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最後の地球人♂、仙女や魔女と月の海を航る ~ルナマリアノーツ~  作者: 和泉 健星
3章 混沌からの侵略者 ―遥かなるトゥオネラ―
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♯40 可愛い仙女様と、約束のアレをした(※なお未遂)

第40話です。





 ――目を開けるとそこは、見知らぬ場所だった。


 真っ先に目に飛び込んできたのは、星々の代わりに0と1をかたどった緑の光が明滅する夜空と、そこに浮かぶ凍てついた白銀の地球だ。

 ボクが立っていたのは、それらを鏡のように映した黒い海面に浮かぶ白鯨シロナガスクジラの背の上で、すぐそばを一羽の白鳥が優雅に泳いでいた。

 そして周りには、美しい瑠璃色のはねを持つおびただしい数の蝶がひらひらと舞っている。


「なんなんだ、ここは……。――シロ? キミ、シロなのか?」


 足元の白鯨シロナガスクジラに問い掛ける。が、問い掛けながらもわかっていた――違う、と。

 理屈ではなく、本能で理解していた。


 そもそもこれは現実じゃない……。

 これらはただのオブジェクトのようなモノだ。


「――そのとおりだ。ここは現実世界ではない。旦那様の心の中、精神世界だ。この海原はさしずめ心象風景といったところか。本来は霊的スピリチュアルな存在であり、仲間のチカラで得ていた仮初かりそめの肉体を旦那様の身に宿るにあたって脱ぎ捨てた我も、ここでなら姿カタチを得て旦那様の意識とこうしてコンタクトを取ることが出来る」


 背後から掛けられた声に振り向くと、そこには黒い喪服に身を包み、ダークレッドの髪をポニーテールにした、紅玉ルビーのような赤い双眸を持つ二十歳はたち手前くらいの少女が立っていた。


「<種を摘み取るもの(スピーシーズバスター)>スーザン……」


 『衝突の冬』インパクト・ウインターの体現者。月と地球の造物主の一柱ひとり……。

 ボクの身に宿った――神様。


「うむ。見た目十九歳くらいで、ポニーテールな我だ」


 ……もしやボクたちの朝のやりとり(ボクが昔憧れたお姉さんの話)を聞いてました?


「だが黒髪ではない。すまん」


 謝られても……。


「受肉して現実世界に顕現しているときなら、髪の色を変えられないこともないのだがな……」

「だからボク、髪の色にはこだわらないって!」


 てか、造物主カミサマたちって自分の容姿を変えられるの!?


「まあ、美人であることに変わりは無いから赦してほしい」


 自分で『美人』言いやがった。

 いや、まあ、美人だけども。

 堅苦しいようで意外と気さくだよな、この造物主カミサマ……。


「……もしかして、ボクはキミに呼ばれてここにいる感じなのかな?」

「うむ。大した理由は無いのだが、なんとなく呼ばせてもらった」

「理由も無く呼んだの!? 普通こういうときって何か重要な話があるもんなんじゃないの!?」

「我らは『魂魄タマシイの婚姻』を結んだ仲なのだ。妻が夫と逢うことに一々理由が必要か?」

「そう、それ!」


 ボクはスーザンをビシッと指さして詰め寄る。


「その『魂魄タマシイの婚姻』ってのは、いったいなんなのさ!?」

「そのままの意味だが? 病めるときも健やかなるときもこの宇宙が終わるまで共にるという誓いだ。究極にして永遠の愛だな。旦那様の魂魄タマシイには元々、我を娶る資格があった。そしてあの混沌の獣との死闘たたかいでそれを証明してみせた。だから我は旦那様の三柱さんにんめの妻になると決めたのだ」

「勝手に決められても困るんだけど!? 神様と結婚なんて、…………三柱さんにんめ?」


 そういえば……。

 あの死闘たたかい最中さなかボクの両腕に装着された、黄金色こがねいろ金属彫刻エングレーブが目を惹く留紺とまりこん籠手ガントレット――あれを使ってスーザンの『衝突の冬』インパクト・ウインターのチカラを揮おうとした際に、籠手ガントレットの表面に浮かんだ光の文字列。

