閑話:辺境の若き狼5
次の日から明らかにクロガネ殿と俺との会話に変化が現れた。昨日頼んだ魔物についての話は夜番の時だけでは無く、日中でも色々と教えてくれるようだ。クロガネ殿の話を一言たりとも逃す事無く頭に入れながら、森を進んでいると昨日遭遇したあの三体がまた現れたらしい。ブレスト殿は俺にキックホッパーを任せてくれると言うので、俺は教えられた弱点を実践することになった。
ふぅ、一人で戦ったが言われた通り弱点を利用すれば簡単に倒せるのだな。
その後は魔物と戦いながらも変化は無く夜になってしまい、次の夜番の予定だったんだがもしかして寝坊したか!?あぁ、丁度交代の時間だったのか・・・・ふぅ良かった。夜番の間に今日の戦闘について評価して貰うと、クロガネ殿から見ても良き動きだったみたいで安心した。魔物に関して知識は持っていたが、その知識をどう戦闘に活かすのかが本当に重要なのだな。そういえば、ずっと気になっていたのだがその魔法は一体何の魔法なんだ?
なんと、錬金魔法だと。錬金魔法はありとあらゆる魔道具を作り出し、物質を作り出す高等な魔法で錬金魔法を使える魔法師は数少なく学べる場も少ない筈だ。一体何処で学んだのだ?
はぁ!?錬金の魔女様にお会いしたのか!?
我が国を救い、ただおられるだけで他国から守ってくださるとても有難い錬金の魔女様だが我々貴族が私欲や政治の為に接触するのは固く禁じられ、不可侵の存在となっているあの錬金の魔女様とお会いしたのか!?いくらお二人が強くともあの方と出会って無事なだけで凄いのに魔法を教えて頂いたのか!是非、その話を詳しく聞かせてくれないか!?
夜は錬金の魔女様の話で盛り上がりあっという間に次の日になったが、今日は明らかに異常だった。普通では考えられない程の大量のブラックスパイダーがクロガネ殿に襲い掛かってきたのだ。珍しくクロガネ殿が刺激してしまい群れを呼び寄せてしまったと言うが、群れだとしてもこんな数にはならないはずだ。加勢してあげたいのはやまやまなんだが、実はブレスト殿に止められているのだ。面倒臭そうにしていたが、難なく大量のブラックスパイダーを処理した後、進むとあと少しでインセクトマンが現れた場所に着くらしい。ブレスト殿はその豊富な経験によりこの異常について、あらかた予測が付いている様だが・・・・
ふむ、ここがその場所か。特に目に見える異変は無くただの森のようだが・・・・クロガネ殿の探知が間違っているとは思えないしどうなっているんだ?
魔力感知をしてみると分かると?俺も習得はしているが、クロガネ殿が探知できないものを俺が探知できるとは思えないんだが。・・・・・特に変な魔力は感じないな。異常では無いが違和感があるものか、よく分からないな。
「この木、魔力が多い。確かに異常な量じゃ無いけど少し多い気がする?」
「え、これぐらいは普通では無いか?こんなにも立派な木であれば魔力が宿るのは普通な気がするが・・・・」
「だけど、ほんの僅かに何か混ざってるような感覚があるんですよね」
「ふむ・・・・言われてみれば確かに」
クロガネ殿が違和感に気付いたみたいだが、この木の大きさを考えれば普通だと思うが集中して感じ取ると確かに少し混じっているような・・・・全然分からない。しかもこの木がインセクト系統が大量発生している理由と言うが、どういうことだ?いくら魔力探知が未熟だと言えど魔物の反応は感じ取れるはずだが。ブレスト殿の言う通り木の洞を見てみると、普通は木の内部が見える筈が黒く先が見えない
「これは・・・・」
嘘だろ、ダンジョンだと!?そんな異常なものがあればすぐに発見されるはずだ。ダンジョンと聞いて驚いてしまったがブレスト殿の説明を聞くと、そういう事情があったのだと納得出来たが・・・・まさに自分の常識が覆る事ばかり起こるな。だが、ダンジョンが森に影響させるなど一体・・・・まさか!
