閑話:辺境の若き狼3
クロガネ殿と話した翌日俺達はインセクト系統の数の多さを実感しながら森の中を進んでいると、角に花の蕾を咲かせた美しく可愛らしいディアと遭遇した。その魔物は初見で知識にも無かったが、見るからに好戦的では無くその体もしなやかでそこまで強力な力を持っているとは思えない。だが珍しいという相手を俺に任せてくれたので、嬉々として突撃するとそれに気付いたフラワーディアは逃げる様子を見せない。
よし、逃げないのであれば簡単に!
そのまま頭に一撃を入れようと思うと、角についていた蕾が開花し甘い匂いがしたかと思うと、次の瞬間俺は意識を失ってしまった。
「はっ俺は一体何を・・・・確かフラワーディアから良い匂いがして・・・・」
気が付いた時にはブレスト殿は笑いクロガネ殿は困った様子でロシェは心配そうに俺を囲んでいて、何があったか理解できていない俺は何があったのか聞くと、どうやら俺は眠らされてしまったらしい・・・・ブレスト殿の言う通り自分でも勝てる魔物だと見た目で安易に判断してしまっていたな。本で無害そうに見える魔物だとしても、強烈な個性を持っている者も居るのだと書いてあったのにこの体たらくか・・・・失態だ。今回は皆が守ってくれたから、無事だがもし一人だったと考えると恐ろしいな。今回の経験を教訓にして、次から分からない魔物は聞くことにしよう。だから、ロシェそう睨むんじゃない。ブレスト殿は俺に教えてくれただけなんだからな。
その後フォレストウルフと遭遇し戦闘したが、こいつらは森によく出てくるから対処法は知っている。ウルフ系統は群れで行動し、狩りを行う際も群れで連携し一番弱い奴から仕留める習性を持っている。と言うことは、狙われるのは俺だな。俺を取り囲み同時に襲ってきた奴を、バトルアックスを振るい三つ同時に頭を跳ね飛ばし戦闘は終了した。魔物と戦いながら森を進んで行くが異変は見つけられずあっという間に時間は進み、日が落ち夕刻になってしまったので今日はこの辺で野宿だな。食事が終わりクロガネ殿はあっという間に寝てしまったので、俺はブレスト殿と少し話をすることにした。
「今日も足を引っ張ってしまい申し訳ない」
「そんなに気にしてると、参っちゃいますよ。俺達は気にしてませんし、学びの場を得たって前向きに考えれば良いんですよ」
「そうは言ってくれるが、気になるものなのだ」
「そうですか、じゃああまり思い詰めないようにしてくださいね。そういえば、クロガネと話は出来ましたか?」
「あぁ、少しだけだが話すことが出来た。優しいのだなクロガネ殿は」
「助けを求める相手には手を貸しますからね」
「出会いは最悪だったが、仲良くなりたいものだ」
「それなら、クロガネに色々聞いてみると良いですよ。聞かれたことは分かる範囲であれば答えてくれますし、拒否することは無いと思います。クロガネには俺の知識を叩き込んでありますから、俺に聞くのとそこまで差は無いですし」
「ふむ・・・・」
「交代の時起こしますから試してみてはどうですか?」
本当はブレスト殿に魔物ことや森での動き方を聞こうと思っていたが、クロガネ殿と仲良くなってみたいしあの強さの秘密を知ってみたいな。なるほど、良い提案かもしれない。
「頼んでも良いだろうか?」
「えぇ勿論です。それじゃあ、夜遅くになりますから寝た方が良いですよ」
「分かった。それでは先に眠らせて貰おう。失礼する」
ブレスト殿の提案を受け入れた俺は地面で寝る事にまだ慣れてはいないが、今睡眠を取っておかなければ夜に起きる事も、万全な状態で明日を迎えることが出来ないだろう。目を瞑り何も考えないようにしながら、横になっているとやがて眠りに就いてしまった。
「テセウ様、お時間です」
「・・・・あぁ感謝する」
ブレスト殿がクロガネ殿に気付かれないよう俺を起こすと離れ、自分は寝る準備をして横になった。俺は起き上がりクロガネ殿の方を見ると昨日と同じよう、何かの魔法の練習をしていた。
随分まめなのだな。朝起きた時にも型の練習と魔法の練習をしていたしこのような状況だとしても、怠る事が無いのだな。暫くの間その様子を眺めていたが、こうしている間に貴重な時間が過ぎてしまうと思い立ち上がり近づくと
「夜更かしは良くないですよ」
「十分に寝たから問題は無い」
「そうですか」
一瞬俺の事を拒絶しているのかと思ったがただ俺の事を心配して声を掛けてくれたみたいだ。昨日と同じように隣に座ると、特に話すことなく魔法の練習を続けているクロガネ殿にまずは今日の謝罪を言わなくてはな。
「今日は大変迷惑をかけた、すまない」
クロガネ殿もブレスト殿と同じようを気を付けなくて良いと言ってくれるが、経験不足を理由にして済ませて良い問題では無い。そもそも俺があのような判断をしたのは、俺であれば勝てるという満身から起きた出来事なのだから改めなければ。
え、俺なら問題ないとはどういう事だ?
