♯47 頼れる仲間たちと、運命の地に辿り着いた
第47話です。
「――とまあ、そんなワケでボクたちはシャロンとリオンさんを始めとする二十名のメンバーを新たに仲間に加え、船旅を続けることになりました。そして道中不審な漁船を発見し、接触したところ、ロウガさんたちの船だったワケでして……。あとは皆さんもご承知のとおりです」
…………ふう。
幼少期に経験したイリヤ姉ちゃんとの出逢いと別れ。従妹と一緒に乗った豪華客船で待っていたルーナとの出逢い。直後の海への転落事故。ルーナを救うため飛び込んだ海で鯨に呑み込まれ、それが原因で(?)時空を超えてこの蒼き月の海へ流れ着いたこと。カグヤとツバキを始めとする『トゥオネラ・ヨーツェン』の乗組員たちとの出逢い。カグヤから貰った不思議な実のチカラで『変身』する能力を手に入れ、『深きものども』と戦ったこと。船長への就任。初めて訪れたこっちの港町で出逢った一人目の<魔女>、アリシア。そんなアリシアや、彼女よりも先に捕らえられていたアデリーナさんたちを救出するため繰り広げた『秩序管理教団』との激闘。炎上していた『秩序管理教団』の横帆船からシャロンやリオンさんといったメンバーを救出するも、最初は誤解から拒絶されたこと。造物主サマの一柱との接触及び『月棲獣』と呼ばれる巨獣との死闘。そして誤解が解けたリオンさんたちの仲間入り。
『何か』の襲撃をかろうじて退け、航海を再開し、『死の湖』に辿り着いて早二日。このへんで主要メンバーと認識の共有を図ろうと、仲間たちの前でこれまでの経緯を一通り語り終えたボクは、一息ついて、『トゥオネラ・ヨーツェン』の食堂に集まった面々を見回す。
「本当にいろいろありました……」
「まだ一ヶ月も経っていないのにこれだもんね」
「改めて振り返ってみると濃すぎるくらい濃い日々じゃったな……」
ルーナ、カグヤ、ツバキは遠い目で虚空を見つめ、しみじみ呟いていた。まあ、気持ちは分かる。ボクも喋っていて「何これ。漫画の話?」って自分で自分にツッコミたくなったもん。
「鯨に呑み込まれたことが原因で時空を超えたってホントなの? その鯨って白鯨のことなのよね? なんなの、あの子」
「わたくしとしてはカグヤさんの正体のほうが気になって仕方ないのですが……。いえ、カグヤさんが仙女を自称されていることは存じていますけども……。そもそも仙女とはいったい……?」
アリシアと、お昼寝中のサシャちゃんを抱っこしているアデリーナさんは眉間に皺を寄せて何やら考え込んでいる。
「多少は聞いていたけれど、造物主サマだの巨獣だの……、なんてモノの戦いに巻き込まれてるのよ、ウチの娘は……。あなたよく生還できたわね、シャロン」
「船長さん、とっても格好良かったよ。お母さん」
「私の娘、意外とタフ!」
リオンさんは頭を抱えて唸っていた。いっぽうのシャロンはケロッとした顔で、慰めるようにそんな母親の背中を擦ってあげている。……気弱なようで意外と逞しいトコあるよね、シャロンって。
「う、う~ん……。アタシは今の話、どうも信じられないんだけどねぇ」
「確かに……。話が荒唐無稽すぎて……」
「でもお母さん、お父さん。ロウガおじさんが言うには、船長さんが不思議なチカラで『変身』して、トンボの化け物や筋肉ムキムキ怪人を相手に人間離れした戦いを繰り広げたのは事実らしいよ」
ターニャさん、ロビンさん、オリガは半信半疑といった様子だ。まあ、この三人はボクと『何か』の戦いをその目で見たワケじゃないからなぁ。
「イサリが『変身』して戦うところヲ、ワタクシもこの目で見たし……イサリの話ヲ誰一人否定しないということはすべて事実なのでしょうけれド……。まさかあのイサリが、ワタクシの知らないところでそんな大冒険を繰り広げていたなんて……。それに……ワタクシよりもずっと強く……」
