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秘薬の薬師

 灯りはついているものの静寂に包まれた町を進んで行くと、所々で様々な種類の植物が蕾になっていたり道の端には大木が立っていたりと普通の町じゃ見れない光景だな。普通と違うと言えば、何でこんなに静かなんだ?偶に話す声は聞こえてくるけど町の規模と時間を考えればもう少し騒がしくても可笑しくないと思うんだが。


「静かですね」

「そうですね~もうこの時間だと寝てる方が多いですから。今起きているので夜行性の植物の方か仕事が残っている人ぐらいだと思いますよ」

「寝るのには少し早くないですか?」

「あぁ、私達植人は活動時間が偏ってまして、早朝から活動するのでこの時間はもう寝る時間なんですよ」

「なるほど・・・・それならペシェさんは大丈夫なんですか?」

「私は薬作りで夜遅くまで起きているのに慣れてしまったので大丈夫ですよ」

「そうなんですか、その様子だと随分忙しいみたいですね」


 へ~植人は活動時間も他の種族と違うのか。このフォレシアに来るにあたって植人の国だと知ってある程度は調べてきたけどやっぱり本人に聞くのが、知らない情報や詳しい内容を聞けて良いな。


「いやそうでも無いんです。私達の町まで来る人は本当に少ないですし植人は病気になりづらいですし、病気になった時は植物医の方々の出番ですからあんまり出番は無いんですよね~」

「植物医?」

「植物を専門にしているお医者さんです。私達は人型を取ってはいますが基本的には植物なので」


 それは知らなかったな。人型の時は俺達と同じ構造や中身をしているのかと思ったけど、基本的には植物の体のまま人型を取っていると言う感じなのか。獣人やエルフであれば中身は俺達と似たようなものだから何とかなるだろうけど、中身も全て違うとなると普通の医者では無理だろうな。


「ポーション系統は効きますか?」

「それはしっかり効きますよ。あれは元の身体に戻す作用ですから体の構造が違くともどんな種族にも効くようになってます」

「それを聞いて安心した」

「まぁ私達は体の一部を失ってもその内再生しますけどね」

「だとしても、早く治すのに越したことは無いだろう。いくら痛みに鈍いと言っても不便じゃ無いんですか?」


 一見とんでもない事を言っているように聞こえるけど、植人と言うのは本当に特殊な種族なのだ。植物が故に痛みに鈍く高い再生力を持ち腕や足が切り落とされたとしても、長い年月を掛ければ元通りになるのだ。人型の時の腕や足は俺達にとってはとても重要なもので失えば命に関わるが、彼らにとっては木の枝に過ぎないと言う事なのだろう。植人もごく稀に冒険者になることがあるのだが、彼らのその性質を活かしタンク役になる事が多いらしい。珍し過ぎて見たこと無いけどな!

 植人のように特殊な種族と言うのは、いくつか存在するけどこうやって話したり生体を聞いたりしていると俺達と似たような姿なのにここまで違うのは不思議だな~


「そこら辺は私達は結構無頓着なので。私も20年前に少し腕をかじられちゃったことがあるんですよね~薬を使ったので3年で治りましたけど私達基準だと寝て起きたら治ってるようなものなので」

「これだから、長命種は・・・・」


 俺達にとって三年はとても長いけど長命種にとっては一瞬なんだろうな~てか、どう見てもブレストと同じか少し下ぐらいなのに20年前って・・・・一体いくつなんだ?年齢を聞くのは種族や性別によっては失礼になると教えて貰ったから聞けないしな~


 ペシェさんの謎について考えながら進んでいると、見えてきたのは大木をそのまま家にしたような家だった。中はまだ明かりが灯り煙突のような形をした枝からは煙が出ている。


「あれが私と師匠の家ですよ!」

「デカいな」

「かなり年数を重ねている巨木ですね」

「正確に言えば師匠の家なんですけど、まぁそこは置いといて。見ての通り大きな家なので部屋は余ってますので心配しないでください」


 そう言って笑いながら扉に手を掛け開くと中からまるで森に居るかのような植物の濃い匂いと、僅かな刺激臭に火をくべる炭の匂いを感じた。俺達も続いて中に入ると沢山のタンスに囲まれた部屋の奥の中央に椅子に座りながら本を読んでいる癖毛の深く暗い深緑色の腰まである長い髪をした女性が居た。知性的という言葉がピッタリと似合う美人で、角度のによって色の変わる不思議な銀のような花と二つの葉で作られた髪飾りを付けている。バラのようだが何処か違い、カーネーションにも似ている何処か不思議な花だな。


