♯63 頼れる仲間たちと、トラブルに巻き込まれた
第63話です。
出航から早三時間。ボクたちは未だ第七<神域>トゥオネラ内に留まっていた。
この亜空間と現実空間を繋ぐ出入口、蒼穹に浮かぶ鯨雲のカタチをした<遺跡>はもう目と鼻の先だ。
……が、
「この船が踟躊をして、もうすぐ一時間かぁ」
いつだったかも言ったとおり、『踟躊』は投錨できないほど水深がある海でその場に留まりたいときに、展帆の調整だけで停船させることを言う。航行を続けることが難しい荒天時に、天候の回復を待つために行なわれることが多いのだが……、今は全く別の理由で行われていた。
晴天であるにもかかわらず――しかも<遺跡>を目前にしながら『トゥオネラ・ヨーツェン』がもう一時間もこの場に留まり続けている理由。それは、
「シロが来ない!」
ボクのストーカー……もとい戦友とも言える白鯨のシロが、一向にその姿を見せないことだった。
「なんで!? 今どこにいるのシロ!」
『トゥオネラ・ヨーツェン』が動き出したらすぐに寄ってくるだろうと思ってたのに!
もしかしてボクたちが出航したことに気付いてないのか!?
「このまま置いていっちゃうよ!? いいの!?」
いや、シロがよくてもボクがよくない……。正直、心細さが半端ない……。
「もしかして旦那様てば、シロに愛想を尽かされちゃったのではないか?」
「不安になるようなことを言わないでよツバキ!」
他の女性乗組員同様、開拓中愛用していたディアンドルのような衣装を脱ぎ、久々に『セイラー服の襟が付いたスクール水着モドキ』に袖を通した(袖が無いのに『袖を通した』とはこれ如何に)ツバキの心無い言葉にボクは噛みつく。
「ふむ。ではシロに愛想を尽かされる心当たりは無いと」
「当然でしょ」
なにしろ<小地球樹>に到着してからこの六週間、キロウスと闘ったり開拓を手伝ったりでメチャクチャ忙しくてシロとは会ってすらいないのだから。
「え!? ちょっと待つのじゃ旦那様。会ってすらいないって……まさか一度もか!?」
「そりゃそうだよ。いったん陸に上がってしまったら、沖合にいるシロとは顔を合わせようがないじゃない」
まあ、陸って言うか正確には『樹』だけども。
「確かに男衆も開拓を手伝っとったから私的な理由で『トゥオネラ・ヨーツェン』を動かしてもらうのは気が引けたかもしれんが、ロウガの漁船を使えば会いに行けたじゃろ」
「だからそんな暇は無かったんだって」
「……絶対それが原因じゃろ」
「え?」
どういうこと?
「じゃから。誰かさんに六週間も放置されたことで、『あんな薄情者もう知らないっ』ってすっかりヘソを曲げてしもうたんじゃろ。シロ」
「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「今頃『あんなに尽くしてあげたのに!』って泣いとるやもしれんぞ。この女泣かせめ」
「相手は鯨だよ!?」
まー確かにシロはどうも雌っぽいし、普通の鯨か? と訊かれると限りなく怪しいけども……。
それにこの右も左もわからない世界で、シロに沢山助けてもらったのは事実だしな……。
敵の船に乗り込むのを手伝ってもらったり。ピンチの際に敵の注意を引いてもらったり。救出した人々をこの船まで運んでもらったり。
なのに六週間も放置って……。そりゃあ薄情者って言われても仕方ないよね。
…………まあ、シロにされたこと(この蒼き月の海へ勝手に連れてこられた)を思えば、「この程度の手助けじゃ割に合わなくない……?」って気がしなくもないけれど。
でも、シロに嫌われちゃうのはイヤだな……。
「ど、どうしよ」
カグヤかマリナに相談してみるか……と甲板を見回し二人の姿を探すと、ちょうどカグヤがこちらへ向かってくるところだった。
隣にはイリヤの姿もある。
イリヤの右手には<小地球樹>の樹液で柄の部分をコーティングした薙刀が、カグヤの右手には自動翻訳スキルを会得することが可能な『バビロンの実』が握られていた。
