夏至祭 2
夏至祭、当日。
「こんな感じか?」
屋敷の裏にある庭と林の境で花冠を作っていた私はバーク様の声で顔をあげた。
そこで目に入ったのは、私の背の倍ぐらいの高さの真っすぐな木。その先は十字の形になっており、横は丸い輪っかになっている。
その木に白樺の枝葉に様々な草花を巻き付けたバーク様が太陽のような笑顔で私の返事を待つ。
「はい、十分です。それを庭の中心に立ててください」
「わかった!」
重いであろう木を軽々と肩に担いで歩いて行く。
夏至祭ではこの木がシンボルのようなモノで、この木を中心に人々は踊って祭りを楽しむ。
バーク様の後ろ姿を眺めながら私は幼い頃に読んだ本を思い出した。
(そういえば、夏至祭にするおまじないがあったような……)
手元に視線を落とせば作りかけの花冠。
夏の訪れに合わせて咲く様々な花を組み合わせて作り、これを頭にのせて踊る。
ただ、人と話すことが苦手で人見知りだった私は花冠を作っても踊りの輪に入ることはなかった。頭にものせることなく、机の上に置いたまま。そのうち、鮮やかだった緑の葉は茶色く枯れ、色の美しかった花はくすみ、いつの間にかメイドに捨てられていた。
(……でも、今年は)
暗い過去を払うように頭を振っていると、明るい声に名前を呼ばれた。
「ミー、これでいいか?」
顔をあげると、庭の真ん中に飾り付けた木を立てたバーク様。
その足元では、木が倒れないように竜族のギルトの方々が一生懸命に固定をしている。
「はい、それでいいと思います」
「次は何をしたらいい?」
黄金の瞳を輝かせ、待ちきれないとばかりに庭の端にいた私へ駆け寄るバーク様。
逞しい体躯にあわせて揺れる紫黒の髪と、溢れんばかりの笑顔。まるで、大きな犬が遊んでと誘っているかのような雰囲気。
その姿にさっきまでの暗い気持ちが吹き飛んで笑みが漏れる。
「そうですね。あとは料理を並べて、お茶の時間でしょうか」
「お茶の時間?」
黄金の瞳が不思議そうに丸くなり、コテンと首を傾げた。
強面なのに、可愛らしい仕草。そのギャップに心がほっこりと温かくなる。
「はい。この時期はイチゴが採れるので、そのイチゴを使ったケーキを食べます。あ、ケーキと言ってもパンケーキにイチゴとクリームを挟んだだけの簡単なものですけど」
「うまそうだな!」
餌を前に待てをする犬のように目が輝く。
そんなに期待に満ちた顔をされると、ちょっとケーキを出すのをためらってしまう。
「あ、あの、本当にそんなに期待しないでください。シン様のケーキに比べたら、本当に、その……」
エルフの里の入り口にあるケーキ店。
そこではエルフであるシン様が超絶に美味しいケーキを作り、それを人族のツカサ様が売っている。そこのケーキはスポンジからクリームまで、すべてが別格。
その味を思い出したら、今回のイチゴのケーキは……
沈んでいく私にバーク様がウキウキと声をかけた。
「別に比べる必要はないだろ? イチゴのケーキを食べて、みんなで楽しむことが目的なんだから」
その言葉にハッとなる。
夏至祭は夏の訪れを喜ぶ祭り。ケーキの味がメインではない。今年もイチゴや野菜が収穫できたことを感謝して、みんなで楽しむことが目的。
そのことを忘れてはいけない。
「そうですね。ちょっと準備してきます」
私は作りかけだった花冠を急いで仕上げてバーク様の方を向いた。
「あの、ちょっと屈んでもらえませんでしょうか?」
「こうか?」
私よりずっと背が高いバーク様が疑いもせずに屈む。
目線より少し下になった紫黒の髪に私は花冠をのせた。
「え?」
キョトンとする黄金の瞳。強面に花冠は正直なところ不似合い。でも、こんなことをするのもお祭りという感じもする。
「夏至祭では花冠をのせて踊るんです」
「なら、落とさないようにしないとな!」
変な方向に意気込むバーク様。
「落としたらいけない、という決まりはありませんから」
「せっかくミーが作ってくれたんだ! 落とすなんて勿体ない!」
拳を作ってますます意気込む。こうなったら軌道修正は無理だろう。
「わかりました。私はイチゴのケーキを持ってきますね」
視線をずらせば、竜族のギルトのメンバーの方々が料理を乗せるためのテーブルと椅子を並べている。
その光景を横目に私はキッチンへと駆けた。




