閑話:辺境の守護者
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初めて会った時の印象は、見た目と中身が不釣り合いな二人だと思った。太陽のように輝く揺らめく炎のような髪をした男は報告で効いたように冒険者らしくなく小綺麗で、まだ子供の顔をしているがその立ち振る舞いは落ち着きを放っていた。一見強そうには見えないが、対峙してみるとその強さがよく分かる。
こいつは、俺が戦っても勝てないかもしれないな。
これでも、この国の中では俺は上位に位置する実力を持ってるつもりだったんだがな~・・・・世の中は広いもんだ。
別に勝てないかもしれないってだけで、実戦になったらどんな事でも起こり得るからもしかしたら俺が勝つもしれないけどな。まぁ報告を聞いた限りだと、友好的で敵対する必要は無さそうだけどな。そして、こっちが報告にあった首狩りスパイダーとワイズスパイダーの罠を見破って倒した子供か・・・・本当に髪も瞳も黒いんだな。
殆どの奴らが黒い存在は不吉の存在であり魔に属するものだと思っているが、俺はそんな迷信どうでも良いし俺の町では差別なんかを許すつもりは無い。その所為で色々な場所から訳ありが来たりしているが、害を成すつもりが無いなら使える人材は使うだけさ。だから黒だからどうこう言うつもりは無いが、純粋な黒は見たことが無い。
反応は子供だがその立ち振る舞いと俺の事を見る目は鋭く俺の奥底を見透かすように深く暗く底が見えない目をしているし、俺を警戒しているな。そんな目をするってことは、まだ10も行かない子供だろうに相当苦労して来たみたいだな。しかも、正面に立っているというのに気配が薄い。スキルのおかげで、直感が鋭くなっているはずなんだがな・・・・本当に五級か?
用件を話し終え館に戻るとサピロにあの二人を調べるよう頼み仕事に戻ったが、どうもあの二人が気になる。俺の勘があの二人を見逃してはならないと言ってるんだよな~丁度森の異変を調査する人員が欲しかったところだし、後でギルド長にあの二人の事を聞いてみるか。
「よう、マリウス」
「これはこれは辺境伯様ようこそいらっしゃいました」
「小芝居は良いって」
「ふっつれないな。それで、夜に何の用だ?」
現ギルド長であるマリウスとは長年の付き合いで、俺が子供の頃からこのギルドに勤めている。この周辺の事を誰よりもよく知り、その実力も相応のものだ。
「実は近々冒険者にこの森に起きている異常の調査を依頼してみようと思っているんだが、相応しい者は居るか?奥にまで入って貰うつもりだから実力が高い者が良いんだが」
いくら長年の付き合いと言えど冒険者を守り管理する立場であるマリウスに、冒険者のことを直接聞いても正当な理由が無い限り答えてくれないだろう。だから、少し遠回しの利き方をしてみる。今この町の冒険者で一番実力があるのは、ブレストと言う冒険者のはずだから答えはきっと・・・・
「ふむ・・・・調査が出来て森の深部にまで入れる実力の持ち主か。今なら二人居る
」
「最近来た奴か?」
「あぁつい先日来た三級と五級の奴らなら条件を満たしているだろう」
「三級は分かるが五級はどうなんだ?」
「疑問に思うのは分かるが俺が保証してやろう」
「ふ~ん、どんな奴なんだ?」
マリウスが太鼓判を押すってことはやっぱりあの子供クロガネは俺の見立て通りってことだな。
「一人は最短で三級まで上り詰めどんな状況にも対応出来る力を持っていて、調査依頼の経験もあり文字も堪能だ。この町の中に居る冒険者の中で一番の実力を持ってると言っても良いな。もう一人は五級だが気配を消すのに優れ戦闘面でも十分な力を持っている。この二人はパーティーだから連携も問題無い筈だ」
「人柄はどうなんだ?」
「・・・・どちらも達成率はトップで依頼人からの評判も高い。俺としては、二人共掴みどころが無い。人と接している時も隙を見せず、相手と自分をしっかりとした線を引いているようだった。物腰は柔らかく信頼は出来ると思うが、あくまで仕事相手として対応されるだろうな」
長年冒険者を見ているマリウスが言うなら間違いは無いだろうな。俺が何を考えているのかお見通しのようで、マリウスは笑いながら
「気に入ったのか?」
「気になるだけだ」
「まぁ、ギルド長の立場からすると優良物件ではあるな。個人からすると、善良な奴らだから好きにしな」
「そうか」
欲しい情報を手に入れたし、後は館に帰って子供と愛する妻と家族団欒だ。長いこと砦に居ちまったからな~寂しい思いをさせちまっただろうし、暫くはこっちの館に居たいが呼ばれれば直ぐに行かなくてはならない。だからこの貴重な時間を大事に使わないとな。
数日間子供達と関わる時間を何とか作り、夜は溜まっていた仕事をこなすという生活をしているとある晩ナイフを首に当てられているかのような冷ややかな殺気を感じた。
これは・・・・前に覚えがあるな。
俺がまだ10代の頃森に今と同じような異変が起きた時に親父に連れられ対峙したあのインセクトマンの気配だ。何処だ?何処から来るんだ?
