長きに渡る戦いの傷跡
「その人の名前はダヴィル、黄金の果実を作り出す木のウッドマンでありこの国の初代国王です」
フォレシアの初代国王・・・・話の中だと植人は国を築いていなかったけど、今はフォレシアと言う国が成立しているのだから誰かしらが建国をしたんだよな。
「彼は植人としては珍しくとても活動的で、私達が絶滅するのが耐えがたいと生き残りの植人達の元へ次々と訪れこのまま絶滅を受け止めようとしていた者達を説得し、知識を束ね魔法を束ねガイアズジョーへの反撃の狼煙を上げました。ある時は植物の防壁を作り上げ、またある時は肉食の魔物を退け私達が持っている毒を使い、ありとあらゆる手段を使いガイアズジョーに挑みましたが、あの魔物と私達は相性が最悪でしたので中々成果は出ませんでした」
うん、そうだろうな・・・・戦いと言うのは、経験と明確な殺意それに積み上げれた鍛錬がモノを言う世界だ。どんなに強大な力を持っている者だとしても、その力の使い道を知らなければ意味が無いし、戦いの危険さを知らなければ少しの油断で命を落とす。話を聞いている限りだと植人はそれまで戦う事をしていなかったのだから、急に戦ったとしても勝てる訳が無い。それに、植人が得意なのは木魔法だ。ガイアズジョーは話を聞いている限りだと、明らかに植物に対する圧倒的な優位性を持っている。そんな相性が最悪な相手に戦いを覚えたばかりの奴が抵抗したとしても敵うはずが無い。
「どれほど戦っていたのですか?」
「小さな苗木が大樹になる程の年月ですね」
「そんなに・・・・他の国などが干渉してこなかったのですか?」
「遥か昔の出来事なので、今ほど人間達は力を持っていませんでしたし冒険者と言う存在すらない時代ですから、国と言うものは殆ど無く自分が生まれた土地から出る者は極僅かと言う時代でした」
「そんな昔なんですね」
数百年前の話かと思ったが、本当に遥か昔俺達人間では辿る事すら困難な時代の話なのか。
「はい、なので助けは見込めずそもそも私達の種族は外交的では無いので他の種族との関わりはありませんでした。そして、日々狙われ生き残るか絶滅かの種の存続を掛けた争いに戦いに向いていない植人達は心を病み、植物の姿をとり心を壊し眠り続ける者達が増えてしまいました」
心が優しい奴ほど戦いには向いていないものだ。人々の為に、生きる為に、名誉の為にと人聞こえの良い言葉で飾り立て正当化されることが多い戦いだが、そう言った綺麗な建前を取り払っちまえば残るのはただの殺し合いだ。戦いの本質は殺し合い、自分の命と相手の命を天秤に掛け自分の命を取り、相手の命を奪うという行為。その心の負担は歴戦の猛者でも耐えられない事だってある。魔法を使って魔物を倒す姿はカッコいいと言われるが、みんなが憧れる程戦いってのは綺麗でカッコイイものじゃない。
「そうでしょうね」
「長い戦いは確実に影響をもたらしますからね」
「はい、皆疲れ切ってしまっていました」
命のやり取りと言うのはたった一戦、一つの命を奪ったとしても大きく疲労するものだ。肉を切る感触、相手の悲鳴、洗っても落ちない血の匂い、命を狙われるという恐怖、人は順応し戦いを繰り返すことによってこれらに慣れてくるが、体は大丈夫だとしても心の疲労と言うのは積み重なっていき心を蝕んで行く。戦い始めるまでは、人当たりが良く優しい人だったのに、戦いを経験してからは人が変わったように凶暴になったり人を疑うようになったりと性格やその人の在り方すら変えてしまうこともあるのが殺しなのだ。それを心優しく積極的ではない種族が続けていれば、そりゃ心が病んでしまうだろうな。
「仲間が日に日に減り、生き残り戦い続けていた仲間は昔の面影が無くなってしまう程、荒れ狂い狂気に身を落とした頃このままでは負けてしまう事を悟った王はある大きな決断を下しました」
「それは?」
「黄金の果実を使うことにしたのです」
黄金の果実・・・・それは神話や夢物語にしか出てこない黄金に輝く果実で、その実を口にしたものは永遠の命と世界を変えてまうほどの力を得るという逸話がある。その効果は老いた者が齧れば、忽ち若返りその姿から永遠に変わる事無く栄光を手にすると言われるほどだ。冒険者の中にはそう言った御伽話の世界に存在する、伝説の存在を追い求め冒険する者もいる。だが、実際に発見されたという話は殆ど聞かない。そんな物が本当に存在していたのかと思うが、スターリア様の話からは嘘偽りを感じないと言う事は本当に在ったのだ。現代でそれが見つからないのはきっと、俺達が考えることも出来ない程遥か昔に有ったものだからだろう。
