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どんな紙をお求めかい?

 家の中に入ってみると中は売り場になっている様で様々な種類の紙が並べられ、一目で違いが分かるように展示されていた。王都でも見たことが無い程真っ白な紙や仄かに桃色をしている紙、木の木目が見える紙など見たことが無いものが沢山だ。紙って大体同じようなものだと思ってたけど、こんなに種類があるものなのか・・・・


「取りあえず、ペシェの詳しい話は後で聞くとしてまずはお客様兼恩人のお話しを聞かないと駄目だね。いらっしゃい、ここは私の紙工房さ。展示されている物は売り物だから、気に入ったものがあればすぐに用意が出来る。それかオーダーメイドをご希望かい?」

「あぁ、オーダーメイドをして欲しいんだが可能だろうか?」

「今は忙しく無いから時間を貰えれば作れるさ。勿論、どんなのを作るかによって時間は変わるけどね」

「実は・・・・」


 ブレストはペクさんにオーダーメイドの紙を作って貰えるようなので、その話をしている間俺は展示されている紙を見る為にブレストの元を離れる。端から一つ一つ見ようと近づくと、展示されている紙の横にその紙の性質について説明が書いてあることに気付いた。


「へ~親切だな」

「と言うより説明が面倒臭がって書いてるだけなんですよ」


 俺を追うようにしてペシェさんも来て笑いながら教えてくれた。


「え」

「ペクさんは紙を作るのが大好きで、いつも工房の方に行ってこっちのお店は殆ど居ないんです。なので接客もあまり好きじゃ無いので、説明の手間を省くためにこうやって説明文を載せているんですよ」

「なるほど~」


 偶に居るよな、根っからの職人気質で商売があまり好きじゃ無い人って。よっぽど高名か一つ売るだけで大儲けがある場合を除けば普通ならそんな事をしたら生活をしていけないだろうけど、紙と言う高価かつ大量に購入されるもので生活に必要な金が少ないからこそ成り立っている訳か。


「詳しいですね」

「小さな頃からお世話になってますから」

「薬師としてですか?」

「そうですよ。私は幼い頃から師匠に師事して頂いていて、薬師って実は処方箋や薬のレシピ、それに薬の注意事項と薬を包む薬包紙など紙を使う事が多いんです。なので消費の激しい紙をペクさんに依頼して受け取るのは私の役目だったんです」

「なるほど、確かに調合書とかを作るのにも紙は必要だもんな」


 薬の種類は数えきれないほどの量で、傷薬や解毒薬、状態異常を解除する薬や身体能力を上げる魔法薬、五感を鋭くさせる薬など多種多様だ。そんな数の薬を記憶するのは難しいから、薬師は必ず薬の調合書を作るのだ。だから、紙の消費が激しいのは納得だ。


「しかも、私はこの周囲の森に生えている植物の図鑑を作っているので余計消費が激しいんですよね」

「植物の図鑑って・・・・ギルドが作ったやつじゃ駄目なんですか?」

「駄目という訳じゃ無いんですけど、あの図鑑は冒険者目線で作られている物じゃないですか。私が作っているのは薬効やどの薬に使えるのか、どの部位にどんな効能があるかなど薬を作る時に使う用の図鑑を作っているんです」

「あ~確かにそう言われると薬師が見るには説明が足りないかも」


 ギルドは周囲に存在する魔物や植物の図鑑を作ったり収集しているけど、その殆どが高値で売れるか、どうやって採取するか、生息地といった冒険者にとって役に立つ情報だ。職業と目的が違えばあの図鑑じゃ役不足なのも理解できるな。


「ふふ、そういう訳でよくお世話になっていたんです」


 ペシェさんとペクさんが親しそうにしていたのもそれが理由か~二人の親しさに納得しながらペシェさんと一緒に展示されている紙を見る事にした。


「ふむふむ、この紙は虫が嫌いな植物を使って作られているから虫が湧かないのか。便利だな」

「長い間放置をしているとどうしても虫が湧いてしまいますからね~虫干しをしなくて良いのは利点ですよね。あれって結構重労働ですし私達は本を溜め込みますから数が大変なことに・・・・」

