錬成魔法の色々
淡々と作業をこなし続け火属性の投げナイフを作り終え、次の材料を取ろうとしたところでようやくテセウに気付いた俺は驚きながら
「うお、いつの間にテセウ来てたんだ?」
「かなり前から居たな。あんなに気配に敏感なクロガネが今の今まで気が付かないとなると相当集中していたのだな」
「ついね。同じことの繰り返しだから、思考を全て魔法に使ってたから全然気づかなかったぜ」
「やはり難しいのか?」
魔法に思考を全て使っていると言ったから、そこまでしないと使えない魔法なのかと勘違いされちまったみたいだな。俺は次の属性の素材を使い易い位置に移動させ、完成した火属性の投げナイフが入った箱を退かす。そして、テセウに分かりやすいようにゆっくりと魔法を使う所を見せることにした。
「いや全く難しい作業じゃないぜ。錬金魔法は、知っての通り素材をこうやって分解して分解した素材の性質を混ぜたり消したりしたら魔法を籠めて形にするために錬成をするんだ」
「ふむ、先程は一連の作業が早過ぎて理解して無かったがそのように工程が分かれているのだな」
「難しいと言われているけど、分解する加減や分解した物を保護するのコツを掴んでしまったらある程度は出来るようになる。今回は同じ素材を分解して錬成しているので、いちいち力加減を調整しなくても良いから楽な作業なんだぜ」
「そうなのか」
「効果によっても難易度が変わってくるんだが今回やってるのは、魔石の魔力を溜め込む性質と素材の属性を増大する性質を鉄に合わせているだけだからそこまでの難度じゃ無いな。だから、俺が集中していたのはただ単純に作業の効率を高めるためだぜ」
形が違うだけで棒手裏剣と同じようにすれば良いだけだから慣れたもんだぜ。
「そう言うことだったのか。錬金魔法は高難易度の魔法だと聞いていたが、クロガネの言い方だと簡単な魔法に見えてしまうから不思議だ。実際は違うのだろうけどな」
「簡単に見えるがそれは、クロガネ殿が毎日練習をしていたからだろう」
「そうですね。毎日練習をしていたクロガネの努力の結果だ」
「そんな事無いですって。俺はまだまだですしフォルネーラさんから色々教わっている最中ですからね」
テセウへの贈り物を作るために沢山錬金魔法を使ったおかげで、今は作れるものが増え錬成の速度は上がったけれどフォルネーラさんから渡された魔導書の次の段階で躓いちまってるんだよな。命のある物を材料にし、生かしたまま錬成が出来るようになったら次は複雑な構造を持つ魔道具の作成なんだが、これが中々に難しくて上手く行かない。
「錬金の魔女様から教わったと前に言ってたな・・・・その内クロガネは有名な錬金魔法使いになるかもしれないな」
「あくまでこれは冒険に必要な火力を求めた結果錬金魔法を練習してるので、何かを作って売ったりはするつもりは無いぜ」
「なるほど、それならば錬金魔法を使う冒険者か。いやクロガネ殿の場合はあの気配の消し方や素早さの方が目を引くだろうからそう呼ばれるのはあまり無さそうだ。二つ名もそっち関連になるだろうな」
三級以上で特徴的な魔法や戦闘スタイルを持っている人には二つ名が付くことがあるが、もし付けられるとすれば俺の見た目関連の事だろうな。もしブレストに二つ名が付いたらどんな名前になるんだろう。魔剣士?いやなんか違うな・・・・魔法剣飛ばしとか・・・・うん、ダサいな。
「二つ名なんてまだまだ先の事ですよ。それじゃあ少し休憩したので作業を再開しますね。もし何か用があったら肩を叩いて貰っても良いですか?」
錬金魔法について少しだけ説明をしたけれど、俺にはまだ大量の作業が残っているから作業に戻らないとな。作業に戻った俺は次々と錬成していき途中で水分補給をしてはいるが一切休む事無く属性投げナイフを完成させていく。品質に違いがあるといけないから、出来上がった後に念の為全て確認しているので不良品は混ざって無い筈だ。あと残すは闇属性の投げナイフだけとなった所で、俺の魔力が底をつき外はもう完全に日が落ちていた。
「ん~一つを作るのに消費する魔力は微量だけこの数こなすと流石に魔力切れになるな」
魔力が切れる前に一旦作業を止めて周囲を見渡してみると、いつの間にかシュナイザー様とテセウは居なくなっていて、この倉庫に居るのは俺だけだ。いくら信用してるからと言っても、監視も無く倉庫に一人残すのはどうかと思うけどな~
「まぁシュナイザー様だしな」
シュナイザー様の事だし、俺が何かをするなんてこれっぽっちも考えて無いだろうな。俺は消耗した魔力を回復するために、マジックバックから食事を取り出そうとすると俺の方に向かって来るテセウの気配を感じた。そのまま進路を変える事無く俺が居る倉庫に来ると、扉を静かに開き作業を止めている俺を見た。
