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お~凄い施設だな

 ドーム状の建物はかなり大きく、厳重な扉によって閉ざされている。中に入るには専用の鍵が必要なようで、リリー夫人はポケットから鍵を取り出すと鍵穴に入れて扉を開き中に入れてくれた。


 扉が魔道具になっていて、鍵が掛かっている状態だと結界と魔法で絶対に扉が開かないようになっているのか~・・・・しかも扉だけじゃなくて建物の全面に使われれているガラスからも魔力を感じるから、何かしらの付与がされているな。それに重ねるように中から結界の魔道具で耐久力をあげてる感じか。金掛かってるな~・・・・


「随分と厳重ですね」

「この中の植物は危ないものが多いですし、私が調合の実験などもするので誰も入れないようにしておかなければならないのです」

「そんな所に俺が入っても良いんですか?」

「えぇ構いません」


 なんでこんな俺を受け入れてくれてるのか謎だけど、良いって言うなら遠慮なく入っちゃお~と。ふむ、ガラスに囲われていて密閉状態になっているはずなのに風が淀んでいない・・・・風の通りもあるみたいだしこれは何か風の魔道具が置いてあるな。中は中央に大きな机に調合に必要な様々な道具と、大きな水の魔道具が置いてあってそれを囲うかのように植物が植えられている。そして、中央から四つの方向に通路が引かれていた。俺達は中央を目指して歩いて行くが、左右に見える植物はどれも特殊な環境と魔力が必要な植物ばかりだ。


「どれも魔力が必要な植物ですね」

「えぇ、ここは魔力や特殊な環境が必要になる植物を育てる場所なんです」


 色々な魔力が点在している気配の正体はこれか・・・・


 植物によっては火の魔力や水の魔力と言った属性の魔力を糧にして育つものがある。それらは魔法植物と呼ばれるんだが、ここはその魔法植物専用の植物園という訳か。空と時以外の魔力は感じるけど、魔力を発生させる魔道具を八つも揃えてそれを維持する費用だって馬鹿にならないはずだ。


「この建物って前から有ったんですか?」

「私は元々植物の研究をしていましたが、こちらに嫁ぐことが決まり研究も終わりかと思ったのですがその才能を眠らせるのは勿体ないと旦那様がわざわざ作ってくださったのです。そのおかげで、私の知識をこの領に、旦那様の為に使えているのです」

「凄いですね・・・・」


 これを一から建てるって相当金掛かってるな~魔道具もどれも質が良い物だし流石はシュナイザー様って感じだな。それに、薬草の知識って言うのは本当に有用でこんな戦いの絶えない町じゃその重要性は遥かに高くなるだろ。だから、ここまで凄いし施設を建てるのも納得がいくし、才能を眠らせておくほど勿体ない物は無いもんな。


「こちらの魔法植物はフォレシアから取り寄せた物が多いのですが、他の場所からも仕入れています。例えばこちらのフロストジュエルなどは、寒冷地にしか実をなさないのですが特注の氷の魔道具を使っています」

「氷の魔道具もあるんですね」

「えぇ、中々無い闇の魔道具もございますよ。見て行かれますか?」


 氷は水属性の上位の属性で使える人も魔石も少ないのだが、そこまで用意できるもんなんだな。


 表情を緩めながら魔法植物園の紹介をしてくれるリリー夫人はいつもの冷静な姿とは違い、どこか子供らしく目が輝いている。植物の紹介や魔道具の紹介の時は饒舌になるしもしかしてリリー夫人って自分の好きな物を紹介したりしたい人なんだろうな。少し意外な一面を見れて嬉しい俺は、リリー夫人にこの場所を隅々まで案内して貰うことにした。


「えぇ、お願いします」

「そうですかっそれでは早速。闇の植物を育てている場所は奥ですので、まずは中央に向かいましょう」

「はい」


 中央には様々な植物が瓶詰めにされていて、机の上に広がっている本には何やら難しい事ばかりが書かれているがどうやらこれはリリー夫人が書いているようだ。


「ここは私が薬草の実験や調合をする場ですね」

「調合と言うことは薬師なんですか?」

「いえ、私は薬師と呼べるほど立派な物ではありませんよ。研究はしていますが、本業の方と比べるとまだまだですから」


 薬師を名乗るには何処かの薬師に弟子入りして、長年修行するしかない。代々続いている薬師と言うのは凄いもので、秘薬とも呼べるような薬を作れたりその土地に根付いている植物をすべて把握している。なので、町に一人でも薬師が居ると重宝されると聞いたことがある。