「虫を避ける香もあるけどあれって臭いがキツイって言うしな。その隣の紙は土に埋めるとすぐに分解される紙か・・・・普通じゃないか?」

「これは埋めると肥料にもなるんですよ。なのでよくメモを取るけど、用が済めばすぐに捨てる方などに良いですね。あとは家の中で植物を育てている方とかにおススメですね」

「そういう使い方もあるのか」


 紙なんて地面に埋めたらその内無くなるものだし、燃やしてしまう方が処理も簡単だと思ったけどそういう利点があるのか。それに植人は燃やすと言う事をしないしな。


「こっちの紙は木目が付いているけど、どうなっているんだ?説明文には木の質感と木目の美しさを楽しむことが出来る紙って書いてあるけど・・・・」

「これは木をそのまま本当に薄く切って作られた紙なんですよ」

「え、そのまま?」


 紙って細かな木を刻んだり特別な液体を使って溶かして作るもんだと思ったけど、そう言う作り方もあるのか。


「はい、木をそのまま使っているんです。寸分の誤差なくこの薄さにスライスするのは本当に難しいんですよ」

「ほえ~職人技だな~」


 ペシェさんがその木の紙を持ち上げて横から見せてくれたが、普通の紙と同じような薄さで自分の重量で曲がってしまうほど厚さに切るなんてとんでもないな。


「これは木目を生かしてこの上に押し花を置いても綺麗ですし、文字を書いても温かみのあるものになるんです。これで封筒を作るのも味があって良いですよ」

「お~確かに!」


 こんな紙見たこと無いしテセウに教えてあげたら喜びそうだな。この紙は買うの決定で他のも見てみよう!


 俺達が紙を見ている間ブレストは難しそうな顔をしながらペクさんと紙について相談をしている。あそこまで拘るってことは何か特別なものに使うのかな?少し離れているから耳を澄まさないと聞こえないけど、個人的な注文を聞くのは失礼だろうし聞くのは止めておこう。


「紙って大体同じようなもんだと思ってたけどこんなに種類があるものなんだな~」

「私が特におススメなのはあそこの色の付いた紙ですよ」


 ペシェさんのおすすめの紙を一緒に見に行ってみると、そこには赤、橙、緑、水色など淡く色付いた紙が並んでいた。その紙達は水面に落としたいくつもの色水が緩やかに広がるような模様をしていて味わいがあり色が付いた紙と言うのは幾つか見たことあるけど、ここまで淡くそして独特の模様があるのは初めて見たな。


「綺麗な色ですね。何処か落ち着くというか・・・・」


 確かにこの色は珍しいし見て楽しめるから気に入るのも納得だな。特に女子供が好きそうな色だし、プリトのガキ達が喜びそうだ。プリトに手紙を送りたい気持ちはあるんだが、生憎冒険者ギルド経由で送った手紙は宛先までの配達はしてくれないのだ。なのでギルドまで取りに来てもらう必要があるのだが、プリトのガキ達で冒険者ギルドに用がある奴は居ないから送っても届かないのだ。あとは冒険者に依頼を出して手紙を出す方法もあるけど、この町じゃそんな冒険者は居ないし道中襲われて紛失したり奪われたり冒険者が殺される場合だってあるから、この方法も微妙なんだよな・・・・


「ふふっ、この紙は色だけじゃないんですよ。手に持って匂いを嗅いでみてください」

「嗅ぐ?」


 ペシェさんは何処か期待しながら俺に桃色の紙を差し出してくれたので言われた通り鼻を近づけ匂いを嗅いでみる。


「!凄い、柔らかな花の香がする・・・・この匂いは桃にセファラン、ラルーナ、他にも沢山の香りだ」

「そうなんです。この紙は色を付ける際に花の匂いを混ぜるの花の香りがするんですよ。普通ならすぐに消えてしまいますけど、ペクさんは長い間香る製法を作り上げたので、匂いが長持ちして凄く素敵なんです」

「なるほど、確かにこれはお気に入りになるのも分かる」

「良かった~気に入って貰えたみたいですね。私はこの紙を日記に使っているんです」

「良い考えですね」


 正式な場には向かない紙だろうけど、個人で使う分には問題無いから全然使うことが出来るな。好きな香りがするってそれだけで気分が良くなるしテンションも高くなる。日々の日記や片手間のメモ、落ち込んでいたりする日でも書くのが楽しくなる紙だな。日常的に使うものがこうやって楽しくなるってのは凄く良いことだと思う!


「ペクさんに言えば好きな香りの紙を作って貰えますよ」

「お~頼んでみようかな」


  この紙なら植物が好きなリリー夫人に贈っても良いかもしれないな。これも購入することを決めた俺は他の色がどんな香りなのかワクワクしながら試してみるのだった。

読んで頂きありがとうございます!

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