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誕生日おめでとう

 暫くテセウの周りに人が居なくなるのを待っていると、一旦館の中に戻って行ったシュナイザー様がリリー夫人とララ様とルウ様を連れて会場に戻って来た。リリー夫人は若葉色をしたレースのドレスに色とりどりの花の刺繍がされていて、頭には植物の蔓を模した銀色の髪飾りを付けさながら植物の女神のような姿をしている。ララ様とルウ様は二人ともお揃いのオレンジのドレスを着ていて、二人の好きな狼の刺繍が入っており可愛らしい恰好なのに格好良さもある素敵な姿だ。


「おお~綺麗なドレスだな」

「だな。相当金掛けてるぞあれ」

「だから、そう言うこと言わない」

「いてっ」


 本日二回目の叩きを受けながら、眺めているとリリー夫人を見た住民達が歓声を上げそれに手を振って応えるリリー夫人。ララ様とルウ様は走り周りたそうにしているが、二人の手をしっかりと握っているシュナイザー様とリリー夫人がそれを許してくれず不満そうだな。


「皆様今日は私の息子テセウの為に集まってくださってありがとうございます。ささやかなおもてなししか出来ませんが、是非このパーティーを楽しんでください」


 挨拶が終わるとリリー夫人は住民達と交流し始めシュナイザー様も衛兵や住民の男達と盛り上がっている。ようやく解放されたララ様とルウ様は元気よく走り出し、俺達の元へ一直線でやって来た。


「ブレスト~」

「クロ~」

「はいはい、二人共綺麗なドレスですね」

「狼の刺繍もカッコいいぜ」


 俺達の名前を呼びながら目の前で胸を張り腰に手を当ててドレスを自慢するようにドヤ顔をしていたので、俺達は素直に褒めると二人共満足と言う顔をしてにやけている。


「でしょ~」

「作って貰ったんだ!」

「狼好きなの~」

「前はズボンだったから今日はドレスなんだ!」

「どっちも良いよね~」

「うん!ドレスも可愛くて好き~」


 二人はドレス姿でクルリと回ると嬉しそうに笑う。いつも話し掛けるのはララ様で良く話したり色々な事を説明したりしてくれるのはルウ様だ。ルウ様は男子だけど、双子で顔つきがリリー夫人に似ているからどちらも女の子に見えるな。


「二人ならどんな格好でも似合うだろ」

「だよね~!」

「でも、ドレスを着てると男の子なのにとか言われるんだよね~」

「そんなの言わせておけば良いんですよ。どんな格好をしていたって、二人は素敵だと思いますよ」

「もし、なんか意地悪なこと言われたら俺達に言いな」


 こんな素直で良い子な二人に意地悪する奴は俺が懲らしめてやる。


「大丈夫~」

「言われた時はやり返してるからね!」

「ぼっこぼこにするの~」

「ふふん、文句なんて二度と言わせないようにするんだ!」

「あ~・・・・まぁうん、その調子だぜ」

「逞しいな」


 二人共誇らしそうにやり返したと言うのであまりの逞しさに俺達が圧倒されちまうぜ。確かに二人共もう武術の訓練をしているから、町で遊んでいるようなガキと戦ったら圧勝出来るだろうな。女の子がぼっこぼことか言うもんじゃ無いだろうけどそれぐらい逞しい方が俺は良いと思うぜ。


「好きな物は好きなんだもん!」

「我慢なんかしたく無いもん!」

「・・・・そうだな」


 俺はついさっき好きな物を好きに買ったり身に着ける覚悟が出来たってのに、この二人は前からその強い意思があったみたいだな。本当に逞しいし、格好良いぞ。


「それじゃあ、おやつ~」

「見せて終わったから、おやつ食べてくるね~」


 俺達に対するお披露目に満足したようで、二人は仲良く笑顔を振りまきながらテーブルに並んだおやつの元へ走り出してしまった。


「走ると危ないですよ~」

「転ばないよう気を付けろよ~」

「「は~い」」


 二人とも元気いっぱいだな。テセウはまだ忙しいみたいだし俺も小腹が空いたし何かつまもうかな~テーブルに載ったご馳走は種類豊富で丸焼きから砂糖菓子まで選びたい放題だな。腹ごしらえをしようと、テーブルに向かおうとするとブレストが


「俺が美味そうな物取り分けてこようか?」

「ん?いや自分で出来るけどなんでだ?」

「ほら、テセウ様ようやく手が空いたみたいだぞ」

「あ、本当だ」


 俺が見た時はまだ多くの人達と話していたのにいつの間にかテセウを取り囲んでいた人達が居なくなっていた。どうせ、パーティー中は色々な人と話すだろうし今を逃すと話し掛けるタイミングを失っちまいそうだな。