殺気は明確に感じるが気配が薄く探るのが難しい。だが、早く見つけなければ町に甚大な被害が出てしまう。俺が突然席を立ったこと一緒に書類を整理していたサピロが驚き
「どうかなさいましたか?」
「魔物の襲撃だ」
「!すぐに衛兵に」
「いや、まだ距離があるし近付けるのも危険だ。俺が迎え撃ってくる」
「危険です。せめて護衛を・・・・」
インセクトマン相手では衛兵達には荷が重い。インセクトマンの種類は多種多様で、もし対処を間違えれば町に大きな被害が出てしまうから、森に入って迎え撃った方が良い。使用人の中にはインセクトマンと戦っても問題が無いやつが数人いるが、今回は早さが第一だ。俺は止めるサピロの声を無視し武器を持ち、館を飛び出した。
「さて、どこから来る?・・・・・そっちか」
塀の上に一飛びで上がり森へと意識を集中させインセクトマンを見つけた俺は闇に包まれた森の中を迷うことなく一直線に突き進む。もう少しで辿り着く・・・・ん?止まった?いや違う誰かが戦っているのか。嘘だろ、いくらインセクトマンに集中しているとは言えど、前を走っている奴の気配に気付けなかったのか?この時間帯に森をうろついている冒険者なんて滅多にいないはずだ。しかも、俺の感知を抜けてくるとは・・・・一体何者だ?
戦いの気配を感じ俺も気配を消して、現場まで辿り着くとあのクロガネがインセクトマンと対峙をしていた。
五級のはずだが・・・・素早いマンティスのインセクトマンの攻撃を食らう気配すら無いな。しかも魔法をあんなに自由に操るとは・・・・いや、俺ですら町から遠く離れたインセクトマンの気配を探るのに時間が掛かったのに、俺よりも先に感知して辿り着いたやつが弱い訳が無いな。
あのクロスボウは魔道具か?魔法を放って対処が遅れた所に背後に周って・・・・うわあの攻撃はえげつないな。だが、あいつらはしぶとい背中を見せれば・・・・油断なしか危なければ助けてやろうと思ったが出番なしか。
「ふ~終わった終わった。それで、ずっと見てるけど何か用ですか?辺境伯様」
まぁ、あのインセクトマンの隠密を見破れるなら俺程度の隠密じゃバレるよな。敵意が無いことを示すために手を上げながら、姿を現すと俺自ら倒しに来たことに呆れているが理解はあるようだ。クロガネの言う通り俺が出なきゃ犠牲者が出るのは確実だ。インセクトマンの事を話していると、俺を探しにきた使用人達の気配に気付いたクロガネは面倒ごとは御免だと、感心する程の隠密をしながら町へと戻って行ってしまった。
「シュナイザー様!」
「ご無事ですか!?インセクトマンはどちらに?」
「もう倒し終えた。帰るぞ」
「はぁ、そうですか」
「今回は良かったですけど次からは私達を連れて行ってください!何のための護衛だと思っているんですか!」
「緊急だったんだから仕方が無いだろ。そうだ、お前達一つ質問なんだが」
「仕方が無いって・・・・はぁ・・・・何でしょうか?」
「俺以外の気配を感じたか?」
「いえ、誰の気配もしませんでしたけど」
「誰ともすれ違っていませんし、周囲に人の気配は無いと思います」
「そうか」
こいつらとすれ違ったはずなんだが、それでも気付かれないか・・・・ふっ面白いやつだな。クロガネか・・・・あの性格から考えると何の策も無しに尋ねると逃げられそうだな。まずは関われるようにギルドから手を回しておくか。
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