どちらもボクが昨夜<種を播くもの>クーリエから預かったモノで、クーリエが「カグヤに頼まれていたモノだ」と言っていたからとりあえずカグヤに渡したのだけれど……。なんでイリヤの手に『バビロンの実』が渡ってないんだろう? カグヤはあれをイリヤに食べさせるつもりだったはずなのに。
「実は要らないんだって」
訝しんでいると、カグヤが苦笑しつつボクの疑問に答えてくれた。
「え、なんで!? 勿体ない! 自動翻訳スキルが手に入るんだよ?」
思わずイリヤを見ると、彼女はあっけらかんとした様子で肩を竦め、
「だっテ、意思ノ疎通に関しては別に困ってナイもの。それに、これまでノ努力を無駄にしたくナイし」
「もっと流暢に喋れるようになるよ?」
「一生懸命こっちの言語ヲ教えてくれたミズキさんの厚意を無駄にスルような真似はしたくナイの。彼女がワタクシのために使ってくれた時間を大切にシタイ……。その実を使ってしまったラ、『ヒトとヒトの紲なんテ神様の便利なチカラの前じゃ無価値なんだ』って認めることになっテしまう……そんな気がするのよ」
………………。
「そっか」
それがイリヤの人間としてこだわり。矜持なんだね。
安易に「勿体ない」と考えてしまった自分がちょっぴり恥ずかしい……。
「それなら仕方ないね」
そういうことであれば、ボクの身に宿っているクーリエも「せっかく用意したのに」と怒るような真似はしないだろう。
むしろイリヤのことを気に入りそうな気がする。なんとなく。
「それはさておき」とカグヤは実を懐に仕舞いつつ、「そろそろ出発しない? だんなさま」
えっ。
「でもまだシロが」
「大丈夫。わたしの予想が正しければ、シロは姿を見せていないだけでちゃんと近くにいるよ」
「そうなの!?」
「うん。今はちょっと意固地になっちゃってるだけ。機嫌が直ったらまた姿を見せてくれるよ」
「そ、そっか」
カグヤもシロはヘソを曲げていると見ているんだね……。
「それじゃあ<遺跡>を起動させるね」
そう言って右手を前に突き出したカグヤの正面、空中に、ブン! という音とともに水色の空中ディスプレイのようなモノが出現する。
「「「何それ!?」」」
ボクとツバキ、そしてイリヤの驚きの声がハモった。
「何って……操作盤だけど」
「「「操作盤」」」
「この<神域>、入るときと違って出るときは認証が必要無いんだけど、代わりにどこに出るのか選ばないといけないんだよね」
……うん?
「『どこに出るのか』?」
それはどういう意味だろう。
「つまりね、入ってきたところ――『死の湖』に出るのか、それとも空間を『跳んで』別の<神域>のご近所に出るのか、選ばなきゃいけないってこと」
「えっ!? 別の<神域>があるところへ直行できるの!? それって遠くへ行きたいときはすっごい楽ちんなんじゃ」
たとえばアリシアと出逢った『ビトルビウス』へ行きたいときは第十一<神域>ロストワールドのご近所まで『跳ぶ』ことを選べば、ここからロストワールドまでの道程はショートカット出来るってことだよね!?
「そうだね。現在はこの第七<神域>トゥオネラが『わたしたち』の総本山だから。その関係で、ここの<遺跡>にはそういう機能が備わってるってワケ。――もっとも一方通行だから、一度別の<神域>の近くに『跳んで』しまったら、自力で帰って来なくちゃいけなくなるんだけれど」
ふむふむ。なるほどね。
……『造物主』や『オーバーロード』という単語を使わずに『わたしたち』と表現したのは、すぐ傍にツバキとイリヤがいるからなんだろうな。みんなはカグヤたちが造物主サマだということを知らず、造物主サマに仕える巫女みたいな存在だと思っているっぽいから。
…………ん?
「待って。今キミ、『現在はこの第七<神域>トゥオネラが~』って言ったよね? そういう言いかたをするってことは、以前は別の場所が総本山だったの?」
「……うん。ここからもっと南、『氷の海』にある第十二<神域>が昔は総本山の役割を果たしていたんだよ。でもいろいろと事情があって……ね」
「へえ」
第十二<神域>ってことは、牡羊座をシンボルにしている上位眷属が管理している<神域>なんだよね?
