ダンジョン初心者
さて、外に行くことを決めたことだしベルグのジジイに言っておかないとな。俺は決意を伝えるために早速朝からスラムへと向かった。昨日は教会に行ってたガキ達は今日はいる様でいつものように集まって来たので、買っておいた果物を渡しベルグの家に入る。
「よう、来たか」
「おう・・・・昨日の話なんだけどさ。俺、外に行くことにした」
「お、良いじゃねーか」
「怒らないのか?」
「外に行けって俺が言ったんだ。何で怒るんだ」
「まぁそりゃそうだけどさ」
「俺達の事を心配してくれるのは嬉しいが、俺はお前がやりたいことをしてくれた方が嬉しいのさ。お前は大物になるんだから、それまで心配だからって帰ってくるなよ」
「・・・・偶には良いだろ」
「駄目だ、世界は広いんだからしょっちゅう帰ってきたら見て周れないだろ?」
「・・・・は~い。てか、すぐには出て行かないからな。それじゃ!」
こうなることが分かっていたかのようにニヤニヤと笑いやがるから、さっさと家を出ると話を聞いてたガキ達が俺を待っていた。
「クロガネ、街を出て行っちゃうの?」
「・・・・」
やっぱりこいつらを置いていくのは・・・・
「いってらっしゃい!」
「冒険者って色々な所に行くんだろ?すげぇ~!」
「クロガネは強いんだから当たり前だよな!」
「俺も冒険者になりたいな~」
「まずは勉強だってブレスト兄ちゃんが言ってただろ」
寂しがられたり捨てるつもりなんだって言われると思ったがガキ達は、凄く元気で寂しそうにしてない。それはそれで少し複雑なんだけどな・・・・
「少しぐらい心配とか寂しがってくれてもいいだろ・・・・」
「だって、クロガネは俺達が知ってる中で二番目に頭良いから外に行っても大丈夫でしょ?」
「お外に行けるの良いな~」
「俺達はクロガネが居なくたって自分で生きられるもんね!最近文字が読めるようになったんだぞ。凄いだろ!」
「居なくなるのは何時ものことだもんね~」
はぁ・・・・なんだかな・・・・まぁ確かに俺達にとっちゃ別れなんて何時ものことだけどさ。俺が守らなきゃと勝手に思ってただけで、こいつらは俺が居なくても逞しく生きてられそうだな。なんか悩んでたのが馬鹿らしくなってきたぜ。
「そうかよ、まだもう少し街に居るから困ったことがあったら居るうちに言えよ?」
「はーい」
「大丈夫だって!」
ガキ達の逞しさを舐めてたな・・・・まぁブレストの言う通りガキ達は俺が街を出ることを喜んでくれてるみたいだし、ダンジョンに向けてさっさと準備しないとな。
宿に戻った俺は今日はダンジョンの浅い階層を体験するってことで、ブレストに連れられ冒険者ギルドの隣にあるダンジョン受付に来ていた。中は、多くの冒険者達で溢れていてる。
「ダンジョンによって違うんだが、この街のダンジョンを潜るには五級以上の冒険者じゃないといけないんだが、クロガネは少し前に五級に上がったからいつでも入れるぞ」
「へ~ダンジョンで違うんだ」
「なかには浅い層でも危険な魔物が湧く場所もあるから、その場合は制限を掛けてるんだ。クロガネはこの街のダンジョンが何という名前で呼ばれてるか知ってるか?」
「確か・・・・装備品ダンジョンだったはず」
「その通り、人の手で管理されてるダンジョンには呼び名が付いてるのが普通だ。大体は街の名前、つまりこの街だったらプリトだからプリトのダンジョンって呼び方をするのが普通なんだが。この街にあるダンジョンは装備品が多く見つかると有名だから装備品ダンジョンって名前が定着しているんだ」
「へ~食べ物だけを出すダンジョンとかもあるの?」
「あるぜ」
おお~話には聞いてたけどダンジョンって本当に不思議な場所なんだな。
「ダンジョンの基本は前に教えたが、覚えてるか?」
「当たり前だろ!」
「じゃあ、入るとするか」
俺とブレストはダンジョンの入り口に設置されている受付に、冒険者カードを見せてダンジョンの中に入るとそこには、石レンガで作られたよう広場とその先に続く通路があった。そして、何人もの冒険者たちが武器を持ちながら話していた。
「何でみんな此処に居るんだ?」
「ここはセーフゾーンだからだ」
確かセーフゾーンってダンジョンで湧く魔物が入ってこない安全な場所だったよな。
「へ~ここがセーフゾーンなんだ。なんか普通だな」
「まあな。浅い層を主に攻略している冒険者は基本的にここを拠点に活動をしているんだ。疲れたら一回此処に戻って休憩したり、昼食を摂ったりってな」
「俺達もここを拠点にするのか?」
「いや、俺達は奥まで進むつもりだからここを拠点にはしない。このダンジョンは三十層に分かれているんだが俺達が目指すのは三十層、つまり最下層だ」
「ダンジョンって広いんだろ?どれくらい時間が掛かるんだ?」
「実はこのダンジョンは階層が多い代わりに、一つ一つの階層は狭いんだ。普通だと大体一つの層に掛かる時間は二刻か二刻半程度だ。俺達ならもっと早く進めるから、十日ぐらいで行けると思うぜ」
