色のないソラ‐1話 「懐旧」
初めて書いた小説です、短編風に書ければと思います。
# プロローグ
(今日は静かだ、朝なのに外が暗い、雨か。 雨の日が好きか嫌いか分からない。 ただ雨の日は腹が減る。出店が少なくて、やってる店でも物は中にしまってある。 飯が奪いづらい、1日何も取れないこともある。 だから何だということはないが、好きか嫌いかなら嫌いなのかもしれない・・・)
彼女の名前はソラ、彼女には感情がない。
# 1話 「懐旧」
(私には感情がない、いや、感情がないというとウソになる。渇望だ。 渇望だけは渡すことができなかった。渇望という感情がなければ、飯にありつけずに死ぬことはわかっていた。)
彼女は感情を受け渡すことができる。 この事実に気づいた時の感情も、今、その特性をもっている事についての感情も、何もない。 生存本能によって残された渇望という感情だけで彼女は生活している。 彼女はエモシナという街の中の名もない区域で生活している。要はスラム街だ。 適当に見つけた空き家に暮らしていて、朝起きて、昨日奪った食料を食べ、その日の分を奪いに出かけ、帰っては寝るという生活を繰り返している。
それが彼女の日常だった。
(やはり雨だから、今日の収穫は少ない。いつも死にそうなジジイがいつにもまして死にそうな顔をしてる。 ちょうど私を呼んできた・・・あいつから奪うか。)
老人は死ぬしかなかった。老人は今日一日、雨にうたれ続けていた。体力はすべて失い、唯一の食料も今彼女に奪われている。 老人は走馬灯を見ていた。 優しい人だった。今の彼女は躊躇がないが、彼女がここに来た頃は、いろいろと食料を分けたり、盗みがしやすい場所を教えたりしていた。 老人は知っていた。彼女が感情を受け渡しできることを。 彼女が苦しむからと、ある感情を預かっていたのだ。 老人はそれを今返すことにした。返す方法は知っていた。 食料を漁っているその手を取り、過去を懐かしんだ。いなくなった娘の姿を彼女に重ねていた。彼女へその感情を渡すことを心で承諾した。
(私の手をつかんで、泣いている。)
返した感情は、懐旧。 今まで記憶はあったが、過去を振り返らせるための感情が欠如していたのだ。彼女は様々なことを思い返した。 老人が食料を分けてくれたことや、感情を預けていたこと。 冒険家で行方不明になった父親のこと。彼について回り、巡った国々のこと。 ただ、いくら思い返せど、何も感じない。いや、正確に言えば、1つだけ感じていた。 今の彼女が持つ感情は、懐旧と渇望。 記憶から抜け落ちてしまった感情を渇望するには十分だった。