なんて名前の、どんな役割を課せられた造物主サマなんだろう……。
「話を戻すけど、一年前わたしが『ヤポネシア』でツバキと出逢えたのも、わたしがこの機能を使ってヤポネシアにある<神域>へ『跳べた』からなんだよ」
「『ヤポネシア』にも<神域>があるの!?」
かつてここに住んでいたらしいカグヤと『ヤポネシア』のお姫様であるツバキがどうやって出逢ったんだろうと不思議に思っていたら……。そういう絡繰りがあったとは。
あ。ツバキも「なんじゃと!? 『ヤポネシア』にもここのような摩訶不思議空間があるというのか!?」って驚いてる。……摩訶不思議空間て。いや摩訶不思議空間だけども。
「まあ」とカグヤは再度肩を竦め「今回は他の<神域>のところへは跳ばず、普通に『死の湖』に出るけどね。比較的近く、かつ大きめな有人島で物資を大量に買い込むことが今回の目的だし。出来るだけ早く帰ってこなくちゃだし」
「うん、そうなるよね」
「というワケで――ポチッとな」
カグヤが操作盤に浮かんだ文字列の一番上を軽快にタッチする。
同時に蒼穹に浮かんでいた鯨雲がゆっくりと降りてきて、ボクたちの視界はたちまちのうちに霧のようなモノで覆われてしまった。
甲板にいたボクとカグヤとツバキ以外のメンバー全員――イリヤも含む――が色彩を失い、一時停止したみたいに動きを止める。
世界が、凍り付く。
今頃船内でもほとんどの人間がその動きを止めていることだろう。……相変わらず動きを止めるメンバーと止めないメンバーの基準がわからないなぁ。カグヤとマリナに心当たりを訊ねたこともあるけれど、「さあ?」「何が基準なんでしょうね?」って曖昧な笑みではぐらかされちゃったし。……絶対何か知ってるだろこの二人。
やがて視界が晴れると、一時停止していたメンバーが色彩を取り戻し、世界が再び動き出し始める。
「おー、久しぶりの外界」
見渡す限りの紺碧の海。鯨雲を除けば雲ひとつ無い蒼穹。燦々と輝く太陽。昼間の月ならぬ昼間の雪球地球。波間から時折その姿を覗かせるトビウオやアノマロカリスといった生き物たち。
「下手回し用意!」
六分儀を使って蒼穹に浮かぶ地球の位置からこの船の現在地と方角を割り出したツバキが、男衆に指示を飛ばす。
それを横目にボクはカグヤとイリヤへ訊ねた。
「なんて名前の島だっけ、今回の目的地」
「『ヘルクレス』だね。ここより南西、『氷の海』の北端に位置する島だよ」
「海図に載ルくらい大きい有人島デ最寄りとなるト、そこか『グローブ』になるノ。でも、『グローブ』に行くノは流石に…………ダカラ」
「うん……」
イリヤとクロエ、ロウガさん、そしてオリガ一家は、『グローブ』でいろいろあって命からがら逃げてきたんだもんね……。
『ヘルクレス』か。どんなところが楽しみだ。
「楽しみにするのはいいけれど。『ヘルクレス』ではちゃんと自重してね、だんなさま」
これまでのトラブルの原因は全部ボクだった、みたいに言われるのは不本意なんですけど!?
☽
「トラブル発生ですね」「流石じゃな。旦那様」
「ボクのせいじゃないからね!?」
現実世界に無事帰還し、航行を再開して二日目の今日。クロエとツバキが今言ったとおり、新たなトラブルが発生していた。
いや、これをトラブルと言うのは流石に大袈裟かもしれない。まだ何か問題が発生したワケではないのだ。現時点では『トラブルが発生した』ではなく『想定外の事態に直面した』と言うべきだろう。
「まさかこの広い海で他の船と遭遇するとは思いませんでした。しかもこんな辺境で」
お母さんの形見らしい伊達眼鏡の位置を直しつつ困惑の表情で呟くクロエ。
そう。『トゥオネラ・ヨーツェン』は今、正面、やや南西寄りの方向から近付いてくる船と相対しようとしていた。
お互いの距離はもう1海里、つまり2㎞弱ほどしか無い。この風だとすぐに接触することになるだろう。
「あの船に乗ってるの、どんなヒトたちなんだろうね? やっぱ近くの島の住人かなぁ? でも確か、『死の湖』に有人島は存在しないはずなんだよね? 主計長のオッサンがそんなようなことを言ってたよ」
