王の最後
「封印ですか・・・・彼らを追放するという選択肢もあったのでは?」
「それは出来ませんでした。彼らは進化した所為で周囲に多大な影響をもたらし、その強さも現代で言う二級に相当するでしょう。そんな彼らを森の外に出したらあっという間に、周囲の動物を蹂躙し生態系を破壊してしまいます。それにこの状況になったのは私達の責任です。他の種族に迷惑を掛ける訳には行きません」
二級・・・・それは一体かつ短時間で大きな街を破壊し尽くせるほどの強大な力を持った魔物に付けられる階級だ。冒険者でも二級は一握りした居らず、その誰もが人外じみている。リリーさん、ブレスト、シュナイザー様俺が知っている二級に相当する人達だが、どの人もその実力は折り紙付き。シュナイザー様とは模擬戦で戦ったけど、あれは模擬戦で完全装備じゃ無いからある程度戦えたけど最初から本気を出されていれば一瞬で負けていた。つまり、三級の魔物一体に時間が掛かる俺は二級には勝てないし遭遇すれば一瞬で殺されるだろう。それぐらい、三級と二級は格差があるのだ。
「二級が複数体・・・・確かに影響は大きいですね」
「森を捨てるということも出来ません。これは私達が起こした罪であり私達が解決するべき問題です」
故郷を捨てるという判断も有った筈だが、彼らは逃げる事をせず責任を真正面から受け止める決断をした訳か。
「それは相当辛い決断でしたでしょうね・・・・自分の同族を封印するなんて」
「そうですね・・・・でも、森を守り残った種族を守るにはそうするしかありませんでした」
声は暗くなり悲しみに満ち溢れているのにどこか諦めてしまっている顔だ。仲間を封印すると言う事は、今まで長い年月を共にし勝利を勝ち取った戦友と戦うと言う事だ。それなのにそんな顔を今でもしてしまうほど当時の状況は切迫してしまっていたんだろう。
「同族、そして長年共に戦った戦友と戦うのは辛かったですが、これは森の為未来の為と自分を無理やり納得させ戦いとなりましたが、簡単には決着がつきませんでした。同じ植物であり同じ弱点であり、相手の事をよく知っている。戦いは泥沼になりながらも、何とか最後の一人を除いて封印をすることが出来ましたが最後に一人が問題でした」
「特別な方だったんですか?」
「その方は最初は特別な事は何もない普通の薔薇のドライアドでしたが、戦う力を強く望み黄金の果実を食したことによって、他の者達を寄せ付けない程強力な力を持った存在となりました。そして、その方のおかげでガイアズジョーに勝ったと言っても過言では無い貢献者であり・・・・ダヴィルの愛した人でした」
・・・・・
「その人の名前はメアリー、血よりも深く火よりも滾る赤を持った火魔法を操る最初の植人です」
「植人が火魔法を使うなんて・・・・」
「えぇ、私達にとって火魔法は自身を焼く危険なもの。その為私達は生まれながら火魔法を使うことが出来ません。魔法植物で火属性を宿したものはありますが、植人になった後は使えなくなってしまうのが普通です。ですが、彼女は植人でありながら全て灰と化す強力な火魔法を使い戦い狂いました」
火魔法は植人にとって弱点であり、多くの生き物にとって脅威だ。その力が有ればガイアズジョーも倒すことは可能だっただろう。だけど・・・・
「狂った彼女は次々と森を燃やし生き物を灰に変え、私達は何度も封印しようと試みましたが相性の関係で歯が立たず戦場である中央から森が燃え始めこのままでは森が消滅してしまうと思われました。しかし、初代国王であるダヴィルがその命を引き換えに火を鎮め彼女と共に灰と化して事態は収束しました」
「亡くなってしまったんですね・・・・」
「えぇ、惜しい人を亡くしました」
寂しそうに空を見ながら言うスターリア様。彼女は全てを見て全てを経験した生きた証人。俺達では想像も出来ない程の年月が経過した後でも、彼女は忘れず彼らを思っているんだな。
「戦いの影響で森は壊滅的な状況に陥ってしまいましたが、彼らの犠牲そして私達の罪と向き合うために生き残った者達で森の再生を始めたのです。皮肉なことに彼女が焼いた灰は大地に豊かな栄養を渡し、新たな命を育む土壌となりあっという間に植物が芽吹き新たな森が誕生しました。動物達は繁栄し魔力の多さによって魔物が生まれ自然な森へと戻りましたが、問題は山積みです。まず、数が減ってしまった植人達の保護をしなければなりません」
そうだな、森を復活させるのは大事なことだけど植人が生きる場所を作らなきゃ同じことの繰り返しだ。ガイアズジョーの脅威が無くなったとしても、また他の魔物に狙われ襲われる。何か対策をしなければ、植人に未来はない。