「あ~それじゃあテセウと少し話しながら食べてくるよ。ブレストは一人で食べれるか?」

「俺を子供みたいな扱いしやがって・・・・寂しがり屋なんかじゃ無いからさっさと行ってこい」

「あはは、冗談だって」


 俺は不満そうな顔をするブレストに少し笑いながら離れテセウの元へ向かうと、それに気づいたテセウは笑顔だが少し恥ずかしそうにしながら俺を迎えてくれた。手を振りながら近づき目の前まで来ると深くお辞儀をし


「テセウ様、この度は誕生日おめでとうございます。次期領主である貴方様が健やかに育ち、今日と言う日を迎えられたことは大変喜ばしい事であり」

「何だその態度はむず痒い!やめろ、いつものようにしてくれないか?」

「このような場ですので」

「おい、顔を伏せてるが笑っているのバレているからな!揶揄って楽しんでるだろ!」

「ぷっ・・・・・あはははあ~もう無理。嫌がってるテセウ面白過ぎ」


 畏まった態度を見たときのあの嫌そうな顔と、ドン引きしているような声につい笑ってしまい抑えられなくなったので顔を上げて笑うと不満そうにしながら


「人を揶揄うなって・・・・でも、久々に見たなあの畏まったクロガネ」

「一応普段から敬意は払ってるぜ。それにシュナイザー様にはしっかり敬語だろ?」

「そうだが、何処か少し線を引いた感じのやつだ」

「あ~なるほど」


 貴族なんかと仲良くなる訳が無いと思って最初は線を引いてたけど、むしろ俺が仲良くなりたいと思って止めたんだよな。


「俺は今のクロガネの感じが好きだな」

「それはどうも。それじゃあ、改めまして」


 俺は何時ものように振舞いながら、精一杯の気持ちを込めて


「テセウ、誕生日おめでとう。これから色々な事が有るだろうけど、テセウが無事であることを祈ってるぜ」

「あぁ、ありがとう。俺もクロガネの誕生日を祝いたかったんだが・・・・明日でお別れか寂しくなるな」

「折角の祝いの日なのにそんな寂しそうな顔するなよ」


 テセウが誕生日を迎えたと言うことは、依頼が終わり俺達がこの依頼が終わり旅立つことを意味している。だけど、それはテセウの門出が始まるということでもあるんだから喜ぶべき事だ。俺も寂しいけどそんな寂しそうにしないでくれ。


「確かにお別れは寂しいけど、一生会えなくなる訳じゃ無いしテセウは新しい事を学びに行くんだから喜ばないとな」

「・・・・そうだな」

「俺は色々な所を見て周るつもりだから中々テセウと会うことは出来ないだろうけど、実はブレストに良い事を聞いたんだ!」

「ん?なんだ?」

「冒険者ギルドが使ってる情報輸送手段を知ってるか?」

「知らないな」

「冒険者ギルドって情報が命だし、冒険者ギルド同士で連携することが多いから手紙を素早く輸送する魔道具をギルドの支部は一つ必ず持ってるんだ。しかも、それはギルド内だけじゃ無くて、一般人も利用することが可能なんだってさ」


 冒険者ギルドは至る場所に支部を置いているため、遠く離れた場所と意思の疎通をするための魔道具を専用に作って貰って設置しているのだ。その魔道具は空間魔法による魔道具で手紙を指定したギルドへ瞬間移動させる代物らしい。本来は国規模による災害や魔物に関する情報交換のための魔道具だが、一般人もその魔道具を利用することが可能らしい。


「ふむ」

「手紙を瞬間移動させる魔道具らしいから、離れた場所に居てもテセウと文通することは出来るんだってさ」

「そうなのか!?是非俺もそれを使いたいな。そうすればクロガネと遠く離れても話せるのだろう?」

「そういうこと。改めまして俺と文通をしてくれませんか?」

「勿論だとも!」

「ふ~良かったぜ。因みに料金が高いらしいからそんな頻繁には送れないし時とか分は得意じゃ無いから勘弁してくれな」

「あぁ、勿論だ。これから先長い間クロガネと話せないと思っていたから手紙を送り合えるだけでも嬉しいのだからな」

「そうか、俺も嬉しいぜ」


 俺も折角友達になったのに長い間話すことも近況を知ることも出来ないと思ってたから嬉しいぜ。手紙一つを送るだけで銀棒が5枚も必要になるから、依頼をもっと頑張らないとな!


 文通の約束を交わした俺達の顔からは寂しさは消え去り、ただこれから先の楽しみと今日と言う日を迎えられた喜びに満ち溢れたものとなった。さて、悲しい事は解消したし一緒にたらふく飯を食べようぜ!

読んで頂きありがとうございます!

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