 あれには、スーザン以外の名前もふたつばかり表示されていたような……。


「なんだっけ……なんて表示されていたっけ……パッと見、日本人っぽくない名前だったから、ちゃんと読まなかったんだよな……。死闘たたかい最中さなかだったし」


 船乗りの公用語とも言える英語には多少自信があるけれど、外人さんの名前ってわかりにくいんだよね……。

 いや、外人さんじゃなくて造物主カミサマの名前なワケだけれど……。


「……ていうかボク、いつの間に造物主カミサマなんかと結婚を――それも二柱ふたり造物主カミサマと重婚を――していたワケ? でもって、その二柱ふたりは今どこにいるの?」


 キョロキョロと周囲を見回すも、スーザン以外の姿は見当たらない。


「どうもあの二柱ふたりは旦那様の身に宿ることを選ばなかったようだ。今も受肉して現実世界で活動している」

「あ。やっぱそうなんだ……」


 実のところ今ボクの脳裏には一人の女の子の顔が浮かんでいるのだけれど……。なんか、確認するのが怖くもあるな……。

 ……まあ、いいや。彼女は「いずれちゃんと全部話す」と約束してくれたんだ。そのときを待とう。


「気を付けろよ、旦那様」


 つい物思いにふけりそうになったボクに、スーザンがそう言った。


「? 気を付けろって……何に?」

「今言ったとおりくだん二柱ふたりは旦那様の身に宿ってはいない。我がチカラ――『衝突の冬』インパクト・ウインターとは違い、あの二柱ふたりのチカラは無尽蔵には使えんのだ」

「いや、キミの『衝突の冬』インパクト・ウインターこそ危険極まりなくて使えないけどね……」

「幸い『地球系統』(ガイア・システム)のチカラのほうは、旦那様が習得しているあの珍妙な呼吸法で、ある程度なら大気から補充が可能なようだが……」


 珍妙……。


「だが、『星核構築』デイジーワールド・プログラムのチカラのほうは、あの呼吸法でも補充は不可能なようだからな。おそらく、旦那様が今使用している『星核構築』デイジーワールド・プログラムは、我が姉が用意したを食べることで取り込んだモノだろうが……、あの混沌の獣との死闘たたかい双聖の神器ツイン・セイクリッド・アームズを発現させるために大半を消費してしまったことだろう。最悪、『変身』するために必要なぶんがもう残っていない可能性もある」


『我が姉が用意した実』……?

 じゃあ、いつぞやカグヤが言っていた『彼女』というのは――って、


「えっ!? ボク、もう『変身』できないかもしれないの!?」

「最悪、その可能性もあるということだ。そうでもなければ双聖の神器ツイン・セイクリッド・アームズを出し惜しみをする理由が無いだろう。――仮に『変身』できるだけの量が残っていたとしても、せいぜい一、二回ぶんだろうな」

「なら、もう一回カグヤに『デイジーワールドの実』を貰って食べれば、」

「どうだろうな……。あれらの実はその強力さで作れる量が変わるはずだ。いくら我が姉でも『デイジーワールドの実』を二個も三個も用意できたとは思えん」

「そんな……」

「我が姉の近くに『星核構築』デイジーワールド・プログラムの体現者が――例の二柱ふたりのうちの片方が、現在いまもいれば話は変わってくるが……」

「………………」


 ふと、『月棲獣げっせいじゅう』との死闘たたかいの最中に聴いたあの不思議な思念こえを思い出す。



 ――『これは一種の残留思念……。「彼女」があなたのためにらしたにわたくしのチカラを注ぎ込むにあたり、一緒に組み込んでおいた自動応答プログラム……。あなたの絶望を感知したときに自動再生されるようにしておいたメッセージです』



 ………………。もしかしてあの思念こえの主が……。


「それと、」


 と、そこでスーザンがボクの思考を遮った。


「先程の様子を見るに、どうやら旦那様は二柱ふたりのうちの片方が今どこでどうしているか目星がついているようだが……彼女の扱いには気を付けろ」

「………………どういうこと?」


 背中を冷たいモノが伝わり落ちるのを感じる……。


「そうだな……。旦那様は我らについて、どこまでのことを知っている?」

「え? えーと……」


 以前カグヤから聞いた話を懸命に思い出す。


「キミたち『月と地球を創造つくった神様』は『この宇宙を創造つくった存在』の眷属で、十二(にん)の上位眷属と、七十六(にん)の下位眷属がいて、上位・下位ともに星座をひとつシンボルとして与えられていて……」