「スタンピードか!」
スタンピードは町や国でさえも亡ぼす大災害だ。ダンジョンから溢れ出した魔物は一心不乱に周囲の生き物を蹂躙し、倒す以外その魔物達を消し去る方法は無い。歴史上でいくつもの国がスタンピードによって滅んできたが、クロガネ殿の言う通り規模が小さすぎる気が。なるほど、ダンジョンの規模によってスタンピードの規模も決まるのか。それにしても、ブレスト殿はよくこんな事分かったな。普通はダンジョンだなんて思いつく事すら出来ない。
しかし、まさかダンジョンだとはな・・・・ダンジョンは危険だがこのまま放置すれば、首狩りトンボやインセクトマンなどにより被害が出てしまうだろう。速やかに対処しなければ・・・・は?依頼は原因の調査であり解決では無いから俺達に義務はないだと。それはあまりにも無責任じゃ無いか!民が犠牲になっても良いと言うのか!?二人はそんな薄情な事を言うとは思わなかったぞ。冒険者は義務が無いとしても、人々の為に善をなすのが当たり前の事だろう!もう、良い二人が動かないのであれば俺だけでも!
「ギルドを通していない依頼は受けられません」
「くっなら俺だけでもこのダンジョンの中に入る!」
「あ、偶々正解しちゃった」
は?沈黙を守っていたクロガネ殿が正解と言った事が分からず呆けてしまったが、ブレスト殿も苦笑いを浮かべている。クロガネ殿が言うにはブレスト殿は俺にこういった状況の対処法を教えようとしていたと言うが、一体どういう事なんだ?
冒険者はあくまで依頼によって魔物を討伐し金を稼ぐ組織であって地域の治安維持や善行をなす者では無いか・・・・分かってはいたが、苦しんでいる者を見捨てるなど本当にそんな事を出来る者が居るのか。いや、そうだよな。自分の命が掛かっているのだ、他者の為に投げ出せるものなどそう多くは無いだろう。だから、依頼と言う形を利用し組織に所属していることを逆手にとるのか・・・・なるほど。まるで貴族の揚げ足取りのようだな。クロガネ殿は言うには他にも多数の手段があったらしいが俺は一番危険な手段を取ってしまったか・・・・はぁ冷静さを欠いているな。
俺の為にやってくれたことなんだからクロガネ殿、そんなにブレスト殿を虐めないでやってくれ。あんな情けない顔をしたブレスト殿なんて初めて見たぞ。どんなに強い魔物よりブレスト殿にとってはクロガネ殿が弱点なんだな。
気を取り直し俺達はダンジョンの内部に入ったが・・・・確かに狭いな。文献で見た者はもっと広大だったはずだ。そして、所狭しと湧いていたブラックスパイダーをクロガネ殿が倒すと、奥から俺でも感じられる程の威圧感がした。
あれは、インセクトウォリアーか
重厚な外骨格にインセクト系統の特徴を持った生体武器を構えたその姿は、歴戦の戦士のようだ。流石にあれはブレスト殿も共に相手すると思ったのが、クロガネ殿が相手するらしい。俺の本気の打撃を軽々と上回る攻撃を次々と繰り出すが、どれもクロガネ殿の速さには追い付けていない。だが、クロガネ殿の攻撃は一切効いていない。高次元の攻め合いに俺は圧倒され、相手は同じ長物であり同じ属性であることに
格の違いを思い知らせれながらも手に汗握る戦いをした二人は、クロガネ殿の隙をついた動きによって終了した。
あれ相手に無傷で勝つのか・・・・本当に凄いな。
俺では数秒も持たないだろう相手に勝利したクロガネ殿との差を痛感しながらも、俺はインセクトウォリアーの動きを習得する為に学ばせて貰うことにした。
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#悪ガキと転生冒険者