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【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
第三章〜プロポーズ編〜

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突然の来訪者

 結局、夜になっても人に戻れる様子なく。私はリビングのソファーで丸くなり欠伸をしていた。


「ふにゃぁ……」

(生活はなんとかなりそうですけど、やっぱり疲れます……)


 そのままウトウトしているとバーク様がやってきて。


「ミー! 一緒に寝るぞ」

「にゃ!?」

(えっ!)


 突然の宣言で眠気が覚めた。驚きで顔をあげた私の隣にバーク様が座る。ソファーがポスンと揺れ、私の体まで揺れた。


「朝、起きたら猫になっていたんだろ? っていうことは、夜の間に何か起きた可能性もある」

「にゃ、にゃあ」

(は、はい)

「だから、何か起きても大丈夫なように一緒に寝る!」

「にゃぁ……」

(確かに……)


 バーク様が言うことも一理ある。でも、最近は一緒に寝ることがなかったので、妙に恥ずかしいというか、緊張するというか。

 あ、一緒に寝たくないというわけではないのです。ただ、その、心の準備が……


「よし、じゃあ寝よう」

「うにゃ!? みゃあぁ!?」

(えぇ!? もう!?)


 バーク様が驚く私をひょいと抱き上げ、廊下を歩く。


「明日も早いからな。さっさと寝て、さっさと仕事を片付けよう。で、ミーの姿絵を絵師に依頼する」

「んにゃっ!?」

(本気だったんですか!?)

「きっと可愛い絵になるぞ。完成したらギルドのロビーに飾ろう」

「んにゃにゃにゃにゃ!!」

(それだけは止めてください!!)


 私の怒りが通じたのかバーク様が眉尻をさげる。


「ダメなのか?」

「ぶにゃー!」

(恥ずかしいです!)

「そうか、ダメなのか……」


 珍しく私の意思が伝わった。

 しょんぼりしたまま寝室のドアを開けるバーク様。そんな顔をされたら心が苦しく……でも、ギルドのロビーに絵を飾るのは絶対に反対! 絵のモデルになるのも遠慮したいのに。


 苦悶する私をバーク様がベッドに降ろす。それから靴を脱ぎ、ベッドに転がった。一方の私は降ろされた場所から固まったまま動けない。

 目の前にはベッドに体を倒してこちらを見る褐色肌イケメン。寝間着のため布地が薄く、鍛えられた筋肉がいつもよりハッキリと浮いている。眼福というか、存在がもう色気と色香の塊……


(お、落ちついて、私。拾われた頃は毎日、バーク様と寝ていたし、その後も何回か一緒に寝たんだから)


 なんとか自分に言い聞かせるけど、ドキドキと緊張は収まらず。パニックになりかけている私をバーク様が呼んだ。


「こっちに来ないのか?」

「みゃ、みゃぁ……」

(あ、あの……)


 バーク様が不思議そうに首を傾げる。まったくもっていつも通り。なんだか、私だけが悩んでいるみたい。ちょっと、悔しいような……


「寝ないのか?」

「にゃ!」

(寝ます!)


 私ばっかりバーク様のことを意識して、ドキドキして、間抜けみたい。


(もう少し私の心情を察してください!)


 私は怒りの勢いに任せてバーク様に近づいた。ふわりと鼻をかすめる太陽の香り。いや、バーク様の匂い。ドキドキするけど、落ち着いてしまう。それが、また悔しくて。

 バーク様が私を迎え入れるように腕枕をするように右腕を伸ばした。


「こうやって一緒に寝るのも久しぶりだな」

「にゃあ……」

(はい……)


 バーク様の腕の中で丸くなる。安心できて、気持ち良くて……でも、最初に一緒に寝ていた頃とは、どことなく違う。


(前はもっと気楽にバーク様と寝ていたのに。バーク様はあの頃と変わらないのでしょうか……それとも、私が意識しすぎなのでしょうか……)


 ほんの少しの寂しさを覚えながら目を閉じる。

 伝わる体温と微かに聞こえる心音。


(……あれ? バーク様の心音がいつもより早いような?)


