森にとっては生き物を溶かし肥料としてくれるから、必要な存在なんだよ」
「インフェルノマッシュは不意に触ってしまう可能性があるから必要だろう」
「ヘルヴェノムの毒って俺は触っても大丈夫かな~?」
「触っただけで死んでしまうと言われるほど強い毒ですよ」
「ん~無効化出来ないかな~」
「察するに毒を無効化出来る体質のようだけど、試してみるかい?」
そう言うとライフさんは何処からともなくどす黒い色をした液体が入っている大きな壺を取り出した。
「これはヘルヴェノムの毒だよ。解毒剤も用意してあるから手を出しな」
「お~試してみる!」
「ちょいちょい、何しようとしてるんだ?」
「え、試し毒?」
「んな危ない事させる訳無いだろ」
「え~危険を未然に知れて自分の限界も分かるんだから良いじゃ~ん」
実物があってもしもの場合でも解毒薬が揃っていて優秀な薬師と回復魔法を使えるブレストが居るんだから大事になる事は無いだろ。この毒が大丈夫だと分かれば色々な事が出来るようになると思うんだよな~
「ぐぅ・・・・」
「ね、良いだろ?」
「少しだけだぞ、危なかったらすぐに解毒するからな」
そう言ってブレストは収納から荘厳な瓶に入った光り輝く液体を取り出し頷いてくれた。それを見てライフさんが苦笑いを浮かべながら
「それを使わなくても私が何とかしてやるさ」
「念の為だ」
よく分からないけど試して良いってことだよな。俺は毒の入った瓶を受け取ると蓋を開けまず指を触れてみる。
「どうだ?」
「ん~普通」
毒が入った感覚はあるけど特に痛みも気持ち悪さも無いな。そのまま俺は勢い良く肘まで入れてみる。
「おい!!」
「そんないきなり!?」
ちょっとピリってきたけど大丈夫だな。俺はそのまま毒に暫く腕を漬けた後引き抜いてみると俺の腕は肌色から毒々しい黒紫に変わっていた。
「おお~ここまでなるのは久しぶりだな」
「クロガネ、今すぐこれを!!」
「大丈夫、大丈夫」
それを見たブレストは慌てて瓶の蓋を取り俺に飲ませようとしてくるが俺は笑って手を振り魔力を腕に集めると、あっという間に毒々しい色から元の色へと戻っていく。
「うん、大した事無かったな」
「平気みたいだね。一応毒の中でも上位の強さを持つ毒なんだけどね・・・・」
「本当に大丈夫なんだな?」
「おう、これくらいなら大丈夫」
「仕組みとしては体質もそうだろうけど魔力によって毒を無効化している様だね。その無効化は魔力あってのものだから、魔力切れの時に毒を触ったらそこまで強力な無効化は出来ないだろうから気を付けるんだよ」
「は~い」
これくらいの毒なら前に生みの親に飲まされた毒の方が何倍もヤバかったな。あの時は本当に死ぬかと思ったぜ~体は動かないし内臓は熱いし、変な痣が体中に浮かび上がるし水も飲めない息を吸うだけで全身が痛んで最悪だったんだからな。
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#悪ガキと転生冒険者