使用人Aの災難
Twitterにて、キスの日のお題を募集したところ
「使用人Aと猫のミーがニアミス……」とリクエストをいただきましたので書きました
これはまだミーが人に戻れることを知らなかった時のこと――――
「にゃんにゃにゃんにゃ~」
(天気も良くて、気持ちいいです)
冬の貴重な晴れ間。
温かい陽射しを浴びるため、私は窓際でお昼寝をしていた。
しかし、ポカポカな日差しは徐々に凶器となり、私のモフモフな体を少しずつ攻撃する。ふわふわな白金の毛は十分すぎるほど熱を蓄え……
「うにゃぁ……」
(熱い……)
寝ぼけたまま寝がえりをうつ私。その瞬間、体が宙に浮いた。
「にゃっ!?」
(えっ!?)
窓際から零れ落ちていく体。なすすべなく迫る床。
「にゃぁ!」
(キャァ!)
目を閉じて衝撃にそなえる。
が、そこに声が。
「危ない!」
床と私の間に滑り込んできた手。
そっと目を開けると、目の前には使用人Aの顔が……って、近い! 本当に目と鼻の先に糸目の使用人Aが!
「大丈夫ですか?」
いろんなことで心臓がバクバクの私に優しい声がかかる。常に冷静な糸目の使用人Aだけど、急いで駆け付けたのか肩で息をするほど呼吸が荒い。
私は安心させるためにコクコクと頷いた。
「うにゃ」
(はい)
痛みはないし、どこにも怪我はない。
そのことに安心したように使用人Aがため息とともに脱力する。持ち上がっていた頭がコテンと私の前に落ちた。
「よかった……」
額と額が引っ付きそうなぐらいの距離。
「う、うにゃにゃあぁ!?」
(ちょ、ちょっと近すぎませんか!?」
慌てていると、私を受け止めている使用人Aの手がピクリと跳ねた。それから、ガクガクと小刻みに震えだし、地を這うような低い声が……
「これは、どういう状況だぁぁぁあ?」
どす黒い闇を背負ったバーク様が使用人Aの背後に現れた。
強面から極悪面に変貌している上に、殺気というか、得体の知れないナニかが放出されまくり。窓の外にいる鳥たちが一斉に逃げ出した。
私を助けてくれた使用人Aの顔は真っ青を通り越して真っ白。グギギギギ……と油が切れたゼンマイのような動きで振り返る。
「あの、これは、その……」
声を絞り出すのがやっと、という使用人Aに対して、バーク様が両手を組んでボキボキと指の関節を鳴らす。
「ミーにキスするなんて、覚悟はできているんだろうなぁ?」
黄金の瞳が鋭く光り、口からは煙のような白い息の幻影が見えるほど。
使用人Aが悲鳴に近い声で否定する。
「ち、違います! 誤解です! そのようなことは決して!」
「問答無用!」
バーク様の拳が振り下ろされる前に使用人Aが転がって逃げる。しかも、私を手に持ったまま。
「うにゃぁぁ!?」
(私までぇぇぇ!?)
攻撃を避けた使用人Aは素早く立ち上がり、部屋から脱出。雑に抱えられている私は激しく揺さぶられ、上も下も分からない状態に。
「ミーを離せ!」
「話を聞いてもらえるまで離しません!」
「ぶにゃぁぁあ!?」
(私は人質ですかぁぁあ!?)
こうしてオンル様の仲裁が入るまで私は使用人Aに抱っこされたままバーク様から逃げることになり……
私が解放された時、世界が回っていました。
8/10深夜0時より「婚約者に浮気された令嬢は~」のコミカライズが配信開始となります!
今月は二話同時配信!
来月からは第一木曜日に毎月一話配信の予定になっております!
ぜひぜひ、可愛い猫のミーとイケメンまっそうのバークたちをお楽しみください!(๑•̀ㅂ•́)و✧




