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最後の地球人♂、仙女や魔女と月の海を航る ~ルナマリアノーツ~  作者: 和泉 健星
2章 もう一人の…… ―<神域>、そして―
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追想 ある<魔女>のモノローグ②

<魔女>のモノローグ第3弾。

※今回の語り部はシャロンです。





 わたしのお父さんはとても優しいヒトでした。


 お父さんは元々捨て子で、孤児院で育ったそうです。

 だけどある日、育ての親である院長さんが病気で亡くなってしまったため、他の孤児たちを守るために、自分が院長を継いだのだと言っていました。

 お父さんがまだ十六歳のときのことだったそうです。


 自分よりも年下の子しかいなかった孤児たちを、頑張って支え、育ててきたお父さん。


 細かい苦労までは話してくれなかったけれど、……相当大変だったと思います。


 それでもお父さんは、日々ガムシャラに生きてきたそうです。

 頑張って。足掻あがいて。藻掻もがいて。自分に出来ることをしてきたそうです。


 自分ではなく――ただただ他の孤児たちのために。


『自分の頑張りを、神様はきっと見てくださっている。必死に生きている自分や孤児たちに、必ず幸せを用意してくださっている』


 ……そう信じて。




 そんなお父さんが孤児院の院長となって一年ほどが経ったある日。行き倒れになっている女の子――<漂流者>を、浜辺で見つけたそうです。

 そして衰弱していた彼女を孤児院に運んで、みんなと一緒に一生懸命介抱したんだとか(残念ながら孤児院にはお医者さんを呼べるお金は無かったそうです)。


 その女の子こそが、わたしのお母さん――リオンです。


 お父さんは当初、お母さんを自分よりもずっと年下の幼い女の子だと勘違いしていたそうです。自分と同じ十七歳だとは、夢にも思わなかったんだとか。

 何故かというと、お母さんの外見はせいぜい十一歳か十二歳くらいにしか見えなかったから……(それは三十歳を超えた現在いまでも変わりません。どうなってるんでしょうねあのヒトは。妖怪か何かですかね?)。

 そして、当初は言葉が通じず、意志の疎通すら困難だったから……。


 だから。

 お父さんがお母さんをずっと年下だと勘違いしたのも、仕方なかったと言えるでしょう。

 この見ず知らずの世界で生きていくために、必死に言葉を覚えようとするお母さん――天涯孤独な『年下の女の子』に、お父さんが「ずっとここにいてもいいんだよ」と言ってしまったのも、当然といえば当然の流れだったのかもしれません。


 ですがお父さん……。それを求婚プロポーズだと勝手に解釈したお母さんがご飯のたびにお父さんに「あーん☆」してきたり、入浴中に侵入してきて背中を流そうとしてきたり、まるで奥さんみたいに振る舞ってくるのを、「マセた子だなぁ」とか「背伸びしたい年頃なんだろうなぁ」とか「なんだか妹が出来たみたいだなぁ」とか軽ーく捉えていたというのは、いくらなんでも迂闊すぎませんかね……?


 そんな迂闊なお父さんは、お母さんと出逢ってからしばらく経ったある日の晩、大きなツケを払うことになります。女の子を甘く見たツケです。


 その日お父さんは、『自分に求婚プロポーズしておきながらさっぱり手を出してこないお父さん(※勘違い)』に業を煮やしたお母さんが用意した夜食を、あろうことか、なんの疑いも無く食べてしまいました。

 お酒を使った料理を、です。

 それもふんだんに……。


 その結果、下戸げこのお父さんは、理性と、そして正常な判断力を失いました。


 優しく、正義感の強かったお父さんが次の日の朝、目を覚まし、同じ寝台ベッドで寝ている全裸のお母さんを見たときの衝撃と焦りは如何いかほどのものだったか……。


 そんな朝チュンの結果、出来ちゃった子供がわたしです。


 わたしはこの話を、子供を産める身体になった日にお母さんから聞かされました。


 どんな意図があってお母さんがこんな話をしたのかは知りませんし、正直知りたいとも思いませんが(絶対ろくでもない答えしか返ってきませんからね)、我ながらよくグレなかったものだと思います。


 というか、ずっと気になっているんですが、地球人の女性は全員お母さんみたいに『惚れ込んだら一直線!』な性格なのでしょうか……。

「好いた男は身体を張ってでも振り向かせる……!」という本能みたいなモノが備わってたりするんですかね?

 まさかとは思いますが、お母さんみたいな似非エセロリだけじゃなく、れっきとした幼女でも、想い人に「一緒に寝ましょう☆」とアピールするものだったり……?

 だとしたら地球人の女性、怖すぎませんか……?


 わたしには無理です。

 ただでさえ身内以外のかた、特に男性と対面しなければならなくなったときは、恥ずかしくて消えてしまいたくなるのに。好きになった男性の寝所に潜り込むなんて……。想像すら出来ません。死ぬほど恥ずかしいです。というか、たぶん死にます。恥ずか死です。