「お疲れ様、作業は終わったのか?」
「いや、あと闇属性が残ってるが魔力が切れそうだから一時休憩だ」
「そうか、それなら丁度良かった。夕食の準備が終わったから呼びに来たのだ」
「お、マジか。すぐ行く~」
あぶね~もう少し遅かったらマジックバックに入っている物を食べちまう所だったぜ。明日は朝早くに出る予定だから朝食は一緒に摂れないし、今日が最後の一緒の食事だな。俺は服に付いた埃を払い作業用の部屋着から、人前に出ても大丈夫な程度の服に着替えるとテセウと一緒に食堂へと向かった。
「お待たせしました」
「いや、俺達も丁度席に着いた所だ」
食堂にはブレストも含め全員既に席に着いていたので俺は急いで席に座り、シュナイザー様の合図で最後の夕食が始まった。誕生日だと言うことで、今日の食事はいつもより華やかな飾りつけがされ一つ一つの量は少ないが種類が豊富だ。パーティーに出ていた料理もあるが、グレートブルのステーキなど豪華さはこっちの方が上だな。
「どれも美味しいですね。特にこのステーキが絶品です」
「流石です」
「今日はテセウの誕生日だからな奮発したぜ」
「お肉~」
「柔らかくて美味しい~」
「えぇ、これはいつものと比べても質が違いますね」
「あぁ美味だ」
グレートブルはブル系統の中でも特に美味いと言われている魔物だが、数が少なく遭遇することも稀であるため滅多に食べることが出来ないのだ。そもそも肉が高価なのに新鮮さを保つためにはマジックバックが必要になるし、運ぶためにも金が掛かるから確かに奮発だな。食事を終えティータイムとなってゆっくりと休みながら話は、俺が作っていた武器の話となった。
「それで、武器の錬成はどれくらい終わっただろうか?」
「あとは闇属性を作るだけですね」
「もうそんなに作ったのか早いな。あの速度なら不思議では無いが、注文した俺が言うのもなんだが無理はしていないか?」
「魔力は消耗しましたけど無理はして無いので大丈夫です!この食事を取ったおかげで消耗した魔力はすぐに回復しますしね」
「れんせい~?」
「何作ってるの~?」
シュナイザー様は俺が無理をしていないか心配してくれたみたいだが、消費したのは魔力ぐらいで別に疲れてはいないんだ。錬成と言う言葉に興味を持ったのかララ様とルウ様が目を輝かせて言う。
「武器を作っているんですよ」
「武器か~」
「僕たちはもう持ってるもんね・・・・」
「シュナイザー様、今魔法を使っても良いですか?」
「構わないぜ」
「それでは失礼して」
武器と聞いて自分達が遊べるものじゃ無いと分かった二人は目に見えて残念そうにするので、俺はシュナイザー様に許可を取り二人にある物を作ってあげる事にした。
「お二人は何の色が好きですか?」
「ん~」
「クロの色が良い~」
「だね!」
「え、俺の色ですか」
念の為シュナイザー様とリリー夫人に確認を取ると頷いてくれたので、使うのはフォレストウルフの毛皮と黒の染料となる鉱石それと清浄を保つために光の魔石だな。綿は沢山持っているから後は瞳用の宝石はクリソベルキャッツアイを使うか。それに、スパイダーの糸を使って丈夫かつ手触りを良くして・・・・柔らかくするために羊毛も使うか。
次々と出てくる素材に二人は目を輝かせながら釘付けになっているので、その様子を楽しみながら一つ一つ丁寧に分解していく。
「消えた~」
「不思議!」
丁寧かつ無駄な物は省いて特性や性質を混ぜってっと。形は何度見たことがあるから簡単に作れるけど動くようにした方が楽しめるよな。最後に俺の守りの魔法を掛けてあげればあとは錬成して終わり!
「はい、どうぞ」
「うわああああ、ウルフ!」
「可愛い~もこもこ~」
「足が動く!凄い!本物みたい~」
二人に作ってあげたのは二人が好きだと言う二匹のウルフの大きなぬいぐるみだ。実際の毛皮を使っているからまるで本物のようだけど羊毛の性質を付けたから、柔らかくて触り心地が良い筈だ。解体も習ったおかげでウルフの体の仕組みも理解しているから、動くようにも出来たし我ながら良い出来だと思う。
「ララ、ルウしっかりとお礼を言わなきゃ駄目ですよ」
「あ、そうだった!」
「クロ~ありがとう!!」
「大事にするね!」
「えぇ、そうしてあげてください」
二人はウルフのぬいぐるみを両手で抱きしめながら、満面の笑みで喜んでくれたので良かったぜ。俺の魔力が入っているから夜は悪夢を見なくなるし寝つきも良くなると思うぜ。
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