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最後の地球人♂、仙女や魔女と月の海を航る ~ルナマリアノーツ~  作者: 和泉 健星
1章 一人目の<魔女> ―『幽霊船長』の誕生―
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♯23 強大な神の御使いと、タマシイを燃やして戦った(前編)

第23話です。





 正直に言おう。

 アリシアたちの手前、えて格好良くキメてみせたものの、ボクは今、メッチャ途方に暮れていた。


 目の前には、全長が十メートルに達しようかという禍々(まがまが)しい巨体デカブツ――


 …………うん。


「怖っ! 何この怪獣!?」


 確かに、ボクという人間はどこかおかしい……壊れてるのは認めるよ? でもね、だからって恐怖を感じないワケじゃないんだよ!

 白鯨シロで『巨大なモノに対する本能的な恐怖』を一度体感しておいてよかった……。あの経験が無かったら、みっともなく腰を抜かしていたかもしれない。


「……どうすりゃいいの、これ」


 こっちの攻撃手段は徒手空拳だけですよ? どうやってこんな巨体デカブツを相手取れと?

 嗚呼ああ、ボクも銀色の巨人になって戦う能力が欲しい――もしくは乗って戦える巨大ロボット(合体変形するヤツ)でもいい。

 ていうか、許されるなら今すぐこの場から逃げ出してしまいたい。

 ……けど、


「そういうワケにはいかないよなぁ」


 ボクの中で、何かがまた叫んでいる――「コイツは『良くないモノ』だ」「こんな存在を許してはならない」「戦え。たおせ」「ヒトの世の秩序を護れ」、と。


 何より、アリシアたちを見捨てて自分一人逃げるワケにはいかない。


「仕方ない……覚悟を決めるか」



 ――ギャゴォォォォォォォォォォッ!



『深きものども』が合体した怪獣――長いので『融合体』と呼ぶことにしよう――の咆哮によりビリビリ震撼ふるえる夜天と純白の雪球つきの光の下、ボクは腹をくくり、船尾楼甲板クォーターデッキから中央甲板メインデッキへ飛び降りる。


「ふっ」


 そして着地と同時に短い息を(全身防護服メタルジャケットの中で)吐いて、『融合体』の左足首に蹴撃けりを見舞った。

 青白いうずみびのような残り火をまとったボクの右脚が、パギャッと卵を割ったような音とともに『融合体』の足首をえぐり、消滅させる。……が、


「うげ、再生した」


 抉れた部分の肉がモコモコとうごめき盛り上がって、たちまち傷を塞いでしまった。


「フハハハハハッ! 神の御使みつかいをナメるなよ、小僧!」


 手に持ったハンドベルをキンキン鳴らしながら、正義の代行者を標榜ひょうぼうする司祭が自慢げにふんぞり返る。


「あの御方はな、小僧、貴様の出現を予見されていたのだよ!」

「あの御方? ああ、例の『秩序のババア』とかなんとか呼ばれてる『無いわぁ』とかいう教母きょうぼサンね」

「『秩序の母』! 『ナイア』様だと言ったろうが! ワザとか貴様!? ワザとだな!?」


 当たり前じゃん。アンタをおちょくってんだよ。


「……で? ボクの出現を予見していたってのはどういうことさ?」


 ボクの問い掛けに司祭は恍惚とした表情を浮かべ、遠い目になって、


「フフ……。あの御方は以前、私にこうおっしゃったのだ――」

「あ、やっぱいいや。長くなりそうだし。戦闘中だし」

「いいから聞け! 神器コイツをもう一回鳴らさないと、それは戦闘行動を開始しないから!」


 ……えー……。


「いいか、あの御方はこう仰ったのだ。『近々、<魔女>たちを集め、ヒトの世に混沌をもたらそうとする、そんな恐るべき存在が――<魔王>と呼ぶに相応しい者が現れるでしょう』と」

「……<魔王>?」


 こりゃまたすごい単語が出てきたな……。


「そう。そして『あなたがそれと遭遇するようなことがあったときは、この奥の手を使って必ず<魔王>を排除しなさい。そうすればあなたは、我らが神に世界の救世主と認められ、私をめとることを許されるでしょう。そのあかつきには、あなたが教祖として人々を導くことになるのです』とな!」