「うむ」


 首肯とともに先を促された。……けど、ボクが知っていることなんて、これ以上は……。

 あ。あれがあったか。


「<神域>を管理する神様……十二(にん)の上位眷属には、シンボルとして黄道十二星座が与えられているんだっけ? 第十一<神域>の管理者であるスーザンが、牡牛座タウルスを与えられているみたいに」

「なるほど……そこまでは知っているか」


 スーザンがもう一度肯いて、


「旦那様が我よりも先に娶っていた二柱ふたりは、十二(にん)の上位眷属の中でも特別な二柱ふたりだ。旦那様が言うところの『この宇宙を創造つくった存在』を別格とすれば、最上位に位置する二柱ふたりと言っていい。……まあ、正確には最上位は三柱さんにんいるのだがな」

「え……」


 ど、どういうこと……?


「旦那様が今言ったとおり、我らは上位・下位を合わせると全部で八十八(にん)いるワケだが、そのうちの一柱ひとりを除いた全員が、『創造と再生を司る存在』と『破壊と修正を司る存在』、そして『均衡と調整を司る存在』のみっつのグループのいずれかに属しているのだ。……ちなみに私は『破壊と修正を司る存在』の一柱ひとりということになっている」

「は、はあ……」

「そして例の二柱ふたりは、『創造と再生を司る存在』たちのリーダーと、『破壊と修正を司る存在』たちのリーダーなのだ。ちなみに前者が第一<神域>カササギノハシ、後者が第十<神域>ハクトウワシノハシゴの管理者だな」

「ええっ!?」


 そのふたつって、カグヤが言っていた『管理者カミサマが不在の<神域>』だよな……?


「で、だ。旦那様が目星をつけている者は、『破壊と修正を司る存在』たちのリーダー……言わば、私の上司だ」

「ええええええっ!?」


 あ。だから不在……。


「だから気を付けろ、旦那様。彼女を怒らせるようなことをするのは……まあ、旦那様なら問題無いだろう。あれだけ惚れこまれていればな。……だが、旦那様以外の者が彼女を本気で怒らせたりしたら……」

「……したら?」

「最悪この月の歴史が終わるぞ」

「…………………………」

「心当たりがあるだろう?」

「……ありましゅ」


 動揺のあまり噛んでしまった……。


「実を言うと、さっきの『大した理由は無いが、なんとなく呼ばせてもらった』というのは冗談で、これらの忠告をするために旦那様の意識をここに招待したのだ」


 なるほど……。


「でも、なんで今このタイミングで?」

「理由はふたつある。ひとつは言わずもがな、旦那様がもう『変身』できないかもしれないことを知らずに戦いへ赴いて、土壇場で慌てないため。……我が言うのもなんだが、どうせまたすぐ何かの戦いに巻き込まれるんだろうなという安心感が旦那様にはある」

「ホントにキミが言うことじゃないな」


 カグヤの制止にも聞く耳を持たずボクを『月棲獣げっせいじゅう』との戦いに巻き込んでくれやがって。

 てか何さ、そのイヤな安心感……。


「……もうひとつは、この月の歴史を終わらせないためだ」

「!?」

「さっきはああ言ったが、『恋はヒトを狂わせる』とも言うからな……。このあと旦那様があまりにもつれない態度をとってしまった場合、彼女の不満がどう爆発するかまでは正直読めんから、今のうちに忠告させてもらった」

「ちょ、ちょっと待って!」


 それってどういう――


「……それと旦那様。最後にもうひとつ」

「だから待っ――」

「実は我は、旦那様の身に宿った特権として、この精神世界で旦那様の記憶を辿たどり、旦那様がこれまでに経験した事象をざっと見させてもらったのだが、」

「――え?」


 記憶を辿りボクがこれまでに経験した事象を……って。

 それってボクの過去を(ざっととはいえ)知っちゃったってこと!?

 ここってそんなことが出来るの!?


