成長を感じる
俺がテセウの隣で落ち着くまで待っていると、ブレストがテセウの武器を拾って俺の元までやって来た。
「初めて持ったが、重いなこれ」
「俺もそれは普通に重いと思う」
少し驚きながらバトルアックスを見ながら言うので俺も同意見だ。あんな重い武器なんて俺には扱う事は無理だな。そんな武器を軽々使うテセウは凄いと思うぜ。息が整うまで暫く待っている間にブレストには次の武器の準備をして貰おうかな。
「他になんか覚えておいた方が良い武器って何かある?」
「ん~剣と槍は十分だろうしナイフはクロガネが相手をしているだろ」
「飛び道具系統ってブレスト使えるか?」
「弓も使えるぞ~」
「お、じゃあ次はそれで」
次の武器について話していると、息を整え終わったテセウが立ち上がり大きく息を吸うと
「すまない、待たせた」
「全然待ってませんよ。前と比べると回復が早くなっているみたいですね」
「そうか?あまり実感が無いのだが・・・・」
「体力が多くなってきた証拠ですよ」
「そうか・・・・それなら嬉しいな」
身体強化をしていると体力の消費が少ないと思われがちだが、それは全くの逆で体を強化して動かしている分消費する体力は増えるのだ。魔法や集中そしてスキルの発動にも体力や魔力を持って行かれるから、高度な身体強化を駆使しながらスキルを使うテセウは体力の消費が多い。だから、どれだけ体力があっても無駄にならないのだ。
「俺も成長していると思いますよ。森で同行した時は鞭を手で掴んで相手を投げるなんて発想を絶対しなかったのに、今は自信を持って行動出来ていた。正々堂々で綺麗な戦いだったのが、大きな変化ですよ」
「綺麗さは残したいんだけど、あんな手に出るのは俺も驚いたぜ」
ブレストの言う通り少し前のテセウじゃ絶対にしない戦法だ。さっきの俺達の戦い方がテセウに影響を出している様で良かったけれど、元々持っている良さを全て消すつもりは無いから荒っぽくなりすぎても困るんだよな。
「鞭の軌道を読むことは出来るが、予想外の動きとしなりをする鞭相手では今の俺の速さと技量では捌き切り接近するのは無理だと分かったからな。それならば襲い掛かる鞭を捕まえ動きを止めた方が良いと思ったんだ。不利な勝負には乗らず自分の得意分野に持ち込むだろ?」
「その通り」
「頑丈さと力にはある程度自信があるからな。ブレスト殿くらいなえあば飛ばせると思ったんだ」
「判断も策も良いと思いますよ。まさか相手も全力で放った鞭を簡単に防がれて素手で掴まれ引っ張られるなんて思いませんからね」
「だが、失敗してしまったな」
「引っ張った後にすぐに武器を拾わなかったのが最大の敗因ですね」
引っ張って接近戦に持ち込んだのは良いが、足元に落ちている使い慣れた武器じゃなくて格闘戦に持ち込もうとしたのが間違っている。相手は空中で身動きが取れず意表を突かれた状態なのだから、武器を構えなおす時間ぐらいはあるのだ。
「急ぎ過ぎたか・・・・」
「その後も何度も武器を拾うチャンスはあったのに、格闘戦に拘ったのが良くなかったと思います。それと、宙に浮かせたときは待つんじゃなくて仕掛けに行った方が良いですよ」
「あぁ、あれは失策とだと俺も自覚している。対応される前に決めようと思ったが、急ぎ過ぎて消耗に追いつけず結果自滅だ。はぁ、少し落ち込むな」
「でも、そう言った策を考えられるようになったのは確実に成長してますから良い事だと思いますよ」
大胆かつ意表を突く策を思いつき実行出来るようになったのはとても良い成長だと思うが、まだ細かい部分が雑だったな。これは経験を重ねて磨き上げていくしか無いから、これから学んでいけばいいのだ。少し落ち込んでしまったテセウを励ましていると、黙っていたブレストが何かを教えてくれるみたいだ。
「んじゃ、俺から一つアドバイスを」
