最後の模擬戦
毎日のようにテセウには朝から晩まで鍛錬を付け、俺が教えられるものはこの短い期間で叩き込めたとは思う。時間が限られていたから、テセウの長所を伸ばすことを優先して、後は実戦での動き方と学びたいと言われたとこを中心に指導したけどテセウが満足して貰えると嬉しいな。本音を言うならば、もっと色々な事を教えたかったけど短い時間だから教える事を絞るしか無かったのだ。
テセウとの鍛錬の日々はあっという間に過ぎて行き、生まれてから今日までで
の人生の中で一番早い一ヶ月だったと思う。この一か月間で色々な事が有ったし、この町に来てから三ヶ月が経とうとしている今日はテセウの鍛錬が終わり俺達の依頼が終わる日だけでは無くテセウの誕生日でもあるのだ!なので俺はさっさとベットから起き上がり、外の様子を見てみると雲一つない青空に笑みを浮かべ
「ブレスト、早く訓練場に行くぞ!」
「おう」
既に起きて準備をしていたブレストに声を掛け俺も直ぐに完全装備の支度をすると、俺達はいつも訓練している中庭では無く館の裏にある訓練場へと向かった。時間より早く起きて集合場所に着いたつもりだったが、既にテセウとサピロさんそれとシュナイザー様が俺達を待っていた。
「テセウ、サピロさん、そしてシュナイザー様おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます」
「おう、おはよう」
いつもは居らずまだ少し眠そうなシュナイザー様だが今日来てもらったのには訳があるのだ。そして、いつもと違うのは人数だけじゃ無くテセウの格好もだ。いつものバトルアックスに、調査の時に来ていたレザーアーマーに茶色いブーツそれに脛当てに籠手を着けた完全装備だ。本来であればそのバトルアックスには生体金属が加工され付けれる予定だったが、あれを加工できる職人は希少でこの国だと王都のボンゴぐらいしか扱えないと言うことなので王都に行った時に加工してもらう予定だそうだ。
ボンゴ元気してるかな~そうだ、後でテセウにボンゴ宛の手紙を届けて貰おうかな?ボンゴなら頼りになるし、王都に長く居るなら武器の手入れをしてくれる職人も必要だろうからテセウを気に掛けてくれないか頼んでみよう。それなら、道具屋のナタリーさんにも手紙を書いて・・・・会うことは無いだろうけど、念の為にフォルネーラさんにも書いておこうかな。それと、イリスさん達にも!
「さて、全員揃った事だし早速始めるか」
「結界は任せろ~」
「それでは私は終了後の準備を整えておきます」
みんなに渡す手紙の事を考えていると、シュナイザー様とブレストが動き始めたので俺は思考を切り替え俺とテセウはついて行くのだった。そして、訓練場の中央に行くと俺とテセウは距離を置いて向かい合った。
「クロガネ、今日は申し出を受けてくれて感謝する」
「いえいえ、俺もテセウとはしっかりとやり合いたかったからな」
「ふっそうか。それならば期待に応えられるよう教えられた全てを用いて全力で相手させて貰おう」
そう、テセウの申し出で訓練最終日の今日どちらも完全装備で模擬戦をすることになったのだ。テセウとは一度本気で戦って見たかったし訓練の成果を確かめたかったから、どれくらい成長したか見せて貰おうか。
「それじゃあ俺は結界を張って外で待っとくな」
ブレストはそう言って前回と同じように結界を張ると、速やかに結界の外へ出て行ってしまった。そしてシュナイザー様は俺達の間に立つと
「それでは審判は俺が務める。両者、武器を抜け」
俺はナイフを構えテセウもバトルアックスを両手でしっかりと握り込み足を引く。
「始め!」
開始の合図と同時に俺達は地面を強く踏み込み両者とも肉薄する。テセウはバトルアックスの刃を右に構え俺との距離が狭まると、左足で強く踏み込み軸としながら左払いをしてきたので俺はそれを飛んで避け、頭上を飛びながらクロスボウで矢を放つ。テセウは左払いの勢いのまま半回転しながらバトルアックスで矢を撃ち落とすと、着地する俺に向かって魔力を刃に籠め斬撃を飛ばす。
今までは馬鹿みたいに長い溜め動作の所為で実戦で使えたもんじゃ無かったけど、武器に魔力を籠めるのがかなり早くなったな。