 …………それでも。

 わたしは、そんなお父さんとお母さんに育てられて幸せでした。

 この二人のもとに生まれてきてよかった――これまで何度そう思ったことでしょう。

 優しすぎて周りが不安を覚えるときがあるお父さんと、破天荒すぎてこっちが保護者気分になることもあるお母さんですが、わたしに沢山の愛情を注いでくれましたから……。


 お父さんと一緒に毎日教会へ出向いて、神様に「どうかわたしたちのことをお見守りください」とお祈りしたり。

 初対面のかたにわたしの妹だと勘違いされて憤慨するお母さんをなだめたり。

 兄妹姉妹のように育った孤児のみんなと、かくれんぼや鬼ごっこをして遊んだり。


 本当に――幸せな日々でした。


 これも全部、神様がわたしたちのことをちゃんと見守ってくださっているお陰だって、……本気でそう思っていました。




 だけど。


 そんな幸せな日々は、五年前、突然終焉(おわり)を迎えたのです。


 気付いたときには、周りのヒトたちの――世界の、わたしを見る目が変わってしまっていました。

 こっちで生まれた男性と<漂流者>の女性の間に生まれたわたしのような女の子は、むべき存在――<魔女>として、迫害されるようになっていたのです。




 ある日、わたしたちの孤児院が近隣住民の手で焼き討ちに遭いました。




 わたしに編み物を教えてくれたリタお姉ちゃんも、怖い野犬を追い払ってくれたカイお兄ちゃんも、いつもわたしをお姉ちゃんお姉ちゃんと呼んであとを追いかけてきたジェミーちゃんも、大きくなったらわたしをお嫁さんにするんだと宣言していたエリックくんも、……みんなみんな。『<魔女>に触れて魂魄タマシイけがれてしまった者たち』として殺されてしまったのです……。


 みんな、何も悪いことなんかしてなかったのに。

 親が死んでしまったり、親に捨てられたりしたにもかかわらず、日々を一生懸命生きていたのに。


 メイアお姉ちゃんは、ヒトを助けられるお医者さんになるのが夢だったのに。

 ラルフお兄ちゃんは、育ち盛りの子たちのために毎日頑張って魚を釣ってきてくれたのに。

 マチルダちゃんは、目が見えなくてもお手伝いを頑張ってくれていたのに。

 コリンズくんは、ご両親を事故で喪った悲しみがようやくえてきたところだったのに。


 それなのに……。


 みんな…………わたしをかばって…………わたしなんかをかくまったばっかりに……。


 そして――わたしのお父さんも。

「話せばきっとわかってくれる」と近隣住民たちに説得を試みて、……やはり、殺されてしまいました……。

 無抵抗のまま、……十人近いヒトたちに一方的にすきくわなぐられて……。


 お母さんと一緒に隠れたクローゼットの中で聞いたお父さんの断末魔の叫び、悲鳴は、まだ耳の奥にこびり付いて離れません。


 ……なんであんな酷いことが出来るんでしょう。

 わたしたちがいったい何をしたというの?

 孤児の中にはまだ五歳の子だっていたのに……。どうして殺すことが出来るの?


 わたしが生まれてきたのは、……そんなに悪いことなの?


 わたしは……生きていてはいけないの……?




 その後、運良く見つからずに済み、炎上する孤児院からなんとか脱出することに成功したお母さんとわたしを待っていたのは、長く辛い放浪生活でした。


 お父さんたちを亡くしたあの日から、お母さんは一度も笑っていません。


 あんなに天真爛漫なヒトだったのに。

 太陽みたいに明るくて、茶目っ気たっぷりな笑顔をいつも浮かべていたのに。


 わたしを守るのに必死だから。

 もう家族わたし以外、誰も信じないと決めたから。


 今、お母さんの心は、この残酷な世界と、<魔女>なんて馬鹿げた概念を受け容れているヒトたちと、そして、ちっとも助けてくれない神様への憎しみ、恨みでいっぱいだから……。


 …………………………。


 ねえ、神様。


 わたしも、お父さんも、あなたに沢山お祈りしましたよね。


「どうかわたしたちのことをお見守りください」って。


 お父さんはきっと最期の最後まで、「自分の頑張りを、神様はきっと見てくださっている。必死に生きている自分や孤児たちに、必ず幸せを用意してくださっている」って信じていたはずです。


 そう信じて――世のためヒトのため、孤児たちのために頑張っていたんです。


 それはきっと、わたしと同じように、お父さんと一緒に教会へお祈りに行っていた他のみんなも……。


 なのにどうしてあなたは……お父さんやみんなを助けてくれなかったんですか?


 あなたにとってわたしたちの祈りは、『勝手にしていること』でしかないから?


 あなたからすればわたしたちは、どうでもいい……塵芥ちりあくたのごとき存在にすぎないから?


 ……それとも。


 あなたは、最初はじめから存在しなかったのですか?

 神様なんて、どこにもないのですか?


 お父さんやわたし、みんなの祈りは、……最初から意味の無いモノだったんですか?


 だから、『<魔女>殺し』なんて者がわたしたちの目の前に現れても、救いの手がどこからか差し伸べられることは決して無く……誰も、()()()()()()()()()()から、わたしたちを助けてはくれないのですか?


 この世界には、わたしたちを()()()()()から救い出してくれる者なんて、どこにも――


「! 誰か来たわ!」

「後生じゃ、ここから出してくれ! せめて孫娘だけでも……!」

「お願いよ! この帆船ふね、もうすぐ沈むんでしょ!?」

「イヤだ! 俺たちはまだ死にたくない!」

「えーんえーん! 怖いよぉ、お母さぁん!」


 ――不意に。

 わたしやお母さんと一緒に捕らわれていたヒトたちが、一斉に色めき立ちました。


 死を覚悟してお母さんと抱き合っていたわたしが何事かと振り返ると、目に飛び込んできたのは、



「マジかぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 檻の前――格子こうしの向こうで頭を抱えてしゃがみ込んでいる、どこかお父さんに似た雰囲気をした男のヒトの姿だったのです……。



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