♯22 私のヒーローと、大事な約束をした
第22話です。
※今回の語り部はアリシアです。なのでエピソードタイトルもそれっぽい感じに。
……その光景を目の当たりにしながら、私は昔お母さんと交わしたやりとりを思い出していた。
――『ねえ、おかーさん。おかーさんがいつも言っている、ひぃろぉ? って、どんなヒトなの?』
物心が付いたばかりの娘の純粋な疑問に、お母さんはクスリと笑ってこう答えた。
――『ヒーローっていうのはね、誰もが絶望し、諦めそうになったそのときに、どこからともなく駆け付けて……そして、笑顔で救いの手を差し伸べてくれる。そんなヒトよ』
……そうだ。
そしてお母さんは、私の頭を優しく撫でながら、こうも言ったんだ。
――『アリシア。もしもこの先あなたが絶望するようなことがあっても、決して最後まで生きることを諦めないで。――希望を捨てないでね。あなたにもきっと、あなたのヒーローが現れるから……』
だから。と。
お母さんは、最後にこう言った。
――『いつかあなたが、あなたの幸せを願ってくれる……あなたが幸せになれるよう全身全霊をかけて護ってくれる……そんなヒトに出逢えたなら。そのときは、迷うことなくそのヒトの胸に飛び込みなさい』
…………お母さん。
お母さんの言ったとおりだったよ。
絶対もうダメだって思ったのに。
私は――私たち<魔女>は、このまま惨めに、絶望の中で死んでいくしかないんだって思ってたのに。
それなのに……。
「神威体現闘法<漁火の拳>――『火樹銀花』」
……『彼』が。
……黄金色の金属彫刻と、白鯨を模った純白の光芒が神々しい、留紺の衣装を纏った自称・『幽霊船長』が。
両腕を円のように動かし、半魚人たちの猛攻をことごとく弾くと、掌底で半魚人たちの顔面を次々と粉砕、屠っていく。
異形たちの亡骸を塵ひとつ残すまいと徹底的に灼き尽くす、青白い焔の柱――。
「すごい……」
気付けば私はその光景を前に、無意識のうちに感嘆の呟きを漏らしていた。
まさかこの世に……ヒトの身でありながら、『深きものども』を斃せる者が存在したなんて……!
その驚きを抱いたのは、私だけではなかったらしい。
「ば……馬鹿な!? 海賊の亡霊ごときに神の御使いを斃せるはずが……!? っ! いや、待て。そのワケわからん格闘術、まさか貴様は……貴様の正体は――!?」
「おっといけない」
焔の柱を呆然と見上げていたエロ司祭が何かに気付いてハッと我に返るのを見た『彼』が、一足飛びに距離を詰めて法衣の袖を掴み、
「でぇいっ!」
裂帛の気合とともに投げ飛ばす。
「げふっ」
船尾楼甲板から中央甲板へ――建物の二階に相当する高さから落下したエロ司祭は、甲板に背中を強打し、ガクッ……と気を失い動かなくなった。
「今ので上手いこと記憶が吹っ飛んでくれるといいんだけど……」
私たちを閉じ込めている檻、格子の前で、エロ司祭を見下ろしてそう独り言ちた『彼』は、次いでこちらへ振り向くと、格子をコンコンと拳で叩き、「ふむ」と呟いて、
「ふっ」
短い息を吐いて右腕を何度か横薙ぎにし、手刀で鉄製の格子を切断してしまう。
「なっ……」
私と、そして私以外の<魔女>や、その身内たちは皆、バラバラと目の前に転がる格子だった鉄棒を見下ろし、呆然とすることしか出来なかった。
信じられない。この格子は私のチカラ――強化した腕力でもビクともしなかったのに……。
「おっ。ダメ元だったんだけど意外とイケた。これも『変身』の恩恵かな?」
ボボッ……ボッ……ボ………………
直後、松明を振り回して強引に火を消したときのような音、白煙を上げて、『彼』の全身を包んでいた蒼い装束が消失する。
装束の下から現れた顔……『幽霊船長』の正体は、
「お待たせ。迎えにきたよ」
この辺りでは珍しい、黒い髪と瞳の少年だった。
そう。あの島……『ビトルビウス』でも、私を一度助けてくれた……。
なのに、私が拒絶してしまったあの少年……。
声を聴いた瞬間に、「もしかしたら」とは思ったけれど。
でも……、まさか本当に――
「あーあ、こんなに痣を作っちゃって……。ほっぺたなんか腫れちゃってるし。ごめんね、助けにくるのが遅くなっちゃって」
片膝をつくことで私と目線の高さを合わせ、こちらの頬をそっと撫でる『彼』を、私は茫然と見つめる。
視界が涙で滲み、『彼』の優しい笑顔がぼやける。
「どう……して……? 私、あなたに酷いことしたよ……? せっかくあなたが手を差し伸べてくれたのに……私、それを跳ね除けた……。助けてもらったのに……お礼も言わず……『誰もそんなこと頼んでない』って……憎まれ口を叩いた……。なのに……どうして……?」
どうしてこんなところまで助けにきてくれたの……?