確かに勿論同じような失敗をしないよう何度も何度もあの場面を思い出し次は上手くやるための方法を考えてはいるが・・・・こんな俺の事を信じてくれるのか。それならば、俺もその期待に応える為に色々な事をクロガネ殿から学びたいのだが、良いだろうか?
よし、許して貰えたな。
さて、聞きたい事は沢山あるんだ。どうやって森の中を足音も立てずに歩いているんだ?癖だと?その方法のコツはあるだろうか。フラワーディアの対処法はどうすれば良いのだ?俺の考えだと近づいた者に反応し花を開花させるのであれば、遠距離から魔法で潰してしまえば・・・・その方法だと素材が台無しになるか。なんと、あの角は高値で取引され良い薬の材料になるのか。それならば潰す訳にはいかないな。つまり、魔法であいつを囲んで逃げ場を無くし遠距離による攻撃で倒せば良いということだな。
フラワーディアの特性で魔力を敏感に察知するから魔法を準備している間に逃げられる可能性があると
むぅ中々に難しい相手なのだな。素早く魔法を使えば問題無いと言うが、俺はどうしても詠唱が必要なんだ。そもそも、クロガネ殿は何故あのような高等な魔法を使っておいて詠唱が必要ないんだ?何となく出来るようになっただと、これが差か。
遠慮なく多くの質問を投げかけるが全く嫌な顔をすることなく答えてくれるクロガネ殿。俺が持っていない知識を沢山持っている様で、魔物や森そして戦いの事に関しては全く悩む事無く答えてくれるので相当勉強して来たことが分かるな。その間も魔法を練習する手を止めていないが、本当にその魔法は一体何なんだ?木片が形を変えたり炭となったりと忙しないみたいだが・・・・
色々な事を質問し答えて貰っていると、あっという間に時間は過ぎて行き空は明るくなって来てしまった。
「そろそろ時間ですね。もっと質問に答えてあげたいんですけど、ちょっと朝の鍛錬だけやらせてください」
「あぁ、勿論だ。見ても良いか?」
「良いですけど、面白い物じゃないですよ」
そう言って立ち上がったクロガネ殿は少し空間のある場所に居くと、腰に携えたナイフを抜き目にも止まらない速度で素振りをし、体も動かしながらまるで見えない相手と戦っているかのような動きをし始めた。俺には無い身軽さと素早さ、そして高速の連撃に柔軟さに目を奪われてしまった。そして一通りの動きが終わると、魔法の矢を無数に作り出してはゆっくりと動かし体の周囲に纏うように動かし始めた。
なんて数だ。動きは遅いがあの数を一度に操るのは相当な精神力が必要になるはずだ。
「クロガネ殿は何かの型を習ったのか?」
「いや、全部自己流ですよ」
実践で使える程の動きを自分で作り出した訳か・・・・流石だな。
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