夏至祭 1
私の国にある竜族のギルドの執務室。
そこで書類仕事していると、開いた窓から吹き込んだ風が私の白金髪を巻きあげた。冬の冷えた風とも、春の暖かな風とも違う、熱がこもった夏の到来を告げる風。
何気なく窓の外へ視線を移すと青々と茂った枝葉が風に揺れ、力強く太陽の光を弾いている。
その光景に私はふと言葉をこぼした。
「そういえば、もうすぐ夏至祭がありますね」
「夏至祭!? 祭りか!? どんな祭りなんだ!?」
私の一言で、書類の山にうんざりしていたバーク様が黄金の瞳を輝かせながら顔をあげる。
水を得た魚というか、オモチャを前にした子どもというか、一瞬で活気が戻ったバーク様の様子に、オンル様がやれやれと肩をすくめながら長い銀髪を背中に払った。
「夏の訪れを祝う祭りで、毎年行われているそうです」
「毎年? つまり去年も祭りはあったのか?」
「はい」
「なんで、気づかなかったんだ!?」
悔しそうに紫黒の髪を振るバーク様に対して、オンル様が淡々と答える。
「この国に慣れることとギルドの創設で忙しくて、それどころではありませんでしたからね。今も仕事が山積みですし」
淡々とした声とともにドサッと書類の山を机に置く。
そんな積み重なった仕事に負けじと、黄金の瞳がキッとオンル様を睨んだ。
「祭りがあることを知っていてワザと教えなかったってことはないか?」
ジドッと睨むバーク様に対して、美麗な顔がニッコリと微笑む。
(あ、これはワザと教えなかったパターンかもしれない)
私がそう感じていると、オンル様がバーク様の質問をサラリと流して説明を続けた。
「あと、祭りは街中で大体的に行うものではなく、避暑地などで近くに住む人々が集まって行うそうですよ」
だから、さっさと仕事をしろ、という圧が美麗な微笑みから言外に滲み出る。
下手に質問をすれば極寒のブリザードが吹き荒れそうな気配を察知したのか、バーク様が逃げるように私の方を向いた。
「そうなのか?」
「は、はい。夏至は太陽が出ている時間が一番長い日で、その前後が祝日となりますから、その期間は避暑地で休暇を楽しむ方々が祭りをおこないます」
「つまり、この辺りではしない祭りってことか」
紫黒の髪がしょぼんと目に見えて落ち込む。
その姿に私はつい言葉を続けた。
「ですが、特別なことをする祭りではないので、ここでもしようと思えばできますが……」
「どんなことをするんだ!?」
私の話にバーク様が喰いつく。
その隣では眉間にシワを寄せるオンル様。美麗な顔に冷淡な空気が漂う。
余計なことを言ってしまったかも、と思いながらも、普段は強面と怖がられる顔を子どものようにワクワクとさせたバーク様の期待に背くことはできなくて……
私は祭りの内容を説明した。
「え、あ、その白樺の枝葉と草花を巻き付けた木を立てて、その周りで踊って料理を食べて、夏が来たことを祝うだけなんです。どちらかというと、その準備が楽しいというか……その、みんなで準備をして片付けをするところまでが夏至祭なので」
「そうなのか!」
バーク様が満足そうに黄金の瞳をキラキラさせて頷く。
それから腹心であるオンル様の方を向いて……
「それなら、屋敷の庭でできるよな!? 竜族のギルドで働いているヤツらと一緒に!」
予想通りの発言なのかオンル様が額に手をあてて盛大にため息を吐いた。
「できないことはありませんが……」
「この国の祝日なのに働けっていうのも酷だろ? それなら、みんなで祭りをしたらいい!」
その発言に紫瞳が冷たく光る。
「バークが休みたいだけじゃないですか?」
図星なのかバーク様がグッと言葉に詰まった。
「そ、それは、その……」
黄金の瞳が気まずそうに泳ぐ。
こういう時は正直で下手な嘘をついたり、誤魔化したりすることができないバーク様。
ハラハラしながら見守っていると、銀髪が短いため息とともに揺れた。
「夏至祭までに仕事を終わらせたらいいですよ。ギルドもその期間は仕事を入れないように調節しましょう」
その一言にバーク様が拳を握る。
「よし! すぐに終わらせる!」
こうして怒濤の集中力を発揮したバーク様は本当に夏至祭までに仕事を終わらせた。