「うむ」とツバキは頷き「それが妾たち船乗りの共通認識じゃし、この船の海図にも有人島はひとつも記載されとらん。……とはいえ、広く知られていなかっただけで、実はこの『死の湖』にも有人島が存在していたのかもしれんな」
「あ。あと、『氷の海』と『晴れの海』の間を行き来する交易船とかの可能性もあるんじゃない?」
「そうですね」ボクの推測にクロエは溜め息をつき、「なんにしても『秩序管理教団』の船ではなさそうなので、そこはよかったです」
「艤装が全然違うもんね」
相手の船は一番前の帆檣に横帆を、後ろ二本の帆檣に縦帆を張った三本帆檣の木造帆船。バーケンチンと呼ばれるタイプの船だった。
『トゥオネラ・ヨーツェン』のようなトップスル・スクーナーと比較すると、逆風に対する切り上がり性能は劣るものの順風時の航走能力は優れている、そんな船である(ちなみにこのバーケンチンよりももっと逆風に弱く、順風に強くしたのが『秩序管理教団』が使っているバークだ)。
「そのぶん海賊の可能性もありますが」
「そうじゃな。まあ、仮に奴さんが海賊で、戦闘になったとしても、ウチの男衆が遅れを取ることは無いじゃろ。旦那様もおるし」
あー……。
「善良なヒトたちばかりだから、つい『本当か?』って疑いたくなっちゃうけれど。そういや昔は海賊だったんだっけ、あのオッサンたち」
アリシア救出作戦のときにそんな話を聞いた憶えがある。
「母上の話によると、海賊とは言っても所謂『義賊』というヤツだったそうじゃがな」
「「『義賊』……」」
「まあ、連中にもいろいろあったんじゃろうな」
そんなやりとりをしているうちに、向こうの船の一番前の帆檣にいくつもの三角旗がスルスルと揚がった。
海上で船同士が通信するための旗。信号旗というヤツだ。
「向こうはなんて言ってるの? ツバキ」
さしもの『バビロンの実』も信号旗の翻訳まではしてくれなかった。残念。
「……『そちらの船長に挨拶がしたい』『今から船を寄せるから攻撃しないでくれ』だそうじゃ」
はい?
「それって向こうの船長さんか誰かが、ボクに会いたがってるってこと?」
「うむ。どうするんじゃ、旦那様。相手の目的がわからん以上、妾はホイホイ応じんほうがいいと思うが」
「航行中出逢った船へわざわざ足を運んで挨拶をするのって、『こっち』ではよくあることなの?」
「無い。せいぜい信号旗で『良い航海を』と伝え合って終わりじゃ。じゃからこそホイホイ応じんほうがいいと言うとるんじゃよ」
「………………」
「で、どうするんじゃ?」
「向こうに『OK』って伝えて」
「今の話を聞いて、素直に応じるおつもりですか!?」驚き目を瞠るクロエ。「危険では!?」
「せっかく『挨拶がしたい』って言ってくれてるのに断るのもなんだし」
それに一度くらいバーケンチンを間近で見てみたいしね。
「――何より、向こうの正体をハッキリさせておきたい」
「逃げたほうが早いのでは」
「こんなご近所に有人島が存在する可能性を無視は出来ない。もしも存在するのなら、ちゃんと位置なんかを把握しておくに越したことはないと思うんだ。今後のためにも」
「………………」
「場合によっては『ヘルクレス』まで行かなくても物資の買い付けが出来るかもしれないし」
「それはそうかもしれませんが……」
「よし。では信号旗で『了解した』と伝えるぞ。本当にいいんじゃな、旦那様」
「よろしく」
「……わたしは念のためお父さんたちを呼んできます。何があってもいいように」
そう言って船内へ駆け込むクロエを見送り、次いでボクは迫ってくるバーケンチンを眇めた目で見据える。
「さて。鬼が出るか蛇が出るか」
前回このセリフを口にしたときは艇長のオッサンが出てきたんだよな、確か。
☽
出てきたのはまたもやオッサンだった。
焦げ茶色の髪と瞳を持つ、軽薄な雰囲気と抜身の刃のような鋭い気配を兼ね備えた二十代半ばのオッサンである。
まあ、この蒼き月の海では船乗りは基本的に男の職業なのだから、オッサンが出てくること自体は何もおかしくない。
女性乗組員が多数いる『トゥオネラ・ヨーツェン』がむしろ特殊なのだ。
あと、二十代半ばに『オッサン』は失礼かな、という気もするので一応フォローしておくと、トンデモなくイケメンだった。イケオジというヤツだ。