イリヤ姉ちゃんは少々複雑そうだった。テーブルに視線を落とし、唇を噛んでいる。……ボクに足手纏い扱いされたことがそんなにショックだったんだろうか。別に気にする必要は無いと思うのだけれど。この蒼き月の海におけるボクの強さは、半ばズル、チートみたいなモノだし。
そのチート……『変身』に必要なチカラも、『何か』との戦いで使い果たしてしまったっぽいし。
なんとなく、感覚でわかるんだよね……今のボクは『変身』できないって。
カグヤが言うには、目的地に辿り着けばまた『変身』に必要なチカラを手に入れられるということだったけれど……。
「………………」
クロエは無言でジッ……とこちらを見据えている。眼鏡の向こうのその鋭い瞳は、ボクの話を聞いて尚、不審そうにボクを睨んでいた。
「船長殿。話は概ねわかった。が、念のためひとつだけ確認させてほしい」
腕組みをしたまま、そう言ってきたのはロウガさんだ。
「なんでしょう?」
ボクが促すと、ロウガさんは最初言いにくそうに言い淀むも、やがて思い切ったように訊ねてくる。
「船長殿が『変身』した姿は、俺が以前クロエから聞いた『<魔女>殺し』のそれを彷彿とさせるんだが……。船長殿は『<魔女>殺し』とは本当に無関係なのだな?」
「もちろん無関係です。ボクはまだ『<魔女>殺し』とお目に掛かったことすらありません。……って、ちょっと待ってください」
『以前クロエから聞いた』?
「ひょっとしてクロエは『<魔女>殺し』をその目で見たことがあるの?」
ボクの問い掛けにクロエはプイッとそっぽを向いて無視した。コンニャロ。
「クロエだけじゃない。ワタクシもこの目で見たワ。オリガもネ」
代わりにそう答えたのはイリヤ姉ちゃんだ。
「え!? 本当に!?」
ボクが目を瞠ると、オリガが「ホントですよー」と首肯する。
「アイツ、ワタシとクロエを殺すために『グローブ』に現れやがったんです」
「ええっ!? よく生き残れたね!?」
「……実を言うとアイツが現れたのは、ワタシとクロエが『秩序管理教団』の連中に捕縛されて絶体絶命のピンチに陥った直後でして……。アイツと『秩序管理教団』の連中がモメだしたお陰で、混乱に乗じて逃げ果せることが出来たんですよ」
「へー……。結果的には『<魔女>殺し』のお陰で助かったってこと?」
「――助かってなどいません」
そこでクロエが弾かれたように立ち上がり、これまで以上にキツくボクを睨みつけ、吐き捨てるように言った。
「アイツと『秩序管理教団』の戦いに巻き込まれ、お母さんは命を落としたんです。アイツはお母さんの仇です! たとえお母さんにとってわたしはただの研究対象でしかなかったのだとしても……! それでも、わたしにとっては大事なお母さんだったんです……!」
「…………『研究対象』?」
ボクは戸惑い、イリヤ姉ちゃんたちのほうを見る。だが、イリヤ姉ちゃんも、ロウガさんも、オリガ一家も、全員が「何を言い出すのか」という顔でクロエを見つめていた。
「!」
自分の失言に気付いたクロエが慌てて口元を抑え、泣きそうな顔をすると、そのまま食堂を飛び出していく。
「「クロエ!」」
そのあとを慌てて追いかけるイリヤ姉ちゃんとオリガ。
ボクもクロエを追いかけようかと思ったけれど……ここは彼女たちに任せたほうがよさそうだ。
代わりに、ロウガさんに問い掛ける。
「あの……ロウガさん。クロエが言った『研究対象』というのは……?」
「……たぶんだが」
ロウガさんは腕を組み、渋面で答えた。
「ミズキ――あの子の母親が自分を生んだのは研究が目的だった、とでも思っているのだろう。思い込みの激しいところがある子だからな」
「……どういうことです?」
「あの子の母親はこの世界の様々なモノを観察・記録していたんだ。元々はカガクシャというヤツだったらしくてな」
カガクシャ……科学者、か。
「ちなみにだけど、」
と一児の母として確かめずにはいられなかったのか、リオンさんが訊ねる。
「それはあくまでクロエちゃんの誤解なのよね?」
「……だとは思うのだが」
いや、そこは断言してほしかったのだけれど。なんで自信なさげなワケ?