俺は成長を実感しながら飛んで来る斬撃を空中に足場を作り出し、さらに空に飛ぶことによって避けた。
「さぁ、これはどうする?」
俺は空中に浮かび上がり無数の矢を展開する。テセウにはシュナイザー様のような身軽さも強力な斬撃も無い。斬撃を飛ばすのは速くなったけれど、ただの斬撃じゃ俺を空から引き摺り落とすなんてことは出来ない。さぁ、どうするかな?まぁそんな隙も与えないけどな。俺は作り出した魔法矢を一斉に雨あられのように降らせる。テセウは動じる事無く宙に浮く俺を睨みつけ、腰を落とし堂々と構えると全身を使い体を動かし降り注ぐ魔法の矢の雨を一つ一つ丁寧に撃ち落とす。その姿はまるで、森で見たブレストの舞のように正確で速く無慈悲な軌跡を描く舞のようだ
「そこまで出来るようになってたか」
スキルを使いこなしてきたのと、日々の鍛錬で体力と筋力が付いて来たのは分かってたけどあの重量の物をあの速さで振れようにまでなるとはな。しかも、速さだけを求めた動きじゃ無くテセウが持っている綺麗で整っている動きを活かしている。
「だけど、防ぐだけじゃ意味が無いぜ」
そんな動きをして体力の消費が激しく無い訳が無い。このまま防ぐだけじゃ俺に勝つのは無理だぞ。それに、俺の攻撃はそんな単純なものじゃない。正確かつ綺麗だからこそ攻撃ってのは読みやすいものなんだよっ!
「っ!」
「お、流石に分かってたか」
俺は魔法の矢を操りバトルアックスを避けるように動かし、直撃させようとしたが既に見たことがあるテセウは瞬時にスキルで防御した。そして、スキルを使用した勢いのまま、力強く地面に魔力を籠めたバトルアックスを叩きつけると地面が割れ隆起した。それをもう一度地面を強くと土塊が浮かび上がりそれに魔力を籠めるテセウ。
「させないぜ!」
テセウがしたいことが分かった俺はそれを防ぐために、鋭く魔力を籠めた雷の矢を放つ。しかし、テセウのあの馬鹿みたいに固い防御の阻まれて直撃してもダメージにならない。そうしている間に準備を終えたテセウが思いっきり、魔法で土塊を空へと打ち上げる。俺はテセウを攻撃するのを諦めて、迫りくる土塊たちを迎撃しよとすると勢い良く俺を通り過ぎ頭上で土塊は弾け飛び大量の土と砂が襲い掛かる。俺は空に浮いてるんじゃなくて足場を作っていて、この風の足場に乗れる重量は決まっている。砂と土に圧し潰されそうになったので、砂に隠れるように気配を消して素早く地上に降りた。
俺相手に視界が遮られちまう攻撃は悪手だぜ。
砂に紛れて俺を見失っているテセウの元へ音を立てずに近づき、ガラ空きの腹に向かって思いっきり蹴りを食らわす。
「いったぁあああ」
だが、逆にダメージを受けたのは俺だった。鋼鉄の壁でも蹴ったかのような衝撃と硬さに思わず声を出してしまい、蹴られたことに気付いたテセウは武器を左手に持ち右手で殴り掛かってきたので距離を取る。
「前より明らかに硬さが上がってるな」
「鍛えて貰ったからな!」
前までは少しの間でもスキルを継続して使っていたら、息を上げていたのに今は息を乱すこともせず俺に肉薄してくるテセウ。その様子に成長を感じるが、このまま良い所無しで終わるのは流石に指導役としては面目が立たない。じゃあ、その硬さを信頼して思う存分やらせて貰うか。俺は鋭く速く正確に繰り出される技の数々を避け、クロスボウに雷の矢を装填し顔面に向かって放つ。
「くっ!」
雷の矢はテセウの眼前で弾けると一時的に視界を奪い俺は闇魔法によって姿を消した。見失ったテセウは慌てる事無く冷静に集中して周囲を見渡すが、俺の気配は捉えられていない。
テセウは少し戦っただけでもこの短い期間で、体力もスキルも技術もありとあらゆることが飛躍的に成長したと断言できる。多くの事で成長を見せたテセウだが、まだ足りていない部分も勿論ある。そしてそれはテセウが一番苦手としている気配を捉えることだ。こればかりは長い年月を掛け多くの実戦を重ね日々鍛錬をしなければ上手くならない事だから仕方が無い。
だけど、その弱点を突かせて貰うぜ!
読んで頂きありがとうございます!
コメント・感想・評価・ブックマークお願いします。
基本毎日投稿しており、時間は決まってません。
twitterで更新状況を発信しているので、宜しければフォローお願いします。