 へえ……。


「まさに悪魔の囁きだね」

「何を言うか! あの御方は私の信仰心を認めてくださったのだ! そして! 私は今、確信した! 貴様こそが、あの御方の仰った存在! <魔女>たちの主人、<魔王>に違いないと! その異様いよう姿形ナリ理外りがいのチカラこそが何よりの証拠!」


 いやいやいや……。


「ボク、別にそんなんじゃないよ。……仙女の『だんなさま』らしいし」

「ハッ! 何をワケのわからぬこと――をおっ……!?」

「!?」


 そこで予想外なことが起こった。

 ボクはもちろん、司祭にとっても。


『融合体』が突然、その肥大化した左手で司祭の胴体をむんずと掴んで、彼を眼前まで持ち上げたのだ。


「な、なんだ!? オイ、コラ、私はまだ戦闘開始の指示を出してないぞ!? というか、何をする!? 私はおまえの主だぞ!?」


 司祭は慌てふためき、持っていたハンドベルを何度も鳴らす。……が、



 ――ギャゴォォォォォォォォォォッ!



『融合体』は血走ったまなこで咆哮を上げ――そのまま左手に力をめた。


「ぎゃああああああああああっ!」


 夜の海に響き渡る、筆舌ひつぜつに尽くしがたい断末魔の叫び。ヒトの肉と骨、そして内臓が粉々に砕け、弾ける音。

 船尾楼甲板クォーターデッキの檻の中からそれを見ていたアリシアたちが、「ひっ」と悲鳴を上げる。

 全身から鮮血を、目から眼球を、口から内臓をぶちまけて、司祭は絶命し……それを確認した『融合体』は、彼の亡骸なきがらをポイッと海に投げ捨てた。

 ドボン、という音とともに上がる大きな水飛沫。波間に生じる波紋。

 偶々(たまたま)近くに居合わせたシロが、イヤそうにススス……とその場から離れる。


「……だから言ったじゃん。悪魔の囁きだって」


 おそらくは、だが。

<秩序の母>とやらには、こうなることがわかっていたのだろう。

 神器とやらを使っても『融合体』は操れないと知っていたに違いない。

 あの司祭は最初はじめから捨て駒にすぎなかったのだ。


「同情はしないよ。――そんな余裕も無いしね」


 こちらへ向き直った『融合体』が無造作に横薙ぎにした右手、ヒトの身のたけほどまで伸びた爪を、バックステップでかろうじてかわす。

 が、直後、今度は頭上から左手の爪が襲ってきた。


「くっ」


 思ったより相手の動きが俊敏だ。横に跳んで躱――いやダメだ、間に合わない。

 降ってきた爪を、交差させた両腕で受け止める。この全身防護服メタルジャケットの防御力なら問題ないはず……と踏んだのだが、受け止めたところがダメージを負って蒼白い火のとなり飛び散ってしまった。マジか!? 融合前の半魚人の爪や牙ではきずひとつ負わせられなかったのに……!


 ……って、おっ? 損傷したところで蒼白い焔が、ボッ! と激しく燃え上がったと思ったら、コートがどんどん修復されていくぞ!? この全身防護服メタルジャケット、自動修復機能まであるのか!?


 すげえ、無敵じゃん! と無邪気に喜ぼうとしたボクの視界、モニターの隅で、青い光の文字――警告文がチカチカと点滅する。




 ――『V.<B.G.>蓄積ダメージレベルC――戦闘継続「可能」』


 ――『<Daisy world-Program>activate――――complete。

    自動修復が完了しました。活動限界時間40秒短縮。残り627秒です』




 ……てか読みづらっ! 文字がちっちゃいんだから長文はヤメてくれ!


 うーん……よくわからないけれど、どうも勝負を急いだほうが良さそうだ。


神威かむい体現闘法(たいげんとうほう)漁火いさりびけん>――『電光」


 思い切って攻勢に転じようとする――が、それを察したのか『融合体』が、グルルッ! と低く唸って、コバエを追い払おうとするように両腕を幾度いくども振り回してきた。


 くそっ。予定変更!