「で、でも」とシャロン。「クロエさんは何故そんな誤解を?」
「ミズキは天才すぎて誤解を招きやすい性格というか……何を考えているのかイマイチわかりにくいところがあったからな……」
「はあ」
まあ、天才って、常人には理解し難いところがあったりするものだしね……。
「それにミズキは研究の成果や観察したモノの様子を紙に記録していたんだが、クロエの記録も取っていたんだ。定期的にクロエを裸にさせて、全身くまなく観察してな」
それもう誤解じゃないだろ。
実際に研究してるじゃねーか。
「ちなみに奥方はクロエの何を観察・記録しておったんじゃ?」
と訊ねたのはツバキだ。
確かにそこは気になるところではある。
まさかスリーサイズだけということはあるまい……。
「わからん。アイツは記録する際、ニホンゴとかいう地球の文字を使っていたからな。読もうとしても読めなかったんだ。クロエも同じだろう」
「同郷のイリヤ姉ちゃんに読んでもらうという手もあったと思うんですが」
「一度頼んだが、断られた。『ヒトが書いたモノを、本人の許可なく勝手に読むのは礼儀に反するワ』とな」
……生真面目なイリヤ姉ちゃんらしいなぁ……。
「ちなみにクロエの観察記録が記された紙は今、手元には?」
「無い。すべて『グローブ』に置いてきた。手荷物はなるべく少なくしたかったのでな」
「うーん……」
「もしかしたら、クロエが何枚か隠し持っている可能性はあるがな……。あの眼鏡を別にすれば、ミズキの形見として持ち運べそうなモノはそれくらいだ」
「……だとしても、素直に見せてくれるワケがないよなぁ……」
ダメだ。八方塞がりだ。
どうもイリヤ姉ちゃんはボクにクロエの『お兄ちゃん』になってほしいみたいだから、ボクにもクロエのために何かしてやれることはないかと思っていろいろ訊いてみたけれど。何も出来ることは無さそうだ。
ホントなんの役にも立たないな、ボク……。一応この船の船長なのに……。
☽
「はーい皆さん、ご飯ですよー」
「いっぱい食べて、しっかり肥えるんじゃぞー」
「サシャお肉すきー☆」
「モ~」「ブヒブヒッ」「メ~ッ」「コケーッコッコッコッ!」
男衆が中央甲板に製作した小さな小屋。
その中に入れられている動物たちへ、ルーナとツバキ、そしてアデリーナさんに抱っこされたサシャちゃんが手分けして餌を与えていく(ちなみに動物たちはちゃんと種ごとに区分けされている)。
微笑ましい光景だ……が、それを見守るボクの胸中はどんより曇っていた。
「まさか動物たちへの餌やりすら満足に出来ないとは……」
なんでコイツら、ボクが餌を与えようとしたときは見向きもしなかったくせに、ルーナとツバキ、サシャちゃんに代わった途端、喜んで貪り食ってるの……?
ボク、何か動物たちに嫌われる匂いとか気配とか、そういったモノでも発しているんだろうか……?
どこまで役立たずなのさ、ボク……。十歳児や四歳児以下って……。
「落ち込まないで、だんなさま。わたしはだんなさまがみんなのために頑張ってくれていること、ちゃんとわかってるよ。ほぉら、よしよーし☆」
甲板の隅で体育座りをして落ち込んでいたボクの頭を、カグヤが優しく撫でてくれた。……のだけれど、その優しさが逆に辛い……。
「だんなさまはやれば出来る子だよ☆ がんばれ♥がんばれ♥」
何そのキャラ。
「カグヤお姉ちゃぁん……」
でも、せっかくなので悪ノリしてみた。
先日ツバキに『お姉ちゃん』と呼ぶことを拒否されてしまったので(いや、ハッキリ「ダメ」とは言われてないが)代わりにカグヤを『お姉ちゃん』と呼んでみる。
……十六歳の男が見た目十二歳の女の子を『お姉ちゃん』呼びってどうなんだ、とは自分でも思ったけれど。でも、カグヤからはバブみ? って言うんだっけ? そーゆーアレを感じることもしばしばなので、あくまで悪ノリ、ジョークということで赦してほしい。お願いだから気持ち悪がらないで!
