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【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
第二章〜解呪編〜

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新たな地へ移動しまして

「ふっざけるなぁ、おめぇ! 解呪できないって、どういうことだ!?」


 静寂を突き破るようにバーク様が怒鳴る。クラ様が開き直ったように肩をすくめた。


「だって、できないものはできないもの」

「だから、なんでだ!?」


 クラ様がバーク様を指さす。


「まず一つ目。あんた、絶対に解呪してほしいと思ってないでしょ? 綿菓子(コットンキャンディー)の猫の姿に未練がある」

「うっ」


 図星のバーク様が言葉に詰まる。


「で、二つ目。綿菓子(コットンキャンディー)も猫の姿に未練があって、絶対に解呪してほしいと思っているわけではない。むしろ、猫の姿を受け入れちゃっている」

「あ、はい」


 思いっきり心当たりがある私は頷いてしまった。


「あとは、そこの使用人たち。あんたたちも綿菓子(コットンキャンディー)の猫の姿に癒しを感じている」

「なに!?」


 睨むバーク様から使用人Aたちが一斉に視線を背ける。


「魔法のなりそこないの呪いは感情が絡みついたモノ。執着が強ければ強いほど(ほど)くのが大変なの。それでも、呪いをかけられた本人が強く拒否をしたら、そこから(ほど)けるわ。でも、綿菓子(コットンキャンディー)は呪いを受け入れちゃってる。しかも、周囲がそれを肯定している。ここまで固まったら解くことは出来ない」


 誰も何も言えない。そこにオンル様が訊ねた。


「では、毛玉の解呪は誰にもできない、と?」

「少なくとも竜族の中には解呪できる者はいないわね」


 まさかの展開に私はそっとバーク様を見た。すると、バーク様は床に両手足をつき……


「そんな! オレのせいで!」

「バーク様……」


 うなだれているバーク様のところへ行こうとした瞬間、次の嘆きが。


「このまま一生、まともにキスができないのか!」


(やはり、そこですか)


 嘆きを拾ったクラ様が勝ち誇ったように胸を張る。


「聞いた!? 綿菓子(コットンキャンディー)! 男なんて体が目当てなのよ! 獣なのよ! そんなヤツは捨てて、私のところに来なさい!」

「どさくさに紛れて、なに言ってやがる!」

「うるさい! あんたが綿菓子(コットンキャンディー)の猫の姿に執着しているのが悪いのよ!」


 いがみ合う二人の間でオロオロする私。そこに考え込んでいたオンル様が声を出した。


「竜族の中には、ということは、竜族以外なら解呪できる種族がいる、ということですか?」


 クラ様が不自然に視線をそらす。私はクラ様に訊ねた。


「そうなのですか?」

「……」

「教えてください!」


 魔法陣から飛び出してクラ様に駆け寄る。顔を背けていたクラ様が視線だけでソッと私を覗き見た。


「グハッ!」


 クラ様が口元を押さえてよろける。


「大丈夫ですか!?」

綿菓子(コットンキャンディー)の上目遣い! なんて破壊力!」

「破壊力? なにもしていませんが……」


 私の言葉は耳に入っていないのか、両手で顔をおおったクラ様が天を仰いでぶつぶつと呟く。


「ふわっふわっな髪に小さな顔。まっすぐ見つめてくる大きな水色の瞳。計算していない無垢な表情。それが、生きて、動いて……すべてが、すべてが尊い」

「あ、あの、クラ様?」


 私へ視線をさげたクラ様が吹き出す。


「ぶほっ!? その! その首をかしげた顔は反則だわ!」

「は、反則!?」

「あぁ、気にしないで。で、なにかしら?」

「あの、解呪できる方をご存じなら、教えていただけませんか?」

「そうねぇ……綿菓子(コットンキャンディー)の頼みだし、叶えてあげたいけど……」


 私はもう一歩踏み込み、体が触れるギリキリまで近づいて見上げる。


「お願いします!」


 すると、クラ様が降参した。


「わかった! わかったわ! 教えるから少しだけ離れて! さすがに刺激が強いわ!」

「少しだけじゃなくていい! しっかり離れろ! 盛大に離れろ!」


 痺れを切らしたようにバーク様が叫ぶ。私が下がるとクラ様は床に崩れ落ちた。


「じゅ、純粋無垢な力にこんな威力があるなんて……私もまだまだね」

「すごいだろ! 毎日、側にいて手を出さないオレの我慢強さも尊敬しろ!」

「そこはどうでもいいわ。いえ、もし手を出したら切除して不能にするわよ!」

「切除? 不能?」


 首をかしげた私の周囲から、ヒュッと声が漏れた。あと、みなさんが何故か若干前屈みに?

