ポッキーゲーム
私の国にあるバーク様の屋敷。
その日の私は猫の姿で過ごしていた。
小春日和の日差しが差し込む廊下を、手首につけたピンクのポーチを揺らしながらポテポテと歩く。可愛らしいポーチながらも魔道具でどんなモノでも収納できる便利グッズ。
不測の事態に備えて様々な物を収納しており、なるべく付けているようにしている。
バーク様の執務室へむかっていると、口元にホクロがある使用人Aの方が私に声をかけてきた。
「先程、バーク様に休憩のお茶をお運びしましたので、よければ、こちらをどうぞ。猫のままでもお茶の時間に食べられるお茶請けを作ってみました。バーク様とご一緒にお召し上がりください」
そう言って差し出されたカゴ。上にはハンカチがかけられているため、中身は見えない。
バーク様がお茶休憩をされる時、私が猫の姿だと食べられるモノが限られるので、見ているだけで終わる。でも、これなら一緒に食べられるかも。
「にゃーにゃにゃ」
(ありがとうございます)
私はカゴを口にくわえてバーク様の執務室へ歩いた。人の時は何てことのない距離だけど、今は小さな猫。
小さな足を動かして、ようやくバーク様がいる執務室に到着する。
私はくわえていたカゴを置いて、大きなドアを見上げた。
「みゃ!」
(いきます!)
いつものようにピョンとドアノブに飛びついてドアを開けようとした時……
「ミーか?」
声とともにドアが開いた。
「うにゃ、みゃぁ?」
(どうして、私が来たことがわかって?)
首を傾げる私にバーク様がふわりと笑って手を伸ばす。
「なんとなく、ミーが来た気がしたんだ。これを持ってきてくれたのか」
言葉とともに逞しい左腕が私をすくいあげる。慣れた温もりと厚い胸板が全身を包み込む。
バーク様は反対の手でカゴを持つと執務室へ入った。
執務机の上には使用人Aの方が話した通り、お茶のセット。その隣にカゴを置いてバーク様が椅子に座り、私は定位置であるバーク様の膝の上へ。
「……これは何だ?」
カゴにかけてあったハンカチを外したバーク様が首を捻る。気になった私は机の上にあがり、カゴに両手をかけて覗き込んだ。
そこにあったのはマッチ棒ぐらいの長さの細長い……
「うみゃ?」
(なんでしょう?)
クンクンと鼻を近づけると、魚のような匂い。嫌な感じはなく、むしろ食欲を刺激され……
私は誘われるようにパクッと口にくわえた。
「みゃう!」
(美味しい!)
白身魚のような、あっさりとした味。でも、旨味が凝縮されていて美味しい。香辛料は使っていないようで、味覚が敏感になっている猫の私でも食べられる。
私はカゴから一本だして、前足で押さえたままハムハムと食べた。これは、やめられない、とまらない、魔性の味。
状況を忘れて食べ続ける私をバーク様がとろけるような目で見つめている……ことに気づいていなかった。
美味しすぎて、二本目を食べようと顔をあげた時、そのことに気づいた。
「ふにゃ!?」
(ふえっ!?)
周りが見えないほど食べることに集中していたことに恥ずかしくなる。思わず前足で顔を隠した私に、フッと柔らかな声が降った。
「うにゃぁ! ふにゃみゃぁ! むにゃにゃぁぁ……」
(恥ずかしいです! 穴があったら入りたいです! いっそ、カーテンの裏に隠れて……)
ここで私は使用人Aの方が『バーク様とご一緒に』と話していたことを思い出した。
急いでカゴに頭を突っ込み、棒を一本くわえてバーク様へ。
「んにゃ!」
(どうぞ!)
突然の私の行動にバーク様が首を捻る。
「オレにくれるのか?」
うん、うん、と必死に頷く私。これで、先程の私の失態を忘れていただきたい。
「じゃあ」
バーク様の顔が近づいてくる。
(え!? 手で取るんじゃなくて!?)
驚きで硬直した私の前で、薄い唇が少しだけ開き……
パクッ!
ポンッ!
微かに触れた唇。これもキスになるらしく私の体は人へ……
「キャー!」
私は慌てて手首につけている魔道具のポーチから黒いマントを出した。
机の上で全裸にマントを羽織った私。これ、ひょっとしなくても痴じょ……
(考えたらダメです!)
盛大に頭を横に振って否定する。
「ハッ、それよりバーク様は……」
顔をあげたところで、黄金の瞳に私が映る。髪の隙間から生えた白金髪色の猫耳。丸い水色の瞳。黒いマントの隙間から覗く白い肌。
そして、お尻の辺りで、ゆらゆらと揺れる尻尾の感覚。
「可愛ぃっ」
バーク様が鼻血を噴き出しながら椅子ごと後ろに倒れました。
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茶色井りす先生による可愛いミーとカッコいいバークをぜひぜひ!«٩(*´∀`*)۶»