「・・・・気配が深い」

「こりゃ驚いたな」

「師匠~ただいま~」

「お帰り、随分遅くなったね。それでそのお客さんは誰かね?」

「実はブレードディアに襲われちゃって、その時に助けに来てくれたの!」

「なんと、大変だったね。お二人さんうちの弟子を助けてくれてありがとね。うちに金はあまり無いけれど、薬ならあるから好きな物を報酬として渡すことになっても良いかい?」


 物腰は落ち着いていて、見た目は若いのに話し方はまるで老齢のよう。そして気配が何処までも深くまるで何千年も生きている大樹のように大きく雄大だが威圧感の無い不思議な気配だ。ブレストは彼女を見て驚愕していたが、どうやら聞きたい事が有るみたいだ。


「いや、報酬は大丈夫なんだが・・・・一つ聞きたい事が有るのだが良いだろうか?」

「ん?報酬は必ず払うが聞きたい事とは何だい?」

「もしかしてだが、万癒の魔女の弟子か?」

「・・・・どうしてそう思うんだい?」

「そこに飾ってある契りの茨は彼女の庭でしか見たことが無い。それにその髪飾りはブレスオブガイアだろう?それは彼女が弟子に送る花だ」


 あの髪飾りの不思議な花ってブレスオブガイアって言うんだ。いやそれよりも、万癒の魔女って・・・・フォルネーラさん達と同じような存在の弟子ってことか?確かに気配から考えれば納得できるけど・・・・


「ふふ、会ったことがあるようだね。そういう君は放浪の魔女の弟子か」

「・・・・一応な」

「残念ながら私は彼女の弟子じゃなく、古くからの友人だよ」

「友人?」

「そう、薬の事や植物の事を話す友人さ。これは友人の証として貰った物さ」


 そう言って懐かしそうに髪飾りを撫でる。俺の直感だけど嘘は言ってないようだな。


「君達には特別な自己紹介をしようか。私は生命の木のドライアド、名はライフ。長く生きているだけのただ薬師さ。ただ知り合いに魔女や竜が居るだけのね」

「生命の木・・・・」

「知り合いが普通じゃ無いんだが・・・・」

「師匠言っても良かったんですか?」

「この子達相手なら大丈夫だよ。あのヘルメアの弟子なんだから」


 生命の木と言えば、万能薬エリクサーの材料にもなる大量の魔力を持った魔法植物だ。生命の木は存在自体知られているけど、その木が生えている場所は人間が辿り着くには過酷過ぎて、一級や二級冒険者パーティーでなければ到達する事すら無理だと言われている。両断から欠損すら癒すエリクサーはその効果から、馬鹿みたいな値段と希少性によって幻の薬と言われ、その材料になる生命の木の葉にもとんでもない値段が付けられている。そのドライアドだと!?ブレストは良いけど俺に話すのは不味く無いか?


「あの俺は・・・・」

「ぼくからは悪意が感じられないし、その色が気に入ったから特別にね」

「え~・・・・」

「あの師匠、この二人をこの家に泊まれせたいのですけど良いですか?」

「勿論良いよ。ふたりは・・・・すまない名前を聞いても良いかね?」

「すまない名乗り遅れた。三級冒険者ブレストだ」

「五級冒険者クロガネです」

「ブレスト君とクロガネ君だね。二人は同じ部屋が良いかい?別々でも十分部屋はあるけど」

「それなら一緒で」

「分かった。ペシェ案内しておやり。ブレスト君今日はゆっくり休んで明日はヘルメアの話を聞かせてくれないかい?彼女とはここ300年程会って無くてね」

「あ~・・・・分かりました」


 少しブレストは戸惑ってるみたいだけど了承した後俺達は部屋に案内され、荷物を置いた後ライフさんの料理をご馳走になり詳しい話は明日と言う事で寝る事になった。


「なんか今日は色々あったな・・・・」

「だな。魔女の関係者に遇うとは思わなかったぜ」

「万癒の魔女さんってどんな人なの?会った事あるんでしょ?」

「ん~魔女の中だと比較的優しくて穏便な人だとは思うけど、少し怖い人だな」

「怖い?」

「うん、ちょっと怖い。まぁその話はまた今度してやるよ」


 そう言ってブレストは目を瞑ってしまったので俺も寝る事にした。全く知らない初めての外国、今日は沢山色々な事が有ったけど凄く楽しかったぜ。明日は何が見られるのかな?

読んで頂きありがとうございます!

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