どうしてここまでしてくれるの……?
私は<魔女>なのに……。
今まで誰も助けてくれなかったのに……。
なのに……どうしてあなたは――
「だってキミ、ずっと『助けて』って言ってたじゃない」
「私……そんなこと言ってない……一言も……」
思ってたって……言えなかった……。
ずっとずっと……誰にも言えなかった……。
言っても……裏切られるだけだったから……。
「そうだね。でも、ずっと目で訴えてたよ」
「……目で……?」
「うん。キミの目がずっと『助けて』って言ってた。ボクにはそう見えたんだよ」
そう言って『彼』は、私の眦の浮かぶ涙の粒を指でそっと拭ってくれた。
昔、お父さんやお母さんにそうしてもらったときのことを思い出し、反射的に泣きながら縋ってしまいそうになるけれど……かろうじて堪える。
「わたしね……<魔女>って呼ばれてるんだよ」
「……うん」
「私に直に触れたら……魂魄が穢れちゃうんだって……。こんなことしたら……あなたの魂魄も穢れちゃうよ……?」
「阿呆らしい。――キミのご両親はどうだったの? それこそ、数え切れないくらいキミに触れてたと思うんだけど。魂魄が穢れてたの?」
「…………そんなこと……あるはずない…………」
私のお父さんとお母さんは……最後まで、私の自慢のお父さんとお母さんだった……。
「お父さんとお母さんが穢れてたなんて……そんなこと、絶対に無い」
「なら大丈夫だよ。<魔女>に触れたら魂魄が穢れるなんて、ただの迷信だって」
「……でも……お父さんとお母さんは……私のせいで死んでしまった……私が<魔女>だったから……私のせいで……。その事実は揺るがないわ」
「それは違うよ」
そう断言した『彼』の口調、声はどこか怒っているようで――それでいて優しかった。
「キミは違う。何も悪くない。責を負うべきは、<魔女>なんていう幻想を作り上げた連中と、そんな幻想に踊らされたマヌケどもだ。絶対にキミのせいじゃない。キミは……ボクとは違う」
……『ボクとは』……?
「『ボクとは違う』って……どういうこと……?」
「………………」
反射的に訊ねてしまった私に、『彼』はほんの数秒、話そうか話すまいか迷うような素振りを見せる。
だが結局、自虐的な笑みを浮かべ訥々と語り始めた。
「ボクね……子供のころ、重度の喘息持ちだったんだ」
……のちに。
わたしはこのときのことを、ひどく後悔することになる――このときのことを思い出しては、何故『彼』にこんな辛いことを語らせてしまったのと、自分の浅はかさを何度も呪うことになる。
「ぜん……そく?」
「そう。三歳から六歳くらいの時期が特にひどくてね。毎日、お医者さんのところに通わなくちゃいけなかった。苦しくて苦しくて……夜、眠れないことも多くて。ちょっと身体を動かしただけで咳が止まらなくなることもザラだったし。……幼心に、『なんでボクがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ』『他の友達は誰もこんな苦しい思いをしていないのに、なんでボクだけが』って思ってた」
それは――そうだろう。
物心ついたばかりの幼い子供が、毎日毎日そんな苦しい思いをしていたら――それなのに周りの子供が元気に走り回っているのを見たら、たまらなく悔しくて、どうしようもなく悲しいに決まってる。……世の理不尽、不公平を嘆きたくなるに決まってる。
「……ボクね、ある日、母さんに言っちゃったんだ。『なんでボクだけこんな思いをしなくちゃいけないの』『なんでボクを産んだの』『ボクは「産んで」なんて頼んでないのに』って」
「!」
それは……。
……いや、でも、それだって――それでさえ、仕方ないんじゃないだろうか。
まだ物心ついたばかりの幼い子供に「相手の気持ちも考えろ」なんて、そりゃあ言うのは簡単だけど、でも自分が四、五歳くらいの子供の時期に、果たしてそれが出来ただろうか?
