♯67 仙女の姉妹と、<魔女>の秘密について語り合った
第67話です。
「どうやら『桃仙郷の実』が効いてくれたみたい。熱も下がったし、呼吸も落ち着いてきたわ。もう大丈夫よっ」
礼拝所の二階、机と椅子と寝台しかない殺風景な部屋で、寝台に横たわっている女の子の顔色と呼吸、脈拍などを確認したリオンさんの診断に、ボクとボクの仲間たち、そしてスズランさん、ナズナさん、ミモザさんの三人は「はぁぁぁぁ……」と安堵の溜め息をついた。
「良かったよ、『桃仙郷の実』が一個だけ残っていて」
実を取りにいくため、来た道をダッシュで戻ったり、沖合に停泊中の『トゥオネラ・ヨーツェン』まで艇長のオッサンに全力で撓艇を漕いでもらったり、実を擦り潰してジュースにしたモノを四苦八苦しながら女の子に飲ませたり、いろいろと苦労はしたけれど。甲斐はあったようだ。
40℃近い高熱を出して倒れ、さっきまで魘されていた女の子は、今は穏やかな表情ですーすー寝息を立てていた。
「ありがとうございます、イサリさん。この子が熱を出すのは珍しいことではないのですが、今日はいつもより酷かったので……。助かりました。……この世には不思議な実があるのですね」
ヨハネスさんと似たようなことを言いつつ、深々とお辞儀するミモザさん。
「いえ。お気になさらず。ボクとしても、このコが苦しんでいるのを見ていられなかったので」
『聖女』という単語からボクは自分よりも年上の女性を想像したのだけれど、寝台に横たわっていたのはどう見てもボクより年下の女の子だった。
見た目十二歳のカグヤや十歳のルーナとほとんど変わらない、まだ幼女や童女と言って差し支えない女の子だ。少なくとも、十三歳のシャロンよりは確実に年下だろう(まあ、シャロンはシャロンでとっても発育が良いので、十三歳には見えないのだけれど)。
オマケにかなりの美少女だった。幼いながらも整った顔立ちをしていて、大人になったらカグヤやルーナとは違うタイプの美人さん(所謂クールビューティ?)になりそう。
また、寝台に横たわっているのでわかりにくいが、アリシアの赤みがかった金髪よりも暗いそのワインレッドの髪はとても長く、立てば足元まで届くのではないかと思われるほどだ。
というか、
「あの。このコ、顔立ちといい、髪の色といい、ミモザさんにそっくりな気がするんですが。ひょっとして先程ミモザさんが仰っていたアベルさんとの間に授かった娘さんって」
ボクの問い掛けにミモザさんは一拍置いてからコクリと頷いた。
「はい。聖女ダリアは私の娘です」
……聖女ダリア、ね。
「――本当に助かりました、イサリさん。聖女ダリアはこの島の住人にとって希望の象徴。その身に万が一のことがあれば、我々という集団は最悪、空中分解しかねません。改めて、この島の長としてお礼を言わせてください」
………………。
「どういたしまして。――でも、こんなときくらい、長としてではなく母親としてこのコを心配しても誰も怒らないと思いますよ」
「いえ。私はこの島のために滅私奉公を貫くと決めております。娘もそれを理解し、私同様この島のために人生を捧げる覚悟は済ませているはずです。ですので、私どもはどんなときであっても私情を挟むことはありません」
……………………。
「……見た感じ、このコ、まだ十歳くらいですよね?」
「先日十一歳になりました。幼くとも立派な聖女です」
…………………………。
「あ、あのっ」
徐々に目を眇めていくボクに危ういモノを感じたのか、リオンさんが強引に会話に割り込んできた。
「どうして娘さんは聖女と呼ばれているんですかっ?」
「この子は神に選ばれし者。この地に御座す神の声を聴き、そのお言葉を代弁することが出来る唯一の存在――巫女なのです」
「「「「…………巫女。」」」」
アリシア、シャロン、クロエ、イリヤの視線が(何故か)ボクに集中する。
……何その目。
ボクが巫女さんなら無条件で喜ぶと思うなよ?