十日か・・・・これが短いのか長いのかは分からないけど、しっかりと準備しないと駄目だな。
「それじゃあ、攻略するための慣らしと行こうか」
「おう!」
通路に進むブレストに続いて俺は魔物達が溢れ危険だと聞く、初のダンジョンへと歩みを進めた。通路を抜けた先は、驚くことに視界が晴れまるで俺達がいつも暮らしているような街が広がっていた。そして、本当の空のように天井は開けていて太陽がか輝き街を照らしている。
「すげぇ・・・・まるで街だ」
「凄いだろ?本当に何度ダンジョンに入ってもこの空間は不思議だと思うぜ」
俺もこの光景はとても不思議だと思う。ダンジョンは、普通の場所じゃないと聞いてはいたけどまさかあんな狭い通路からこんな大きな街が現れるなんて・・・・階段を下ったってことはここは地下なんだよな?こんな場所が他にも沢山あるのか・・・・やっぱり世界って広いんだな。
「感動しているところ悪いが、ここはもう安全な場所じゃないから気を抜くなよ」
「っおう!」
そうだった、ここはダンジョンの中なんだ・・・・この景色に圧倒されてる場合じゃ無いよな。気を引き締め何時でも腰に付けたナイフを取れるように周囲を警戒しておかないとな。
「手前は他の冒険者が居そうだし、少し奥まで行ってみるか」
「分かった」
「それじゃ付いてこい」
ブレストが先導となり、街中にしか見えないダンジョンを進んで行く。道を素直に通るのは時間が掛かるからと屋根の上を走っているが、街の中だというのに人の気配が少ししか感じられないのはなんだか不気味だな・・・・あ、人が戦ってる音がする。
「ダンジョン内では他の冒険者が戦っている相手を奪うのはご法度だ。もし、やったら厳しい処罰が待ってるからするなよ」
「そんな事しないって」
「もし戦ってる奴らが危ないと思っても、まずは声を掛けることだな、まぁ流石に殺されそうな場面だったら、間に入っても良いがな。助ける時は自分で何とか出来るのかどうかもしっかり考えろよ」
「はーい」
前に襲われてる冒険者を助けたことがあるが、倒した獲物をどう分配するのかとかで揉めることがあるから出来るだけ手を出さないのが基本なんだって。別に知らないやつが何処で死のうとも何とも思わないけど、目に見える範囲だったら出来るだけ助けることにしておこう。
「もう少し奥が良いかな・・・・」
「っ!」
「お、敵だ」
話しながらダンジョンの奥へと進んで行くと、右から気配を感じ咄嗟にナイフを抜き飛んできた矢を弾く。そして、矢を飛んできた方向には屋根の上に顔の無い人形が三体並んでいた。反射的に風の矢を作り出そうとすると
「待った、今日は身体強化以外の魔法は無しだ」
「えっ」
「ダンジョンの中は何があるか分からないんだから魔力は温存するのが鉄則だ。ほら、行ってこい」
「はーい・・・・」
風の矢ぐらいなら何発撃ったって平気なのに・・・・まぁそう言われたら言われた通りにするしか無いんだけどさ!また来た矢をナイフで弾き、俺は屋根を下りる。どうやら狙っているのは俺のようでブレストは眼中に無いようだ。地面に降りて、真っ直ぐ人形共が乗っている建物まで走る。勿論あいつらは近づかせまいと、矢を放ってくるが軽く避け下に入り込み射線を切る。こうすれば、撃てなくなった奴らが覗き込みに来るはずだから・・・・よし、来た!
「っ!」
覗き込んだ瞬間に飛び上がり三体同時に頭を切り裂く。そして、ドール系統の特徴は頭が無くてもコアがあれば動くことだから屋根に上がり胴体を連続で貫き完全に動かなくなったのを確認し、周囲に増援が居ないか警戒をする。
「よっと、終わったみたいだな」
「おう」
「とどめもしっかりさせてるし言う事なしだな」
何事も無いようにやって来たブレストだが、走ったり着地の音が全くしない。俺も音を立てない動き方は教わったけど、まだ完全には消さないんだよな~
「増援も無さそうだ」
「・・・・本当にダンジョンで倒した奴って消えるんだな」
ブレストが周囲を見渡している間に、倒したドールアーチャーは溶けるように消えていき残ったのは、矢と魔石、そしてボロボロの弓だ。
「倒されたやつはダンジョンに吸収されて残るのは、そのドロップ品だけだな。魔石だけ拾って次行くぞ」
「了解」
その後も町を駆け巡りながら遭遇するドール系の魔物を討伐していき、ダンジョンでの戦闘の感覚を掴んでいった。人があちこちに居るので、遭遇しないように気を付けたりとかダンジョンならではのルールとかがあって少し勝手が違う。だけど、これぐらいの強さの相手なら楽勝だし、人型だから行動が予想しやすい。この感じなら何とかなるかな。
「よし、今日はここまで」
「早くない?」
「今日は慣らしだからな。しっかりと潜る準備をしてまた後日に挑戦だ」
「はーい」
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