プレゼント
俺達は話しながらテーブルに載った数々のご馳走を皿に乗せ、テーブルの周りは人が沢山集まっていたので少し人が少ない庭の端にあるベンチでゆっくり食事を取ることにした。
「随分よそったな」
「朝の模擬戦でかなり消耗したからな。あの後はパーティーの準備で食事を取る暇があまり無かったのだ」
「なるほど、おつかれさん」
俺は少し腹が減った程度だったから、様々な物を少しずつって感じでよそってきたけどテセウは肉料理を沢山皿によそっている。朝の模擬戦で大量に魔力を消費しただろうから、腹が減るのは当たり前だな。
「こんな沢山よそうのはマナー違反なんだが食欲には勝てないよな」
「なにきっちりとした場じゃ無いし、主役のテセウを祝う場なんだから好きに食べて好きにすれば良いと思うぞ。誰も文句は言いやしないって」
「そうか、それなら遠慮なく沢山食べさせて貰おう」
そう言って笑顔を浮かべたテセウは皿によそった肉を次々と口の中に入れていく。普通ならこんな速さで食べていたら下品な姿になるけど、テセウは早食いをしながらも食べる所作が綺麗なので全然そうは見えない。こういう所を見ると、テセウって貴族なんだな~って思うよな~
「んじゃ俺も食べよっと。少し腹が減ってたんだよな~」
まずはローストチキンからっと。ん~美味い!こんがりと焼いた表面がパリパリで中はパサついて無くて肉汁たっぷりで嚙めば噛むほど肉の旨味が滲み出てくる。そして、このチキンを美味くしているのはハーブと香辛料だ。ハーブ特有の鼻に残る爽やかな匂いに、塩と胡椒でしっかりと味付けをしているから肉の旨味に負けていないし引き立てている。
「うま~~~~」
「良い顔をするな。俺も食べてみよう・・・・うん、確かに美味い!」
「はぁ~ブルブさんが作る料理はどれも絶品だな。これがもう食べられなくなると思と少し残念だぜ」
ブルブさんとはこの館で料理長を務めている女の人で、男顔負けの肉体を持ち魔物溢れる森に食材を求めに入る逞しく強い女性なのだ。この館でお世話になっている間ずっとブルブさんの飯を食べていたけどれも本当に美味いんだよな。
「俺も王都に行ったらブルブの料理が食べられなくなるのは残念だ。寮の食事は父上が言うにはブルブと比べると劣ってしまうと言っていたしな」
「それは比べるのが可哀そうですよ・・・・あ、美味い飯と言えば俺が泊まっていた丸焼き亭という宿の店が美味いから時間が有ったら行ってみると良いぞ」
「そうなのか?是非行ってみよう」
ブルブさんは豪快に見えるけど繊細かつ計算尽くされた料理を作り、ババルさんは豪快で素材の旨味を最大限に引き出す料理って感じで違うけどどっちも美味いのは間違いない。
「ん~この菓子も美味いな!サクッとして軽いのに中のクリームが濃厚だぜ」
「シュークリームと言う最近できた菓子らしいぞ」
「へ~菓子も作れるなんて凄いよな」
今日のパーティーには肉料理は野菜料理、体を温める為のスープから甘い菓子まで種類豊富だからどんな人でも好みのものがあるだろうし食事も楽しめるな。俺達は皿によそった料理を平らげ、少し休憩しながら盛り上がっているパーティーを眺める。
「毎年こんな感じのパーティーをやってるのか?」
「いや、流石に毎年はやっていない。いつもは身内のみで祝う事になっているのだが12歳と言うのは特別な歳と言うことで大きなパーティーを開催するのが恒例となっているのだ」
「なるほど。確かに12歳は学院に行く歳だから特別だもんな」
「あぁ、少し不安はあるが新しい場所そして新しい知識を学べることに期待の方が上だな」
「そうか。それじゃあ、良い学院生活と旅になるように俺からプレゼントだ」
「?」
俺はポケットの中に入れておいた艶やかな光沢を放つ木材で作られた小さな箱を取り出しテセウに見せる。テセウはそれを見て不思議そうにしているが、気にせず手渡す。
「開けてみな」
「分かった・・・・凄く・・・・綺麗だな」
言われた通り箱を開けて中身を見たテセウは少し驚いた顔をした後、表情を和らげ見惚れるように笑顔になってくれた。
良かった~気に入ってくれたみたいだな。
「ふぅ~・・・・緊張したぜ。初めて作ったんだけど気に入ってくれたみたいだな」
「あぁ、ありがとうとても素敵な贈り物だ」
初めての友人でこんな贈り物をするなんて初めてだから緊張したし、もし気に入らなかったらどうしようかと思ってたけどその顔を見る限りだと嘘を言っていないし気に入ってくれたみたいだな。はぁ~一安心。
「まるで月の中に夜空が入ったようだな・・・・繊細で月の模様が良く再現されている。これはどうやって使うんだ?」
「ベルト飾りだからこれをベルトに挟んで使ってくれ」
「分かった。本当に素敵な贈り物をありがとう」
「いや~そんなに喜んで貰って良かったぜ。最初はイヤーカフとかにしようと思ってたんだが、ベルト飾りにして良かったぜ。それなら服に隠せるし目立たないからいつも付けられるだろ?」
「隠す?こんなに綺麗なのに何故だ?」
「そりゃ色がな。俺が作って魔力を籠めるとどうしても黒になっちまうけど、テセウが付けるには相応しくないだろ?」
隠すと聞いて不思議そうにしてるけど、その色は隠すべき色だろ?
