表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/93

夏至祭 5

「ま、オレにはミーが作ってくれた花冠があるしな。踊りが少しぐらい苦手でも問題ないだろ」


 私の花冠があることと、踊りが苦手なことがどう繋がるのか分からない。

 バーク様の膝の上で首を捻っていると、クラ様が拳を握ってグググッと唸った。


綿菓子(コットンキャンディー)の手作り花冠!? なんて羨ましいの!? それをすぐに寄こしなさい! 維持魔法をかけて永久保存するわ! いえ、傷一つ付かないように水晶に封じて……それなら、いっそのこと綿菓子(コットンキャンディー)ごと……」


 呟きとともに妖艶な顔にドス暗い気配が漂う。

 背中にゾクッとした寒気を感じた私は慌ててバーク様の膝から立ち上がった。


「で、では、クラ様の花冠も作ってきますね! それまで、よければケーキを食べてお待ちください。私の手作りなので味の保証はできませんが」


 その言葉にクラ様の目が輝き、両手を胸の前で組んでグルンとテーブルの方を向いた。


綿菓子(コットンキャンディー)の手作りケーキですって!?」


 うっとりとイチゴのケーキを見つめるクラ様。

 そこでバーク様がクラ様の視線からケーキを逃がすようにテーブルを持ち上げた。


「見るな! 触るな! 食うな! 全部、オレが食べるんだ!」

「なっ!? 私が全部食べるのよ!」

「オレだ!」

「あ、待ちなさい!」


 バーク様がテーブルを持ちあげたまま庭を走り出した。しかも、テーブルにのったケーキは微塵も動いていない。ある意味、脅威のバランス感覚。

 そして、それを全速力で追いかけるクラ様。


混沌(カオス)を悪化させたかもしれません……」


 突如発生した、盟主がテーブルを持って走り、それを美女が追いかけるという光景に、使用人Aの方々が苦笑いをこぼし、ギルドの方々が唖然となる。

 けれど、私ではこれ以上どうすることもできない。


「とりあえず、花冠を作りましょう」


 今の私ができることをするために色とりどりの花が咲いている庭の端へ行き、花を摘んで花冠を作る。

 そこで、ふと子どもの頃に読んだ本の記憶が蘇った。


「……そういえば、夏至祭の日の夜に七種類の摘んだ花を枕の下に置いて寝ると将来の結婚相手が夢に現れるという話がありましたね」


 誰にも言わずにおこなうことが秘訣だと書いてあったが、手にしている花を見れば分かるため、女の子たちはキャアキャアとその話で盛り上がりながら花を集めていた。


 でも、人見知りの私はその輪に入ることができず、静かに眺めていただけ。


(結局、枕の下に花を置いて寝ることはありませんでしたが……)