 クラ様が言葉を続ける。


「教えてもいいけど、それで解呪が出来ると思わないほうがいいわよ。なんせ、相手はあの種族だから。ただ、最近はちょっと風向きが違うみたいだけど」


 こうして解呪できる可能性を持つ種族を教えてもらえた。


 それから数日後。


 私たちは解呪ができる種族がいる地へ。目的の種族は他種族と交流を拒否しており、大勢だと悪印象になるため、行くのはバーク様とオンル様と私だけ。

 しかも、その地へ行くには道がなく、魔獣がいる鬱蒼(うっそう)とした森を突き抜けるしかない。普通の人である私ではたどり着くことも不可能。

 そのためバーク様が私を抱えて飛んで移動することに。ただ、さすがのバーク様でも人の私を抱えて長距離を移動するのは体力、魔力が保たない。



 その結果――――――――



「ふにゃうにゃーん!」


(絶景ですぅー!)


 猫の姿になった私はバーク様の腕の中で遥か地平線の先まで続く森を眺めていた。隙間なく生えた木々と、たまにある裂け目。そこには大きな川が流れている。


(森を空から眺められる日がくるなんて!)


 景色を堪能している私にバーク様の声が降る。


「怖くないか?」

「んにゃにゃ!」


(怖くありません!)


 私の返事に言葉の意味は分かっていないだろうバーク様が微笑む。


「楽しんでいるなら良かった。けど、あまり暴れないようにな。落ちても大丈夫ように補助魔法はかけているが、その先の森で魔獣に襲われたら大変だ」

「う、うにゃ……」


(は、はい……)


 猫の姿で魔獣に襲われたら、ひとたまりもない。人の姿でも、ひとたまりもないけど。


 こうしてバーク様の腕の中でおとなしく景色を眺めること一日。途中、休憩したり、食事をしたり、安全地帯と呼ばれる場所で魔道具のテントに一泊したりして、ようやく目的地が見え……ません。


「うにゃにゃぁ……」


(長いです……)


 抱っこされているだけなのに疲れが。それでも景色は変わらず森だけ。

 解呪できる種族がいるのか疑い始めた、その時。


 突然、真っ白な霧が。


 霧なんてなかったのに。白一色の世界に思わずバーク様の腕に全身で抱きつく。

 バーク様が空中で止まった。


「オンル!」

「はい、この辺りですね。このまま、まっすぐ降りましょう」


 着地したのだろうけど、足元さえ見えない。まるで雲の中のような白さ。


「ここまで白いとミーが人に戻っても肌は見えないな」

「んにゃ!?」


(えっ!?)


 状況を理解する前に黒いマントを被せられ、鼻チューをされた。



 ポンッ!



 黒いマントの下で人に戻る。


「バ、バーク様!? なぜ、こんなところで!?」

「この先で猫に戻れる都合がいい場所があるとは限らないし。ちゃんとマントをかけたし、いいだろ? あと、服」

「うぅ……見ないでください」


 私は羞恥で顔を真っ赤にしながら服を着た。そこへタイミングを測ったようにオンル様が現れる。


「魔力の流れ的に、あちらのようですね」

「オレもそう思う」

「では、いきましょう」


 私は一歩を踏み出したが足元さえ見えない霧のせいで転けかけた。


「キャッ!?」

「おっと、大丈夫か?」

「す、すみません」


 バーク様の腕に捕まり転倒は免れた。ホッと息を吐く私をバーク様が軽く抱き上げる。


「え!? ちょっ、歩けますから!」

「それだと時間がかかりそうだからな。しっかり捕まってろ」

「へっ!? キャー!」


 ふわりと体が浮かぶ。そのまま景色が一瞬で背後に流れた。声を出す間もなく移動していく。

 かなりの速さなのに揺れがほとんどない。太い腕にしっかりと包まれ、厚い胸板に体を固定される。猫の時とは違う抱き心地に心臓が跳ねる。

 ドキドキしていると突如、霧が晴れてバーク様とオンル様の足が止まった。


「え?」

「は?」


 私とバーク様の驚きの声が重なった先。


 そこにあったのはお菓子の家だった。




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