「――『火樹銀花かじゅぎんか』」


『融合体』の猛攻を、ボクは習得している技の中で最も『攻防一体』と言える技でしのぐ。「とりあえずコイツさえ極めてしまえば、今後の叔父さんとの手合わせのときに、あんまり痛い思いをしなくて済むんじゃない?」という前向きなのか後ろ向きなのかよくわからない動機でボクが最も熱心に練習し、最初にマスターした、ボクの一番の得意技だ。ボクがこの技で防御一辺倒に徹した場合、叔父さんですらボクのスタミナ切れを待つくらいしか打つ手が無かったくらいである(そのためボクがこの技を使うことは、途中から禁止となった。……ズルくない?)。


『融合体』の爪を、手の甲で弾く。弾いた爪が甲板デッキ帆檣マストを引き裂く。ボクが掌打しょうだを放つ。『融合体』の巨体をへこませる。凹んだ部分がモコモコと盛り上がり再生する。そしたまた『融合体』の爪を弾く……。以下繰り返し(エンドレス)


「…………キリがえ…………」


 マズい。こっちはおそらく、『変身』していられる時間が残り少ない。


 一か八か――大技をぶちかます!


 ボクは掌打で『融合体』の鳩尾みぞおちを凹ませると同時に、バックステップでいったん距離を取る。



 コオォォォォ……



 そして叔父さんから教わった特殊な呼吸法を行いながら、技のモーションに入ろうとして――



 ビーッ! ビーッ!



「!?」


 瞬間。

 纏った全身防護服メタルジャケット警報アラートを鳴らし、視界モニターの隅で『CAUTION!』の文字が点滅した。


「な……なんだ!?」


 慌てて視界モニターの隅を確認する。そこには、先程よりも激しく明滅する赤い光の文字――こんな警告文があった。




 ――『<Gaia system>残存率10%未満。

    これ以上の行使こうしはあなたの肉体が崩壊する危険性があります。

    魂魄タマシイへのチャージを推奨』




 ………………。


「は……はあ!?」


 何それ!? なんの話!? そもそも<Gaia system>って何!? ボクの肉体が崩壊!? なんで!? 魂魄タマシイへのチャージを推奨って……その<Gaia system>とやらをか!? だとしても、どうやって!? それが何かもわからないのに!


 刹那、ボクの脳裏に叔父さんの言葉が甦る。



 ――『実はねイサリくん、この神威かむい体現闘法(たいげんとうほう)漁火いさりびけん>は厳密には格闘術じゃないんだよ』


 ――『いや本当なんだってイサリくん! これは格闘術というより仙術せんじゅつなんだよ! 仙人が使う術! 私が最初にキミに教えてあげたあの特殊な呼吸法、あれで大気中を漂う神秘のエネルギーを体内に取り込み、魂魄タマシイ種火たねび代わりに爆発・燃焼させて、拳とかに乗せて叩き込む御業わざなんだ! この地球は大気中を漂う神秘のエネルギーが希薄だからイマイチ実感しにくいかもしれないけれど、宇宙最強の拳法なんだよ!』



「……まさか……」


 その<Gaia system>とやらの正体は、叔父さんが言うところの『大気中を漂う神秘のエネルギー』?

 ボクが普段から魂魄タマシイに蓄積させているそれが、今日一日のあれこれで、もう枯渇こかつ寸前なのか?

 今の警告文は、叔父さんから教わった特殊な呼吸法を使ってそれをチャージ――補充しろとせっついている?

 いや、でも今、ちゃんと技を放つにあたって叔父さんから教えてもらった呼吸法をおこなっ――


「――あっ……」


 失念していた。すっかりと。

 ボクがまとっている全身防護服メタルジャケットは、首から下はもちろん、つば(ブリム)が幅広い帽子と、コートの長い襟の間の僅かな隙間すら、蒼色の水晶クリスタルのようなカメラ兼モニターでふさがっている。

 ボクは今、全身防護服メタルジャケットで全身くまなく、一分いちぶの隙も無く覆われているのだ。

 言わば、ここは小さな密室の中なのである。


「もしかして……この全身防護服メタルジャケットを纏っている間は、叔父さんから教わった呼吸法をおこなっても、<Gaia system>とやらをチャージできないのか……?」


 ボクの魂魄タマシイに普段から蓄積されていたぶんで、さっきまでは技の発動に必要な量をまかなえていたけれど、もうそれも限界なのだとしたら……。


「細かい理屈まではわからないけれど、神威かむい体現闘法(たいげんとうほう)漁火いさりびけん>をこれ以上使ったら、魂魄タマシイ種火たねびの代わりにする関係か何かで、肉体が崩壊してしまう危険性がある……?」


 ………………。


「マジかぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 大ピンチだった。



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