 目をあけて顔を動かす。そこでバーク様とバッチリ目があった。

 黄金の瞳が優しく微笑み、大きな手が私の顔を包む。そのまま近づいてくるバーク様の顔!


(え!? このタイミングで鼻チューを!?)


 思わず目を閉じて固まる。すると、頬にふわりとした感触が。


 目を開ければ、バーク様が頬ずりをしていた。


(ですよね。このタイミングで鼻チューはしませんよね)


 自分の勘違いに脱力していると、耳元で低く艶っぽい声が。


「早く人の姿のミーとも一緒に寝たいな」

「んにゃっ!?」

(ヴエッ!?)


 懇願するような、甘えるようなバーク様の声。心臓を鷲づかみされたように胸がキュッとなる。


(い、一緒に寝るということは、夫婦の証で!? それは、つまり結婚ということで!? いつかはしたいですが、今はまだ早いと……その、ギルドの準備などもありますし!)


 心の中でワタワタしているとバーク様が吹き出すように笑った。


「そこまで動揺しなくてもいいんじゃないか? 尻尾がずっとソワソワ動いているぞ」

「うにゃ!?」

(えっ!?)


 私は反射的に自分の尻尾を見た。確かにフワフワな毛の尻尾が忙しなく左右に揺れている。バーク様が大きな手で私の顔を自分の方へむける。


「今はギルドの準備で忙しいし、ミーの心の準備ができるまで待つって言ったが……」


 バーク様が私を抱きしめる。


「オレがあまり待てないかもしれないからな。早めに心の準備をしてくれ」

「にゃっ!?」

(えっ!?)


 驚く私を置いてバーク様が枕に顔を埋めた。


「……寝る」

「んにゃぁあ!?」

(このタイミングで!?)


 よく見えればバーク様の褐色の耳が真っ赤に。


(もしかして、バーク様も緊張して? それとも恥ずかしい?)


 私だけではなかったことに嬉しい気持ちがこみあげる。


「うにゃにゃ……」

(おやすみなさい……)


 私も枕に体を埋めて眠る…………って、寝られるわけない! あんな、特大の爆弾を! 色気を! 落とされて、眠れるわけが!

 声を出したり、動いたりしたらバーク様を起こしてしまう。けど、この悶々とした気持ちはどうすれば!


 こうして私はバーク様の寝息を聞きながら、一人で眠れぬ夜を過ごした。



 猫だけど目の下にクマができそうなほど寝不足の日々。あれから、毎晩バーク様と一緒に眠っている。でも、私は熟睡できなくて。

 だって、寝る前にバーク様が愛を囁くんですよ!? あの低く艶っぽい声で! しかも、毎晩!

 そんな状況の後で眠れるほど私の神経は図太くありません……

 あと、朝も褒めと愛の言葉から始まりますが、寝不足で寝ぼけているため、あまり耳に入っていません。


 代わりに昼間の執務室で寝るように。今は偽造書類の確認の仕事もないので、昼のほうが寝やすい。


 私は定位置となったバーク様の膝でそんなことを考えながらウトウトしていた。

 夜、ベッドで一緒に寝る時は緊張するのに、昼に膝で寝るのは平気なのは何故なのか……顔が見えないから? それとも、愛を囁かれないから? 他に、違いは……


(ハッ! そもそも昼寝をするから、それで余計に夜が眠れなくなっているのでは?)


 重要なことに気がついた私は寝かけていた頭を振った。


(起きていないと! 悪循環になってしまいます!)


 必死に眠気と格闘していると声とともにバーク様の大きな手が。


「どうした? 今日は寝ないのか?」


 私の頭から背中までを優しく撫でる。それがまた気持ち良くて……


「むにゃぁーん」

(ダメですぅー)


 バーク様の手と睡魔に陥落しかけていた時……


「会いたかったわ! 愛しの綿菓子(コットンキャンディー)!」


 懐かしい声が執務室に響きました。




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