「母さんは言ったよ――『私だってアンタのためにすごく大変な思いをしてるんだ』『私だって丈夫な子を産みたかった』『アンタなんか産むんじゃなかった』……って」
「………………っ」
……そんな……。
「ま、母さんとしてはそう言いたくもなるよね。毎日毎日、ボクをお医者さんのところに連れて行ったり、毎晩毎晩、夜中に発作を起こすボクに起こされて面倒を見なきゃいけなかったり……散々苦労させられてたってのにさ。その上、ウチは漁師の家系だったから、そっちの手伝いもいろいろあって大変だったみたいだし。それなのに――自分だってろくに寝ずに懸命に看病していた我が子にあんなことを言われたら、そりゃあ『こんなに頑張ってあげてるのに』『こんな子、産まなきゃよかった』って言いたくなると思うよ。……今なら、そう思う」
「……でも!」
反射的に否定しようとした私を、『彼』は頭を振って止める。
話の核心に入る。
「まあ、そこからボクたち母子の関係はギクシャクしてしまったのだけれど。それも長くは続かなかった。ボクが六歳のときに、母さんが過労で倒れてしまったから」
「え……」
「気付けば、ボクを直視したり、会話すらしなくなっていた母さんが……息を引き取る直前に、泣きながらボクの目を見てこう言ったんだ」
――『ゴメンね……丈夫に産んであげられなくて。今日まで、ちゃんと向き合ってあげられなくて……』
……それって……。
「きっと、母さんも責任を感じてたんだろうね……。『なんで我が子を丈夫に生んであげられなかったんだろう』って……。でも、一度でもちゃんとボクと向き合ってしまったら……自分を責めてしまったら。何かのタガが外れてしまう予感があったんじゃないかな……。だから、最期の最後でしか謝れなかった……本心を口に出来なかったんだと思う。……ボクは母さんに、最期の最後まで辛い思いをさせてしまったワケさ」
……そんなふうに言わないで。
なんでそんな、自分がすべて悪いみたいな言いかたをするの?
あなただって……別に好きで病気になったワケじゃないでしょう……。
したくて、苦しい思いをしていたワケじゃないでしょう……。
「本当はボクは……ボクだけは、頑張ってくれてた母さんの『救い』になってあげなくちゃいけなかったんだよね……。どんなに辛くても、苦しくても……ボクは不満なんて口にするべきじゃなかった……『産んでくれてありがとう』って言うべきだったんだ……。『なんでボクを産んだの』なんて……間違っても言うべきじゃなかった……」
…………言いたいことはわかるよ。
でも、物心がついたばかりの子供にそこまで求めるのは酷すぎるよ。
そりゃああなたのお母さんも辛かっただろうけれど。でも、一番大変だったのはあなたでしょう……?
