ある朝の風景
私が生まれた人族の国。
そこにある竜族の盟主であるバーク様が住む屋敷の一室。バーク様と婚約をしてから、同じベッドで寝ることも増えてきた。
ただし、猫の姿で。
理由は簡単。人の姿で一緒に寝るのが恥ずかしいから。
拾われた頃、人に戻れることを知らず一緒に寝ていた時のことを思い出す。当時は冬で寒かったから、バーク様の胸の温もりが心地よかったけど、今は夏。
さすがに、ひっついて寝るには暑い。でも、バーク様の太陽の香りに包まれて寝るのは幸せで、つい一緒に寝たくなってしまって。
夏の朝は陽が昇るのが早い。
そのため、カーテンを閉め忘れると朝日で早く目が覚めてしまう。
最近は特に暑い日が続くため、窓を全開にして風の通りがよくなるようにカーテンも開けていた。そのため、空が白くなり太陽の光が部屋へ差し込んでくる頃には自然と体が目覚めて。
「みゃみゃう?」
(バーク様?)
一緒に寝たはずのバーク様の姿がない。
白いシーツにクシャリとシワが残るだけ。温もりもなく、かなり前にベッドから離れたことが分かる。
「うにゃぁ……」
(どちらへ……)
解放された窓の外から鳥の囀りが響く。
日中の暑さとは違い、涼しい風が私の白金髪色の毛を揺らす。その中に微かに香る太陽の匂い。
「みゃみゃうにゃん?」
(バーク様の匂い?)
私は部屋を出ると、猫用のドアから屋敷の外へ出た。
朝の清々しい空気を堪能しながら風上へ歩いていく。そこは屋敷の庭の隅にあり、大きな木が生えている場所。木以外は何もないので、足を運ぶことがなかった。
「にゃうむみゅにゃぁ……」
(でも、バーク様の匂いはあの方向からしましたし……)
大木の先は林になっており、その中に入っているなら見つけるのは難しい。あと、一人で林には入らないように言われている。
「うにゃんみゃにゃん」
(木のところにいなかったら諦めて戻りましょう)
そう考えていると、大木が見えてきた。
太い幹に幾重にも伸びた枝。その枝も一本一本が太く、中には人の私の腰と同じぐらいのものまで。
緑の葉を茂らせ、太陽の日差しをしっかり遮っている。そのためか、拭き下ろす風は少しひんやりとしていて涼しい。
そんな立派な木の枝からぶら下がる褐色肌の……
「みゃみゃん!」
(バーク様!)
私は駆け出そうとして、気が付いた。
太い枝に足をかけ、逆さまになって腹筋をしているバーク様。
しかも、上半身は裸!
昼間より涼しいとはいえ夏。運動すれば暑くなる記憶。だから、その恰好になるのは分かる。
ただ!
力を入れる度に引き締まる筋肉。特に六つに割れた腹筋。その下にあるのは、いつもの活発な顔ではなく、真剣な眼差しの黄金の瞳。体を動かすたびに汗を弾く紫黒の髪。
一心不乱に運動をしているだけ……なのに。
それだけ、なのに……
なのに、何故……
「お、ミー?」
私に気づいたバーク様がクルッと宙がえりして地面に着地する。
「まだ、起きるには早いんじゃないか?」
そう言いながら私に近づいてきた。
先程までの真剣さが消え、快活な笑顔が現れる。その姿は、いつものバーク様なのに。
それなのに。
朝日に輝く褐色肌。普段は袖で隠れている引き締まった腕。厚い胸板に流れる汗。ぶわりとむせ返るような太陽の匂い。気だるげな表情に、上向いた口角から覗く白い歯。
強面なのに男前で精悍な顔。
存在すべてが色気の暴力すぎて。
「ぶみにゃぁぁぁぁ!!!!!!!」
(卑猥すぎですぅぅぅ!!!!!!!)
私は来た道を走って戻った。
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配信中の電子除籍の2巻の内容がメインとなります。
竜族の里やクラがそのまま漫画となっております!!
もう、本当に最高に最高で、素敵な内容です!!
ぜひぜひ、お読みいただけると嬉しいです!!!!!!!