気になるのは、オッサンが革製の胸当てと籠手、脛当てを身に着け、右腰に佩剣していることだった。
一般的な船乗りの格好ではない。
おそらく船が海賊に襲われたときに戦うことが彼の役割で、操船には一切関わっていないのだろう。
「お邪魔するよ」
ツバキや男衆が舌を巻くほど見事な操船技術で『トゥオネラ・ヨーツェン』にピッタリと横付けされたバーケンチンから跳び移ってきたそのオッサンは、軽薄な笑みを浮かべつつ『トゥオネラ・ヨーツェン』の甲板をグルリと見回す。
……強いな、このオッサン。ボクは叔父さんやどこぞの少年漫画の主人公みたいに相手の力量を正確に推し量るような技能は持ってないけれど、それでも身体の運びなどから凡その強さを察することは出来る。このオッサン、メチャクチャ強い。一見隙だらけなようで隙が全く無い。ロウガさんと同じくらいか、下手をしたらそれ以上かもしれない。
オッサンに続いて、同様の格好をした、少し若め(二十歳になったかならないかくらい)の兄ちゃんたち二人が跳び移ってきて、オッサンの後ろに控えた。
どうやらこの軽薄そうなオッサンがリーダー格のようだ。
ちなみにこちらの甲板には今、ボク、ツバキ、男衆の他には、薙刀を手にしたイリヤと佩剣したロウガさんしかいない。何があるからわからないので、カグヤ、ルーナ、マリナを始めとした女性陣には船内で待機してもらっている。……本当はツバキとイリヤにも船内にいてほしかったのだけれど、「絶対イヤじゃ」「それだと用心棒ノ意味が無いデショ」と断られてしまった。勝気なお姉ちゃんたちである。
そんなツバキとイリヤを見たオッサンが「ヒュウ♪」と口笛を鳴らす。
「こんなところで、これほど見目麗しいお嬢さんがたにお目に掛かれるとは!」
………………イラッ(怒)
テメェ何ウチのお姉ちゃんたちに色目を使ってくれてんだぶっ飛ばされてーのかコラ、と言いたいのをぐっと堪えボクは訊ねる。
「それで? ご用件は?」
……若干つっけんどんな物言いになってしまったのは大目に見てほしい。
「旗で伝えただろう? ウチの船長がこの船の船長さんに挨拶がしたいそうでね」
「ということは、あなたがあの船の船長さんというワケではないんですね」
「当然。これが船長って格好に見えるかい? ――それで? この船の船長さんはどちらに? まずは俺から挨拶させていただきたいんだが。……もしやそちらの偉丈夫が船長さんかな?」
そう言ってオッサンはロウガさんを見、その焦げ茶色の双眸を眇める。どうやらロウガさんが『出来る』ことを見抜いたようだ。
質問したボクのほうは見もしねえ……。というか、最初に甲板を見回したときにこちらを一瞥して以降、ボクのことはガン無視だ。……まあ、おそらくボクのことをただの見習いと判断したんだろうけれど。こんな若造が船長なんて普通はあり得ないし。
「この船の船長は俺ではない」
ニヤリと笑って答えるロウガさん。
「――今、貴殿に質問したそちらの少年、イサリ殿こそが船長だ」
しばしの沈黙。
「面白い冗談だ」と笑われるかな……それとも「つまらん嘘をつくな」と怒られるかな……とボクが恐る恐るオッサンの様子を窺うと、
「……マジかよ」
オッサンは顔を左の掌で覆い、「参ったな」と言わんばかりに天を仰いだ。
「出来れば、こんな猛獣には近付きたくないんだが」
誰が猛獣だ。
……てか、なんで猛獣?
もしかしてさっき、そんなに怖い目で睨んじゃってた? 狂犬みたいな感じになっちゃってた?
でもあれはあなたが悪いんだよ? ウチのお姉ちゃんたちに色目を使うからさ。
「やれやれ――仕方ないな」
オッサンはそこでようやくボクのほうを真っ直ぐ見ると、こちらへ歩み寄り、
「はじめまして、船長殿。俺はヨハネスという。お目に掛かれて光栄だ」
朗らかに笑って右手を差し出し、握手を求めてきた。
「あ、ども。イサリです」
ボクはそれに応えるため、素直に右手を差し出し――
直後オッサンの左手が翻り、彼が右腰に差していた長剣がボクの左首筋を襲った。
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