相手は年端もいかない女の子だぞ(重要)。
着ているのも白衣と緋袴じゃないし(超重要)。
だからルーナちゃん? そんなふうに「強力なライバルの登場ですっ」って慌てる必要は無いんだよ? てか、なんのライバル? って、ちょっと! どこへ行くつもりなの? ――え? 「もう一回マリナさんのチカラでわたくし用の巫女装束を用意してもらいます」? 今はそんなことをしている場合じゃありません。
「その神様というのは、」
と、これはロウガさん。
「――例の、『この島の住人が邪悪な輩に見つからないようチカラを貸してくれている神様』という認識でよろしいか」
「はい」
…………へえ。
「ひとつ質問をしてもいいでしょうか」
ボクは駆け出そうとするルーナを制止しつつ、努めて淡々と訊ねる。
「――その神様に名前はありますか? あるのなら、なんて名前なんです?」
違うのならそれでいい。だったら話は簡単だ。『秩序管理教団』とは違い教義で誰かを苦しめているワケじゃないから、こちらとしては彼女たちの信仰の自由を尊重し、「へー、そうなんですか。今後も頑張ってくださいね」とかなんとか適当にコメントして、あとは関わらないか、適度な距離感で付き合えばいいだけの話。
でも、万が一そうじゃなかったら……、
「この島の守り神。その名は、」
と、ミモザさんはその名を口にする。
「――『ハナビ』様です」
……それは紛うことなき『四半世紀前の戦いで散ったオーバーロード』の名前。
上陸前にカグヤから教えられた、第三<神域>スターマインの管理者である上級眷属・<神の財産目録削除者>の名前だった。
☽
その夜。礼拝所の前の広場で、ボクたちを歓迎するための宴が開かれた。
まあ、宴とは言っても、キャンプファイヤーみたいに火を囲んで島民たちの歌や演奏、踊りを肴に飲み食いをするだけのささやかなモノだけど。
それでも歓迎の意を示してもらえるのは嬉しい。
島民側の参加者はスズランさんとナズナさん、そしてミモザさんを含め三十人ほど。
ダリアちゃんの姿は無かった。
まあ、病み上がりだしね。
ミモザさん曰く、
「私も『こっち』に流れ着いてからこの子を生むくらいまでは、『こっち』の環境が私の体質に合わなかったのか、頻繁に熱を出してしまったのですが、この子も私の体質を受け継いでしまったようでして……」
とのことだ。
で。
ボクたちのほうはというと、幸いにも全員で参加することが出来た。カグヤとマリナ、そしてツバキや男衆といった面々にも無事に上陸許可が出たのだ。
もっとも、上陸許可が出たツバキたちが真っ先にやったことは、食料なんかの買い付けだったけど……。
しかも支払いで使っていたのは、お金じゃなく例のチョコレート。
ツバキは「実質タダで補給物資をげっとじゃ!」ってホクホク顔で喜んでいたけど……そのチョコ、手打ちの見返りとしてボクが貰ったモノなんですが。本来なら所有権はボクにあると思うんですが。
……いや、まあ、いいけども。『ヘルクレス』まで行く手間が省けたし。普段は『なんも船長』のボクが珍しくあの船のお役に立てたと思えば(でもなんか釈然としない……)。
あともうひとつ気になったのは、主計長見習いのクロエが主計長のオッサンに、「今回は干し肉を中心に仕入れるべきかと。あと、ジュースやワインにするために果物の種も欲しいですね。家畜に関しては、鶏……は放っておいても増えそうですし、豚を何匹か譲ってもらいましょう。チョコの相場がこれくらいという話でしたので、要求する量はそれぞれこれくらいが妥当かと。それと今後の付き合いのことを考えて、高値で捌けそうなヤポネシアの工芸品をひとつ贈っておきましょうか。投資です。……岩塩? 要りませんそんなの。塩なんて海水からいくらでも作れるでしょう」みたいな感じで意見具申し、主計長のオッサンが「あっ、ハイ」ってなってたことだ。早くも下剋上が起きようとしている……。
――そして今。
「……えーと、」
「つまりこういうことでしょうか?」
人目を忍ぶようにカグヤとマリナの仙女コンビと宴の会場を抜け出し、礼拝所の陰に身を潜めたボクは、二人と密談を交わしていた。