「うむ。とりあえず旦那様が巫女さんフェチであることはわかった」

「イヤあああああああ! えっちぃ!」

「…………。で、だ。旦那様の記憶の中の登場人物に、何人か気になる者がいたのだが……。特にコイツだ。コイツは旦那様の何だ?」


 スーザンはそう言って何も無い空中を指さす。

 すると、周囲を飛び回っていたおびただしい数の蝶たちがそこに集まり、そのままピタリと静止した。

 いったいどうやって浮いているのか、羽搏はばたくことをやめて宙に静止するそれらの幾重にも重なり合った瑠璃色の翅は、一枚の巨大なスクリーンと化して一人の人物の姿を映し出していた。


「あーハイハイ読めちゃいましたよ。ボクの周囲の人間で造物主カミサマの興味を引くほどのビックリドッキリ人間なんてあのヒトしかいないもん」


 スクリーンに映った映像を確認しつつ叔父さんの顔を思い浮かべたボクの予想は、


「…………え?」


 意外なことにハズレていた。

 そこに映し出されていたのは――


「………………。なんでこのヒトが気になるの?」

「いや……。旦那様の記憶をこれで辿ったものの、見てのとおりこれは無音だから、コイツだけイマイチ旦那様との関係性が掴めんかったものでな……。――で? これは誰なのだ?」


「……伯母おばさんだよ」


「伯母?」

「そう。母さんのお姉さん。ボクの死んだ母さんは三姉妹の次女だったんだ」

「……ほう」

「三姉妹の中じゃ唯一独身で、甥のボクから見てもかなりの自由人でね……。目的は知らないけれど、本来自分が継ぐべき神社を三女に押し付けて、自分は世界中を旅して回っているんだ。帰ってくるのは一年のうち二、三回だけ。しかも日本に帰ってきても実家にはほとんど顔を出さず、次女の嫁ぎ先であるボクの家にばかり入り浸るという……」

「ふむ」

「こう言ったらなんだけれど、正直ボク、このヒトが苦手なんだよね……」


 従妹アズサは変わり者同士気が合うのか、このヒトにすごく懐いていたけれど。

 それどころかボクの母さんが死んでしまったのは従妹アズサがまだ幼稚園児のときだったこともあって、従妹アズサは昔、このヒトをボクの母さんだと勘違いしていたみたいだけれど。



 ――『ふーん断るんだ。……アンタの夜のオカズ、巫女さんのコスプレものが多いってこと、伯父様や「あっちの」伯母様は知ってるのかしら?』



 …………なんならボクの性癖をバラす相手として、今でも父さんと一緒にこのヒトを挙げたりもするよな……。ボクがこのヒトを苦手としていることは従妹アズサも知っているから……。


「なるほどな……。海の子ならぬ海神の甥というワケか」

「え?」

「いや、なんでもない。忘れてくれ」

「海神? それってどういう、」

「――さて。旦那様をこれ以上独り占めするのは、あとが怖いな。我が上司も痺れを切らす頃合いだろうし。そろそろ旦那様をお返しするべきか」

「待って待ってキミさっきから気になる発言が多すぎるんだって!」

「ではいずれまた逢おう、旦那様。――健闘を祈る」

「ちょっ、スーザン!? だからそれってどういう――」






              ☽






「スーザンっ!?」


 自分の叫びで目が覚めた。

 上半身を起こし周囲を見回す。


「ここは……船長室ボクのへや……? ――そうか。湯浴ゆあみから戻ったあと寝台ボンクの上に寝転がって一息ついていたら、ちょっとだけ寝てしまったのか……」


 入れ替わりで湯浴みに行ったルーナはまだ戻ってきていないようだ。まあ、女の子はお風呂が長いからな……。ルーナは髪が長いから手入れも大変だろうし。


 ……で。

 ルーナの代わりに、というワケでもないんだろうけれど……。


「キミはそこで何をしているんだい? カグヤ」


 ――いつからそうしていたのか。

 見た目十二歳くらいの仙女様が、ボクの部屋の床に正座し、三つ指ついてかしこまっている……。

 その表情は珍しく緊張で強張っていた。


 ちなみに彼女が今身に着けているのは、普段の巫女装束のような衣装を極限まで簡素化したような薄衣うすごろも――彼女の寝間着である。

 ボクの直前に湯浴みを済ませていた彼女の黒髪は、長いためか完全には乾ききっていなくて、見た目十二歳くらいなのに妙な色香が漂っているような気がしなくもない。


「ついにこのときが来たんだよ……だんなさま」


 ……どのときカナ?


