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【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
番外編

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かまくらを作ろう 前編

 普段より冷える冬の朝。

 私は冷気とともにバーク様の屋敷にある私の部屋のベッドで目が覚めた。


「今日は、いつもより寒いですね」


 暖炉の火はチラチラと微かな温もりがあるのみ。

 寒さを堪えながらベッドから出た私は、ストールを羽織って窓のカーテンを開けた。


「ふわぁぁぁぁ……」


 思わず漏れ出た声。この国で生まれ育った私でも声をあげてしまうほどの光景が目の前に。


「夜に雪が降っていましたが、まさかここまで……」


 家の屋根も、道も、枯れ木も、すべてが白一色に染まった世界。しかも、いつもなら少し積もる程度なのに、今朝はその量がすごい。


「……腰まで積もっていそう」


 まるでフカフカの雲が街に落ちてきたような光景。

 視線をあげれば、澄んだ空。雲一つない真っ青に街を覆い隠す雪の白が映える。そこに、降り注ぐ太陽の光。雪の表面がキラキラと輝き、見慣れた景色が幻想的に煌めく。


 ここで私はハッとした。


 この光景を一番に楽しみそうな、この屋敷の主の……


 その姿が頭に浮かんだところでバタバタと元気な足音が近づいてきた。


「ミー! すごいぞ! 雪がいっぱいだ!」


 紫黒の髪を揺らし、満面の笑みで私の部屋のドアをあけたバーク様。鋭い黄金の瞳は喜びにあふれ、強面と恐れられる顔が子どものようにはしゃいでいる。


 バーク様が大股で私の部屋に入ってきた。


「これだけあれば雪で遊び放題だ! 何をする!?」


 新しいおもちゃを前にした子どものように、全身から放たれるウキウキ感。私も普段なら笑顔で答えるのだけど、今は……


「バーク。女性の部屋に断りもなく飛び込むのは、失礼になりますよ」


 ドアの影からオンル様が忠告する。その冷えた声にバーク様の肩が跳ね、それから私に視線を落とした。


 私は寝間着姿のまま。髪も整えていなければ、着替えてもいない。


(ちょっと、恥ずかしいかも)


 肩にかけているストールを引っ張り、寝間着を少しでも隠す。


「わっ、悪い! 下の部屋で待ってる!」


 そう言って、バーク様が慌てて部屋から出て行った。


 一瞬の嵐のような騒々しさ。でも、私はそれが嫌いではない。むしろ、部屋が少し温まったような、春の陽だまりのような感覚。


「早く着替えましょう」


 と、呟いて私は気が付いた。


「……バーク様も寝間着だったような」


 健康的な褐色肌に染まった、太い首。はだけた寝間着の隙間から覗く、厚い胸板。逞しい体躯でありながら、朝だからか少し気怠い雰囲気もあって。


 顔が一気に熱くなる。


 人に戻れると知らなかった頃は、何度も一緒に寝て、何度も見かけた寝間着姿…………なのに。


「は、早く着替えましょう」


 頭を切り替えるため、私は急いで身支度をした。



 暖炉に火が入ったリビング。ほんわりとした温もりにホッとする。


 しかし、そこに目的の人はおらず。


 キョロキョロと見まわしていると、長い白銀の髪を揺らしながらオンル様が現れた。


「バークなら雪かきをしてますよ」

「え? バーク様が雪かきを?」

「はい。力が有り余っているようでしたので、玄関前の雪かきをお願いしました。まあ、面倒になったら魔法で雪を溶かすでしょう」


 バーク様は竜族一の魔力の持ち主だから、これぐらいの雪なんて簡単に溶かしてしまうだろうけど……


「様子を見てきます」


 私はコートを羽織って外へ出た。


「おりゃぁぁぁぁあ!!!!!」


 勢いのある声とともに雪の塊が空を飛んでいく。


 私の前には人が一人通れるぐらいの幅の道。その先にはスコップを片手に腰まである雪をかき分けて進むバーク様。

 しかも、そのスピードが速い。


 私は声をかけるのも忘れて呆然と眺めていた。


 実家にいる時は使用人が寒そうに嫌々していた雪かき。生活するためには必要な作業とわかっていても、あまりしたくない。


 それが、バーク様だと……


 大きな背中と、規則正しく動く逞しい腕。しっかりと腰を落として、雪の塊をスコップにのせて左右に放り投げていく。


 後ろ姿なのに、揺れる紫黒の髪が、背中が、全身から楽しさが溢れている。


(バーク様らしいですね)


 生きることを全力で楽しんでいるバーク様。その姿に心がふわりと温かくなる。


 そこで、ピタリとバーク様が動きを止めた。


(どうしたのでしょう?)


 黙って見守っていると、バッと振り返った。それから、驚いたように目を丸くして、ふにゃりと表情を緩めた。


「やっぱり、ミーだった」


 その優しく甘い声に私の耳が熱くなる。


 ドキドキする胸を押さえていると、バーク様がスコップを雪に突き刺し、大股で私に近づいた。


「あ、その、邪魔をして申し訳ありません」


 わたわたと慌てる私にバーク様が自分の首に巻いていたマフラーを外した。


「邪魔じゃないぞ。それより寒いだろ」


 そう言って私の首にマフラーを巻く。ふわりと香る太陽の匂い……もとい、バーク様の匂い。


(ふわぁぁぁ……)


 妙な恥ずかしさを感じていると、肩に温かなモノが触れた。


「え?」


 いつの間にかコートを脱いだバーク様が私の肩にかけている。男性用のコートは重いが、それよりも全身を包む温もりが。まるで、抱きしめられているみたい……って、そうではなく!


「バーク様! これでは、バーク様が風邪をひいてしまいます!」


 慌てる私にバーク様が平然と笑う。


「このままだと汗をかきそうだから、持っていてくれないか?」


 そう言いながら腕まくりをする。本当に熱いらしい。


「は、はぁ……」

「よし! じゃあ、続きだ!」


 露わになった褐色肌と鍛えられた腕がスコップを手にする。


 それから、雪かきを再開して……


「いやぁ、いい運動になった」


 額に薄っすらかいた汗を手で拭いながらバーク様が満足そうに頷く。


 そこには、馬車が一台通れるぐらいの幅にまで広がった道と、その左右に雪の壁ができあがっていた。



中編、後編は夜に投稿します!


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