ボクの説明――昼間ボクがミモザさんから聞いた話を一通り聞いた二人は、眉間に皺を寄せ、
「四半世紀前の戦いで散ったと思われていた第三<神域>スターマインの管理者、<神の財産目録削除者>ハナビがどうやら健在だったっぽい、と」
「そしてそのダリアさんというかたの前にだけ現れ、この島の住人が邪悪な輩に見つからないよう助力をしているようだ、と」
「信じられない」という顔で、ボクがした話を要約する。
「うん」
ボクは頷き、二人の顔を順繰りに見遣り、
「――間違いないよ。でなきゃ、ミモザさんの口から『ハナビ』って名前が出たりはしないでしょ?」
自信たっぷりにそう告げた。
――のだけれども……。
「いやぁ……」
「それはちょっと違うんじゃないでしょうか」
「ちょっと違う?」
「うん。ハナビが実は健在だったなんて考えにくいよ」
「それに人前に姿を晒すなんてあり得ません」
「え。でも、」
だったらどうしてミモザさんの口からハナビの名前が……。
「そうだなぁ。もうこれは明かしちゃってもいいかな」
「そうですね。そろそろイサリさんが知ってもいい頃合いでしょう」
「え。な、何? なんの話?」
「ねえ、だんなさま。考えてみたことはある? <魔女>だけが持って生まれてくる不思議なチカラ。あれはどこから来るモノなのか」
「どこからって……」
知らんがな。
カグヤのチカラ『地球系統』のように、この月の大気中にはあらゆるオーバーロードのチカラが満ちていて、地球で生まれた<漂流者>だけは呼吸することでそれらを少しずつ体内に取り込めて、そうやって最も多く蓄積されたチカラが子供に宿る……みたいなのを漠然と想像していたのだけれど。
双子であるスズランさんとナズナさんの場合は、母親の体内に最も多く蓄積されたチカラと、その次に多く蓄積されたチカラが、それぞれに受け継がれた感じなんじゃないか? って勝手に想像していたのだけれど。
「――で。地球で生まれた母親と、月で生まれた父親、両方の血を引いている<魔女>は皆、母親から受け継いだチカラを発揮できる体質で生まれてくるんじゃないか、って予想していたんだけど」
違うの?
「スゴイです、イサリさん。概ね当たっています」
……概ね?
「この月の大気中に満ちているチカラはね、地球の化身であるわたしとマリナのチカラ以外はみんな、四半世紀前の戦いで散った下級眷属たちのチカラの断片なんだ。言わば残り火なんだよ。<漂流者>は呼吸することでそれを体内に取り込み蓄積し、出産の際に我が子に受け継がせてしまっているんだ。<魔女>だけがそれを発揮できる理由は、だんなさまの予想どおり、地球で生まれた者と月で生まれた者、両方の血を引いているから。混血の影響だね」
四半世紀前の戦いで散った下級眷属たちのチカラの断片……残り火……。
……そういえば、以前クーリエがクロエに言ってたっけ。
――『おそらくおまえのチカラも、シャロンと同様、他の連中のそれとは一線を画したモノなんだろう。――大事に使えよ。ひょっとしたらそのチカラのせいでおまえは<魔女>なんて呼ばれる羽目になっちまったのかもしれねーけど――おまえにとってそのチカラは呪いに等しいモノかもしれねーけど。でもな、それはかつてこの世界を護ってくれたチカラの断片なんだ。本来なら、祝福と見做されるべきモノなんだよ。正しく使えば、おまえや、おまえの大切なヒトの役に立ってくれる。いくらでもな』
あの言葉は、そういうことだったのか……。
「そして<漂流者>さんの中には、チカラだけでなく、同様に大気中を漂っているオーバーロードの『核』――つまり魂魄を取り込み、宿してしまうかたもいるのです」
……え? オーバーロードの魂魄を?
「うん。そして『核』を母親から受け継ぎ、その身に宿した<魔女>は、他の<魔女>よりも一段強力なチカラを発揮できるんだ。例えばアリシアとサシャは『一時的な腕力の底上げ』という同じオーバーロードを由来とするチカラを発揮できるワケだけれど、そのオーバーロードの『核』も宿しているアリシアはサシャと違って短時間のうちに何度もチカラを発揮できるようにね」
え!? アリシアがオーバーロードの『核』をその身に宿しているだって!?