 その花を一つ一つ摘んで花冠に編み込みながら笑みがこぼれる。


「もう、私には必要ありませんしね」


 顔をあげればテーブルを持ったまま元気に庭を走り回るバーク様。


 褐色肌の強面で、逞しい体躯。その外見から初対面の人には怖れられるけど、実は優しくて、誰よりも私を大事にしてくれる。……今の状況は、ちょっとアレですが。


 ちょっと複雑な気持ちを抱えたまま、私は完成した花冠を持って立ち上がった。


 すると……


「花冠を返せ!」

「嫌よ!」


 怒鳴るバーク様の前で、花冠を頭にのせて優雅にクルクルと舞うクラ様の姿。

 どうやらバーク様の頭にのせていた花冠をクラ様が奪ったらしい。ちなみに、バーク様は丸いテーブルを持ったまま。ケーキも食べた様子なく、そのまま。


 ただ、雰囲気は険悪。


 一触即発状態の二人の間に私は慌てて入った。


「バーク様、こちらの花冠を。新しく作りましたので」


 作ったばかりの花冠を紫黒の髪の上にのせる。まったく同じ花冠ではないけれど、大差はないのでいいだろう。

 するとバーク様の顔が晴れたが、すぐに悔しそうに唸った。


「ミーが作ったモノは全部オレのものにしたいのに!」

「また、いくらでも作りますので」


 なだめようとしていると、クラ様の詠唱が響いた。


『精霊よ、夏の祝福と彩りをいとし子へ授けよ』


 庭に咲いている花が集まり、空中で花冠となると、そのまま私の頭の上にふわりと舞い降りた。


「え?」


 戸惑う私にクラ様が妖艶な笑みをむける。


「ほら、これで私と綿菓子(コットンキャンディー)はお揃い。ペアルックね」

「あ……たしかに」


 私もこの国の夏至祭用の服を着ていた。ただ、白いブラウスは同じだけれど、スカートは黄色をベースにしているのでクラ様とは色違い。でも、お揃いと言えばお揃いになる。


 そのことに気が付いたバーク様はぐぬぬと歯ぎしりをする。


「クッ、オレだって同じ服を着たことないのに」

「もしかして、羨ましいの? 盟主も着てみる?」


 煽るようなクラ様の言葉にバーク様が勢いよく返事をする。


「オレも着る!」


 その大声に庭の空気が凍った。まさかの宣言に遠巻きに眺めていた使用人Aの方々だけでなく、ギルドの方々もゴクリと息を呑む。

 その中で、クラ様だけが優雅に微笑んだ。


「じゃあ、お望み通りにしてあげる」


 細い指が空中に円を描く。


『この者の望みし姿へ、大いなる慈悲を与えよ』


 魔法の詠唱とともに強い光がバーク様を包み……


「ヒッ!?」

「うわっ!?」

「ヒェッ!?」


 恐怖混じりの引きつった声が庭に響き、夏なのに冷えた風が吹き抜ける。


 厚い大胸筋で今にもはち切れそうな白いブラウスに、なぜか丈が短いピンクのスカート。その下には、褐色肌の立派な大腿筋と、白い靴下でも隠しきれない立派なふくらはぎがある。

 夏至祭用の服だけれど、私たちとは印象がまるで違う。


 強烈な視覚的暴力に近い光景にほぼ全員が硬直する中、クラ様の楽しそうな声が響いた。


「ほら、これでお揃いよ」

「おまっ、そうじゃなくて!」


 怒鳴るバーク様の動きに合わせて白いブラウスが胸元から破けていく。下手に動くと短いスカートがめくりあがり、下着が見えそうになる。


「バーク様、落ち着いてください! 動かないでください!」


 こうなったら、祭りどころではない。とにかく着替えないと。

 わたわたしていると、別の冷えた風が感情のない声とともに吹き込んできた。


「……これは、どういう状況ですか?」


 ブリザードのごとく舞い上がる長い銀髪。射殺さんばかりに光る紫瞳。


 その姿にヒッと喉から声が漏れる。


「い、いや、これはクラが……」


 言い訳をしようとするバーク様にオンル様が迫る。


「あんな安い挑発に乗るからでしょう! そもそも、そんな服を着るなんて言うから! バークはもう少し盟主としての自覚を……」


 ぐどぐどと続く説教。

 その光景にそっと私の近くにきた糸目の使用人Aが囁いた。


「こちらで夏至祭を始めましょう」

「で、ですが、バーク様は……」

「いつものことですから。あ、クラはこれ以上、問題を起こしたら即、全員で叩きだしますので」


 しっかりと釘を刺されたクラ様。周囲には鋭い目をしたギルドの方々が囲んでいる。


「わかったわ。私だって夏至祭を楽しみにしていたんだから。まずは、綿菓子(コットンキャンディー)が作ったケーキをいただくわね」

「は、はい。どうぞ」


 こうして始まった夏至祭。

 でも、バーク様はオンル様からの説教コースとなり、参加できたのは夜になってからでした。





コミカライズ合本版4巻配信のお礼SSは以上となります!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!(๑•̀ㅁ•́ฅ✧

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

日常垢ですが、たまに小説投稿や書籍情報について呟きます
X(旧Twitter)
配信中の電子書籍サイトはこちら↓
エンジェライト文庫販売ストア一覧
 
書き下ろし小説4巻が4月24日より配信開始
・4巻は竜族のギルドに届いた奇妙な依頼から、獣人の国がある東の大陸へ! そこは中華風ファンタジーな国でした+番外編では使用人A全員の名前がついに出てきます!
 
・1巻は第一章よりモフモフが増加+書き下ろし短編(温泉編)付き
・2巻は第二章よりWEBとは前半のストーリーを変更、イチャ甘を増量
・3巻は第三章を大幅加筆+番外編でバークとオンルの幼少期と出会い編の書き下ろしも収録!

i954447
茶色井りす先生によるコミカライズ配信中
【毎月 第一木曜日1話配信】&【合本版1・2・3・4巻配信中】
可愛い猫のミーとイケメン筋肉のバークが漫画で読めます! 眼福、癒しコミカライズになっておりますので、ぜひ!
i1000947
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