「決まってるじゃない。ペナルティのベロチュウだよ」


 あれ、本気だったんですネ……。


「当たり前じゃない。わたしはこの三日間ベロチュウのことしか頭に無かったよ」


 このオマセさんめ。

 そういえば今朝の『昔ボクが憧れたお姉さん』騒動のとき、『今夜こそ~』みたいなことを言ってたっけね、キミ。

 ……ていうか、こう言ったらなんだけれど、ベロチュウひとつでそこまで畏まる必要もないと思うのだけれど……。


「だって、あわよくばそのまま――なんでもありません」


 ……今このオマセさん、聞き捨てならないことを口走ろうとしなかった?

 気のせいかな?


「不肖カグヤ。肉体年齢、今は十二歳。精神年齢、永遠の二十歳。本体年齢、だいたい四十六億歳くらい? 今夜ついにオトナになります……!」


 ならんて。

 てか今、さりげなく重要な情報がお漏らしされたような……。


「カグヤ……やっぱりキミは、」

「だんなさま!」


 押し倒された!


「ちょ……ちょっと待ってカグヤ! 落ち着いて! ステイ!」

「わんわん!」


 ダメだ。正気を失っている。


「せ、せめてさ、唇にチュッって軽く触れる程度の接吻キスにしておかない!? 精神年齢だの本体年齢? だのはさておくとして、見た目十二歳くらいのコとベロチュウってコンプライアンス的にどうかと思うんだ!」

「だんなさまだんなさまだんなさま――」

「聞こえてない! そして目が怖い! 完全に獲物を狙う狩人ハンターの目だこれ!」

「大丈夫だよだんなさま! 痛くない! 痛くしないから! 痛いのはわたしだけ! でも大丈夫、だんなさまがくれる痛みなら耐えてみせる!」

「だから際どい発言はヤメなさい!」


 ボクのお腹に馬乗りになり、目を閉じて、緊張でプルプル震えながら、「んー」と桜色の薄い唇を近づけてくるカグヤを、ボクは神威かむい体現闘法(たいげんとうほう)漁火いさりびけん>を習得するための修練でつちかった体捌たいさばきでなんとかいなす(あの修練で培ったモノをこんなことで活かしていると知ったら叔父さんはどんな顔をするだろう……)。そしてカグヤの動きを封じるために、逆に彼女を寝台ボンクの上に組み伏せた。


「「あっ――」」


 組み伏せたというか……ボクがカグヤを押し倒したみたいになってしまった。


 見た目十二歳くらいの薄着の女の子を半ば無理矢理寝台(ボンク)の上に仰向けにさせ、そのお腹の上に馬乗りになり、彼女の両の手首を押さえつけている男。

 それが今のボクである。

 今のボクをボクが見たら間違いなく警察に通報すると思う。蒼き月の海(ルナマリア)に警察は存在しないけれど。


 カグヤは瞳を潤ませ、頬に紅葉もみじを散らすと、気恥ずかしそうに目を逸らしながら、


「……いいよ……。だんなさま」


 何が!?

 何もよくないよ!


「いやこれはそういうつもりでは――」


 ボクは(カグヤを組み伏せたまま)慌てて弁明しようとして、



「……イサリ、さま……?」



「「っ!?」」


 そのとき、部屋の入口の扉のところから聞こえてきた声に、カグヤともども息を呑んだ。

 恐る恐る振り返ると、そこにいたのは、言わずもがな――湯浴みから戻ってきたルーナである。

 彼女は口元を手で押さえ、青ざめ、こちらを見つめていた。


「イサリさま……カグヤちゃんと……何して……?」

「ち……違うんだルーナ! これはその……実はいろいろあってカグヤとベロチュウすることになって……! すったもんだがあって、思わずカグヤを押し倒しちゃっただけで……!」


 ……弁明が下手すぎない? ボク。

 なんの弁明にもなってないじゃん……。

 我ながら動揺しすぎだろ。


「ふぇぇぇぇぇぇぇんツバキさんアリシアさぁん! イサリさまが! イサリさまがカグヤちゃんとぉぉぉぉぉぉぉ!」

「待ってルーナ! 謝る! 何をどう謝ったらいいのかわからないけれど、とりあえず謝るから! だから早まらないで! あの二人を呼びにいかないでお願い内緒にしてぇぇぇぇぇぇぇ!」



 …………その後ボクがどんな目に遭ったかについては、思い出すのも辛いので、説明を割愛させていただきます……。



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