「そうです。アリシアさんだけではありません。シャロンさんとクロエさんもそうです。彼女たちのようなかたを、わたくしたちは『核持ち』、混沌からの侵略者たちは『宿り木』と呼んでいます」
! 『宿り木』!?
「もっとも、名も無き有人島で遭遇したあのキロウスとかいう奴は、わたしという『受肉してヒトの身を得たオーバーロード』のことも『宿り木』と錯覚していたみたいだけどね」
カグヤのことも……?
「まあ、現在のカグヤちゃんもヒトの身でありながら<破壊と修正の地球意思>として『核』を持っているという意味では、<魔女>の皆さんと一緒ですからね。混同するのも無理ありません」
ってことは、あのときキロウスが狙っていた六匹の獲物、<宿り木>は、カグヤ・アリシア・シャロン・クロエの四人のこと――って、二人足りないじゃん!
どうなってんの!?
…………ダメだ。考えたところで答えが出そうにない。なんか、こう、六という数字に引っ掛かるモノがあるというか……何かを見落としている気がするんだけど。でも、それが何なのかがわからない。
この疑問はいったん脇に置いておこう。
「……で? 実は健在だったハナビがダリアちゃんの前に姿を晒しているとは考えにくいって話と、今の話がどう繋がって――あ……」
言っていて、自分で気付いた。
「そう。これは推測だけど、そのミモザって<漂流者>は四半世紀前の戦いで散ったハナビの『核』を偶々その身に宿し、我が子に受け継がせた。そしてその子とハナビの間になんらかのやりとりがあったんじゃないかな。少なくとも、ハナビがその子に名乗って、その名前が母親に伝わったことだけは間違いないよね」
「ミモザさんがハナビという名前を知っていたのはそれが理由か!」
てか、『核』だけの状態でも、自分を宿した人間とやりとりすることは可能なんだね。
まあ、考えてみたら現在はクーリエやスーザンもその状態なワケだけど、精神世界でボクと会談することは可能なワケだしな。
キロウスとの死闘の最中は、精神世界に行かずともカグヤとマリナの『声』が聴こえたし。
「はい。ミモザさんというかたは、ダリアさんが聴いている『声』を元々この地にいた神様のモノだと思っているようですが、実際はミモザさんが『メンデル』でダリアさんを生んだ際にダリアさんの身に宿ったオーバーロードのモノなワケです」
なるほどねぇ……ハナビの存在を知っている人間がいるからって、ハナビが健在だとは限らないワケだ。
……って、あれ?
「さっきの理屈で言ったらさ、娘を生むまでは、ミモザさんやリオンさんといった『核』を宿した<漂流者>にも『声』が聴こえるはずじゃない? それに母親から『核』を受け継いだアリシアなんかも」
でも、ミモザさんはそんなこと言ってなかったし、アリシアたちからもそんな話を聞いたことがないぞ?
「それは単純に適性というか……相性の問題だろうねぇ。そのダリアとかいう娘自身の魂魄の波動、波長が、偶々ハナビの『核』のそれと殊更合いやすかった――『声』を受信しやすかったんだよ」
受信……。
「イサリさんも普段はクーリエさんやスーザンさんの『声』が聴こえないでしょう? それこそ精神世界まで足を運ばない限り。――もっともイサリさんの場合、鉄火場では、オーバーロードの『声』を受信できるレベルまで魂魄を活性化させているようですが」
魂魄の活性化。そういうのもあるのか。
「待てよ? 下手したら、ダリアちゃんとハナビも精神世界で顔を合わせている可能性があるのか……?」
「いや、流石にそれはないよ」
「それは『魂魄の婚姻』を結んでいないと無理です」
あ。そうなんだ。
「あと、アリシアたちの場合だけど。彼女たちが母親から受け継いだ下級眷属の『核』は、上級眷属のそれより脆いからね。オーバーロードの自我や人格、記憶といったあれこれは初期化されてしまっているだろうから、『声』なんて聴けるはずもないよ」
初期化とな。てか、『核』……魂魄に脆いとかあるの?