泣きたければ泣いていい……哀しければ哀しいと言っていい……本当に辛いことに、無理して耐える必要は無い。それが……子供の特権のはずじゃない……。
…………ううん。あなただって、本当はわかってるんだよね……そんなことは。
それでも、自分が赦せないんだよね……。「あのとき、ああしていたら」って、考えずにはいられないんだよね……。
「自分さえいなければ」って……自分を責めずにはいられないんだよね……。
私がそうであるように。
「あなたも私と同じ……『自分のせいで誰かを死なせてしまった者』だったんだね……」
「キミは違うよ」
そう言って。
『彼』は、私の頭を撫でた。
「キミは、ボクとは違う」
頭を撫でられるなんて本当に久しぶりで。
お父さんやお母さんにそうしてもらった昔日を思い出してしまって。
「キミはボクと違って、なんの非も無い。<魔女>と呼ばれなきゃいけないようなことは何もしていない。キミのお父さんとお母さんにとって、キミは最後まで『救い』だった――立派な子供だったはずだ。だから、自分を責める必要なんて無いんだよ」
……そう言って少しだけ俯いた『彼』の、悲しい笑顔を。……私はきっと、生涯忘れられないだろう。
思い出すだけで身が引き裂かれるような思いであろう過去を、私を励ますために笑顔で語ってくれた少年の顔を。
私は……一生忘れない。
私……私は……。
「私……救われたいって思ってもいいの……? 幸せになりたいって……願ってもいいの……?」
「もちろん」
頷いて『彼』は、濃い霧の向こうの船影へと視線を向ける。
「ボクたちの帆船においで。一緒に行こう。あの骨董屋のお婆さんも言っていただろう? キミのお母さんは、キミが哀しい想い出しかない島から飛び出していくことを望んでいるはずだ、って。ボクたちの帆船の乗組員はみんな良いヒトばかりだから。きっとみんな、キミを救おうとしてくれる」
「私を……救おうと?」
「うん。約束するよ。ボクたちの帆船に乗っている限り、決してキミに淋しい思いはさせない。これからのキミの人生に、楽しいことや嬉しいことをいっぱい用意してあげる。ボクとみんなで、必ずキミをその孤独から救ってみせるから」
私は……救われる……一緒に行けば……『彼ら』が救ってくれる……?
……なら、あなたは……?
さっきの様子だと……あなたは訊かれない限り、自分の心の傷をヒトに話したりはしないでしょう……?
自分は泣いているヒトを……救いを求めているヒトを決して放っておかないくせに……、自分を誰かに救ってもらおうとは……考えたこともないのでしょう……?
そんなあなたの傷だらけの心は……満身創痍な魂魄は、いったい誰が救ってくれるの……?
あなたの中の……お母さんを失った日からずっと泣きじゃくり続けている幼子に……誰なら気付き、手を差し伸べられるの……?
………………。私が……。
「本当に……? 本当に約束してくれる……?」
私は『彼』の顔を直視できなくて、視線から逃れるように『彼』の胸にコツンと額を当てて訊ねる。
「――そんな約束をされてしまったら……私、縋っちゃうよ……? あなたにも、いっぱい寄りかかっちゃうよ……?」
「うん。約束するよ」
「一生……私をあなたの傍に置いてくれる……?」
「うん。これからはボクたちが一緒だよ」
……馬鹿。
今のやりとりだけでわかっちゃったよ。
あなたがトンデモない朴念仁だって。
あなたは変な期待や下心からじゃなくて、純粋な優しさから私を救おうとしてくれてるって……。
――『約束よ……アリシア……お父さんとお母さんは天国からあなたを見守っているから……。だから、いつかきっと見せてね……。あなたが、あなたのヒーローの隣で、幸せそうに笑っているところ……』
……お母さん。私、やっと出逢えたよ。
……もう孤独しかないと思っていたこの世界で、……私はようやく、私の希望を見つけたよ……。
「――ねえ、あなたの名前を教えて。私はアリシアよ」
「そういえばまだ名乗ってなかったね。ボクはイサリだよ。あ、念のため言っておくけれど、船乗りの間で長年語り継がれてきた本物の『幽霊船長』とは別人だからね。今日、『幽霊船長』を騙ったのは、あくまで敵の数を減らすためだから」
イサリ……。不思議な響き。黒髪だし、やっぱりヤポネシアとか、ニライカナイとか、あっちのほうの出身なんだろうか。
「あ。ちなみに後ろの皆さんも、老若男女問わず全員ちゃんと助けますんで。安心してくださいねー」
まるで子供をあやすように私の頭を「よしよし」と撫でつつ(そこはぎゅっと抱き締めるとかしてほしかった……)、『彼』は私と同じく囚われていたヒトたちへ告げる。
私と『彼』のやりとりを、「いけっ!」「今よ、抱きつきなさい!」「チュウだ! そこでチュウ!」とアドバイス(?)を飛ばしながら後ろで見守っていた外野――<魔女>とその身内たちは、『彼』の言葉に「やったぁ!」「助かる……? 私たちは助かるのね!?」「ありがとうございます! ありがとうございます!」と歓声を上げていた。……アンタらねえ……。いや、何も言うまい。
そのとき。
「おのれ小僧ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
あ。気を失っていたエロ司祭が復活した。
意外としぶとい。
もう……! 大人しくのびてなさいよ!