さーてカグヤの反応は、と彼女の様子を窺うと、
「はうぅっ!」
まるで拳銃で撃ち抜かれたみたいに胸を抑え、仰け反っていた。
そして頬を紅潮させ、瞳を欲情したみたいに潤ませた彼女は、
「だ……だんなさま! もっと甘えてくれていいよ! ほら、おいで! わたしがぎゅってしてあげる! だから今のもう一回! もう一回『お姉ちゃん』って呼んで!」
ふー、ふー、と息を荒くし、目を血走らせつつ、こちらへとにじり寄ってくる。
…………うん。
メッチャ怖え。
「か……カグヤ? ちょっと落ち着こう? 今のは軽いジョークだよ?」
やるんじゃなかった! このコの変なスイッチを押しちゃった!
「大丈夫! 怖くない! 怖くないよ! お姉ちゃんが優しくリードしてあげるからね!」
「何を!? だから落ち着いてカグヤ! ステイ!」
「わんわん!」
「ダメだ正気を失っている! てか以前もやったぞ、このやりとり!」
「わおーん!」
「ぎゃああああああ飛び掛かってこないで顔じゅうに接吻の雨を降らせないでボクの服を脱がせようとしないでぇぇぇぇぇぇ! ってオイ、ちょっと待て! キミ、髪と瞳の色が変化し始めてるぞ!? 『あの姿』になろうとしてないか!?」
『あの姿』って、こんなギャグパートでなってしまっていいモンなの!?
「何をやっとるんじゃお主らはぁ! 真昼間の屋外、しかもルーナとサシャの前じゃぞ!?」
間一髪。ツバキがカグヤを引き剥がしてくれた。
助かった……。
「――ハッ!? わたし、また我を失って……!? そんな……! またわたしのせいで大切なヒトを傷付けるトコだったなんて……!」
「いや、そんな自分の中に封印されたチカラを抑えきれず暴走させてしまったヒロインみたいな悔恨をするような流れじゃなかったよね今の。ただのギャグパートだったよね」
抑えきれていなかったのは封印されたチカラじゃなくて、ただの欲望だよ?
いや……待て。封印されたチカラもあながち的外れじゃないのか?
「ね、ねえカグヤ。とりあえず、その髪と瞳の色を元に戻したほうがいいんじゃない?」
「え?」
カグヤは言われて気付いたのか、ハッとし、紫水晶を塗したような菫色へと変化した髪を一房掴んで見下ろすと、「これは……!」と目を瞠る。
何その反応……。
もしかしてその変色、さっきのこのコの暴走とは無関係なのか?
でも、だとしたらいったいなんで――
何に反応してそうなったんだ?
「着いた……! ついに辿り着いたよ、だんなさま!」
「辿り着いた? どこに?」
「決まってるよ! 目的地――第七<神域>トゥオネラだよ!」
「「「「えっ!?」」」」
ボクだけでなく、ルーナとツバキ、アデリーナさんも驚きの声を上げてキョロキョロと周囲を見回す。
しかし――
「……何も見当たらないよ?」
『トゥオネラ・ヨーツェン』の進行方向――どころか左右や後方、視界のすべてを確認しても、蒼い海原が広がるのみだ。
大半が多島海であるこの蒼き月の海では珍しいことだが、有人島はもちろん無人島のひとつすら見当たらない。
見当たるモノといえば、蒼穹に浮かぶ鯨雲くらいだった。
あとは……相変わらずこの船のあとを追いかけてくる白鯨くらいか。
亜空間である<神域>には、その入口、<遺跡>があるはずだが……。もしや、第十一<神域>ロストワールドのそれのように、島のカタチをしているワケじゃないのか?
「大丈夫。<遺跡>はちゃんとあるよ。――さあ、だんなさま。心の準備は出来てる?」
「こ、心の準備? なんの?」
「もうっ。だからぁ、決まってるじゃない」
そう言って、カグヤはニッコリと微笑む。
「乙女座をシンボルとする、第七<神域>トゥオネラの管理者である造物主サマ――<種を播くもの>。そして……わたしの妹。二人に会うための、心の準備だよ!」
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