「四半世紀前の戦いはそれだけ苛烈なモノでしたからね……。上級眷属であるハナビさんはどうかわかりませんが、アリシアさんたちの身に宿る下級眷属の皆さんは、カグヤちゃんのチカラ『地球系統』を使ったとしても、受肉による顕現は望めないでしょうね」
……それってハナビの場合はカグヤのチカラでワンチャン顕現……つまり復活できるかもしれないってこと?
あ。もうひとつ訊きたいことがあったんだった。
「ミモザさんの話だと、ダリアちゃんは発熱が度々見られるみたいなんだけど。それはダリアちゃんがハナビの『核持ち』であることと何か関係があるのかな? ミモザさんは単純に自分の体質を受け継いでしまったせいと思っているようなんだけど。『こっち』に流れ着いてからダリアちゃんを生むくらいまでは、ミモザさんもちょくちょく熱を出していたらしくて」
「……それはハナビと下級眷属の誰か、二柱ぶんの『核』を母親から受け継いじゃったせいじゃないかなぁ? 二柱ぶんともなると、流石にヒトの身で受け止めるのはキツイだろうからね。まあ、だんなさまのような『オリジナルの地球』を出自とする魂魄なら話は別だろうけど」
「ミモザさんが『こっち』に流れ着いてからダリアさんを生むくらいまではちょくちょく熱を出していたというのも、それが理由だと思いますよ?」
え?
「<漂流者>に複数のオーバーロードの『核』が宿ったり、それが子供に受け継がれたりなんてこともあるの?」
「そりゃああるよ。そうそうあることじゃないのも事実だけど。――だんなさまだって、複数のオーバーロードをその身に宿しているでしょ?」
「もっとも、複数のチカラを使いこなせるのは『オリジナルの地球』を出自とする魂魄くらいで、わたくしたちオーバーロードですら不可能なことですから、ダリアさんのような二柱のオーバーロードの『核』を宿したかたでも、発揮できるチカラはひとつだけでしょうけど」
あー……。なんか、キロウスやクーリエもそんな感じのことを言ってたっけな。
「なるほどねぇ。ここまでの話をまとめると、ハナビはダリアちゃんに『声』だけで接触している……そして島の住人の前に姿を現すことなく、島の住人が邪悪な輩に見つからないよう力を貸している可能性が高いワケだ」
そりゃあ島の住人からすれば守り神として、そしてその言葉を伝える巫女として、彼女たちを崇めたくもなるよね……。
「それなんだけどね、だんなさま」
「具体的には、どう力を貸しているんでしょう?」
「えっ」
「…………………」
「…………………」
「…………………(汗)」
「もしかして訊いてないの?」
「イサリさん……こう言ってはなんですが、そこが一番肝心なところかと」
「い、いや、ちゃんと訊いたよ!? 確かにミモザさんには訊きそびれたけど、さっきスズランさんとナズナさんに訊いたんだ! でも、『それに関しては部外秘だから』って教えてもらえなかったんだよ!」
正確に言うとスズランさんは自慢したかったのか嬉々として語ろうとしたのだけれど、それをナズナさんが「メッ!」と制止してしまったのだ。
「うーん……それは困ったね」
「そうなりますと、ミモザさんというかたに訊いても無駄でしょうね」
うん。だからさ、
「もうこの際、当人に訊いちゃおうかなって。直接」
「え? 当人って……」
「まさか……」
「そ。ダリアちゃん」
そう言ってボクは、身を潜めていた建物の――礼拝所の二階を仰ぎ見る。
ダリアちゃんは昼間寝かされていたあの部屋で今も静養中のはずだ。
スズランさんの話によれば、ダリアちゃんはボクたちが退室したあと、しばらくしてから無事目を覚ましたものの、起き上がるのはまだ無理っぽかったらしいし。
「静養中とはいえ、まだ寝るには少々早い時間だから、起きている可能性は充分にあると思うんだ。だから、ちょっくら行ってくるね」
「ちょ、ちょっと待って、だんなさま!」
「行ってくるって、どなたかに面会の許可は貰ってるんですか!?」
「貰ってるワケないじゃん。絶対面倒くさいことになるもん」
ダリアちゃんと面会する許可をミモザさんとかスズランさんとかナズナさんとかに貰えたとしても、ボクが妙な真似をしないか監視するため付いてくるだろうし。
そうしたら訊きたいことも訊けないだろうからね……。
「待って待って待ってだんなさま! 相手はルーナと同じくらいの女の子なんでしょ!?」
「そんなコの寝所に突然押し掛けるおつもりですか!?」
…………………。言われてみれば確かに……。小学校高学年くらいの女の子の寝所をボクが無断で訪れるのはちょっと問題があるか……?
