夜の森は静かで心地よい
魔導書を読んだりブレストと話したり、ポカポカとした陽射しに眠気を誘われ昼寝を楽しんでいるとあっという間に時間は過ぎてしまい、陽が落ちたことによって日光浴を止めた住人達は次々と人型に戻り家へと帰り始めた。俺達もペシェさんと別れ夕食の準備をするために広場に戻ることにした。
「今日の夕飯どうしようか」
「ん~朝は果物だったからガッツリしたものが食べたいな」
「それなら肉でも焼くか」
「ここって火を使っても良いのか?」
「あ~確かに。あの広場って植物だらけだし芝生だったもんな・・・・」
「まだ若葉だからそう簡単に燃える事も無いだろうけど」
「念の為に火は止めておくか」
食事を作り魔獣を退け、冷えた体を温めるなど人が生活していくには火が必須だが、植人達にとってはそうではない。彼らは弱点である火を嫌っているのもあるが、光る植物に植物の家、守りはガーディアンツリーによる結界と木魔法で十分。彼らは寒さに強いから温める必要もないと、火と接する機会は殆ど無いのだ。その為どの場所も火を使うという想定をしていないので植物に溢れ、もし火が燃え移りでもすれば忽ち大惨事になりかねない。植物の中には燃えやすいものもあるし、広場にはそう言う植物は見ていないけど念の為に火は使わない方が良いだろう。
「そうなると、収納に入っている食べ物か一旦外に出て安全な場所を見つけて火を使うかだな」
「わざわざ外に出るのも面倒だし、出来ている奴を食べようぜ」
「んじゃそうするか」
万が一にでも町に被害を出さないように火を使うなら町の外に行った方が良いだろうけど、沢山の魔物が居る森で安全な場所を探すのは大変だし今日はゆっくりしたい気分だから外には行きたくないな。俺の提案に頷いてくれたブレストと一緒にテントに戻ると、テントの前に椅子や敷物を出し並べ夕食の準備を進めていく。あとはテーブルを出せば、もう大丈夫だな。今日のメニューは何だろな~
「今日はプリトの街で買ったオーク肉とレタスとトマトを挟んだサンドイッチにブルブさんが作ってくれたソースを掛けて、あとはスープは・・・・チルチャロットのスープが良さそうだな」
「お、久しぶりだなこれ」
このサンドイッチはプリトの屋台で売っているパンで美味い訳じゃ無いけど、肉と野菜が入っている割には値段が安くてよく食べてたんだよな。チルチャロットのスープは、チルチャロットをすりおろしてミルクとハーブで味付けしているから落ち着く味なのだ。この2つはよく食べていたから少し飽きたけど、今日はブルブさんのソースがあるから・・・・
「うまぁあああ」
「ソースを掛けるだけで別物になるな」
「これなら幾つも食べれる!」
シュナイザー家専属料理長であるブルブさんはタレやソースを作る達人で、町を出ると決まった時、金を支払って複数のタレを大量に作って貰ったのだ。今回使ってるソースはブルブさんが厳選した多くのハーブを細かく刻みレモンと塩そしてオリーブオイルによって味を調えたソースなんだけど、これが滅茶苦茶このサンドイッチに合うんだよな~オーク肉の僅かに抜けきっていない臭みをハーブが包み込んで消してくれ、酸味の効いた味は食欲を湧きたてる。沢山のハーブを使っているおかげで、複雑な味を生み出しながらも、野菜とパンに調和していて・・・・これはいくらでも食べれるな。
「流石はブルブさんだよな~」
「もっとソースを買い取っておけば良かったな」
「だな~」
本当はレシピを買い取りたかったけど、料理人にとってはレシピは命よりも大事なもので長年の研究によって生み出されたものをそう簡単には売ってはくれないし失礼に当たることだってある。魔法師で例えるなら長年積み重ねた研鑽の結果作り上げた魔導書を、何も努力をしていないそこら辺の奴が金はあるから魔導書を売ってくれって言ってるようなもんだ。そんな事をしたら温厚な人間だって起こるだろうし、最悪殺されるな。ブルブさんはそんな事しないだろうけど、この味がいつかは無くなってしまうのは残念だな~
