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【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
第二章〜解呪編〜

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それぞれの思惑〜バーク視点〜オンル視点〜

※※バーク視点※※


 油断したつもりはなかった。嫌な予感がして警戒していたし、念の為左手で手紙を書いた。

 だが手紙を書かされた後、魔力を吸収する手枷と足枷を一瞬でつけられ、動きを封じられた。

 何もできないままベッドに転がされ、上半身を半分起こした状態で両手を頭上で固定。背中には大きな枕。足は足枷と鎖で動きを制限。


 監禁以外の何ものでもない状況。


 それでも何とかできないかゴソゴソと藻掻(もが)くオレにクラが黒髪を揺らしながら近づく。


「いい眺めね」

「……目的はなんだ?」


 睨むオレをあざ笑うようにクラが見下ろす。


「盟主が悪いのよ。あの子にうつつを抜かすから」

「別にうつつは抜かしてねぇ」

「でも、それもここまで」

「おい、話を聞け」


 妖艶な笑みを浮かべながらクラが持っていた瓶の蓋を開ける。ガラスで出来た香水瓶。その中にある液体をオレの頭にかけた。

 ムワッとキツい花のような香りが鼻を突く。


「これは……なんだ?」

「媚薬よ」

「な!?」


 クラがベッドに手と膝をつき、オレに這い寄る。


「完成させといて良かったわ」

「クソっ!」


 身の回りを男で固めていたため、こういう状況は久しい。手を動かすが、金属が擦れる音が虚しく響くのみ。


解呪(・・)、してほしいんでしょ?」


 その言葉にオレは動きを止めた。オレが耐えればミーの解呪ができる。その考えが頭にチラつき、どうしても動きが鈍る。


 悩むオレの首にクラがナイフを突きつけた。そのままナイフをオレの鎖骨の間に滑らす。そして服の中にナイフの先を入れ、一気に下まで切り裂いた。

 褐色の肌に鍛えられた胸筋と腹筋が現れる。


「さぁて、準備は整ったわ。あとは素材を持ってきたタイミングに合わせてする(・・)だけ。私が襲われている現場を見れば、あの子はあなたから離れるでしょう。可愛い子だけど、しっかり絶望してもらうわ。あぁ、ちゃんと解呪はしてあげるから安心して」


 クスクスと笑いながらクラはオレから離れた。それから真顔になり天井を見上げる。


「誰か来たようね。この魔力は……白銀の髪のあいつかしら? 素材を持って来たにしては早すぎるし、別件ね」


 白銀の髪という単語でオレはオンルが来たと予想できた。ミーならあの文字が左手で書いたことに気づくし、オンルならその意味に気づく。

 独り言のように呟いていたクラがオレに視線を向けた。


「解呪してほしければ、そのまま大人しく待っていなさい。ま、その枷は外せないから何もできないでしょうけど」


 クラが軽く手を振って部屋を出る。


 判断が早いオンルのことだ。オレの状況確認に来たのだろう。このまま踏み込めばオレは救出される。

 だが、それだと解呪がどうなるか。解呪は繊細な作業だから、クラを捕らえて無理やりやらせる、ということはできない。本人からの協力が必須だ。


(オレが、耐えれば……ミーは…………いや、それでは……)


 頭がボーとする。考えがまとまらない。鼓動が早くなってきた。息があがって、喉が乾く。


「媚薬の、せい……か?」


 オレは熱くなる体を必死に(こら)えた。



※※オンル視点※※



 こんな面倒なことになるとは、完全に計算外だった。最近は周囲に男しか配置しておらず、気が緩んでいたのもある。

 せめて魔法師の性別までは突き止めておくべきだった。


(いまさら後悔しても仕方ありません。今はできることをするだけです)


 私はドアノッカーを軽く鳴らした。しばらくしてドアが開き、クラが顔を出す。整った顔立ちに合わせ、しっかりと施された化粧。


「どうしたの?」

「至急、バークのサインが必要な案件が発生しまして。バークと会わせてもらえませんか?」

「今は魔道具の開発中だから無理。明日まで待てないの?」

「緊急なので。会えないのであれば解呪の話はなかったことにしましょう。すぐにバークを解放してください」


 クラが不機嫌な様子で眉間にシワが寄せる。


「そっちから早く解呪してほしいって無理を言ったのに、突然やめるなんて、どこまで勝手なの」

「それだけ重要な案件ですから。書類にサインがもらえないのであれば、解呪は諦めます」

「……サインがあればいいの?」

「そうですね。サインがあれば、なんとかなります」


 無言でクラが手を出した。爪先までしっかりと磨き、手入れをしている手。化粧といい、毛玉とは正反対な印象。

 私は首をかしげて訊ねた。


「なにか?」

「私がサインをもらってくるから書類を貸して」


 この対応は予想範囲内。でも、渋っているように演技をして時間を稼がなくては。


「私が渡すのではダメですか?」

「開発中の魔道具を見られたくないの」

「こちらも重要な書類なので見られたくないのですが」

「なら隠匿の魔法をかけて、内容を私に見えないようにすればいいでしょう?」

「よろしいのですか?」


 クラが肩をすくめる。


「他人の魔法を屋敷に入れたくないけど、開発を中断されるより良いわ」

「では、失礼して」


 私は書類を取り出し、手をかざした。


『我が認める者にのみ、真の姿を晒せ』


 書面がうねり白紙となる。私は二つ(・・)の魔法をかけた書類をクラに渡した。

 相手は魔法の専門家。隠してかけた魔法を見破られないように、さりげなく自然に。緊張する気持ちを隠し、無表情のまま平静を装う。


 受け取ったクラが書類に視線を落し、無言で見つめる。


 時間が長い。嫌な予感が頭を()ぎる。


 焦った私はつい声を出していた。


「なにか気になることがありますか?」

「ここまで粗がない綺麗な魔法は珍しいと思って」

「そうですか」


 私は顔に出さずに安堵した。視界の端で草が揺れる。ここまできたら、あとはバークのサインだけ。


「では、サインをお願いします」

「わかったわ。待ってて」


 クラがさっさと屋敷に戻る。私は空を見上げて息を吐いた。


(あと一息)


 しばらくしてクラが戻る。


「はい。これでいい?」


 渡された書類の最後にはバークのサイン。しかし魔力は弱々しく、先程の字より歪んでいる。


「たしかにバークのサインですが……魔力が弱いですね。字も崩れていますし」

「魔道具の開発で魔力を使いながらサインしたからよ。さ、もういいでしょ。さっさと出ていって」

「そう、ですね」


 私は手を後ろにまわし、小さく指をならした。



 パン! パン! パ、パン! パン!



 庭のいたる所から爆発音が響く。


「なに!?」


 クラの意識が完全に庭へ移る。その隙に足元から屋敷の中へ一陣の風が入った。

 視界の端で確認した私をクラが睨む。


「なにをしたの!?」

「なにもしていません」

「こんなこと、あなたたち以外に誰がするのよ!?」

「そう言われましても、知らないことは知りませんし。それに私がしたという証拠がありますか?」


 クラが唇を噛む。


「あっそ! じゃあ、次は素材よ!」


 捨て台詞とともにドアが激しく閉まる。私は屋敷を見上げた。


(あとは毛玉からの連絡待ちですね)


 私は翼を広げ、空へ羽ばたいた。



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