「・・・・クロガネ一つお願いをしても良いか?」
「え、勿論どんな願いでも叶えてやるけど・・・・もしかしてそれ本当は気に入らなかった!?」
相応しくないと聞いて少し考え込む様子を見せた後テセウは俺にお願いをしてきたが、もしかして本当はそれ気に入らなかったのか!?そうだよな、黒なんて普通はよく思わないだろうし、ましてや身につける物だもんな。仕方が無いこれは俺の考えが甘かったし、どんな願いでも全力で叶えてやるぞ!
「いや、そうでは無い。だが、このベルト飾りをイヤーカフに変える事は可能か?」
「えっ・・・・出来るけど・・・・」
錬成魔法で作った物だから形を変えるのは簡単だ。だから、どんな装飾品の形にも出来るが何故よりにもよってイヤーカフなんだ!?
「なら、イヤーカフにして欲しい」
「いやいや、駄目だって!テセウはこれから王都に行くんだろ?そんな目立つ場所にこれを付けたら何を言われるか」
「願いを聞いてくれるのだろう?」
「そうだけど・・・・」
平民が黒を身に着けていれば暴行を受け差別され嫌悪されるというのに、いくら貴族だからと言って着けていれば偏見の目で見られるぞ。
「イヤーカフにするには色が不味いだろ。いくらテセウが王都に行ったことが無いとはいえ黒が好ましくないのは分かってるだろ?」
「あぁ、知っている。だが、それがどうしたの言うのだ?それに、これは俺の大事な友人であり師匠でもある方が作ってくれた物だ文句を付けるのはやめて貰いたい」
「え~・・・・」
「俺はどう思われようがこの贈り物を目立つ場所に付け多くの人に見せびらかせてやりたいのだ。これは大事な友人から貰ったとても喜ばしく美しいものなんだぞってな。もし、文句を付けてくるのであれば受けて立つし、黒への偏見を消し去ってやる」
真剣な顔をして言うテセウは何処にも迷いが無く、覚悟が決まっている様だ。こうなっちまうと、テセウは頑固で意思を曲げないんだけどこればかりは駄目だ。
「でも、それでも俺はそんな思いをさせたくない」
「クロガネ、俺はそんなに弱い人間か?そこまで頼りない人間か?」
「そんな事は無い!けど」
「今の俺はそんな心無い奴らに負ける気は無い。俺をあまり舐めるなよ?これでもシュナイザー辺境家の長男なんだからな。もしそんな事をいう連中は俺の全身全霊をもってして叩き潰してやろう」
自信に満ちた表情で言うテセウはまるでシュナイザー様のようで、流石はあの人の息子だな・・・・はぁここまで言われたんじゃ止めるのは無理だな。
「分かったよ、全く頑固なんだから・・・・中身を貸してくれ」
「あぁ、頼む」
俺はテセウから作ったお守りを受け取ると、両手で優しく包み込み目を瞑り集中する。あんな覚悟を持って言ってくれたんだから、俺もそれに相応しい物を作ってやらないとな。俺に宿る魔力を掌に送り込み錬金魔法を使いながら、考えることは一つ
俺の魔力が俺の望みを叶えてくれるならお願いだ。この誠実で頼もしくて心優しい友人を必ず守ってくれ。その為なら俺の魔力を好きに使って良いから!
強く強く心の底から願っていると、制御出来ていた魔力が掌から魔力が溢れ出し俺の制御から離れ俺の掌に吸い込まれるように消えていく。あまりの魔力の多さに目に見えるほどの魔力によって黒い輝きが放たれ、魔力の気配感じた人達は目を開きならが俺達を見ている。だけど、もう止められないし止めるつもりもない。
「クロガネ!?」
「・・・・大丈夫だ」
溢れ出し制御が離れた魔力が全て吸い込まれると魔力一気に持ってかれて、少しふらついてしまいテセウが心配そうにしているが少し休めば回復するから大丈夫だ。それよりも
「ほら、出来たぜ」
「・・・・凄い先程より深みが増して満天の星空のようになっている。あんな大量の魔力を籠めた筈なのに、それを全然感じないなんてどうなっているんだ?」
「装飾品で存在がバレたら良くないだろ。致命傷を負った時に急速回復するのと、危険が迫った時に守ってくれる魔法を籠めたから、お守りとして付けておけよ」
「肌身離さず付けておく。本当にありがとう」
そう言ってテセウは俺からイヤーカフを受け取り右耳に付けた。輝くような金髪のテセウに夜空のように輝くそれは意外と似合っていて邪魔にもならなそうだな。
「どうだ似合ってるか?」
「おう、似合ってるぜ!」
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