せっかくイサリのことを、もっといろいろ訊こうと思ってたのに!
「この背徳者め! 赦さん! 赦さんぞ! こうなれば奥の手を見せてやる!」
エロ司祭は咆えて、甲板に転がっていたハンドベル(イサリが投げ飛ばしたときに放り出されたモノだ)を拾い上げ、じゃりぃぃぃぃぃぃん! と鳴らす。
この期に及んで何をしようというんだろう――私がそう訝しんでいると。
ザ……ザザザ……ザパァァァァァァ!
先程よりも遥かに多い――ゆうに三十を超える数の『深きものども』が、海中からその姿を現す。
次々と甲板に上がってきたそれらは一カ所に集まると、身を寄せ合い、モゾモゾし、個々の輪郭を失って――
「「「「「「「が……合体したぁ!?」」」」」」」
私の背後で上がる悲鳴。
そう。身長二メートル弱の『深きものども』が三十匹ほど集まり、融合を果たした結果、そこには身長が十メートルに達しようという巨体が誕生していた。
肥大化した、もはや純粋な人型とは呼べない――どちらかといえばゴリラのような体型の、巨大な異形。
質量の集中によって、ギ……ギギギギギ……と帆船が若干傾く。
「そんな……」
私はその巨体を――融合したことでより凶悪な顔つきになり、牙とヒレがいっそう飛び出した異形を、檻の中から呆然と見つめることしか出来なかった。
『深きものども』が合体・巨大化するなんて、そんな話、聞いたことがないよ……。
こんなの、もう怪獣じゃない。
「「「「「「「あ……あああああ……」」」」」」」
ダラダラと涎を垂れ流している怪獣の血走っている眼、殺意に満ちた視線に射竦められ、背後のみんなが震え上がる。
先程まで希望に輝いていたその表情が、再び恐怖と絶望に染まる。
だけど私は、不思議と、これっぽちも絶望していなかった。
……だって、
「追い詰められてからの巨大化って。負けフラグだぜ、それは」
どこか呆れたようにそう言って立ち上がるイサリの背中が、すごく頼もしかったから……。
「黙れ小僧! 秩序を乱す背徳者め! 貴様だけは赦さん! 赦さんぞ!」
「秩序? 罪無き者たちに<魔女>というレッテルを貼り、迫害することで、人々の間に軋轢と分断を齎すことがおまえたちの言う秩序なのか? そんなモノは秩序とは呼ばない――混沌というんだ」
イサリは頭上、何も無い空中に、右腕、空っぽの掌をスッと掲げる。
そして、吼えた。
「『月火憑神』!」
直後、イサリが掲げた掌の上、空中に、無数の蒼い光の粒が渦を巻きながら収束し、果実のような幻像を形作ったかと思うと、パア……ンと破裂し、果汁を彷彿とさせる蒼い火の粉を振り撒く。
ボッ ボッ ボッ ボボッ ボボボボボッ――
それらはイサリの肉体に着火すると、たちまち轟! と炎上し、渦巻く太い焔の柱となって全身を包み込んだ。
夜天めがけて聳え立つ、蒼い焔の柱。
それは数秒後、まるで幻だったかのように一瞬で消失し――
バサリ、と、私の目の前で留紺のコートの裾が翻る。
そう……イサリは一瞬で、あの黄金色の金属彫刻と、白鯨を模った純白の光芒が神々しい、留紺の衣装を纏った『幽霊船長』の姿に『変身』を果たしたのだ。
私はその勇姿に見惚れ、息を呑み――
「あっ」
そこで初めて気付く。位置的に、本人すらまだ気付いていないかもしれない『それ』に。
イサリが纏ったコート……その背中には、白鯨の代わりに、別の生き物を模った純白の光芒が浮かんでいたのだ。
それは大海原を翔ける白鳥の気高き勇姿――
「さあ――決着をつけようか」
お母さんの生まれ故郷――純白の雪球の輝きの下、巨大化した神の御使いと私のヒーローの決戦が始まった。
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