「量は決まっているしある程度は節約しないと。だから明後日からは森で何か作るぞ」
「は~い」
まだマジックバックと収納の中には一か月の間何も食事を買わなくても十分食べていける程の量の食糧が入っているけれど、これはあくまで旅の為の貯蓄で緊急時や料理が出来ない場面で食べるものだ。余裕があるうちは自分達で作らないとな。ブルブさんの貴重なソースを大事に味わいながら夕食を終えあと片づけをしていると、陽は完全に落ち空は暗くなりライトチェリーが光を発し始めた。
暗く静まりかえり、心地よい風と共にライトチェリーが揺れる姿は妖精の悪戯のように光り幻想的な空間を作り出している。普通の町では夜だとしてもある程度の人の往来があるものだが、この町の夜にはそれが無い。それによって、植物の妖精の世界に迷い込んでしまったような感覚だ。
「静かだな」
「もうこの時間には植人達は寝付いてしまうらしいからな」
「こんな静かな町は初めてだぜ」
俺が居たプリトの街は多くの人が集まっている所為で、夜中になっても街は眠らず常に人が通り夜だというのに、メインの通りは昼の様に明るい事もある。路地裏では飲んだくれが倒れ、家からは笑い声や怒鳴り声、酒盛りをしてバカ騒ぎをしている冒険者など人の声が街から消える事は無い。人が住んでいる場所とは、規模と声の質は違うとは言え大体そんなもんだ。だけど、この町は家に明かりは灯らず、確かな明かりは点々とあるライトチェリーだけ。バカ騒ぎも笑い声も話し声も聞こえないこの町は、何だか人が居ないんじゃないかってく頼寂しいけど・・・・夜の静寂は嫌いじゃない。
「真夜中じゃ無ければ人の声が消えるなんてそうそう無いからな。この町は森に包まれている所為で余計に静かに感じるんだよ」
「無人の町みたいでなんだか面白いな」
「無人の町ならダンジョンでも見ただろ?」
「あそこは、魔物が沢山居たし冒険者も沢山居たからうるさかっただろ」
あそことこの町じゃ種類が全然違うじゃんか!
「確かにな。静かな町ってのは落ち着けて良い場所だが、大体の奴は無人の町を見て面白いより怖いと思う奴の方が多いと思うぜ」
「怖い?なんでだ?」
無人の町なんて隠された秘密や無人の謎とか心が躍る要素が沢山じゃないか。もしかしたら、誰も発見して無いお宝があるかもしれないし前の住人が残した宝石とか金とかがあるかもしれないし絶好の稼ぎ時だと思うぜ。普通は盗みになるけど、長年明らかに使用が見られず持ち主を確認できず放棄された場所であるなら罪にはならないしな!
「正体や理由が分からない事柄ってのは基本的に人の恐怖心を煽るんだよ」
「正体を探るのが楽しいのに~」
未知の探求それは隠されたものを暴き出すことに等しいから俺にとっては最高の娯楽だ。是非とも無人の町を見つけたら隅々まで調べたいものだな。
「という訳で、ブレスト今日は夜更かししても良い?」
「どういう訳だよ・・・・」
「つまり夜の町を見てきたいってことだよ。夜になったら印象も変わるしなによりこの静けさが未知の場所に入ったみたいで凄く探検してみたい気分なんだよ!」
「ん~町の中はスターリア様が居るし植人達は眠っているから問題は無い。冒険者達も此処に居るので全員だから・・・・良いぞ」
「本当に!?」
「おう、明日はどうせ森には行かないし少しぐらい夜更かししても大丈夫だろう。ただし住民の皆様に迷惑を掛けるようなことはするなよ」
「分かってるって!」
よっしゃ!ブレストはいつも夜更かしは成長に良くないって町に居る間は許してくれないんだけど、今日は良いって言ってくれた!さぁ~て、どこから行こうかな~
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#悪ガキと転生冒険者