「それでも薬の調合が出来るなんて凄いと思いますけどね。俺は毒の調合は出来るんですけど、薬は全然ですよ」

「薬も毒は紙一重ですから、毒が作れるのであれば薬も作れるようになると思いますよ」


 うふふと笑いながら言ってくれるけど、毒は殺す目的で作るから用量とかは気にしなくても良いけど薬となると訳が違う。寸分違わず正確に作らないと駄目だから、神経使うんだよな~薬を作るコツを教えて貰いながらさらに先に進むと馴染み深い魔力を感じる。


「ここが闇属性の魔法植物を育てている場所ですね。他の属性と比べると数が少ないのですが・・・・」

「あれって昨日の」

「はい、常闇草です。丁度薬を作るのに必要だったので助かりました」

「闇属性の薬草って意外と必要な事が多いですよね。見つけるのは難しいですけど」

「そうですね。闇属性の薬草で多い効能は、解毒や鎮静作用、心を落ち着かせたりと体の内部に働きかけるものですから使用する頻度は高い方ですね」


 魔法植物にも属性ごとに特徴が違っていて、火属性であれば体を温めたり興奮を促す。水属性であれば解熱や体の水を外に出したりと、属性ごとの特徴を加味しながら薬を調合しなければならない。そういう所が難しくて面倒な部分なんだよな~


「それなのに、闇属性の薬草は採取をする時には専用の道具が必要だったり群生地が見つからなかったり一夜で消えてしまう物だったりと随分面倒な植物ですよね」

「そうですね・・・・特段気難しい属性ではありますけど私はそういったと所が面白い所だと思いますよ。例えばこのムーングロウは、月光がよく当たる場所にしか生息せず、月に満ち欠けによって花の形を変える不思議な花です。月の光によって成長し、やがてムーンドロップと言う月の力を集めた宝石を作り出し、闇属性としては珍しく再生の力を司ります。闇なのに光の特徴を持っている・・・・とても不思議で面白いでしょう?」


 ムーングロウは満月の夜であれば丸い花を咲かせ、月が完全に隠れた時は花を咲かせないという月の満ち欠けに対応した花の形を咲かせることで有名だ。その花の模様は、空に輝く月と星々の空を表しているかのような深い黒と金色で、見つけにくい事から見つけたら不幸が訪れる知らせだとも言われている。


「植物は本当に奥が深いものなんです。調べれば調べていく程、何故そんな形をしているのか、何故そんな力を秘めているのかを知りたくなるので日々楽しいですよ」

「研究者ですね~」

「そうですね。私は根っからの研究者なのです」


 知らない物を知るという楽しみと言うのは俺もよく分かる。分からなければ、調べたくなるし自分で確かめてみたいという気持ちはそうそう抑えられるものじゃないもんな。


「だから、私が私で居られる場所を作ってくれた旦那様には本当に感謝しているんです」


 そう言って笑うリリー夫人はまるで大輪の花が咲いたかのような笑顔で、シュナイザー様への愛情に満ちていた。こんな顔をさせるシュナイザー様は罪な男だな~あんまり親しくしている様子を見ないから、落ち着いている関係なのかなと思ったけど、この様子を見るとアツアツみたいだな。


「シュナイザー様は良い人なのは俺も同意見です」

「それとクロガネ様にも感謝しているのですよ」

「え、俺もですか?」

「えぇ、テセウを指導して下さったことに感謝を。初めは傷を作るあの子が心配でしたが、毎日のように明るく元気で子供のようにはしゃぐあの子を見れて私は幸せなんです。それに、この前は私を少し悪戯をしたのですよ」

「その節はすみません・・・・」


 やべ、その悪戯って俺が教えたやつだよな・・・・


「いえ、怒ってはいませんよ。あの子は次期当主になると言うことでいつも真面目に勉強や鍛錬に励んでいて遊ぶと言うことをあまりせずにいたから少し心配でしたの。だけど、クロガネ様と会ってからは、毎日が楽しそうで子供らしい様子を見れて安心しました」

「そうなんですか・・・・」

「領主の息子と言うことで同年代の子達は、テセウの事を特別扱いして対等に立てる友人は今まで居ませんでしたから・・・・だから、クロガネ様。テセウの友人となってくれてありがとうございます」

「いや、お礼を言うのは俺の方ですよ。テセウと友人になれて俺も嬉しいですから!」


 今は指導役だけど、その役目が終わったとしても俺はテセウとは友人を続けるつもりだ。あんな人が良くて素直な奴なんてそうそう居ないし、一緒に居て楽しいからな!


「そうですか、これからもよろしくお願いしますね」


 そう言ったリリー夫人はさっきの深い愛情を持つ乙女の顔では無く、我が子の幸せを喜ぶ母親の顔をしていた。

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