冬の料理・後編
案の定、お酒を中心に宴会のような状況になったリビング。
普段はきっちりとしている使用人Aの方々が楽しそうにお酒を飲んでいるので、これはこれで良さそう。あと、私が作った料理には手を出さず、ハムやチーズ、クラッカーなどをつまみにしている。
それは、少しでも私が作った料理に手が近づいたら鋭い睨みが飛んでくるから。
使用人Aが私の料理が作った料理を食べないように威嚇をしながらも旨い、旨い、と私が作った料理を食べていくバーク様。その食べっぷりは見ていて気持ちがいい。
その姿を私は隣でふんわりと眺めていた。
冬はバターやクリームを使った料理が多く、しょっぱい味付けになる。そのためか、お酒もどんどん飲んで、褐色肌の頬がほんのりと赤くなっている。
いつもは見ることがない姿に私の胸がドキドキと高鳴る。
けど、ここはしっかりしないと。
「バークさま、飲みすぎはダメですよぉ?」
私の声に、料理を食べていた手が止まり、上機嫌のまま強面の顔がこちらを向く。
そして、少し驚いたように目が大きくなった。
「……ミー、もしかして酔っているか?」
「酔ってませんよぉ」
酔っているのは、ずっとお酒を飲んでいるバーク様の方。
ふわふわ気分のまま、私はにこやかに笑いながらそう言ったけど、黄金の瞳は怪訝そうに細くなった。それから、私が持つマグカップへ。
「それ、ジュースじゃないのか?」
「ちがいますよぉ」
赤ブドウから作られたお酒にオレンジやスパイス、蜂蜜をいれて温めた冬の定番の飲み物。温めた時にアルコールが飛ぶので度数は低く、体の中からじんわりと温まる。
ぽわぽわとした夢心地のまま答えると、バーク様が眉間にシワを寄せ、大きな手で口元を隠した。
「ヤバい……可愛いすぎる……」
「ふぇ?」
小声すぎて聞き取れず、首を傾げる。遅れて私の白金色の髪が頬を流れた。
その髪を無骨な指が優しくかきあげる。
「いや、なんでもない。それより、水を飲んだほうがいい」
「そうですかぁ?」
「顔が赤くなってるぞ」
「そんなに、のんでいませんけど?」
「とにかく飲んだほうがいい」
ちょっと不満が残るけど、コクンと頷く。
「はい、わかりました」
「よし」
マグカップを取られて代わりに透明な液体が入ったグラスを差し出される。
「ありがとうございま……あ」
受け取ろうとしたところで、グラスが手から滑り落ちた。
ポンッ!
足に盛大に水がかかり、猫になった私。
「ふにゃぁ……」
(あぁ……)
「大丈夫か!?」
バーク様が慌てて魔法で私を乾かすと、優しく抱き上げてくれた。
その逞しい腕の中で聞こえるバーク様の鼓動。トクン、トクン、と心地よくて、まるで夢の世界のようで。
ふと視線をずらせば、窓の外には白い雪が降っていて。
外はとっても寒いけど、ここはとても暖かくて。
幸せっていう気持ちが溢れてきて。
どうにも抑えられなくて。
どうしても、この嬉しさを表したくなって……
「みっにゃにゃーんにゃ!」
(一発芸しまーす!)
私の突然の宣言にバーク様が驚く。
「ミー!?」
私は注目を集めるように高いテーブルの上に飛び乗った。
そのままクルッと体を丸める。
「みゃあ!」
(雪だるま!)
でも、猫語が通じない使用人Aの方々とオンル様は首を傾げるのみ。
「綿飴?」
「タンポポの綿毛?」
「いや、綿花かもしれませんよ」
そこにオンル様の冷えた声が降る。
「毛玉は毛玉でしょう」
「それでは面白くありませんよ。私は卵と予想します」
「マシュマロの可能性もありますよ」
ほどよく酒がまわっており、リビングは物当て会場に変更。でも、誰も正解を当てられないので私はフフフッと顔を隠して笑っていた。
その一方で、顔を手で覆ったバーク様がポツリと呟く。
「雪だるまなら、もう一ついるだろ。あー、もう、そういうところも可愛いすぎる」
小声すぎて他の方々には聞こえなかったようですが、私の猫耳は反応してピクリと動いてしまった。丸い毛玉からピョン、と片耳だけ飛び出る。
その瞬間、ガタリと音がして体が浮いた。
「もう、ダメだ! 見るな! おまえらは酒を飲んでろ!」
「にゃにゃあ?」
(バーク様?)
顔をあげた私をバーク様が抱きしめる。
「こんなに可愛いミーを他のヤツらに見られるなんて我慢ならん!」
「むにゃ、みゃあにゃんにゃぁ」
(もう、酔いすぎですよぉ)
「そんなことないぞ。酒を飲んでなくても同じだ」
「うなぁなゃぁ」
(またまたぁ)
ふわふわと笑う私。
とても楽しくて、幸せで、満ち足りていて……温かい腕の中で、いつの間にか眠っていた。
翌日。
「にゃにゃあうなぁぁぁぁ!!!!」
(バーク様に合わせる顔がありませんんん!!!!)
昨晩の羞恥を思い出した私はベッドの中で丸まったまま、出られず。
あれから、二人っきりになるとバーク様が軽いお酒を勧めてくるようにもなりましたが、断固拒否。お酒は怖いと学びました。




