かまくらを作ろう 中編
少し遅い朝食をいただいた後、バーク様は屋根に積もった雪の雪下ろしへ。
いつも仕事に厳しいオンル様から、
「どうせ雪が気になって仕事にならないでしょうから。無駄にたまった力をここで発散してもらったほうが助かります」
と許可もあって、バーク様は嬉しそうに外へ飛び出した。
「大丈夫ですか?」
心配になった私は雪かきがされた玄関前の道から屋敷の屋根を見上げる。しかし、バーク様は子どもが山登りをするように楽しそうに梯子をあがって屋根へ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。寒いからミーは家の中で待ってろ」
そう言って屋敷の屋根に積もった雪をスコップでドサドサと落としていく。
バーク様は竜族なため、足を滑らせて落ちそうになっても翼を出して空を飛べるし、魔法で対処することもできる。
でも、心配なものは心配で。
ジッと見上げていると、オンル様がやってきてバーク様へ声をかけた。
「バーク! 適当に雪を落とすのではなく、なるべく一か所に集めてください。これでは窓が開けられなくなります」
たしかに屋根から落とされた雪が山となり、一階の窓を塞ぎかけている。
しかし、バーク様は不服だったらしく少しだけ唇を尖らせた。
「あとで、窓の前の雪だけ退けたらいけないのか?」
「二度手間になるので却下です。あなたの力なら、一か所にむかって雪を投げることぐらい簡単でしょう?」
「落とすだけの方が楽なんだけどなぁ」
その訴えにオンル様が顎に手を当てて、ふむ、と頷く。
「そういえば、北の国には『かまくら』という雪で作る小さな隠れ家があるそうですよ」
「『かまくら』? なんだ、それ?」
バーク様が初めて聞く単語に目を輝かす。
「なんでも雪を集めて山を作り、その中に穴をあけて入る、というモノらしいです。山が大きければ大きいほど開けられる穴も大きくなり、入れる人も多くなります」
「面白そうだな!」
「屋根の雪を裏庭に集めたら作れると思いますが、面倒なら……」
と、思案するように顔を伏せるオンル様。
「裏庭だな!」
これまで屋根の真下に落としていた雪を裏庭にむかって放り投げるバーク様。
「では、私はこれで。毛玉も体を冷やす前に戻ってください」
そう言って、颯爽と屋敷に戻るオンル様。さすが、バーク様の扱いが上手すぎます。
こうして昼過ぎには屋根の上の雪はなくなり、代わりに裏庭に雪山が現れた。
「これに穴を開けたらいいんだな!」
山盛りになった雪に穴を開けようとスコップを突き刺す。それから雪をかきだすが、上の雪が崩れて塞いでいく。
「あれ?」
何度か繰り返すが、サラサラな雪が落ちてくるばかり。
「……どうすればいいんだ?」
首を傾げて困るバーク様。
私は昼にオンル様から聞いていた『かまくら』のメモを出した。
「バーク様、『かまくら』は山というより、このようなドームのような形をしているそうで、この形を作る時に雪が崩れないように固めるそうです。まずはこの形を作ってみてはいかがでしょう?」
「そうなのか! さすが、ミーだな!」
満面の笑みとともに褐色肌から白い歯が覗く。
そんなにまっすぐ褒められたら恥ずかしいような、くすぐったいような。
ふんわりと心が温かくなっていると、バーク様がスコップを持ち直して力を入れた。
「よし! まずは雪を固めるぞ!」
バーク様がスコップで雪山を叩き、ドーム型にしていく……のだけれど。
「えっと……」
バンバン! ドスドス! カンカン! と雪を相手にしているとは思えない音が裏庭に響く。しかも、私の背より高かった雪山がどんどん小さくなっていき……
「あの、バーク様……?」
「ん? どうした?」
爽やかな笑顔で振り返った背後には磨き上げられたガラスのようにテカテカと輝くドーム型の、ナニかが。
「その、そろそろ穴をあけてもいいのではないでしょうか?」
「お、そうだな。形を作るのに夢中になってた」
そう言ってドーム型になった雪? にスコップを突き刺し……
カーーーーン!
硬質な音とともに、スコップの先が跳ね返った。
「どういうことだ?」
驚くバーク様に淡々とした声がかかる。
「固めすぎですよ。これだと穴はあけられませんね」
「オンル様」
振り返ると、やれやれと肩をすくめたオンル様がやってきた。
「変な音がするので見に来たら、まさかこんなことになっているとは」
「どうすればいい!?」
「このまま穴を開けようとすれば、スコップが壊れるかもしれませんから……魔法で少しずつ溶かすしかないですね」
「その手が!」
パッと明るくなるバーク様にオンル様が釘を刺す。
「ただし、火力を間違えないでください。バークの火の魔法だと、これぐらいの雪は一瞬で蒸発しますから」
「うっ!」
「あと、日が暮れる前には屋敷に戻ってください」
冬のため日が暮れるのは早い。今は晴天で明るいけど、日が傾けば暗くなるのは、あっという間。
オンル様が雪よりも透き通った白銀の髪をなびかせて屋敷に戻っていく。
なんだ、かんだ言ってバーク様を気にかけているけど、それをオンル様に言ったらブリザードより寒い威圧で凍らされてしまうので口にはできない。
つい口元を緩めていると、バーク様が苦悩する声が聞こえた。
「少しずつ溶かすしかないのか……できるか……?」
書類仕事をされている時より悩んでいる様子。
「あの、そんなに難しいことなのですか?」
「オレの場合は魔力がでかいから、小さな魔法をチビチビ使うのは苦手なんだ」
たしかに細かい作業より、大きな動きのほうが得意そう。
心の中で納得していると、バーク様が意を決したように立ち上がった。
「だが、これも『かまくら』のため! やるぞ!」
雪を固めたドームに両手をむけて魔法を詠唱するバーク様。その先には今にも消えそうな火がある。これで固まった雪を溶かして穴をあけるのだろうけど……
(火が小さすぎるのでは?)
果たして、日が暮れるまでに人が入れるぐらいの穴ができるのか。
「ミー、寒いから中で待ってろ」
「ですが……」
「できたら呼びに行くから」
バーク様が珍しく真剣な顔をしている。それだけ魔法に集中しているのだろう。
「……はい」
私は邪魔にならないためにも、屋敷へ戻った。
暖炉の火が赤々と燃え、温かなリビング。でも、一人だけぬくぬくとしているのも気が引けて。
「何か私にできることがあれば……そうです!」
閃いた私は急いでオンル様を探した。
後編を後で投稿して完結します!




