傭兵と銀の竜
その昔、たいそう腕の立つ傭兵がおりました。
ある日傭兵は、自分の腕に任せた金儲けの旅の途中で、とある村を通りかかりました。
日も暮れかかっており、宿をとろうと村を訪ねると、その村の金持ちが傭兵の話を聞き付け、ぜひ今夜うちで話を聞かせてほしいと、晩餐会に招待されました。
傭兵は快く晩餐会に招待されると、金持ちからある「お願い」をされました。
「村の北に住む竜が村に悪さを働くから、どうか退治してほしい」
傭兵は食事の礼にとそのお願いを受けました。
翌日傭兵は山に登ってみると、大きな銀色の鱗の竜を見つけました。
「竜よ、あなたはここに住む竜か?」
傭兵は大きな声で銀の竜に語りかけます。
「そうだ。そなたはふもとの村の者か?」
「いや、この山に住む竜が村に悪さをしていると聞いて退治しに来たのだ」
それを聞いた竜は、少し考えると、
「心当たりがある。今日は村へ戻るがいい」
と言って、山の奥へと去っていきました。
その日の夜、ふもとの村で休んでいた傭兵は、金持ちの館から大きな音がするのを聞きました。
何事かと向かってみると、昼間会ったあの銀の竜が館を襲っているではありませんか。
「なにをしている、竜よ!」
既に竜の前足には昨日晩餐を共にした金持ちが無残な姿で握られていました。
「数日前、私の子がさらわれた。手口から人間だとは思っていたが」
竜は、怒りであふれた瞳で前足の金持ちを見ながら、
「問い詰めたらあっさり、この者が手引きしたと明かしたのだ」
そしてゆっくりとそれを地面に置くと、
「さあ、件の竜は目の前にいるぞ。退治するといい」
竜はひざを折り、両手を広げ、翼をたたんで服従の姿勢をさらしました。
傭兵は、確かに罪を犯した竜に対して、その裁きを下しました。
次の日、傭兵は早々に宿を後にしました。
せっかく村を救った英雄が足早に旅立つのを見かねた宿の主人は、どうしてそんなに急ぐのか聞いたところ、
「探し物ができたのだ」
とだけ残し、村を出たという。