「それは・・・・不死の果実とも言われるものですよね?」
「実在していたんですね」
「えぇ、人の間ではそう言った話が有るの知っています。ですが、黄金の果実と言うのはそう言った物では無く、本当は食べた者に膨大な魔力を与え進化させる果実なのです」
「進化・・・・」
「なるほど、進化をすれば強大な力も得られるし種族が変わる為寿命も延びて姿形も変わる・・・・効果としては納得ですね」
黄金の果実の本当の効果は、食べた者を進化させる果実だったのか・・・・確かにそれならブレストの言う通り後に語られている内容も一致するし、不死を得られるという嘘みたいな効果より納得は出来る。
「それなら、早くから進化すれば・・・・」
「黄金の果実を食せば、進化することは出来ますが大きな懸念があったのです。進化とは古き自分を捨て新たな自分へと変わる。聞こえは良いですが、全く違う自分に生まれ変わるのと同義です。それは本当に昔の自分と同じ心を持っているのでしょうか?本当に心に何も影響をもたらさないのでしょうか?私達が守りたかったのは種族であり、進化した者達は私達が守りたかった種族と言えるのでしょうか?」
「それは・・・・」
「答えは否です。身体も魔力も変わってしまった影響は確実に出ます。戦う事を嫌っていた者は見境なく動物を襲い本来必要のない捕食を行い始め、戦いにより狂い始め自我と言うものが完全に崩壊し戦いの道具と化してしまうものもいました。強大な力を得るにはそれに相応しい意思を持たなければ、力に飲み込まれてしまいます。私達が守りたかったあの穏やかに過ごす種族はもう居なかったのです」
進化は肉体が変わり魔力が変わりその在り方すら変えてしまう。つまり、心すら変えてしまうのか・・・・
「ですが、黄金の果実を得た私達は強大な力で今まで蹂躙されるだけであった戦況を大きく変え、多くの死者を出しながら最終的にはガイアズジョーを倒すことが出来ました」
「それは良かったですね」
「えぇ、私達もこれで平和が戻ると思っていました。ですが、そうはいきませんでした」
「え」
「私達には進化に耐えれるほど強い精神が無く、あまりにも戦いを味わい過ぎました。長年戦ってきた者は、訪れた平和を享受することが出来ず闘争を求め森へと出向き次々と意味のない虐殺を繰り返し、宿敵が倒された事によって進化した意味を無くした者は、心を閉ざし長い寿命を消費する眠りへとつきました。私達はもう元の生活には戻れなかったのです」
何となくそうなるんじゃないかって思ってはいた。戦いは殺し合いで命を取り合い汚く心を消耗するが、命を奪うという生き物としての本能を刺激し、一つの油断を許さないやり取りは限界まで集中力が高まり、頭の中でじんわりと広がっていく高揚と興奮に身を任せ己の力で相手を倒すという達成感で心は快感を感じてしまう。戦いは一種の娯楽であり最大の快楽と言われるほど、冒険者の中には戦いの魅力に囚われてしまう人間もいる。娯楽の少なかった植人が戦いに身を置けば、その快楽に囚われてしまう者が出てしまうのは当たり前だ。そして、生きる意味そして大きな目的を達成した後燃え尽きてしまう者は居るものだ。
戦いで快楽を感じてしまえば、穏やかな日常になんかに戻れるはずが無い。心が疼き必ずあの快楽を求めてしまうだろう。
「幸い私は黄金の果実を口にはしましたが、守りの力に特化した力を得たので戦闘には行かず黄金の果実を食していない者の守りをしていたので狂う事はありませんでした。ですが、狂ってしまった者達は私達の言葉に耳を貸さず森を荒らし平和が訪れず、植物の天敵は倒したはずなのに森は死んでいくその現状に進化をさせた王は責任を感じ、最終手段に出る事にしたんです」
「最終手段ですか?」
「狂い戦いでしか生きられなくなってしまった者達の封印です」
それは・・・・折角終わったのにまた戦いになってしまうんじゃないのか?いや、狂ってしまった人達や進化をした人達にとっては戦いは続いているのか。
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#悪ガキと転生冒険者