煌めきの爆発
俺は手持ちの毒を次々と使いながら避けるフレンスさんを、俺が罠を張った方向へと誘導していく。毒の煙と匂いは偶にピリッと感じる事はあるが、よくもまあこんなに沢山の毒が出てくるもんだな。麻痺毒に痺れ粉、呼吸が出来なくなる煙に吸い込むと体が燃えるように熱を発する毒に、体の自由を奪う香り、繰り出される毒の種類の豊富さに感心しちまうぜ。その毒一部売ってくれないかな?少し余裕が出てきたところで、香炉から発せられた赤黒い煙を見て俺は初めて距離を取った。
「おっと、危ない」
「ふふ、これは効くのね」
「流石にな」
さっきのは触れたもの溶かしてしまう煙だ。あれは毒と言うよりも溶解液や炎に近いもので、いくら毒を無効化出来ても何でも溶かしてしまうものは無効化出来ない。普通あんなの食らったら皮膚が焼け爛れて一発で終わりだっつーの。おっそろしい物使いやがるな~
「それならこれはどう?」
フレンスさんは香炉にまた新たな香を入れると、四つの異なる煙が立ち込み始めた。そして煙はまるで生き物かのようにうねり空を自由自在に動きながら俺に向かってきた。あれは・・・・ちょっと面倒だな。
俺は距離を取りながら縦横無尽に飛び回る煙を避け、木の後ろでやり過ごそうと思ったが操られている煙は障害物をいとも簡単によけ俺に向かって来る。煙であれば風の魔法で弾き飛ばしてしまえば良いが、今この空間の風はフレンスさんに完全に掌握されている。俺が風を放って煙を霧散させたって、すぐに何事も無かったように復活するのがオチだな。それならば、操っている本体を倒せばいいだけなのだが・・・・
「あら、危ない。お返しよ」
「おっと」
気配を完全に消して死角から当たるように放った魔法の矢を見ずにいとも簡単に避けられてしまった。障害物の裏で視線を遮っているのにも関わらずこうやって、位置を特定し攻撃してくるってことは完全に俺の行動がバレている。何故気配を消しているのにも関わらず、察知出来ているのか。方法としては俺より気配を察知するのが上手いか、そう言ったスキルを持っているかもしくは・・・・まぁ俺的にはこれで確定だろうけど、風の動きで察知しているかだ。
さっきも言った通りこの空間の風はフレンスさんに完全に掌握されてしまっている。結界内の空気を動かし物に当たり僅かに空気の流れが変わることを利用して、こちらの位置を判別しているのだと思う。物が動くとき必ず空気も動く、だから死角からの攻撃も分かるんだ。
楽勝かと思ったけど、面倒になっちまったな~
そりゃギルド長になったような人が幻術と香りだけの一芸な訳ないか。さて、仕組みが分かった所でやる事は変わらない。罠の位置に誘導し動けなくなった所を叩き込むだけだ。それに気配でバレている訳じゃ無いならやりようはある。俺は闇魔法で分身を10体作り出すと、その分身と共に木の影を飛び出した。
「さぁ俺はどこかな?」
「あら、面白いわね」
風の動きでこっちを察知しているのであれば、数を増やして翻弄してやればいい。これですぐに本体を見破られるのであれば、風の動きだけではなく何かしらのスキルを使って察知していることになるがどうだ?
「それじゃあ、こうしましょう」
フレンスは笑いながら香炉を振ると一本に繋がっていた煙が分裂し枝分かれして俺達を追いかけ始めた。分身に対応するために手数を増やした、つまり本体を見抜く力は無いってことだな。
それならこうする。
俺は分身達をまた分身させ数を倍に増やしていく。煙の攻撃は風に乗せているから速くない、この数を対処しきれるかな?
「随分増えたわね」
次々と増えていく分身達に処理が追い付かず肉薄してくる分身達に少しづつ後ろへと下がっていくフレンスさん。あともう一押しだ・・・・・あと一歩・・・・今!!