「生き残った者達で何度も何度も話し合いを続けました。私達が生きるのにはどうするのか、進化していない者達をそのままにするにはどうすれば良いのか、また私達は戦わなけれないけないのかと。そして、ある結論が出たんです」
「その結論とは?」
「戦いは多くの悪影響を齎しますが、戦わなければ生きてはいけません。ですが、戦いと言うの植人達に大きな影響をもたらしてしまいます。なので、戦いを知り変質してしまった者達がまだ私達がありたかった存在の者達を隔離し守る事に決めたのです。幸い力だけはありましたからね」
「隔離・・・・もしかして」
「はい、それがガーディアンツリーの正体です。私達は元々ガーディアンツリーと言う名前ではありません、進化しもはや元の植物が何か分からなくなってしまった者達が戒めとして付けた名前なのです。今度こそ植人達を守るのガーディアンになる為に」
それがガーディアンツリー・・・・進化した者達が守るという意思によって、名前を捨て新たな名前を付けた存在。
「だから、先程の質問の町を作ったというのは間違いではありませんが、植人を守る為に私が町と化したが正解ですね」
「人柱という訳ですか」
「私は進んでなったのでそんなに暗い意味はありませんよ。この身を捧げれば種族を守れるなんて素敵なことじゃないですか」
「・・・・」
「それに、私一人じゃないですから」
「そうか、ガーディアンツリーは必ず町にある・・・・と言う事は複数人居ないと駄目だ」
「はい、それもありますけど私一人じゃここまで大きな結界と魔法は無理です。なので複数人が元になり力を合わせ融合した姿がこのガーディアンツリーなんです」
穏やかな笑顔で言っているが、そんな笑顔で言えることなのか?折角生き残ったのに、自由に動けて自分の好きな事が出来るはずなのに命を捧げ未来を捧げ自由を捧げ、種族を守る為だけに永遠に近い寿命を使う・・・・それは耐えられることなのか?
「・・・・」
「そんな顔をしないでください。私は幸せなんですから。ペシェの様に新しい植人が生まれて戦いをせずに平和の日常が送れて、みんな笑っている。その姿を見るだけで、私達は満足なんです」
そう言ってスターリア様はペシェさんの頭を撫でる。それに対してまるで母親に甘えるかのような笑みを浮かべながら受け入れている。
「私達はガーディアン様のおかげで存在出来ています。だから、私達にとってファーディアン様は親のようなものなのです」
「ふふ、嬉しい言葉です。彼らを守る事によってようやくこの平和が訪れたんです。勿論もう二度とあんな事が起きないよう他にも色々な事をしてきました。外国との交流を増やし、危機的な状況に陥らない調整し中立を保つことによって侵略を防いでいるのです。だから、今は国として存在しています」
「最近はエルフの方も増えてきましたよね」
「はい、町は変えず影響をあまり与えずこの町で過ごせる方となるとエルフくらいですから。人間の方も増やしたいのですがバランスが難しいのですよね」
今は沢山の国が存在していて、冒険者と言う存在のおかげもあって多種族の交流が多くなっているそんな時代に適応しようとしているが、そこは難しい所だよな。
「何で俺達にそんな話を・・・・」
「ふふっ長く生きていると色々な方と知り合いになったりするんですよ」
「師匠か・・・・」
「それに、この大地について心配していたようなので私達の存在を示す為です。この大地この国は私達が責任を持って守ります。だから、貴方が想像するようなことには絶対にさせません」
なるほど、こんな大事な話を来たばかり俺達に話すなんて変だと思ったがブレストが原因か。守ると言ったスターリア様からはいつもの穏やかさは感じず強い意思と燃え滾るような決意を感じた。それ程までに、その戦いの傷跡は深いんだろうな。
「そうですか。なら安心ですね」
「えぇ、安心してこの国を楽しんで行ってください。少々時間が掛かり過ぎてしまいましたね。ペシェ、町の案内はお願いしますね」
「はい!」
「それでは、またの機会に。私はいつでも此処に居ますから何か用があったらいらしてください」
切り替えるようにブレストとスターリア様は笑い合った後、俺達がガーディアンツリーの上から降ろしてもらいまた町へと繰り出すのだった。
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#悪ガキと転生冒険者