「何だろうか?」
「武器を落としたり、両手を使わなければならない場面って意外とあるもんなんですよ。何かを受け止めたり武器を弾き飛ばさりとかな。武器を落とした後テセウ様は武器をどうやって取りますか?」
「どうってこうやって普通に・・・・」
テセウは武器をブレストから受け取ると落としたと仮定するため、武器を手から離し地面に落とすと腰を屈め片手でバトルアックスを持ち上げた。その様子はまるで軽い物でも拾うかのように軽々と持ち上げるので、あの重さが嘘みたいだ。
「そうやって持ち上げるのが普通ですけど、戦ってる最中じゃそんな余裕は滅多に無いのでちょっと足癖が悪いですが」
ブレストはテセウと全く同じ見た目のバトルアックスを作り出すと、地面に落としたが長い柄の中央部分が足の上に乗った。
「ちょっとしたコツなんですけど、武器を落とすと分かっていて自分の意思で武器を落とすのであればこうやって自分の足の上に落とすように心掛けた方が良いですよ。あとは両手が空いたならば、こうやって・・・・よっと」
そう言ってブレストは勢いよく膝を上げるとバトルアックスも浮き上がり、それを手に取った。
「こうすれば屈む必要もないですし、武器が何処かに行ってしまう事も防げます」
「なるほど、細かい工夫なのだな。勉強になる」
「あとは足の上に乗せられず弾き飛ばされてしまった時は、こうやって勢いよく」
ブレストはバトルアックスを地面に投げると、地面に落ちたバトルアックスの石突と呼ばれる刃とは反対の先端を勢いよく踏みつけると回転しながら飛びそれを掴んだ。
「こうやって、踏みつけて構えることも出来ます。これはちょっとコツが必要なのであとで教えますね」
「ふむ、武器を拾うのにも色々な方法があるのだな」
「武器を落とさないのが一番ですけど、出来るだけ隙が無いように持ち直したいですからね。武器は自分の命を預ける相棒ですけど、少しくらい乱暴にしたって壊れないですから遠慮なくやった方が良いですよ」
「確かに地面や硬い物に当てたとしても壊れないのだから、俺達が踏みつけたり蹴ったくらいじゃ壊れる訳が無いか」
「足癖が悪いと言われますけどね」
「それぐらい受け入れるさ」
うんうん、やっぱりブレストが居てくれると武器のちょっとしたテクニックや工夫を教えてくれるからテセウには良い参考になるな。俺はナイフの事や武器の避け方や対処の仕方なら教えられるけど、扱いについては教えられないからどんな武器でも使いこなせるブレストが頼りなんだよな。
「それじゃあ最後に鞭を相手してどう思いましたか?」
「・・・・凄く相手にしずらい武器だと思ったな。射程が長くその軌道は単純に見えるがしなる所為で予測がしにくい。しかも当たる直前に手首の動きで攻撃個所を変えられるのはとても厄介だな。そして何よりも驚いたのが威力だ。鞭は剣やハンマーのような威力を出せない武器だと思っていたがそれは間違いだったのだな」
「鞭はその弾性と軟性によって勢いよくしなり爆発的な威力を出すんです。その威力は木をも簡単に粉砕し、先端に刃が付いた物であれば防具を斬り裂くことも出来ますよ」
「あの時クロガネが言ってくれなければ終わりだったな」
「でも、これでどういうものなのかが嫌って程分かりましたよね?」
「あぁ、良い経験だった」
文章で読んだり人に聞いて想像するのも大事だが、実際に経験してみると予想を遥かに超える威力や動きをすることだってある。痛みを伴う模擬戦をすれば、その武器の事が嫌でも分かるはず。この訓練をブレストが空いている時間は毎日違う武器でやって貰うつもりだ。大変だとは思うけど、テセウの体調と精神力を見ながらどんどん鍛えていくつもりだから覚悟しておけよ。
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