後ろに下がり罠の射程に入ったフレンスさん。草むらに隠しておいた糸を踏み千切れた瞬間、木の上から粘性のある糸がフレンスさんに襲い掛かり、追撃で仕掛けておいた棒手裏剣に魔力を送り起爆させ闇の鎖で網ごと縛り上げる。これで二回目!動けない隙にもう一回・・・・っ
最後の一撃を決めようと踏み込むと、振り香炉から赤く煌めく塵のようなものが空中へと漂い始め魔力を感じた瞬間、体が吹き飛ばされるほどの爆発が生じた。
ドンッ
風圧によって吹き飛ばされた俺は木にぶつかり、結界を一つ失ってしまった。そんな事より一体何が起きたんだ?煌めく塵が舞ったと思ったら一瞬で大爆発が・・・・衝撃で耳鳴りが止まらないながらも立ち上がり、爆心地を見ると赤、青、紫、黒、白の煌めく塵を香炉か発し自由に操るフレンスさんが立っていた。
「最後の一つよ、頑張りなさい」
煌めく5色の塵の中で挑発的に笑うフレンスさんは、その美貌も相まって妖艶で数多の人々を魅了し釘付けにする女王のようだ。そして、踊り子のように香炉を振り始めると煌めく塵が風に乗って俺の元へ迫ってくる。
あれに当たるのは不味い
俺は体勢を立て直し煌めく塵から逃げるために、後ろへと飛び退くと俺が居た場所に辿り着いた赤い塵が一瞬光りフレンスさんから魔力を感じた瞬間、炎を上げて爆発した。
「あら、逃げるの?こっちにいらっしゃい」
逃げる俺を笑っているが、その眼は獲物を狩る蛇のような鋭さを持っている。あの塵には絶対に触れちゃ駄目だな。取りあえず攻撃を見極める為に、俺は木から木へと飛び移り逃げる事に集中することにした。
ドン
ガン
パンッ
「あっぶな!!!エルフが森を壊すなよ!」
「これは仮の森ですもの」
次々と爆発する煌めく塵によって次々と木々が爆発していき何とか避けながら観察した結果分かったことがある。あの塵の攻撃速度は煙と同じ程度しかあらず、分裂させないことからある程度の密度が無いと発動できないんだと思う。そして、その攻撃は塵の色によって属性が変わる。赤なら火、紫なら雷って感じでな。そして発動の瞬間必ず魔力を籠めなければならない。その動作を見逃さなければ、当たることは無いけど、塵を周囲に滞留させているから近付くことが出来ない。矢は風で弾かれてしまうし・・・・どうするか。一回俺が逆に魔力を流して爆発を返さないか試してみたけど、フレンスさんの魔力じゃないと反応しないようになっているみたいだ。
これじゃその内障害物が無くなって終わりだな。一度大技仕掛けてあの塵を全部消さないと駄目だ。
俺は風と火の棒手裏剣を10本取り出し魔力を籠める。そして風の足場を使い頭上を高くへと飛び上がった瞬間全ての棒手裏剣を地面へと投げた。フレンスさんは自分に飛んでこない棒手裏剣をそのまま見逃したが、それは不味いと思うぜ。地面に接触した瞬間、風と火による大爆発が起きその衝撃で風は上空へと吹きあがる。その隙を逃さず、俺は地面とへ戻ると塵が無くなり無防備となっているフレンスさんへと突撃し予め装填していた矢で振り香炉を撃ち抜いた。
「これで香は使えないだろ!」
勝ちを確信した瞬間、噎せ返るほどの甘い匂いと共に思考を蕩けさせる眩惑、視界がぶれ景色が揺らぎ周囲の空気を一掃してしまう程の怪しく妖艶な煙に包まれてしまった。
「あらあら、私の香炉を壊すなんて悪い子ね」
立ち止まった俺に余裕の笑みを浮かべならゆっくり歩いて来るフレンスさん。そして懐からピンク色と紫色の液体が入った二つの瓶を取り出すと、地面と垂らし液体が煙へとなっていく。
「これは貴方を誘う特別な香り、さぁ心を溶かして、貴方の思うがままに欲望に身を任せるの。大丈夫、貴方は全てが正しいの、嫌な事は全部忘れてただ気持ちよくなりましょう。さぁ堕ちてらっしゃい」
この声は精神に語りかける声だ。俺の思考を乱し蜘蛛の巣のように絡みついて決して逃さない。
「やりたいこと・・・・」
「そう、したい事をして良いのよ」
手を伸ばし俺の全てを受け止める聖母のような笑みを浮かべながらも、その本性は欲望を掻き立て人を堕落させる悪魔のようなもの。妖艶なる香りは逆上せたように頭を熱くさせ胸の奥から鳴り響く本能を掻き立てるだろう。俺は誘われるように近づいていく。
「んじゃ合格と言う事で」
「え?」
俺は隙だらけなフレンスさんの首にナイフを押し付け結界が壊れたので、これで俺の勝ちだな。
「そこまで!」
「嘘でしょ!?一つも効いてないの!?」
「はい、それにしても匂い強すぎません?鼻が痛くなりますよ」
匂いと煙が濃すぎて鼻が痛くなってくるので俺はさっさと風魔法を使って周囲の煙と匂いを吹き飛ばした。結界が解かれたことによって新鮮な空気に切り替え、俺は気持ちよく息を吸う。はぁ~やっぱり普通の空気は美味いな。
「息を止めていた訳でも、何かそう言う装飾品を付けてる訳でも無いのに・・・・どうして」
「さぁ?俺はそういう精神系統一切効かないんですよ」
「例えドラゴンだとしても堕落させる香なのに!」
「いや~なんかすみません」
そう、初めからあの香なんか一切効いていなかったのだ。奥の手ぽかったから掛かった振りをしてみたら、案の定勝ちを確信して油断して近付いてくれたから楽勝だったぜ。
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