「ルーナと同衾するのが当たり前になっていて、そのへんの感覚が若干麻痺していたみたいだ……」
「若干……?」
「る、ルーナのせいにするのはどうかと思いますっ」
「てか、上手いことダリアちゃんから話を聞くことが出来たとしても、明日ダリアちゃんの口からボクと会ったことが報告されたら、それはそれで面倒くさいことになるよな。危ない危ない」
「だんなさまって思慮深いようで、わからないことについては考えるのをアッサリ諦めたり『こうすべきだ!』って思ったら即行動したり、実は猪突猛進な性格だよね」
そうかな……。そうかも……。
「そんなところも魅力的ですけどね☆」
ルーナも大概だけどマリナのボクに対する盲目っぷりも相当なモノだよね……。
「そうなると、なんとかしてスズランさん辺りから聞き出すしかないのかなぁ」
でもどうやって……。
「――ふぅん。そんなに気になるんだ。もうっ、仕方ないなぁ。お姉さんが特別に教えてあげましょう☆ ナズナ姉さんには秘密よ?」
「!? スズランさん!?」「「!?」」
カグヤとマリナの背後にいつの間にかスズランさんがいた。
「いつからそこに!? どこから聞いてました!?」
「『ちょっくら行ってくるね』のところからよ☆ 話の流れから推察するに、イサリクンたちが気になっているのは、ハナビ様がどんなふうに力を貸してくださっているのかよね?」
良かった。オーバーロードに関する話は聞かれていなかったようだ。
「――それしてもイサリクンも大胆ね。いくらダリアちゃんが可愛いからって、適当な理由を作ってまで夜這いしにいこうだなんて」
いやダメだ。何か誤解をされてるっぽい。
「あの。妙な言いがかりはヤメてください。ボクはロリコンじゃありません」
「あら。でもあのルーナちゃんってコと普段から同衾してるんでしょう?」
誰だ、ボクがルーナと同衾していることをスズランさんにバラした奴は。
ボクだ。
さっき、自分でおもいっきり「ルーナとの同衾が当たり前になっていて~」って口走ってたわ……。
迂闊すぎるだろ、ボク。
「同衾とは言っても添い寝をしてあげているだけです。疚しいことは何もありません」
「そうなの? さっき話の流れでルーナちゃんに『イサリクンってスゴイわよね』って言ったら『はい! イサリさまはいろいろとスゴイし、とっても優しいんですよ☆ わたくしにとっては未知の世界だったことも、手取り足取り優しく教えてくれましたし……。お陰でわたくし、少しだけ大人になれました』って恥じらいながら教えてくれたから、てっきり……」
「ボクが何を教えたと思ったの!?」
ルーナが言ったのはたぶん帆船の仕組みとかのことだよ!?
「――てかスズランさん、絶対わかってて揶揄ってるでしょ……?」
「うふふ。バレちゃった。――ごめんなさい。イサリクンって反応が一々可愛いから、つい揶揄いたくなっちゃうの☆」
そう言ってペロッと舌を出すスズランさん。ボクより五歳も年上の女性に対してこんな言いかたはアレかもしれないけれど……ホント可愛いなぁ、このヒト(ちなみにスズランさんとナズナさんは現在二十一歳らしい)。
「で? 教えて頂けるんですか? 『ハナビ様』がどんなふうに力を貸してくれているのか」
「ええ、いいわよ。教えてあげる☆ ――ただし条件があります」
「? 条件?」
オウム返しするボクに、スズランさんは初めて見せる厳しい表情、別人みたいな真剣な声音でこう言った。
「あなたに私の話が真実かどうか見極めてもらいたいの」
…………なんだその条件。
※評価、ブックマーク、感想等よろしくお願いします!




