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【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
番外編

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夏の怪談・中編

「それだけか?」


 あまりの普通な声音に使用人たちが戸惑いながら頷いた。


「は、はい」

「何か被害とかあったか?」

「えっと……被害というなら、何もないです」

「じゃあ、問題ないな」


 バーク様が出した結論に使用人たちと私の目が丸くなる。


「あ、あの、問題ないのですか?」


 私の質問に紫黒の髪が不思議そうに揺れる。


「誰かが怪我をしたとか、物がなくなったとか、そういう害がないなら問題ないだろ」


 そう言われたら確かに姿を見たというだけで実害はない。

 使用人たちと私が呆気にとられていると、逞しい腕が私の腰を引き寄せた。


「また何かあったら教えてくれ」

「は、はあ……」


 気が抜けたような返事を背中に聞きながら、私はバーク様に誘導されて歩き出した。


「あ、あの、バーク様?」

「どうした?」


 太陽のように眩しい黄金の瞳が私を見下ろす。

 強面がふにゃりと柔らかくなり、蕩けるような甘い微笑みが私を包む。

 ドキリと胸が高鳴り見惚れそうになるが、私は頑張って声を出した。


「バーク様はオバケが怖くないのですか?」

「怖い? なんでだ?」


 不思議そうに紫黒の髪が揺れる。その様子は本当に分かっていないようで……


「その、私の国では幽霊は怖いと思う者が多いので。それに、使用人の方々も怖がっているようでしたし」

「そうなのか?」


 バーク様が黄金の瞳を少しだけ丸くしながら執務室のドアを開ける。

 すると、中ではオンル様が眉間にシワを寄せて一枚の書類を見つめていた。


「どうした、何か問題でも起きたか?」


 バーク様の問いにオンル様が額に手を当ててため息を吐く。


「問題といえば、問題ですが……城内でオバケが出るという噂はご存知ですか?」

「さっき聞いた」

「その噂のせいで夜番を拒否する者が出ておりまして……」


 思わぬ言葉に声が漏れる。


「え?」


 竜族と言えば戦闘に長けた勇猛な戦士の一族。それなのにオバケの噂で夜番を拒否するなんて。

 そんな私の疑問を感じ取ったのかオンル様が説明をした。


「敵がハッキリとしている場合はいいんです。魔獣であれ、聖獣であれ、存在がしっかりと分かっていれば、どんな相手であろうと戦うことに怯むことはありません。ただ、オバケのような生きているのか死んでいるのかも分からない、不明瞭な存在が苦手なんです」


 魔獣はともかく、聖獣と戦うことに躊躇いがないのはどうかと感じつつ、不明瞭な存在という言葉に納得する。よく分からない存在に恐怖を覚えるのは人族も竜族も同じらしい。


 意外な共通点に驚いていると、バーク様がガシガシと頭をかいた。


「それは困ったな。オバケを見た時の状況とか分かるか?」

「報告書がここに」


 オンル様から書類を受け取ったバーク様が読みながら唸る。


「月のない夜だったから、余計に見えにくかったのか。とはいえ、夜の守りがあまくなるのも困るしな。しかたねぇ、オレが何とかするか」


 想定外の申し出に私とオンル様の声が重なる。


「「え?」」


 目を丸くしている私たちにバーク様が説明を続けた。


「オバケがいるのか、いないのか、それがハッキリすればいいんだろ?」

「まぁ、ハッキリさせることができるなら、ですが……できるのですか?」


 疑問に目をむけるオンル様に黄金の瞳がニカッと笑う。


「じゃあ、そういうことでオレはこれから仮眠する」


 清々しいまでに潔く宣言したバーク様に銀髪が怒りで浮きあがった。


「それが目的でしょう!」


 怒鳴るオンル様から逃げるようにバーク様がサッと私を横抱きにして執務室から出て行く。

 逞しい腕に抱き上げられたまま、私は顔をあげた。太陽の匂いがフワリと鼻をかすめ、その近さに少しばかり顔が熱くなる。


「バ、バーク様!?」

「一緒に昼寝するか? 涼しい秘密の木陰があるんだ」


 ニコニコと満面の笑み。うまく仕事がサボれて嬉しいのだろうけれど、今はそれどころではない。


「いえ、それより書類仕事がどんどん溜まって……あと、本当に何とかなるのですか?」


 私を抱えたまま城の廊下を軽々と駆けていくバーク様。


「報告書にはオバケが出たのは一回だけみたいだしな。ま、大丈夫だろ」


 柔らかく緩んだ黄金の瞳が私を見つめる。ただ、その奥にある光がいつもと少し違うような……

 微妙な違和感を覚えていると、背後から鬼気迫る怒鳴り声が迫ってきた。


「待ちなさい、バーク!」


 書類を持ったオンル様が追いかけてくる。


「逃げるぞ!」


 バーク様が私を抱えたまま楽しげに城の窓から外へと飛び立った。




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